でもあまり熱くないかもしれないです。
作戦当日。
俺は飛行機の中で瞑想し、集中力を高めていた。
これから行われるのは死合いですらない、ただの殺し合い。故に精神をより集中させる。
この飛行機は政府が特別にチャーターした物で隠密作戦用に改造された物だ。俺だけ本作戦からは少し外れている任務のため、あまり表だって動かない方が良いと政府が判断した結果だ。
酷い話だが、俺の任務がある意味一番激務だ。何せ、四騎の劔冑と死合わなければならないのだから。しかも情報によると、当麻友則とその仕手は別の所だが、他の三騎は一緒の所にいるらしい。つまり連戦は確定。まさに命がけの戦いとなるだろう。
昔の俺だったら逃げ出していただろう。だが・・・・・・
今の俺、つまり正義を成す者としての俺はこの戦を逃げる訳にはいかない。
そんな気も毛頭無い! このまま逃げればその先にあるのは邪悪が跋扈する世のみ。
それを正義が許すわけがない。そして・・・・・・そんな悪が真耶さんがいる暖かな世界に害成すことだけは絶対にさせるわけにはいかない。
それ故に、この戦い。絶対に負けるわけにはいかない。
『御堂よ』
そう考えていたら、正宗に話しかけられた。今正宗は俺の隣にいるので普通に会話することが出来る。
「どうした、正宗?」
『御堂が此度の戦いに正義を成そうと決意を固めていることは立派よ。だが、御堂は少し気負いすぎだ』
「そんなことはないだろう」
『いや、ある。確かに御堂はまだ若い故に気負うことも多かろう。だが、これは悪を誅するだけの話よ。正すことに気負う必要など無い。それは当たり前のことなのだから』
俺の心情を慮ってか、正宗が緊張を解そうとそう話してくれた。それが本当に有り難い。
「すまないな、気を遣わせてしまって」
『いや、仕手が万全の状態で戦えるようにするのも劔冑の役割よ。それにのう、御堂』
「何だ?」
『こんな所で死んだら、それこそ真耶嬢が悲しむ。人を悲しませること、これもまた悪なり。正義を成す者である以上、悪は斬らなければならない。それが自分自身であるのならば、なおのことだ。故にこの戦、御堂は絶対に死んではならぬ。我の仕手が悪を成すことは絶対に許せぬ! 何、我が供に戦うのだ。万が一にも御堂を死なせるようなことなど、この相州五郎入道正宗がさせるものか』
正宗がそう自信満々に言う。その姿はまさに正義そのものだ。
まったくもって救われてばかりだと自覚させられる。
「・・・・・・・・・ああ、そうだな! すまん、正宗。少し気負い過ぎていたようだ。そうだな、人を悲しませるのは悪だ。それを正義を成す者がしては本末転倒だ、確かにお前の言う通りだ。それに・・・・・・俺の中で一番嫌いなことは真耶さんを悲しませることだ。それだけは絶対に避けないとな」
『御堂が真面目なのは好ましいが、真面目過ぎて気負いのし過ぎで戦えなくては困るからのう』
「ああ、まったくだ。俺は今、お前が俺の劔冑で本当に良かったと思ってる」
『ふん、何を言っているのやら。そんなことは当たり前だ。何せ我は相州五郎入道正宗、正義を成す破邪の聖甲よ!』
正宗の御蔭で少しは肩が軽くなった。
これで・・・・・・俺はやっと本気で戦える。そして真耶さんと一緒にクリスマスを絶対に迎えるんだ!
そのためにこの戦、絶対に勝つ!
マイナス方向に傾いていた精神が正常へと戻り、純粋な正義が心に灯った。
(本当に俺は救われてばかりだ。感謝の念が絶えないな、まったく・・・・・・)
俺を救ってくれたすべての人達に感謝しながら、俺はこの戦いに挑むことにした。
そして最初に戦いを挑みに行ったのは、当麻友則だ。
理由としては、この飛行機の現在の航路から近いのが一つ。そしてもう一つの理由が、これだけ単独で動いているからだ。連戦になるのなら、戦い易い方から戦った方が良い。
戦う指針を決め、飛行機で揺られること早一日。
俺は当麻友則の潜伏先に着いた。
そこは所謂、村だった。
本来ならのどかな村だったのだろう。今では人一人見当たらない。
それだけならまだマシであった。村のあちこちには、ある物が大量に打ち棄てられていた。
それは・・・・・・人の死体だ。
それもすべて首が無い。まるで打ち首にでもされたかのような死体だ。
たぶん村人なのだろう。それが目の前に広がっている風景でも四十以上。探せばこの三倍は余裕で出てきそうだ。中には腐り始め蛆がわき始めた物も多くあり、異臭が鼻につく。
常人が見れば発狂する光景がそこには広がっていた。
それを見た瞬間に怒りが沸いてくる。
「この様子だと、殆ど村人は殺されたみたいだな」
『その通りだ。生命反応はここら辺には一切無い! 人を殺し、このように尊厳も無く打ち棄てるとは・・・・・・悪鬼のすることよ。・・・・・・御堂!!』
「ああ、分かってる。これは絶対に討たなければならない悪だ! 正宗、俺はこれを見過ごすほどへたれてはいない。絶対に討つぞ!!」
『応っ!!』
この光景を見て決意を固めた。
このような悪鬼のような所行をする輩を誅するのが俺の、正宗の仕手たる正義を成す者の使命だ。
飛行機で考えていたマイナス思考の考えなど吹き飛んだ。
そのまま村の中心へと向かっていくと、地獄のような光景は更に酷くなっていく。
俺はここにいる悪鬼を討った後、この人達を弔うことを心に決めて歩いて行く。
そしてついに・・・・・・村の中心に着いた。
そこにあるのは大きなお屋敷。たぶんこの村の村長の物だろう。
俺はそのまま中に入っていく。罠があってもおかしくはない。だが、それがどうした。
正義を成すのなら、そのような小細工に負けるようでは話にならない。来たところですべて破壊するのみ。そう考えながら扉を開けたが何も無かった。
そのままロビーの扉を開けると、中には人が複数いた。それを見て唖然としてしまう。
そこにいたのは全裸の男子。それが十人ほどいた。年齢は様々だが、下は五歳から上は十歳ほどであり、皆物静かにしていて暗い雰囲気を放っている。そして奥の方に視線を向けると、大型のベットの上で息を切らせて倒れ込んでいる男子が二人。そしてそれを見て満足そうな顔を浮かべている全裸の女性がいた。
明らかに情事の後の光景であった。
女性は俺の姿を見つけた途端、急いで警戒し始めた。
「ちょ、ちょっと、あんた何よ!」
そう言いながらシーツを身体に巻き付ける女性。
色っぽいを超えて、最早滑稽としか言いようがない。
俺は女性の反応を無視して問いかける。その声には糾弾するように厳しい。
「外のアレは貴様がしたものか」
資料で既にこの女性が犯人であることは知っている。
だが、そのことを自らの口から聞きたかった。自分が何をしているのかを。
「そうよ、あれは私がやったの。それが何か?」
女性は当然と言わんばかりにそう答えた。
「何故?」
「おかしなことを聞くわね。気にくわなかったからよ。私、ああいう親父とか大嫌いだもの。私は『男の子』が大好きなの! それ以外はいらないわ」
聞きたくもないことをつらつらと説明する女性。
少し頭痛がしてきた。まさかこれから戦う悪が異常性癖者とは・・・・・・
だが、何であろうと許しはしない!!
女性が喋り終わるのを待ってから此方も話す。
「貴様が異常性癖者であろうと何であろうと此方には関係がない。貴様が日本にあった劔冑を盗み、悪行をしていることは既に知れ渡っている。政府から貴様を誅するよう命が出た故に、貴様の悪行三昧もここまでだ。お命、頂戴する」
俺がそう言うと女性がニヤリと笑う。
「残念だわ。もう少し若ければ好みだったのに・・・勿体ない。でも、その事を知っているのに武器も無しに突っ込んで来るなんて、あなた馬鹿じゃないの」
そう言うと、女性は両手を上げて誓約の口上を口にした。
『私の花は何の色? 咲くならそっとスミレ色 目立たぬように咲きましょう 目立てば誰かが手折ります 手折られ花は恨み花 涙色した水下さい 涙色した雨下さい』
そしてそのまま装甲していき、その場には見たことも無い武者が顕現した。
右腕に鋏が付いているの特徴的で、劔冑にして珍しく刀を持っていない。あるのは小刀だけだ。
「知ってる? これが今世界で最強と目される『劔冑』っていう兵器よ。これさえあれば私はどんな奴が来たって負けない。あいつらだって殺してやったんだから」
そう言いながら俺に右手の鋏を突き付ける女性。
俺も一応資料で読んだから知っている。
この女性は亡国機業の実行部隊に所属していた。しかし、そこまで強くなかったため組織内での扱いは良くなかったようだ。そこで日本の劔冑を強奪、自分を馬鹿にしていた同僚等を殺害した。ISで戦闘を挑まれたようだが、そのことごとくを破壊したと報告では上がっていた。
女性が装甲すると、部屋にいた男子達が恐怖からガチガチと震え始めた。
それはあまりにも可哀想に見える。
「あんたも外の奴等と一緒にその首、落としてあげる」
女性は勝ち誇ったような声で俺にそう言って来た。明らかにこちらを舐めきっている。
(その舐めた態度、驚愕に変えてやろう!)
「あまり舐めないで頂こうか! 正宗!!」
『応っ!!』
俺の呼びかけに正宗が扉を破壊して飛び出す。
そのまま装甲の構えを取って誓約の口上を述べる。
『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』
そして俺は正義を成す者、正宗となった。
「なっ!?」
まさか目の前に武者が現れるとは思っていなかったのだろう。女性はそんな声を上げた。
きっとその顔は驚愕で固まっていることだろう。
「当方正宗、正義の名において、貴様に天誅を下す」
そう冷徹に女性に告げる。
それまで耐えていた義憤がそこには込められていた。
「皆、ここは危なくなる! 全員外の安全な所まで避難せよっ!!」
周りで恐怖に震えている子供達に一喝すると、ビクッと震えて正気に戻った。
そして俺が助けに来たことを理解すると、皆急いで外へと飛び出していく。
それを見ながら俺は女性に向かって斬馬刀を抜き突き付ける。
「覚悟」
「じょ、冗談じゃないわ! 武者が相手だなんて聞いてない! しかもこの武者、あの映像のっ」
女性は俺の姿を見てそう叫ぶ。
俺の姿、正確には正宗を装甲した姿は既に世間に出回っている。それ故にその知名度、その勇名は馳せていた。当然亡国機業にも。
女性が慌てふためいた後、少しやけになりながら此方に向かって突進してきた。
「誰であろうと、殺してしまえばぁあああああああああああああああああああああああ!」
右腕を振り上げながら此方に突進してくる当麻友則。明らかにずさんな攻撃だった。
そのことにも怒りが沸く。
「愚弄するなっ、痴れ者がぁあああああああああああああああああああああああ!!」
合当理を噴かせて向かってくる当麻友則に向かって上段から斬馬刀を振るう。
そしてすれ違う俺と当麻友則。
当麻友則が止まった瞬間・・・・・・
「アアァアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!」
女性から空間が裂けそうなほど甲高い悲鳴が上がった。
そして俺の足下にぼとりとあるものが落ちる。それは・・・・・・
当麻友則の鋏が付いた右腕だった。
当麻友則の斬られた右腕からは、血が噴き出していた。
「貴様のような武者として鍛えてもいない者では隙がありすぎだっ! そこまで隙だらけならば、甲鉄を避けて関節部のみ切り裂くことなぞ簡単よ。その程度で当方と打ち合おうとはおこがましいわ!」
そう女性に向かって怒鳴る。
『吉野御流合戦礼法が一つ 打潮』
それがこの技だ。
女性は右手を押さえながら呻きつつも獣のような咆吼を上げ、ある言葉を言い始めた。
『観陀 唖幡鳥栖 癇唾!!』
すると当麻友則の口から泡があふれ出し、辺りに広がっていくと、それは人の形になっていく。その頭部には、村人の頭がつけられていた。
「これがこの当麻友則の陰義よ! このまま泡で溺れ死ね!!」
女性は叫ぶと、人の形をした泡(ここでは泡人形と言おう)が此方に向かって押し寄せてきた。その数は大体二十くらい。
だが・・・・・・そんなもので正宗を止められるわけがない!
俺は斬馬刀を鞘に収めると、小太刀に手をかけ居合いを抜き放つ。
「この愚か者がぁあああああああ!『吉野御流合戦礼法 飛蝙っ!!』」
「ぐぎゃぁっ!?」
矢のように高速で飛んでいった小太刀は泡人形を易々と貫通し、当麻友則の胸に深々と突き刺さった。技の余波で他の泡人形も消し飛ぶ。
小太刀は心臓にまで刺さっており、最早致命傷だ。
「そのような小細工で正宗にかなうはずがなかろう! これで終わりだ、外道!!」
「ひぃっ」
俺はそこから斬馬刀を抜刀。上段に構えて敵に向かって合当理を噴かしながら突撃。
そして振るう。
『吉野御流合戦礼法 雪崩っ!!』
振るわれた斬馬刀は当麻友則を頭から股下まで、綺麗に唐竹割りにした。
その余波で当麻友則の後ろにあった壁も吹っ飛んだ。
そして崩れ落ちる当麻友則。バラバラに砕け落ち、中の女性は綺麗に半分にされたまま床へ倒れ込む。
ズシャッ、という液体やら何やらをぶちまけた音がした。
それを確認して俺は装甲を解除する。
「これにて・・・・・・成敗」
そのまま振り返らずにそのまま屋敷から去った。
その後は政府からの救援で子供達を助け、女性の遺体と破壊した劔冑を回収を頼んだ。
俺はその村のすべての遺体を埋めるまで、その村にいた。