壁を壊した後、俺は真耶さんを連れてアリーナに向かった。
俺が壊した音にびっくりして来た他のクラスの先生が来て、何事かと騒ぎになった。
そこで軽く事情を説明し、どういう経緯でこうなったのかを話し謝罪。その先生は壊れた壁が素手で破壊されたことを知ると、顔が真っ青になっていた。
そして利権団体もやっと自分達のことを話し始めた。学園に話は通してあるらしいのだが、あの態度は失礼極まりない。それも怒り故だと言ったところで先程の件を許す気などない。
利権団体はそこでようやく本来の目的である『試合』について話し始めた。
細かく何かをぐだぐだと言っていたが、今の俺に聞く気はない。総理に言われたこともあるが、真耶さんに手を上げた輩なのだ、言い分を聞く気などない。試合がお望みなのなら、それに応じよう。油断無く、容赦無く、徹底的にやらせてもらう。
そう考えていたら、無意識に殺気が漏れていたようだ。俺の近くにいた先生が俺の殺気にあてられてガクガクと震えていた。まだまだ未熟だと自覚させられ、急いで抑えると先生も落ち着いたようで、ほっとした顔になっていた。
そして他の先生方監視の下、俺はこの利権団体の代表である女性と試合をすることになった。
真耶さんに一緒に来てもらったのは、あの人達と一緒に居させたくないからだ。またあんなことがあったら、今度こそ逸らせる自信が無い。自分を抑えるためにも来てもらったのだ。
「大丈夫ですか、真耶さん」
「私は大丈夫ですよ。それより一夏君、腕は大丈夫なんですか。あんな強くぶつけて痛くないわけないですよね・・・・・・ごめんなさい、私のために・・・」
そう申し訳なさそうに言う真耶さん。寧ろ俺の方が申し訳無い気持ちで一杯だ。
俺が狙いだと分かっていながらあんな狼藉を許してしまったのだ。俺自身、自分を許せない。
「いいんですよ、このぐらい。俺は武者ですからこれぐらいは痛くないし、すぐに治ります。それよりも真耶さんに手を上げたあの人を俺は許せません。だから、見ていて下さい。俺がこの試合であの人に勝つところを」
「はい!」
安心させようと笑顔で答えると、真耶さんも笑顔で答えてくれた。
この笑顔で俺は頑張れる。この人が俺にこうして笑いかけてくれるなら、俺はこの先も頑張れると思う。
故にこれで・・・・・・俺は容赦なくあの人を叩きのめすことが出来る。
ああいう者共には灸を据えたほうが良い。
真剣に戦わせてもらおう。ISの試合では使わない、武者の死合いの気迫を、殺気を!!
そう考えながら俺はアリーナへと歩いて行く。真耶さんに見送られながら。
アリーナに着くと、向こうも準備は出来ているらしく既にISを展開していた。
見た感じラファール・リヴァイヴなのだが、かなり改造されている。機動性よりも火力を重点的に強化されているのがわかった。
「覚悟はいいかしら、この糞男!!」
先程真耶さんを叩いたあの女性が俺を嘲るような目で見ながら罵倒してくる。
それを見ても此方が取り合う必要は無い。
「言いたいことはそれだけでしょうか。その様なつまらぬことを言う暇があるのなら、かかってきなさい。そんな戯れ言で此方は揺るがぬ。そのような事を口にする者は只の阿呆だけだ」
「くっ!」
俺に言われ顔を怒りで歪める女性。
俺はそのまま無視して叫ぶ。
「来い、正宗!!」
『応っ!!』
いつも通り俺の前に飛び出す正宗。
そのまま装甲の構えを取り誓約の口上を述べる。
『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』
そして俺は正宗を纏い、正義を成す武者へとその身を変える。
斬馬刀を鞘から抜くと、正眼に構える。
「当方正宗、この『死合い』、全身全霊を賭して戦わせてもらいます」
「ふん、そんなキザったらしい台詞言えなくさせてやるわ! あんたに勝ってISがそんなのより上だって証明してやる。篠ノ之博士が認めたって私は認めない、そんなものなんて!」
そう女性が大声で叫び終わると同時に試合開始のブザーが鳴り響いた。
「これでも喰らいなさい!!」
女性は最初から全力らしく両腕にグレネードランチャーを展開するし此方に向け発砲。さらに本来シールドが付けられている所も改造して多弾頭ミサイルを積んでいるらしく、それも此方に向かって発射してきた。
俺はそれを避けずに受ける。
辺り一面が爆炎に飲み込まれた。どうやら向こうはそれなりに此方について研究しているようだ。
劔冑の装甲を打ち破るには火力が必要だと判断したらしく、こうした武装になっているらしい。
女性はさらに連射していき、弾が無くなるまで続いた。
アリーナは常に爆発音が轟き、衝撃が空気を揺さぶる。
普通のISだったらとっくに機能を停止させているだろう。女性からはこちらを殺してしまうという恐怖がまったく感じられない。こちらを殺す気までは無いようだが、容赦も無い。
これが数打だったのなら、通ったかもしれない・・・・・・
「これでいい加減壊れたでしょ! ミサイル、グレネード合わせて80発もぶち込んだのよ。こんなにぶち込まれたら、ISだって跡形も残らないはず・・・・・・なっ!?」
が、此方は真打。性能がまったく違う。
爆炎が晴れると、そこには無傷なままの正宗が立っていた。周りは爆発によって出来たクレーターにより足場など殆ど無かった。
「この程度か。あまり舐めないでいただこう」
俺は淡々とそう告げる。
そして内心で少し怒る。このような・・・・・・『中途半端』で挑もうとは・・・・・・実に不愉快だ。
「あなたは何を思って戦っているのですか?」
「何を言ってっ!?」
「あなたの攻撃には容赦は無かったが、当方を殺そうという殺気は感じられなかった。どういうことですかな」
「私はあんたを倒せればそれでっ!!」
女性がそう叫ぶのを叩き潰すように吠える。
「そのような中途半端な思いで此方に挑むな、痴れ者めっ!!」
殺気の乗せた叫びに、女性の身体が萎縮する。
「あまり愚弄しないでいただこうか! あなたは私に・・・武者に戦いを挑んだのだろう。ならば、此方を殺すつもりで来い! そのような温い攻撃でこちらを倒せるなど・・・・・・笑止!」
そして今度は此方が攻撃に移る。合当理を全開で噴かせ突進する。
「がぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
接近して上段からの一撃。
女性はさっきの俺の叫びに萎縮してしまったために反応が遅れる。咄嗟に持っていたグレネードランチャーを盾にして防ごうとするが・・・・・・
「そ、そんなっ!? あああぁああぁあああああぁああああああああぁあああ!!」
俺の斬撃はグレネードランチャー二丁を破壊し、さらに女性本人にも直撃する。
斬撃を受けた女性はアリーナの壁まで吹っ飛ばされた。
今回の俺はまったく容赦しない。『死合い』を挑んでいるのだ。これで終わるはずがない。
さらに敵に向かって突撃をする。
「げほっ、げほっ・・・なんて威力よ・・・ひっ!? く、くるなぁああああああああああああああああ!!」
壁に叩き付けられ咳き込む女性は、そのまま突っ込んできた俺を見てさらに顔を恐怖で歪めた。
また銃器を展開して此方を撃ってきた。
俺はそれらを気にせず、そのまま突っ込み更に二撃加えた。
「ぎゃぁっ、がはっ」
斬撃によって破壊されるISと銃器。その威力で女性の後ろの壁は崩れ、女性はめり込む。
今回、俺は試合をする気はない。『死合い』をする気で戦っているのだ。つまりは殺すつもりで。
その後も連撃で何撃も加えていく。
女性は俺の攻撃に宿る殺意を直に感じて、恐怖で顔が真っ青になっていく。先程までこちらに罵詈雑言を叩いていたとは思えないほどに、その様子は変わっていった。
俺は少し離れると、女性は必死に離れようとした。
スラスターを最大出力で噴かせ、上空へと逃げ出す。このままでは殺されると実感したのだろう。その表情には余裕など、一切無かった。
ISは劔冑よりも機動性が高い。空を飛べれば其方の方が分があるのだ。彼女のISは高火力の射撃戦重視であり、接近されないように戦うのが本来の戦い方だ。劔冑相手に接近戦では勝てないからこそ、そういう戦い方になる。事実、此方としても、空を飛ばれると不利だ。
だが・・・・・・
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・これで何とか・・・・・」
女性が油断していたが、此方は容赦せずに技を出す。
斬馬刀を鞘にしまうと、今度は小太刀に手をかけ、居合いを抜き放つ。
『吉野御流合戦礼法、飛蝙!!』
「なっ!? きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああ」
上空に飛び上がった女性に向かって小太刀が矢の様に高速で飛んでいき、撃ち墜とした。
背部のスラスターがその技によって完璧に破壊され、飛行能力を失ったISは地上へと墜落した。
「がはっ!?」
地面に叩き付けられ、肺の空気を吐き出す女性。
俺は女性に向かって更に合当理を噴かせて突っ込み、起き上がった女性に間髪入れずに技を叩き付ける。
『吉野御流合戦礼法、迅雷っ!!』
鞘から抜き放たれた居合いが女性に直撃し、また壁まで吹っ飛ばされる。
最早声も上げられないらしく、一切の声も出なかった。
俺は吹っ飛んだ先に向かい、また攻撃をしかけに行った。
その試合の様子はもう試合と言えるものでは無かった。
只の一方的な蹂躙であった。一夏によって女性のISはもう大破しきっていた。搭乗者保護も既に切れかかっており、女性の身体は傷だらけになっていた。もうボロボロであり、戦える様子では無かった。それを見ていい加減まずいと判断しようとしたところでそれは止まった。
「こんなこと、認められるか!」
「私達はこんなこと、認めるわけにはいかない!」
「まだ私達は負けてないわ!」
取り巻きの女性がそう叫ぶと、全員ISを展開してアリーナの正宗に向かって銃を向けてきた。
どうやら女性側のアリーナで控えていたらしい。全員ラファール・リヴァイヴを展開していた。
数にして九機。これだけで戦争を起こせるくらいの戦力だと世間では言われている。
それが正宗に向かって襲いかかっていった。
そろそろ降伏勧告をしようとしたところで、いきなり他のISに襲われた。
どうやら利権団体の他の女性らしく、数は九人。ほぼ全員がIS乗りだったとは。
そして俺は・・・・・・
激怒した!
仮にもまだ試合の最中なのだ。
それに乱入し横槍を入れるなど、俺も目の前の女性も侮辱しているにふさわしい。
神聖な試合の最中にこの狼藉。此方とて、いい加減我慢の限界だ。
「正宗! この狼藉者共を叩き潰す!! 両腕全部持って行け」
『了解! 不埒な輩には正義の鉄槌をくれてやろうぞ、御堂』
「応!」
途端に両腕に走る激痛。
貪られ、千切られ、食い尽くされる激痛に襲われる両腕。それを声にならない声を発しつつ堪え、上空に向かって発射する。
『飛蛾鉄砲・弧炎錫ッッッッッッッッッッッ!!』
両腕から発射された二発の砲弾がアリーナ上空で大爆発を引き起こした。
アリーナのシールドすら破壊し、もうもうと爆炎を舞わせていた。
その爆発によって飛行していた女性のISは巻き込まれ、撃ち堕とされた。
破壊され、地面に墜落していく女性達。全員もう戦闘能力を奪われていた。
「ぐぅ・・・うぅ・・・・・・」
「がはっ・・・・・・・・・」
「ぅ~~~~~~」
地面で呻く女性達。
それを見て、もう何も言えなくなる先生方。
俺はそれを見て、終わったことを悟る。
「これでこの試合、当方の勝ちです。文句は言わせませんよ」
未だ呻く女性達にそう告げた。
女性が何とか動けるようになってから・・・・・・・・・
「全員正座っ!!」
俺は襲いかかって来た女性達も含め、アリーナにいた者達全員にそう叫ぶ。
その声を受けて女性達がビクッ、と震えて急いで正座した。皆その顔には恐怖がありありと刻まれていた。
「まず・・・・・・何故あなた達はこの人との試合に干渉したのですか」
そう聞くと、乱入してきた女性達がガクガクと震え始めた。そのうち一人が答え始めた。
「このままじゃ・・・私達の利権が守れないから・・・・・・」
「神聖な試合に乱入し、仲間のことすら侮辱してまで守りたいことですか、それは? それにそんなことをしたら、世論がそれを認めると思いますか? 認めるわけないじゃないですか。もうあなたたちが威張り散らしていた『女尊男卑』の時ほど影響力は強くないのだから」
「あのときは頭に血が昇って・・・でも・・・・・・」
「でもも何も無い! 言い訳はしないで下さい!!」
「ひぃっ!?」
言い訳をしようとした女性に一喝すると、女性は声を飲み込んで震えた。
「逆にこちらから聞きますが・・・・・・あなた達の言う『女性の利権』とは何ですか?」
そう聞き返すと、女性達は何も言えなくなってしまう。自分達が言ったことを正面から打ち崩されるのを怖がっていた。だが、容赦せずに言う。
「利権とは利益を得るための権利。誰にも必ずあると言っても良い。だが、あなた達のそれは、『女尊男卑』がもたらした結果の尻馬に乗った歪んだものだ。これから始まる世にそんな歪んだものはいらない。別になくたってあなた達が生きていけないわけではないのだから。ちゃんとした利権の権利を主張したいのなら、今の世の中に認められるようなルールに基づいた利権を政府に主張して抗議して下さい。少なくとも・・・こんな強引なやり方では世界は認めませんよ」
そう女性達に言い放つと、女性達は何も言えずにうつむいてしまう。
「そして・・・・・・そんなくだらないことで真耶さんに手を上げた貴方には、ちゃんと真耶さんに謝ってもらいます」
殺気を込めた良い笑顔でそう戦っていた女性にそう告げると、女性はあまりの恐怖に気絶した。
その後・・・・・・
女性利権団体の他の人が来て、今回暴れていた女性達を連れ帰っていった。
その際はとても謝られた。今回の一件は利権団体の過激派の一部の暴走らしい。利権団体も一枚岩ではないらしく、色々と派閥があるようだ。全員が今の変わりゆく世に不満があるわけではないと、女性は謝りながら言っていた。彼女達を回収に来た女性は大層申し訳無く謝っていたので、そのことは本当のことなのだろう。
俺は今回の一件で利権団体もちゃんと考えて貰うよう言うと、女性も頷いてくれた。
こうして今回の一件は終わりとなった。
ちなみに・・・・・・真耶さんに手を上げたあの人は、真耶さんの前で土下座させた。
首の後ろに斬馬刀を添えて。
まったく・・・・・・作戦前なのにこんな騒ぎは勘弁願いたいものだ、本当。
そう思いながら、その日は眠りに就いた。