なので今回は全く甘くありません。
中間テストも無事に終わり、後は期末テストをやるのみと意気込みたいところだが、そうはいかないのが世の中というものらしい。
テストを終えた俺に待っていたのは、今までで一番の大事だった。
テストを終えて三日経った放課後にそれは来た。
生徒会の仕事を終え、真耶さんとのお茶を楽しんだ後は鍛錬に勤しむのみ。
そう考えながら寮に向かっていると、寮の前に一台の車が止まっていた。
黒塗りの乗用車だが、中は見えないように細工が施されていた。何だか怪しい。
そう思いながら近づくと丁度良い具合にドアが開いた。
「織斑 一夏様で間違いございませんか?」
出てきたのはきっちりとスーツを着こなし、サングラスで人相がばれないようにしている二人組の男だった。明らかに通常の職種の人間ではない。ばれないようにしているが、懐に銃器を仕込んでいるのが俺にはわかった。
「はい、そうですが」
警戒しつつそう答える。場合によっては戦うことも考えなければならない。
ここ最近緩んでいた気を引き締める。
俺が警戒していることに気付いてか、一人の男が俺に近づいてきた。
「そう警戒しないで下さい。私達は敵ではありませんよ」
そう言いながら身分証明を出来る物を差し出してきた。
「内閣直轄特殊課員?」
「はい、我々は総理の使いの者です」
目の前の男はそう言い、もう一人が後部座席のドアを開けた。
「総理と天皇陛下が織斑様を呼んでおられます。どうぞ、中に」
どうやら政府からのお呼びのようだ。直に呼び出すということは、余程の事なのだろう。
「わかりました。行きましょう」
俺はこの事態がかなり重いこと予想しながら、この招待に応じることにした。
車で走ること約三十分。
車の中からも外が見えないようになっていて、その間は一切口を開かずにいた。そのため、車内は静かだったが、それを苦痛に感じることは無かった。その分気が引き締まったが・・・・・・
どうやらこの車は外見こそ普通だが、中はかなり特殊に作られているようだ。
車体の割に中が広く快適だ。しかもよく調べてみると、窓は防弾ガラス。装甲は意外に頑丈な物を仕様していた。男達がしているサングラスも只のサングラスではないようで、アレをかけることによって外が見えるようになるらしい。男の後ろでサングラス越しに外が見えた。
政府の者とは言え、警戒は必要であり、既に正宗に金打声で連絡を取っており、この車を追跡させている。いざと敵対となったときに制圧するための警戒である。
そして車が止まり外に出ると、そこには一件の料亭が建っていた。
福寿荘にも瑞閣にも負けない程の貫禄を感じる。俺は二人と一緒に店に入ると、離れにある部屋へと通された。よくある密談に使われる店という物らしい。気配を探れば、離れの周りに結構な数の人が隠れていた。
「織斑 一夏様をお連れしました」
「ああ、入ってもらってくれ」
声をかけると、中からそんな声が返ってきた。
前に聞いたことのある総理の声だ。
そして戸が開くと、中には総理と・・・・・・天皇陛下が座って日本酒を飲んでいた。
「やぁ、久しぶりだね」
「元気そうだね。よかったよかった」
お二人は気軽に声をかけてきた。それに恐縮しつつ応じる。
「お久しぶりでございます。お二人もご壮健そうで何よりです」
「ああ、そんな畏まらなくたっていいよ。議事堂を離れたら私は只の中年だよ」
「いえいえ、そのようなことは」
総理が緊張を解そうと、そんな冗談を言ってくる。それを天皇陛下は笑ってみていた。
前に会ったときからそうだが、以外と総理は冗談好きで、天皇陛下はのんびりとしているお人だ。
二人とも堅っ苦しいのはあまり好きでは無いらしい。とは言え、俺が口調を変えるようなことはない。
「まぁ、まずは一献」
「陛下、自分は『一応』未成年なのですが?」
一応そう言う。
これは最早通過儀礼だ。その後言われることは大体分かっている。
「武者に限っては例外ですよ。君も立派な『責任を持てる大人』です」
「は、恐縮です」
そう笑顔で言いながら熱燗を此方に傾ける陛下。俺もそう答えながら猪口を差し出し、酒を注いで貰う。
「では、頂きます」
礼を言い、そのまま飲む。
とても上品で芳醇な味わいに素直に感動した。
「これはまた、美味ですね」
「これ、家に届いた特上品」
そう自慢げに言いながら陛下は一献また飲む。
何でも家で飲むと色々とうるさく言われるそうだ。いくら天皇陛下とは言え、家では普通の家庭らしい。
「君の御蔭で世界はどんどん変わってきているよ。まったくもって感謝しきれないよ」
「そんなことはまったくありません。自分は只剣を振っていることしかできませんよ。世界が変わり始めたのはお二人が変えようと尽力なさったからこそです。自分はそれを後押ししているだけですよ」
「本当に君は謙虚だね。あまりにも謙虚すぎてとても十代に見えないよ。やはり師匠と弟子は似るということだね。君のお師匠も謙虚な方だったし」
「は、お褒めの言葉として受け取らせて頂きます」
「でも謙虚過ぎると老けるのも早いよ。現にもう十代には見えないしね、雰囲気が」
「ぐぅっ・・・・・・ぜ、善処します」
そう冗談を言われながら酒をまた一献飲み、和んでいく。
そのまま酒をしばらく飲むことに。すぐにでも呼んだ真意を聞きたいところだが、お二人にもうちょっと飲んでからと言われてしまっては聞けない。
そして外が真っ暗になり、完璧に夜になった。
未だに酒を飲んでいるのだが、お二人供まったく酔っていない。それが尚これから話すことに緊張を与える。そのせいか、俺もまったく酔っていなかった。
「まぁ、そろそろ話そうかな。織斑君、真面目な話だ」
「はい」
総理がそう切り出し、俺も真面目に答える。陛下も顔が真面目になっていた。
「君をここに呼んだのはいくつかの重要な話があるからだ。良い話と悪い話、どちらから聞きたい?」
「では悪い話を」
こういった話の場合、悪い話は極端に最悪なことが多い。なので先に悪い方から俺は聞くようにしている。先に知っておけば対策や対処を考える時間も増えるからだ。
俺がそう答えると、総理は真面目に話し始めた。とてもさっきまで酒を飲んでいた人とは思えない。
「まず・・・・・・亡国機業の話だ。君が倒した実働部隊はトップらしくてね、これによって亡国機業の戦力はかなり落ちた。調査情報では組織内部も瓦解し始めているようだ。このままいけば消滅、もしくは地下に潜伏するだろう」
「その話事態は寧ろ良い話では?」
「ここからが続きだよ。我々、世界の国家元首達からしてみればこれは絶好のチャンスなんだ。これを機に『亡国機業殲滅作戦』を展開しようと思っている。その戦力は各国からIS、それと我が国からはISと劔冑を出そうと思っている。真田君や伊達君はやる気満々のようだ。たぶんこの作戦は成功するだろう」
なかなかに大事の話だ。
呼び出された理由が良く分かった。
「では自分もその作戦に参加、ということですか」
「まぁ、そうなんだが・・・・・・君にしてもらうことは少し違う」
そう総理が言うと、今度は陛下が話し始めた。
「実はね・・・・・・その亡国機業に劔冑を盗られてしまったんだ」
「何ですって!?」
これが悪い話の理由か!
確かに良くない情報だ。
「正確には盗られたというのは正しくない。我々が感知していない劔冑があり、それを亡国機業が盗んだと言うわけだ。と言っても彼等は武者ではない。君が手こずるほど強いとは思えないが、それでも通常兵器や一般人に対しては脅威でしかない。そして厄介なことに、この者達は暴走している。すでに亡国機業からは離れ、好き勝手に暴れているようなのだ。君にやってもらいたいのは、盗んだ者の排除と、その盗られた劔冑の『破壊』だ」
「破壊? 確保ではないのですか?」
「それなんだが・・・・・・これを見てくれれば分かる」
陛下はそう言うと、俺に資料を渡してきた。
「これが我々が調べたその劔冑達の情報だ」
それにさっそく目を通す。
何々・・・取られた劔冑は全部で四騎。名は草薙、坤竜、乾雲、当麻友則。
独立形態は草薙が海蛇、坤竜が蛸、乾雲が烏賊、当麻友則が蟹。
皆太古に作られた劔冑らしく、制作者は不明。しかし、真打らしく、性能は高いと推測される。
そして破壊を言い渡された理由は、その陰義にあった。別に当麻友則はそこまで問題じゃない。ただ泡のような物を操るだけだ。だが・・・残りの三騎は破壊しろと言われて納得の出来る能力だ。
まず草薙。どう使うかは分からないが、猛毒を使う能力らしい。これは武者として許せないものだ。卑怯と取られても仕方ない。それだけならまだしも、帯刀の儀の条件として数多の人間の血を要求するらしい。まさに最悪な妖甲だ。後の二騎もまた最悪だ。坤竜の陰義は血液と同化して身を隠すものである。使い方次第では最悪になる代物だ。乾雲に至っては死者の臓物を操作する能力らしい。こんな能力が使われた先はもはや地獄でしかないだろう。
こんな劔冑が世に出るのはまずい。早々に破壊した方が良い。
俺は破壊指令の理由に納得がいった。
「確かに・・・これは破壊した方が良いですね。納得しました」
「そうか、ありがとう。既に全員装甲出来るようで、各地に散ってしまっている。君にはこの四騎がもたらす被害をできる限り抑えて貰いたい。そのために破壊もやむなしと判断した」
陛下は少し苦しそうにそう言った。
きっと大変な決断だったのだろう。
「は、その任務、全身全霊を持って当たらせてもらいます。何より・・・・・・そのような災厄の元、正義を成す者として見過ごす訳にはまいりません」
俺が誠意を持って答えると、二人は申し訳なさそうな顔で応じてくれた。
先程の話はついつい劔冑の破壊に目が行きがちだが、つまりはその仕手の殺害も入っているのだ。
十代の人間に頼むのは気が重い話だ。だが・・・それは俺が武者になってから常に覚悟していること。いまさら動揺もない。既に過去、幾人か殺めてしまったのだ。いまさら引き返したりする気もない。
そして・・・・・・武者の矜恃も無く、ただ力を振るい人々に災厄を振りまく輩を生かそうなどとは思わない。正義を成す者として、ケリを付ける。
俺はこの話を謹んでお受けした。
「作戦はクリスマスの一週間前からだ。だから・・・・・・気を引き締めてほしい」
「はっ!」
そう返事を返すと、しばらく部屋に重い空気が流れた。
それを何とかしようと、総理が話を切り替える。
「それともう一つ話がある。君の御蔭で世界は変わり始めたわけだが、女性利権団体がうるさくてね。近々IS学園に出向き、所属のIS乗りと君を戦わせるってさ。まぁ、今の君にはISなんてもう敵ではないのかもしれないがね。徹底的に叩いてくれて構わない。それぐらいしないと、連中は黙らないだろうからね」
どうも女性利権団体が俺に突っかかってきたようだ。
ISで俺に勝てば利権は守れる、そう考えているらしい。そこまで敵視しなくても問題はないと思うのだがな。まぁ、試合をするというのなら正面から正々堂々と戦うのみだ。
「これが悪い話。それで良い話なんだが・・・・・・何と、IS学園と同じような、武者の育成機関を作らないか、という話が上がっているんだよ。君には是非とも講師に、という声も上がっている」
「それはまた、随分な話ですね」
「まぁね。このまま行けば、後二年後には出来るかもしれん。まぁ、君は色々と忙しい身だから、私としては講師としても、一日一時間授業をしてもらうだけでいいと思っている。まぁ、正式に話がきたら考えておいてくれ」
「は、はぁ」
まさかもうそんな話が来るとは。自衛隊にこの間臨時講師で行ったばかりだというのに。
俺はそう思いながら一献、口に含む。
「それともう一つ」
今度は陛下が話し始めた。何だかやけに笑っているような・・・・・・
「IS学園で上映された映画『現代の若武者恋物語』の全国上映が決まりました。おめでとうございます」
「ぶぅっーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
びっくりしすぎたあまりに酒を噴いてしまった。
何だ、その話!? 俺は何も聞いていないぞ!
「なんですか、その話!?」
「いや、何か六波羅で映画を買い取ったそうですよ。それで今度は全国展開ということらしいです。あれはお金を取れても良いレベルですから」
あまりのショックに固まってしまう俺。
それを見て笑いながら酒の肴にする総理と陛下。
この後はそのネタでいじくられたり、真耶さんのネタでいじくられたりと酷い目に遭った。
何で真耶さんのことも知っているのやら。しかもこの間ご両親に挨拶に行ったことまで。
結局その日、寮に帰ったのは十二時過ぎになった。
楽しいこともあったが・・・・・・・・・
平穏には過ごせそうにない。覚悟を決めなければ。
そう思いながら眠りに就いた。