次回からは・・・・・・どうしようかなぁ?
俺と真耶さんとの仲を認めてもらい、ご両親とも打ち解けてきた。
そのうちにご両親も俺のことを『織斑君』から『一夏君』と呼ぶようになっていた。
何だかこそばゆい気がしてならない。こういうのが家族という物なのか~、と感じた。
千冬姉と一緒に居た時とはまた違った暖かさがそこにはあった。
「そう言えば一夏君はこの後の進路について考えているかい?」
耶彦さんが何気なく俺にそう聞いてきた。
もうお互い気心知れたようになっており、口調も柔らかい。
「一夏君は~、卒業したらすぐに真耶ちゃんと結婚よね~」
俺が答える前に真奈さんがのんびりとそんなことを言って来た。
「ちょっとっ、お母さん!?」
その途端に真っ赤になる真耶さん。その可愛い様子に俺も内心で顔が緩む。顔は同じくらいに真っ赤になっていたが・・・。
「あらあら、当たっちゃった~。うふふ、どうするの、お父さん。恋人を紹介しに来た日に婚約宣言されちゃったよ~」
そうからかっているのかよく分からない間延びした声で耶彦さんにそう言う真奈さん。
そんなことを急に言わないでもらいたい! さっき交際を認めてもらったばかりでいきなり婚約まで許してもらえるわけが・・・・・・
「ああ、一夏君なら是非とも。そうだ、一夏君、名前ではなくお義父さんと呼んでもいいよ」
耶彦さんがすんなりとそう答えてきた。
それを聞いた真耶さんが落ち着こうとして口に含んだお茶を噴いてしまう。
「げほっ、げほっ、げほっ・・・ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、お父さんまで!?」
苦しそうに真耶さんが咳き込むと、真奈さんが、あらあら、と笑いながら背中を擦っていた。
こうしてみると、とても親子に見えない。ぱっと見姉妹にしか見えないだろう。どうやら真耶さんの童顔は母親譲りのようだ。最初に耶彦さんから紹介されなければご姉妹と勘違いしていただろう。
「いえ、その・・・まだそこまでは早いかと。せめて卒業した後に言わせて貰います・・・・・・」
俺も恥ずかしさからこう答えるので一杯だ。
「おやおや、そうかい。君は随分と謙虚だね。まぁ・・・・・・結婚は否定しないあたりがまだまだだがね」
「うっ!?」
「ぁぅ・・・・・・」
この言葉に自分の未熟さを痛感させられた。
真耶さんの方を見ると、やはり真っ赤になってもじもじとしていた。
「そ、それより進路の話でしたよね!」
そう言いこの話題を切ることに。流石に交際を認めて貰った日にこれはきつい。
「それもそうだね。進学かい? それとも就職?」
俺のことをニヤニヤと笑いながら耶彦さんが聞いてくる。まださっきのことを引きずっているのか、その顔は面白そうなものを見ている顔をしていた。
しかし、この質問は結構重要だ。
何故なら・・・・・・今後の俺の立場にかなり関わるからだ。そして、半分くらいは既に決まっている。
と言うより既になっている。
「それが・・・・・・悩んでしまっていて。今の俺の立場なんですが、学生っていうだけでもないんですよ」
「と、言うと?」
「まず、現在の俺の立場は完全にIS学園の所属と言うわけではないんですよ。正確には、『日本政府所属、特殊高官』と言うのが俺の肩書きです。IS学園には出向扱いで通っているんですよ。そのため、政府の人間として既に役職はあるわけで・・・就職してるも同然なんですよね。現に毎月給料も出てますし」
「それは凄いね!? でも既に決まっているのならそこまで悩む必要はないね。つまり、他にも何かあるのかい?」
さすがは教師をしている人だけあって洞察力が凄い。
俺が悩んでいるのをこの少ない時間で見抜いてしまった。この洞察力には関心させられる。見習わなくては。
「はい・・・・・・実はそれ以外にもやってまして。実は福寿荘という懐石料理店で修行をさせて頂いてまして、今でも修行中だったりします。それでこの間そこの板長から『副板』の役職を与えられてしまって・・・・」
「なっ!?」
流石にこれは驚いたらしく、耶彦さんの顔が強ばった。
「それって凄いの~?」
真奈さんがよく分からないといった感じに頭を傾げていた。
「副板というのは、華板の前の役職だよ。料理店でいうところの副料理長みたいな役職かな。しかも福寿荘といったら、かなりの名門じゃないか! そこの副板って言ったら、一流も一流だよ! しかもその若さで副板というのは、この業界じゃ初のことじゃないかい!」
「福寿荘を御存知で?」
「ああ、知っているよ。私は学校の付き合いであそこには良く行くんだ! あそこほどの名店はそうはないよ!」
耶彦さんがテンション高めにそう話していた。
働いているお店がこう褒められるのは、それはそれで嬉しいものである。
ちなみにこの副板の件だが、修学旅行のときの料理勝負が決め手になったそうだ。普通ならこの歳でそんな大層な役職というのは周りから何かしら言われるものだが、瑞閣の板長と福寿荘の板長という名店の板長二人が太鼓判を押して推挙したため、周りからは何も言われない。寧ろ福寿荘の皆からは祝いの言葉を全員からもらってしまった。
「政府の役職に福寿荘の副板・・・・・・凄すぎるな、君は。将来安定なんじゃないかい」
「そ、それが・・・・・・・・・まだちょっとありまして・・・・・・」
「まだ何かあるのかい!?」
驚く耶彦さんに向かって、俺は恐る恐るあるものを渡した。
それを見て顔が驚愕に固まる耶彦さん。
「なっ!? こ、これは・・・・・・」
俺が渡した物、それは名刺だ。
ただし、俺のではない。『六波羅 篠川公方 大鳥 獅子吼』の名刺だ。
「俺の武術の師匠の筋で少し知り合いまして。夏休みに仕事を手伝った際に渡されたんですよ。師匠ほどではないが鍛えれば使える。だから卒業したら勉強しにくるのもいい、と言われてしまって」
耶彦さんは開いた口が塞がらなくなっていた。
六波羅四公方と言えば、政府高官の内閣くらいでないと顔を会わせられない業界人だ。
それと直に会い、しかも見込まれているとあっては驚くのも無理は無い。
しかし、そう考えると俺の周りはかなり異常過ぎないだろうか? 一番異常だと思うのは、それらに皆縁がある師匠だが・・・・・・。
「・・・・・・君は規格外過ぎだな・・・流石に驚き過ぎて開いた口が未だに塞がりきらないよ。よく真耶はこんな凄い人を射止めたものだ」
「そ、そんな・・・・・・」
真耶さんがそれを聞いて恥ずかしそうに真っ赤になっていた。
俺はそこまで大層な人間ではないのだが・・・・・・過大評価のし過ぎではないだろうか?
「そんなわけで、どうしようか悩んでいるのですよ」
これが俺の悩んでいることだ。既に仕事にも就いているのに更に増える。
悩みの方向性が普通と違う。
「つまり一夏君はどの仕事に絞ろうか悩んでいるということかな」
少し落ち着いたらしく、耶彦さんが冷静になりながら聞いてきた。
「それも微妙なんですよね。政府の仕事は今と変わらないし、福寿荘の仕事もヘルプみたいなところですし、獅子吼様の仕事は師匠と一緒で頼まれたら受けるってだけですから。詰まるところ言えば卒業後の進路は全部、ということになりそうです」
「出来るのかい? 普通は無理だよ、精神的にも肉体的にも」
「悲しいことに、武者という人種はそれが全部出来てしまうんですよ。俺も人の期待には応えたいですし」
俺がそう答えると、真耶さんはにっこりと笑いながら、「やっぱり一夏君は一夏君です」と喜んでいた。その後真奈さんにまたからかわれていたが。
「う~ん、君の悩みというのは、スケールがでかすぎて分かり辛い。なまじ能力が高すぎるから普通は無理なことも出来てしまう。それが悩みなのかい?」
「まぁ、大体そうです。それに、出来ればもうちょっと勉学にも励みたいですしね。自分は頭が悪いので、ちゃんと勉強したいので大学に行こうかとも悩んでいます。どうしたものやら」
そう伝えると耶彦さんは難しそうな顔をした後、穏やかな顔をしながら俺に諭すように言う。
「まだ進路を決めるのは早いのかもしれないね。もう少しゆっくり考えてはどうだい。まだ学園生活は二年もあるんだ、精一杯悩みなさい」
その顔はまさに熟練の教師のものだった。
普通に聞けば少し投げやりに聞こえたかもしれなが、俺にはそれがありがたいものとして聞こえた。
相談して良かったと心から思った。
後日師匠に相談したら、まったく同じ答えが返ってきたのだが・・・・・・
その後も楽しく和みながら話していたら、あっという間に夜になってしまった。
その上夕飯もごちそうになってしまった。真耶さんと真奈さんの合作らしく、二人とも張り切って作ったために量が多かった。
福寿荘の副板には物足りないかもしれないがね、と耶彦さんがからかうように言って来たが、そんなことはない。とても美味しかった。
その時に、
「どっちが作った料理かわかる~?」
と真奈さんに聞かれた。
俺はそれを答えると、殆ど正解だったことにみんな驚いた。親子の料理の味は似るもの故に、当て辛かったが何とか当てられた。これが親が子に伝える味というものかぁ、としみじみ感じてしまう。俺の味は修行によって培われたもの故に、そんな感じがしないのだ。
「何でわかったの~?」
と真奈さんに聞かれたので、
「真耶さんの味がしましたから」
と答えたら真耶さんが恥ずかしそうに真っ赤になった。
真奈さんは、
「あらあら、愛されてるわね~」
とにこやかに言って来た。その言葉を受けて真耶さんはさらに真っ赤になり、俺も赤面してしまった。別にそんな意味で答えたわけでは・・・・・・
しかし、真耶さんが大切だということは事実なわけで。
「いやぁ~、真耶の恋人は本当に凄いな~」
耶彦さんは陽気に笑いながら夕飯を食べていた。
俺と真耶さんは真っ赤になりながら、そのまま夕飯を食べた。
その後は泊まっていくよう勧められたが、明日は月曜、つまり学園があるので帰らせて貰った。
何というか、暖かいところだったな。
「家族・・・・・・かぁ・・・・・・」
そう胸の中が暖かい気持ちに満たされたまま、真耶さんに見送られながら俺は寮へと帰っていった。
その日の山田家、深夜では・・・・・・
「うふふ~、一夏君が真耶ちゃんの恋人さんでよかったね~」
「そうだね、安心したよ。彼になら安心して真耶を預けられるよ」
耶彦と真奈は寝室でベットに横になりながらそう会話をしていた。
真耶はその日、自室に泊まり明日の朝一に学園に戻ることにしたので、現在は隣の自室で眠っている。
「ねぇねぇ、あなた~」
「どうしたんだい?」
「ラブラブな二人に当てられちゃったから~、ちょっと体が熱いの~。だから、ね」
「いや、その、今日は年甲斐も無くはしゃいだから疲れちゃって・・・」
「えい!」
「あっ、・・・・・・アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
その日、真耶は両親の部屋から聞こえる音と声で恥ずかしさのあまりから、眠れなかった。
頭の中には、自分と一夏のことを妄想してしまっていた。