装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回は戦闘回、甘さ無しです。


修学旅行 その8

 芹澤さんの叫びと共に俺と敵達は同時に動いた。

戦うと決めたのならば、容赦はしない。全力で敵を斬るだけである。

 

「かぁあああああああああああああああああああ!!」

 

 竹林に俺の裂帛の気合いの籠もった声が轟く。

その気合いのままにスコールへと斬りかかっていく。

 

「ふっ」

 

 スコールは俺の上段からの袈裟斬りを躱すと、腕に仕込まれた火器を此方に向けて連射する。

そこから放たれた光弾が正宗へと襲いかかる。

躱せずに被弾するが、構わずに更に斬りかかる。

 

「えぇえええええええええええええい!!」

「きゃぁっ!!」

 

 スコールは何とか躱しはするが、先程とは違いその顔に余裕はない。

 

「まさかそのまま突っ込んで来るなんてっ!?」

「その程度でこの正宗、停まりはせんっ!!」

 

 確かにスコールのISの火器は強いのかもしれないが、福音の時ほど連射率が凄いわけでもない。この程度では劔胄には通用しない。何より・・・・・・そんな殺気の籠もっていない攻撃に臆するわけもない。

 確かに此方を殺す気はあるのだろう。だが、ISの絶対防御と言う慢心がその心にはある。自分の命を賭けられぬ者の殺気の籠もった攻撃など、怖くない。その程度で武者に通用するなどと考えているようでは、絶対に勝てない。

 

「あまり舐めないでいただこうか! そんな小手調べなど、自分には通用しない。するのなら・・・・・・全力を持ってかかってこい!!」

「っ!?」

 

 俺の気迫の籠もった言葉に、スコールが怯む。

そのまま更に斬りかかろうとするが・・・・・・

 

「私を忘れてもらっては困るぞ、織斑 一夏!」

 

 織斑 マドカが此方にレーザーライフル『スターブレイカー』を三連射してきた。

セシリアのブルーティアーズのライフルよりも強力なそれを、俺は防がずに受けた。

しかし・・・・・・当たった先には損傷の一つも無い。

 そのことが分かり、マドカが舌打ちをする。

 

「どうやら貴殿はこちらとは違い、命を賭けているようだ。貴殿の方が、自分と戦うにはふさわしい」

 

 マドカが撃った場所は、心臓などの急所を狙っていた。

その躊躇の無さと殺気だった瞳に、自身の命を賭ける覚悟は持っていると判断する。

俺は戦う相手をマドカに代え、さっそく斬りかかった。

 

「しゃぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「っ!?」

 

 マドカは俺が突進してくるのを搭載されているブルー・ティアーズ六機と、手に持っているスターブレイカーを連射して迎え撃つ。レーザーの雨が俺に向かって降り注いで行くが、俺はまったく止まらずにそのまま斬りかかる。何とか敵は回避したようだが、その顔には焦りが浮かんでいた。

確かにISの武装としては強烈なのだろう。だが・・・・・・武者と戦うには貧弱だ。

 俺は敵にまったく恐怖を抱いていない。慢心でもなければ自信があるわけでもない。

ただ、今まで戦った武者達と比べ、まったく怖さを感じないのだ。

火力が低いから? 違う! 自分の命を賭けていないから 違う!

きっと・・・・・・信念がないからだ。

執念と信念は似ているようで違う。この者達からは執念を感じる。とくに織斑 マドカからは千冬姉への執着を強く感じるのだ。だが、執念は人を強くしない。粘り強くはなるだろうが、それだけでは人は真の意味では強くなれないのだ。

信念とは、人が自身に抱き刻む己の理想。

執念とは、人がそれを成そうと必死にしがみつく思いだ。

似ているようで全く違う。武者は皆、すべからく信念を持っている。信念無き武者など惰弱の極みである。故に、武者は己が信念を体現する。

武者の死合いとはすなわち、信念と信念のぶつかり合い。

だからこそ、武者と戦うことは恐怖を抱く。信念を持つ者ほど、強い者はいないからだ。

この者達には信念がない。あるのはしがみつきたい執念のみ。そのような者達に恐怖など抱けようはずがない。

故に、怖くない。

 

「その程度で千冬姉を殺すと吠えるか! そのような腕で殺せるほど、あの人は弱くないぞ!」

 

 そのまま叫びながら斬りかかるが、ギリギリで躱される。

 

「こっちが先約よ!」

 

 横からスコールの支援射撃を浴びせられるが、俺は構わずに斬りに行った。

このような攻防が幾度となく繰り広げられていく。

 

 

 

 そして少し時間が経った。

戦場はあまり被害が出ない様に山の上空へと移動させた。京都の街に被害を出すわけにはいかない上に、あまりあの竹林で暴れていると、芹澤さんの怒りを此方も買いかねないと思ったからだ。

当の芹澤さんは・・・・・・

 

「こんなんで手前ぇがした事が許されると思ってんのかっ、あぁあ!!」

「げほっ、が、ぎぃっ・・・」

 

 上空を飛んでいたオータムが空をボロボロになりながら舞っていた。

もうISは大破以上しているのだろう。もはや原型を止めていない。芹澤さんは敵の射程距離まで届くほどの長大な刀を振り回していた。手に持つにはあまりにも長すぎる。鞘には絶対に収まらない長さだった。

たぶんだが、陰義によって刀に何かしらしたのだろう。戦っている最中に正宗から空気が冷え始めたことを聞いた。そのことから、あの刀身には氷で長くなったと推察する。つまり、初代三原右衛門尉正家の陰義は凍気操作だと思われる。

その長大な刀身から繰り出される一撃は遠心力を伴って、相当な威力となる。それをオータムは受け続けたのだ。あんなものを受けたら、此方も只では済まない。

 

「手前にあの竹林の価値がわかんのか? あそこで採れるタケノコはなぁ、絶品で凄いんだよ。俺達料理人にとって、そんな食材があるところは大切にしなきゃなんねぇ。それを手前ぇは吹っ飛ばしたんだ! 生かして帰すわけにゃいかねぇんだよ、このままぶっ殺して畑の肥料にしてやるよ、あぁ!!」

 

 芹澤さんが言っていることは分からなくはないが、ここまで怒るとは・・・・・・

本当に料理が好きなのだろう。こんなに『性格が変わるくらい』

とはいえ、このままでは本当に肥料にしかねない。止めなくては。

俺は金打声で芹澤さんに話しかける。

 

「芹澤さん、その程度にして下さい。確かにあなたのお気持ちはわかりますが・・・」

「だけど、織斑さん! 俺はあそこの価値も分からずに吹っ飛ばしたこいつをぶっ殺さねぇと気がすまねぇ!!」

「このような些事にあなたが血で手を汚す理由はありません! お引き下さい!その手は人に美味しい料理を作るためにあるのですから」

「・・・・・・・・・その通りだ。はぁ・・・・・・すまねぇ、織斑さん。あんたの言う通りだ、ちょっと頭に血が上っちまってよ」

 

 そう答えると、刀身に纏っていた氷が砕け散った。

 

「ちっ! ここは織斑さんに免じて見逃してやる! 今度あんな真似しやがったら、その時こそバラバラに切り刻んで肥料にしてやる」

 

 芹澤さんはそう言うと、装甲を解除した。

その視線の先には、生きているのか分からないくらいボロボロになったオータムが横たわっていた。

ISは絶対防御を発動しても尚、防ぎきれなかったダメージに崩壊寸前であった。

 さて、芹澤さんが終わったので今度は此方の番だ。

 

「貴殿の仲間は此方の味方によって倒された。降伏してはくれないだろうか」

「そう言うわけにもいかないのよ、こちらも」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 俺が睨み付けながら二人に問いかけると、二人は息を切らせながら答えた。

武者とIS操縦者、男性と女性では体力の差が違う。二人はどうやらスタミナが切れ始めたようだ。(実際にはスタミナ以上に精神的に追い詰められている。二人とも、一夏の刀を避けるのに精神をガリガリと削れていった)

 

「そうか。では・・・・・・これで終わらせてもらおう」

 

 そう二人に言うと、正宗に叫ぶ。

 

「正宗、正宗七機巧を使う! 遠慮無く持って行け!!」

『諒解!!』

 

 さっそく両腕に熱量が集まっていき、掌を焼き始める。

激痛に歯を食いしばりながらマドカへと斬りかかった。

 

『朧・焦屍剣』

 

 先程以上の本気、殺気にマドカは疲労と恐怖で一瞬動きが止まってしまった。

 

「がぁあああああああああああああああああああああああああ!!」

「Mをやらせるわけにはいかないわ!」

 

 決まったと思ったら、スコールによって俺の刀は弾かれてしまった。

 

「何っ!?」

 

 少し驚きながらも見ると、スコールのISの両腕からエネルギーが放出され、マドカを守るように周りを覆っていた。その様子はまるで、光で出来た繭のように見える。

 

「私のこの防御、あなたには突き崩せないわ! あなたのデータは入念に調べたもの。このバリアはあなたには破れない」

 

 スコールが繭の中で自信満々に言う。

成る程、あれがスコールの奥の手か。

 

「面白い。ならば此方も、全力を持ってその壁、破らせていただく!」

 

 そして正宗に指示を出す。

 

「正宗、握り焼き斬る!」

『諒解』

 

 そして光の繭に突進しながら叫ぶ。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおお、『隠剣・六本骨爪!!』」

 

 激痛と共に甲鉄化した肋骨が胸から飛び出し、繭を捕らえ刺し絞めあげる。

 

「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・・・・」

 

 繭の中で攻撃に堪えるスコールの声が聞こえた。更に押す。

 

「行くぞっ、『朧・焦屍剣っ!!』」

 

 そのまま更に接近し、『朧・焦屍剣』を発動。両腕が焼かれていく。

そして・・・・・・

 

「しゃあああああああああああ、『吉野御流合戦礼法、雪崩!!』」

 

 骨を体内に戻しつつ刀を上段に構え、技を放った。

瞬間、まるで雷鳴のごとく音が山に轟いた。

そして粉砕されるスコールのISの両腕。バリアを保てなくなり、その身に纏うISの殆どが六本骨爪によって破壊されていく。

 

「きゃぁあああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 飛行を維持できなくなり、スコールは墜落していく。そのまま地面に叩き付けられて、絶対防御が作動して気絶するだろう。

 

 

「ちっ!?」

 

 マドカはスコールが落とされたのを確認すると、即座に俺に向かってレーザーを雨あられと撃ってきた。だが、それは既に俺には効かない。

 

「此方に飛び道具が無いと思うな!!」

 

 そのまま肘を相手に突き出す。

正宗も俺の意を酌んで、正宗七機巧を作動させる。

途端に激痛が走る左腕。しかし、気にせず叫びながらマドカに向けると、肘の先から砲身がせり上がってきた。

 

『連槍・肘槍連牙!!』

 

 そして肘から弾丸が飛び出していき、サイレント・ゼフィルスへと襲いかかっていった。

 

「がはっ・・・・・・」

 

 サイレント・ゼフィルスのブルーティアーズにあるエネルギー・アンブレラと呼ばれるシールド機能を持ったビットで咄嗟に防御しようとするが、その威力と弾幕にビットを破壊され、なおかつマドカ本人もダメージを負った。持っていた武器、ブルーティアーズ全機を破壊した。

 

「墜ちろ!!」

 

 

そのまま追撃で上段から刀を振るい、マドカを地表へと叩き付けた。

 

「がっ・・・・・・・・・・・・」

 

 そのまま山へと叩き付けられ、マドカの下の地面にはクレーターが出来上がった。

しかし、まだ動けるらしくよろよろと起き上がってきた。

俺はそれを見ながら近くで着陸すると、装甲を解除した。

 

『御堂、まだ敵は戦えるぞ! 何故解除した』

 

 正宗の少し責めるような言葉に、俺は少し笑みを浮かべながら応える。

 

「もう彼奴には此方に抵抗するほどの力は無い。装甲していなくても大丈夫だ。だが、斬馬刀は渡してくれ」

 

 そう答えながらマドカに近づく。その手に斬馬刀を持ちながら。

そして起き上がりつつあるマドカに話しかける。

 

「さぁ、聞かせて貰おうか。お前のことを。これ以上の戦いは無駄さ。お前では俺に勝てない」

「・・・ふ、ふざけるな! お前などに負けを認めるなど・・・・・・」

 

 

 マドカは俺を憎々しげに睨み付ける。しかし、体はもうぼろぼろで、動くのがやっとの状態だった。

 

「お前が何故千冬姉に執着しているのかは知らない。だが、千冬姉を殺したところで、お前が認められることはない」

 

 そう冷徹に告げた。

 

「そんなことはない! 姉さんを殺せば、私は姉さんより上だと認められる。私は私の存在意義を全うできる!織斑 千冬のコピーではなく、織斑 マドカとして認められる! 私は私としての価値を認められる!」

「そんなものは人が勝手に押しつけたものだろう。自分の価値は自分が決めるものだ、人に勝手に決められるものじゃない。それに・・・・・・どうあがいたってお前では千冬姉に勝てない。信念も持たないお前が、俺達に勝てるわけがない!」

「このっ!?」

 

 激昂しながらマドカは俺に向かって突っ込んできた。その手にはISの武装のナイフが展開されている。

 劔胄を纏っていない俺に、ISを装着した人間がナイフで斬りかかってきたのだ。

普通に考えれば、どうやったって勝てない。そのまま俺の体は切り裂かれてしまうだろう。

だが・・・・・・・

 

「執念のみの邪なる剣、我に通るわけもなし!」

 

 そう答えると同時に刀をただ振るう。

何も考えず、何も思わず、ただそれが当たり前のように刀を振るい、斬る。

そしてマドカと俺は交差した。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・がはっ!?」

 

 その場で崩れ落ちるマドカ。

手に持っていたナイフは根元から断ち切れ、纏っていたISがことごとく切り刻まれて砕けていく。

 

『無想剣』と言う。

 

無の境地にたどり着いた剣。この世の事象をねじ曲げ、不可能を可能にする魔剣。

修行の末にたどり着く、まさに神の領域。吉野御流合戦礼法にもある、極意。

俺は何も想わずに刀を振った。ただそれだけである。

人が呼吸を無意識でするように、刀を振るった。それだけ。

 そして気絶しかけているマドカへと歩き、その顔を覗き込む。

その顔は光が当たってよく見えない。気にせずにそのまま言うことにした。

 

「たとえ千冬姉を殺したところでお前は織斑 マドカだと証明は出来ない。何故なら既に証明は終わっているからだ。お前が自分を『織斑 マドカ』だと思うのなら、お前は他でも無い織斑 マドカだ。それは誰にも否定できない。たとえ神が否定しようとも、それでもお前は織斑 マドカと言う人間なんだ。遺伝子ではない、人格ではない、魂が織斑 マドカという存在なんだ。だから、もうこんなことをする必要はない。ゆっくりと休め・・・」

「・・・・・・貴様は優しいのだな・・・普通はこんな状態の人間にそんな言葉はかけない・・・・・・」

 

 そうマドカは答えてきた。その顔は少し微笑んでいるような気がした。だから俺も笑って答える。

 

「優しい人はこんな風に人をボロボロにはしない。そう言う人はその前に説得を心がけるものさ」

「そうか・・・・・・では、お前はいじめっ子だな・・・じゃあな・・・『兄さん』・・・・・・」

 

 そう言ってマドカは気絶した。

俺はそれを見守ると、千冬姉に連絡を入れ、この事件を収拾した。

 

 

 

 

 

 

 

 




最後の方のネタが分かる人はいるんでしょうかね~。

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