装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回は少し甘く、そしてあの人達の登場です。


修学旅行 その7

 料理勝負を終え旅館に帰ったら、さっそく千冬姉に怒られてしまった。

まぁ、修学旅行で勝手に動けばこうなることは分かっていたので仕方ない。

千冬姉は俺を見て、仕方ないと諦めていたようだが。

旅館の夕食は食べ損なったが、それ以上に美味い物を食べられたので良しとしておこう。

そのまま部屋でくつろぐことにした。旅館の部屋は俺だけ一人部屋である。

女子と同部屋というのはまず有り得ないし、俺だってそれは御免被る。

臨海学校と同じ部屋割りになるかと思っていたのだが、千冬姉が、

 

「もういい年した男が何を言っているのやら。それにな・・・・・・せっかくの旅行に気疲れはしたくない」

 

 と言って教員用と俺用に三部屋個室を取っていた。

なら真耶さんと一緒の部屋にすればいいんじゃないか、と言ったら、

 

「お前は私を心労で殺す気か!?」

 

 と突っ込まれてしまった。何故突っ込まれなければならないのやら、まるっきり分からん。

二人は先輩後輩の仲だし、何も問題は無いと思うのだがな。

 そのままその日は眠りについてしまった。

武者の死合いとはまた違った緊張に精神的に疲労してしまったからだ。

 

 

 

 翌日、修学旅行二日目。

 

「起きて下さい、一夏君! もう朝ですよ」

 

 そんな甘く柔らかく、聞いているだけで胸が温かくなる声によって起こされた。

当然俺をそんな風に幸せな気持ちにしてくれる人など、一人しかいない。

 

「おはようございます、真耶さん」

「はい、おはようございます!」

 

 俺の目の前に笑顔の真耶さんがいた。

その姿は浴衣であり、とても似合っている。

 

「珍しいですね、一夏君がお寝坊なんて?」

 

 そう軽く首を傾げ、右手の人差し指を口元に添える姿がまた可愛らしくて、顔が綻んでしまう。

 

「たぶん昨日の勝負で疲れたんですよ。いつもと違って疲れましたからね」

「確かに昨日のだし巻き玉子は美味しかったですからね~。また食べたいかも」

「くす・・・真耶さんのためならいつだって作りますよ」

「ッ・・・・・・・・・・・・」

 

 そう素直に笑いながら答えると、真耶さんの顔がリンゴのように真っ赤になった。

 

「もう、一夏君は~~~ッ」

 

 そう言うと俺に近づき、

 

「んぅ・・・・・・」

 

 朝っぱらからキスされてしまった。

起き抜けということでまだ頭がはっきりしない俺は、これで一気に目が覚める。

 

「じゃあ、これからもお願いしますね・・・・・・旦那様」

 

真耶さんはそう言うと凄く恥ずかしそうにしながら部屋を出て行った。

今度は俺がトマト以上に真っ赤になってしまった。

 

 

 

 二日目も初日と同じであり、観光名所を廻る手筈となっている。

違いがあるとするなら、二日目はクラスの写真を撮る必要が無いということだ。このため、初日以上に自由に動ける。

そして俺と真耶さんはと言うと・・・・・・

 

「これなんかも色々と使えて便利なんですよ。味も良いですしね」

「へぇ~そうなんですか。あ、この蕪菁って昨日頂いたのですよね」

「ほぉ、これはまた面白そうな食材ですね」

 

 芹澤さんと一緒に錦市場を廻っていた。

昨日の勝負の後、せっかくだから京都の町の案内を申し出てくれたのだ。

それは有り難いが、仕事は大丈夫なのか聞いたら次の日は非番だそうだ。瑞閣の板長も賛成して、寧ろ進められた。

 そして料理人が二人もいればそれは当然料理の話題となり、そうなれば材料の話、ひいては市場の話となっていく。結果、市場に来ていた。

真耶さんは最初こそ少し渋っていたが、来てみると興味津々に辺りを見回していく。

その顔は新しい発見に驚いたり感心したりと、まるで子供のように無邪気だった。そんな表情も俺は見ていてまったく飽きない。ドキドキしっぱなしだ。

 

「一夏君、これってなんですか!」

 

 そうはしゃぎながら聞く真耶さんは実に可愛い。俺は芹澤さんの手前、顔が緩まないように気を付ける。ちなみに真耶さんが指しているのは、鱧(はも)である。

 

「これは鱧ですよ。京都で有名な魚で、とても美味しいですよ。今度作ってあげます」

「本当ですか! 嬉しい」

 

 そう華やかに笑顔になる真耶さん。

そのお日様みたいな笑顔に俺の心も温かくなる。

芹澤さんはそんな俺達を温かい目で見ていたが、それは気づけなかった。

 そのまま商店街なども廻っていく。

昨日廻った名所とはまた違った良さがあり、下町の良さを感じられた。

ついでにここでお土産も買っていこうと思い、和菓子やらお漬け物やら、だし巻きやら、色々と買っていく。

 

「一夏君!」

 

 お土産売り場を廻っていたら真耶さんが甘い声で俺を呼び、其方を振り向くと口に何かが入った。

甘い味にたぶん和菓子なのだろうが、それ以上にすべすべとした舌触りの物が舌に触れていた。

そして自分が何をされたのかをちゃんと理解する。

真耶さんが顔を真っ赤にしながら俺の口に和菓子を入れていた・・・・・・自分の指ごと。

ビックリして口に入れられた和菓子を嚙まずに呑み込んでしまった。

俺が和菓子を食べたことを確認すると、真耶さんは俺の口の中から指を引き抜く。その指は俺の唾が付いて太陽の光に照らされていた。

 

「どうですか、この和菓子。美味しいですか・・・・・・あと私の指も・・・」

 

 ボンッ、と顔が爆発した気がした。

恥じらいながらそう言う真耶さんの可愛らしさは反則級だ。俺は真っ赤になってしまい、直視出来なくなってしまった。芹澤さんは別のコーナーに行っていたため、こんな姿は見られていない。そのことが実に有り難い。

真耶さんは恥ずかしがりながらも笑っていた。

 

 

 

 そして今度は立派な竹林があると聞いて向かった。

 

「ほぉ、これは実に見事な」

「凄いですね~!!」

 

 入って早々そんな感想が出た。

周りの喧噪がまるっきり聞こえなくなった感じがして、実に静寂だ。

 

「ここは美味しいタケノコも取れるんですよ」

 

 芹澤さんがそう笑顔で言う。

成程、確かにここなら良質なタケノコも採れるだろう。

 その場でも真耶さんとツーショットを取ってもらい、真耶さんは恥ずかしがりながらも笑顔だった。

 そしてそのまま他の所に行こうとしたのだが、その場で俺と芹澤さんは歩くのを止め、止まる。

 

「どうしたんですか、一夏君?」

 

 真耶さんは俺の雰囲気が変わっているのに気付いて声をかける。心配をかけたくないが、内緒にした方が大事になるかもしれないために素直に話すことにした。

 

「どうやらお呼びでは無い客が来たようです。すみませんが、真耶さんは今すぐ千冬姉に連絡をお願いします。そしてすぐにこの場から離れて下さい。ここにいたら危ないですから」

 

 段々と俺の精神が戦闘態勢に移行していく。

そのため、静かに殺気が漲っていく。

 

「はい! 一夏君も怪我しないで下さいね。絶対ですよ!」

 

 そう心配そうな声をかけながら真耶さんは千冬姉に連絡をすべく、この場を去って行った。

そのすぐ動ける行動力に芹澤さんは少し驚いたようだ。

 

「とても良い恋人ですね。此方の意図をちゃんと酌んでくれて。危ないと分かっていても尚、笑顔で見送ってくれるなんて」

「はい、自分には勿体ないくらい出来た、大切な女性ですよ。あの人の御蔭で俺は幸せで居られますから」

 

 そう自然と笑顔で芹澤さんに答えた。

いつもなら恥ずかしく言いづらいことだが、今は戦うために集中しているためにそこまで気にならない。そのまま俺は目の前を睨み付け叫ぶ。

 

「いつまで隠れているつもりだ、出てこい!!」

 

 そう叫ぶと、少し先にある岩の影から二人の人影が出てきた。

 

「あらあら、もうバレてるとは思わなかったわ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 出て来たのは二人の女性だった。

一人は露出が多いドレスを着込んだ華美な金髪の女性で、もう一人は肌にぴったりとした黒い服を着た少女だった。少女の顔は千冬姉そっくりであり、通常時なら驚いたが今は戦闘時。気にしてはいられない。

 

「何用だ! ただ声をかけてきたと言うわけではあるまいに」

 

 そう詰問すると、金髪の女性がが飄々と答えた。

 

「う~ん、大体名乗らなくても分かってるんじゃなの」

「・・・・・・『亡国機業』か」

「ご明察よ。なら私達が何をしにきたのか、わかっているわよね」

 

 女性がそう言った途端に、俺は殺気を全開に放出する。

途端に周りで鳴いていた鳥達が途端に逃げていく。

 

「「ッ・・・・・・・・・・・・・・・!?」」

 

 女性と少女は俺の殺気に息を呑んだことが分かった。

芹澤さんも俺の殺気に少し驚いているようだ。

 

「この場は古来から続く都、そのような場所を血で汚したくはない。このまま立ち去ってもらえないだろうか」

「そういうわけにもいかないのよ、こちらも、ね」

 

 そう言うと同時に女性と少女はISを展開した。

女性の方は見たことも無いISで、金色に輝いていた。何か尾の様な物がついている。少女の方には見覚えがあった。確かイギリスで強奪された『サイレントゼフィルス』だ。

 二人はさっそく戦闘態勢に移行する。

 

「私は亡国機業のスコール。こっちはえ「織斑 マドカだ」ちょっとッ!?」

 

 金髪の女性がそう名乗り、少女のことを言おうとすると、少女は割り込んで名を名乗った。

 

「私はお前だ、織斑 一夏。お前が姉さんより上だとは認めない。お前を殺し、そして私は姉さんを殺す。私が姉さんより上だと証明するために」

 

 俺の知らない『織斑』の性。

そして俺と同じと言い、姉を殺すと公言する俺の姉そっくりな少女。

その姉が誰を指すのかは、何となくわかった。しかし、だからと言って動揺はしない。

倒し、その後聞けば良い。

 

「来い、正宗」

『応』

 

 俺の呼びかけに応じて正宗が飛び出す。

そのまま装甲の構えを取り、誓約の口上を述べる。

 

『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』

 

 そして顕現する藍の武者。

斬馬刀を抜き、敵に向かって突き付ける。

 

「当方正宗、一身上の都合により、貴殿等を討たせてもらう」

 

 俺の挑発を受け、二人とも武器を展開しようとするのだが・・・・・・

 

「まだるっこしいことしてんじゃねぇよ!!」

 

 そうひび割れたような叫びと共に、俺の居た場所にレーザーが降り注いだ。

無論、それで正宗が傷付けられるはずが無い。しかし、地面は大きくえぐれ、吹き飛んでいた。

せっかくの竹林が台無しである。

レーザーが放たれた方向を向くと、蜘蛛の様なISを纏った女性が此方に砲口を向けて飛んでいた。

その声に聞き覚えがあった。確か、学園祭の時に来たオータムだったか。そんな名の女性だった。

 そのまま戦おうと刀を構えたら、隣から思わぬ声が聞こえた。

 

「てめぇえええええ!! せっかくの美味いタケノコが採れるとこになんてことしてくれんだ、このヤローーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「え?」

 

 声の方を向くと、まるで修羅のような形相をした芹澤さんが立っていた。

さっきまで和やかに話していた人とは思えないほどに変わっていた。

 

「行くぞ、初代三原右衛門尉正家!!」

 

 そう叫ぶと、甲鉄で出来た狼が此方に飛び込んできた。

 

『我士道塞グヲ不許 我武道阻ムヲ不許 右条々相ヒ背候者ハ切捨御免』

 

 そう誓約の口上を述べると、鋭そうな印象を与える武者になった。

 

「ぶっ殺してやるぜええええええええええええええええええええええ!!」

 

 芹澤さんはそう叫ぶと、オータムの所へと合当理を噴かして突っ込んでいった。

その声を皮切りに、俺達の戦いも始まった。


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