装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回は、いつもとちょっと違った話になりますよ。


修学旅行 その4

 さっそく俺達は京都の町を廻ることにした。

最初に五重塔に行き、次に寺社仏閣を廻っていく。その際にクラスメイトと会っては冷やかされ、恥ずかしがりつつも写真を撮っていった。

そのたびに真耶さんは感慨深い光景に感動していた。俺も歴史を感じる建物を見ては、感嘆の声を上げていた。最近はどこも近代化が進んでいく中、こうした古い建物は中々お目に掛かることがないだけに、その感動も一入だ。

 扇子の工房で扇子の絵を描けると聞いて行ってみたら、真耶さんは実に楽しそうに扇子に絵を描いていた。俺も何かを描こうと思ったのだが、絵心の無い俺には何を描いて良いのやら。

結局、生徒会長の真似をして、『成敗』などとふざけてしまった。たぶんこの先使うことはないだろうが・・・・・・

 

「一夏君、見て下さい! ほら」

 

 そう笑顔で真耶さんは言い、俺の目の前に扇子を差し出す。

そこには、『正義』の二文字がでかでかと描かれていた。

 

「まさに一夏君って感じですよね~」

 

 笑顔でそう言う真耶さんは実に可愛らしく頬が緩むが、同時に少し気恥ずかしくも感じる。

まさか描いている事が似ているようなことだったということも、まるで以心伝心のようで嬉しいのだが、やはり恥ずかしくも感じる。

 その後は伏見稲荷大社に行った。

千本鳥居を真耶さんは子供のように凄い、と感動しながら通っていったのだが、真耶さんは途中で疲れてしまった。なので俺が抱きかかえると、真っ赤になってしまった。本当は背負った方が良いのだが、流石に着物を着ている人は背負い辛い。なので俗に言うお姫様だっこをさせてもらった。

 

「はぅ~~~~ッ! 一夏君、恥ずかしいですよ・・・・・・・・・」

 

 真っ赤になりながらそう反応する真耶さんは、凄く恥ずかしそうだが、どこか嬉しそうだ。

周りにいた観光客も真っ赤になって此方を見ていたが、そこは自身の恥より恋人優先。そのまま気にしないようにしながら山頂へと向かった。

 その後は奥社奉拝所まで行き、おもかる石に願い事をして灯籠の石を持ち上げた。

予想より軽いと感じた場合は願いが叶うらしく、俺はあらかじめ重めに予想して持ち上げたら・・・・・・予想以上の軽さに石を上に投げそうになってしまい、危うく屋根を破壊しかけた。

それを見た真耶さんは驚きつつも笑っていた。

 

「もう、一夏君たら。もう少し気を付けて下さいね」

 

 その笑顔を見られたのなら、こういうのもたまにはいいかもしれないと思ったが、気を付けないといけないと思った。武者として鍛えられた剛力は、予想以上に強くなっているようだ。

気を付けないと思わないところで何かを壊すかも知れない。

逆に真耶さんはまったく持ち上がらないらしく、う~~んッ、と唸っていた。その様子も可愛いものだから、少し笑ってしまう。

 

「酷いですよ~、一夏君~」

 

 そう涙目で俺を可愛らしく睨む真耶さんがまた可愛い。

俺は真耶さんの後ろに回ると、抱きしめるように腕を回し、石に手をかける。

 

「あっ・・・・・・」

 

 俺の行動に、そう声を漏らす真耶さん。そのまま俺の方に顔を向けるが、俺は笑顔で返すと赤くなりつつも嬉しそうに微笑み返してくれた。

 

「本当はいけないかも知れませんが、これぐらいなら見逃してくれても罰は当たらないでしょう。そこまでここの神様も狭量ではないと思いますしね。これなら軽いでしょう。ね」

 

 真耶さんにそう答え、俺は真耶さんと一緒に石を持ち上げた。

さっきまで苦戦していた真耶さんは、それまで大変だったとは思えないほどに持ち上がったことにとても喜んでくれた。

 そのまま石を戻そうとしたところで、急に声がかけられた。

 

「あぁっ!! 織斑君が山ちゃんとこんな所でもイチャついてる~」

「ほんとだ~」

「もう、熱々だね~、ヒューヒュー」

 

 ビクッとして持っていた石を危うく放り投げそうになる。

さっきからクラスメイトに会っては冷やかされていたが、ここまでくっついているところを見られたのは初めての事だけに、驚いてしまった。

真耶さんは俺の腕の中で真っ赤になり、ギギ、と音が鳴りそうな感じに首を後ろに向ける。

 俺も似たような感じに後ろを向くと、クラスメイトの布仏さん達仲良し三人組が面白そうな物を見る目で俺達を見ていた。

 それが分かった瞬間、ボンッ、と爆発するかのように真っ赤になる真耶さん。

俺は見た瞬間に固まってしまっていた。

 

「いやぁ~、やっぱり修学旅行だから色々テンションが上がると思ってたけどね~」

「ここまで行ってるとは思わなかったな~。憧れるなぁ~、ああいうの」

「おりむーは大胆だね~」

 

 そう三人は口々に言う。

それを聞いて真耶さんは更に慌てていた。

 

「あわわわわわ! そ、その、あまり皆さんには言わないで下さいね!」

 

 俺はその様子も可愛いと思いながらも、三人の方を向くと、

 

「わかってるよ、山ちゃん」

「私達だってそこまで野暮じゃないしね~」

「おりむ~怒らせると怖いし~」

 

 と三人は笑顔で答えた。

それが余計に気を遣われてることがわかり、真耶さんがさらに真っ赤になっていた。

そのまま三人は、「まだ行くところがあるから~」と言って素早く去って行ってしまった。

 そのせいで少し気まずくなるが、またお互いに笑いながらその場を後にした。

その後も観光は続いていき、清水寺にも行った。

縁結びの効果もあるところだが、気にせずに音羽の滝の恋愛の水を一緒に飲んだり、一緒に縁結びの石に水をかけたりした。恋人がいるのにそれはどうなのか? と思うが、楽しんだ者勝ちということで神様には見逃して貰いたい。

 お昼時には京都名物である鰊蕎麦を一緒に食べた。

関東とは違い、白醤油のそばつゆで、出汁が濃いが薄味。そして乗っているニシンの甘辛い身がまた絶妙に合っている。

 真耶さんと二人でこれを美味しく頂いたが、真耶さんは、はい、あーんが出来なかった事を少し残念がっていた。

 そして午後は金閣寺や銀閣寺を見に行ったりした。

本当に金色をした金閣寺には驚いたものだ。逆に銀閣寺はあまり銀色ではなかったが。

 気がつけばそろそろ日が暮れそうになっていた。

辺りは夕焼けに包まれている。真耶さんは借りていた着物を返し、今は私服に戻っている。

 もう旅館に戻らなくてはならない時間になり、二人で手を絡め合い、くっつきながら移動していく。結構歩いたため、真耶さんは疲れていた。

 

「結構歩きましたね~」

「そうですね~。歩くの辛いですか」

「いえ、そんなことはないですよ。こうして一夏君が一緒に歩いてくれますから」

 

 そうとろけそうな笑顔を俺に向ける真耶さん。

その笑顔に俺の胸が高鳴った。

 

「真耶さん・・・・・・」

 

 そのまま真耶さんをぎゅ、と抱きしめる。

 

「あ・・・・・・ふふふ、どうしたんですか、一夏君」

 

 俺の行動に少し驚いたが、そのまま笑いながら俺を抱きしめ返してくれた。

 

「今日の真耶さんは可愛すぎて、ついつい我慢が効かなくなってしまいます」

 

そのまま真耶さんの唇に吸い寄せられる。真耶さんもそのまま俺のに応じようと目を瞑り、唇を差し出す。それがまた嬉しくて、そのまま唇を啄みたくなる・・・・・・のだが・・・・・・

 俺はそのまま真耶さんを庇うように抱きしめた。

 

「一夏君?」

 

 

潤んだ瞳で此方を覗く真耶さんにドキドキしつつも、俺は背後の電信柱辺りを睨み付ける。

 

「人の恋路を隠れ見ているのは失礼ではないか。趣味ならば悪趣味極まりない。姿を現せい!!」

 

 俺が誰も居ないところにそう叫ぶと、その電信柱の所から人影が出てきた。

 

「あ、あの、その・・・」

 

 出てきたのは二十くらいの男性だった。

さわやかな感じの青年で、短めの髪が印象的だ。一見細そうな体だが、中々に鍛えられている。

そして・・・・・・独特的な気配。この気配は実に身近に感じている気配だ。

この気配は・・・・・・武者だ。

やはりと言うべきか、武者と死合う運命にあるらしい。その運命に半ば呆れつつ、俺は目の前の男に警戒し始める。

 

「あなたは・・・・・・武者ですね」

「な、何で分かって!?」

「大体気配でわかります。それで・・・・・・死合いでしょうか?」

 

 そう問いかけながら殺気を当てていく。

普通ならこういう殺気には殺気で返すものが武者というものだ。真田さんも伊達さんも同じように返すだろう。

 しかし・・・・・・

 

「い、いえ、別に自分は死合いがしたいとか、そういうのではないです!!」

 

 男は慌てながら俺の言葉を全力で否定していた。

殺気もまったく感じられないことに、俺は少し気が抜けてしまう。

 

「確かに自分は真打劔冑を有する武者ですが、あなたと戦えるような腕前じゃないです! そんなこと、とても恐れ多くてできませんよ! 自分は人と戦えるほどには強くありません」

 

 どうやら武者なのは確かなようだが、死合いをしに来たのではないらしい。

先程から思ったが、この人は武者としては少しおかしい。

何というか、少しオドオドしている。俺が今まで知っている武者の中にはいない感じの人だ。

体も鍛えられてはいるが、真田さんや伊達さん程に鍛えられてはいない。何よりも、自分を卑下にし過ぎなきらいがある。謙虚な心は美しいが、行き過ぎて卑下にし過ぎるのはあまりよくない。

 

「一夏君・・・・・・」

 

 俺の後ろで真耶さんが困惑した声をかける。

この事態にどうしたら良いのか分からないのだろう。安心させるために手をぎゅっ、と握ってあげた。

 俺は警戒を少し解き、殺気を薄めると話しかけた。

 

「いきなり喧嘩をふっかけるような真似をしてすみません。それでは失礼ですが、自分にどのようなご用でしょうか」

 

 そう謝罪をすると、男性は少し落ち着いたらしく、表情を緩めた。

 

「いえ、こちらこそすみませんでした。その・・・恋人さんとずっとくっついているようですから、声をかけ辛くて・・・・・・」

 

 そう気まずげに男性は言う。

その言葉を聞いて真耶さんが真っ赤になってしまっていた。

俺もその言葉を聞いて少し気まずくなる。

 

「いや、それは・・・失礼をした、申し訳無い。では自分にどのような用件を?」

 

 そう聞くと、先程のオドオドした様子から一転して、真面目な顔になった。

 

「はい。自分は芹澤 鴨助と言います。実は・・・・・・武者ではなく、福寿荘の料理人としてのあなたと、勝負させてもらえませんか!」

 

「「え?」」

 

 そう言われ、俺と真耶さんは同時に声を上げてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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