しかし、甘さの純度は濃厚です(笑)
あっという間に修学旅行当日。
俺達は今、京都行きのバスに乗っていた。
臨海学校と同じ貸し切りバスでの移動であり、バスの中ではクラスメイト達で賑わっていた。
行きはバスでの移動で、帰りは新幹線を使って帰るらしく、まさに修学旅行といった感じだ。
今回はIS装備の試験も無いので、本当にただの旅行である。そのため皆のテンションも臨海学校以上に高い。
そんな中、俺は最前席に座っていた。
席決めの時にそう決まったのだが、理由が理由なだけに気まずさが凄まじい。
「お前と山田先生を別々の席に座らせようとすると、山田先生が泣きそうな顔をするんだ。私はあの顔が苦手でな・・・・・・仕方ないから一緒の席だ。それに、後ろの席なんかにすると、その・・・・・・皆の精神衛生上あまり良くないので前の席にした」
と千冬姉が苦い顔で言って来たことは今でも良く覚えている。
その時は真耶さんも俺と同じように気まずくなっていた。
しかし、今はと言うと・・・・・・
「一夏君、このお菓子も美味しいですよ。はい、あ~ん」
太陽みたいに明るいやわらかな笑顔で俺の隣に座っていた。
とてもこの旅行が楽しみらしく、朝に会ったときからこんな感じだ。真耶さんが嬉しいと俺も嬉しく、この旅行を楽しみにしていた。前に危惧していたことは大丈夫なのかと言われれば拭いきれないが、学校行事とは言え、初めての『恋人』との旅行。心配よりもそちらの方が勝っているのであまり気にならない。
まぁ、来たら来たらで考えるしかない。今するべきは修学旅行を楽しむことだ。
そう考えながら真耶さんを見つめると、お菓子を摘まんで俺に差し出してきた。
その愛くるしい姿に頬が緩むが、俺はそれを表に出さないように気を付けながら言う。
「ま、真耶さん、バス内ですし、あまりこういうのは・・・・・・」
流石にこんな皆が近い所でこういうことは不味いのではないだろうか、と思いそう答えたのだが・・・・・・
「え~~~、そんなこと言わずに」
そう少し不満にふくれつつも少し悲しそうに真耶さんが言う。そんな顔をされては、俺が応じないわけがない。そのことを知っているのだろう、口の端が少し笑っていた。もう、悪い人だなぁ。
「わかりました・・・あ~ん」
「はい! あ~ん」
とろけそうな笑顔で真耶さんが俺の口にお菓子を入れる。たぶんチョコなのだろうが、それ以上甘く感じた。しかし、不快では無い。
「美味しいですね、これ」
「ですよね~」
そう答えると、真耶さんは実に嬉しそうだ。何だか此方も無性に笑顔になってしまう。
すると真耶さんは、今度はそのお菓子が入っている袋を渡してきた。それが何をしてもらいたいのかなど、もう普通に分かっている。
それを受け取ると一つ摘まみ、真耶さんに差し出す。
「真耶さん、はい、あーん」
「あ、あ~ん」
実に嬉しそうに、しかし恥ずかしがりながらも真耶さんは口を控えめに開ける。
その様子が可愛いものだから、俺は内心かなり喜んでしまう。
そのまま差し出したお菓子をパクッ、と食べた・・・・・・俺の指も一緒に。
「あっ!?」
「んふふ~」
そのまま指を少し舐めると、やっちゃいました、と言わんばかりな笑顔を俺に向ける。
「もう、悪い人ですね」
「だって・・・何だか一夏君の指が美味しそうに見えたんですよ~。えへへへ」
普通なら叱るべきことなのだろうが、俺はこの人にはとことん甘いため何だか許してまう。その歳からは考えられない幼い行動も、恋人の俺からすればドキドキして仕方ない。そして、それをもっと見てみたいと思ってしまい、またお菓子を摘まみ差し出す。
「はい、あーん」
「もう、一夏君も悪い人ですね。私が一夏君にそうされたら断れないことを知ってるんですから。あ~ん」
そう少し文句を言いつつも(まったく文句ではない)真耶さんは嬉しそうな笑顔でまた口を開け、お菓子を食べた。
こんな感じで俺達の修学旅行は始まった。確かに気になることもあるが、それよりも恋人と過ごすこの旅行を楽しみたいと、心から思った。
千冬が懸念した通り、バス内は異様な空気に包まれていた。
皆まだ若い十代。旅行にはしゃぐのは良い。しかし、あの二人を最前列にしたのは正解だった。
だが、それでも千冬の予想を遙かに上回ったようだ。
「あれ? なんかお菓子が美味しくない?」
「て言うか・・・・・・胸焼けを起こしたみたいな感じがして気持ち悪い気が・・・・・・」
「もしかして、車酔いかなぁ~」
と、あの二人の席に近い生徒達が不調を訴え始めてきたのだ。
生徒達は何故そうなっているのか、まったく分からないようだが、千冬には分かる。
現に千冬の顔は真っ青になっているのだから。
「お客さん、大丈夫ですか?」
「いえ、大丈夫です」
運転手にそう心配されたが、千冬は表に出すまいと何とか耐える。
しかし、運転手には何故千冬がこうなっているのかはお見通しのようだ。
「これ、ブラックコーヒーです。よかったらどうぞ」
運転手は千冬に向かって缶コーヒーを差し出してきた。
その気遣いが凄く嬉しく感じ、
「お心遣い、ありがとうございます・・・・・・」
そう千冬は運転手に答えた。
それ以外に感謝の意を表す言葉を、千冬は言えなかった。