オーバーキルという言葉がよくわかるかもしれません。
「うぉおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「しゃぁあああああああああああアアアアアアアアアアアッ!!」
村正伝の突きに此方は剛力を込めた斬撃を持って迎え撃つ。
向こうの突きの一突き一突きがまさに必殺。試合ということなどお構いなしに此方の急所を狙ってきた。しかも峰打ちではない。
しかし、此方とてそれは同じこと。
刃は立てた状態で村正伝へと斬りかかる。勿論、手加減など一切無し。本気で殺しにかかる。
試合という面目だが、そこにあるのは最早『死合い』。
俺と真田さんが放つ殺気と気迫に会場にいる観客は息を呑んでいた。
先程まで行われていたISの試合とは全く違うものに、皆目が離せなくなっていた。
師匠はそれが当たり前だと判断し、何も言わずに試合を見守っていた。
「前より更に腕を上げたんじゃないか、織斑君!」
「そう言う真田さんだって、突きの重さが前よりもさらに重くなってますよ!」
村正伝から興奮気味に喜んでいる金打声が此方にかけられた。
俺も自身の中で滾る興奮を自覚しながらそう答えた。事実、前より真田さんの突きは重くなっていた。
更にアリーナに連続して響き渡る金属同士による高い激突音。
俺の斬馬刀と真田さんの槍が何合もの剣戟を繰り広げていた。
「ああぁああああああああああああ!!」
「かぁっ!!」
裂帛の気合いを込めた上段からの一撃を村正伝はしのぎ、逆襲に三連突きを此方に向かって放つ。
「しゃぁッ!!」
「ふんっ!!」
三連突きを剛力で無理矢理はじき飛ばした。そのまま攻撃に移る。
『吉野御流合戦礼法 木霊打ちッ!!』
俺は右上段からの斬撃を放ち、村正伝がそれに反応して迎撃。弾かれたことを利用してそのまま木霊のごとく、左上段から振りかぶる。
「やるな! だがっ!!」
真田さんが俺の攻撃を察して弾いた槍の穂先を反転、石突きでの突きを持って俺の攻撃を突き崩しにかかった。
「っ!? 流石です!!」
俺は咄嗟に攻撃する方向を変更し、石突きの突きをはじき返す。
そして双方とも数メートル後ろに下がる。
そしてどちらもほぼ同時に雄叫びを上げた。
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオ!!」
「がぁあああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアア!!」
叫びながら同時に攻撃に移り、技を放つ。
『六冥銭大火輪舞!!』
『吉野御流合戦礼法、飛蝙!!』
村正伝から放たれた火炎放射に、俺の放った小太刀が吸い込まれるように飛び迎え撃った。
結果、火炎放射は技の威力と共に消し飛び、俺の小太刀は熱で気圧が変わったことにより目標を逸れてアリーナの壁に突き刺さっていた。
「いい調子だ、さらに行こうかぁ!!」
「はいっ!!」
俺は気迫の籠もった返事を返し、双輪懸を仕掛けようとしたのだが・・・・・・
アリーナに俺達が放っていた轟音とは違う轟音が上空から鳴り響き、アリーナのシールドバリアーが破壊された。
「「!?」」
いきなりの事態に俺と村正伝は試合をやめる。
アリーナにいた観客は鳴り響く緊急事態のアラートに慌てながらも避難をさせられていた。
避難を手伝っている真耶さんの姿を確認して無事なことを確認。少しホっとした。
破壊されたシールドバリアーから五つの人型と一緒に何かが入って来た。
「あっはっはっは、やぁやぁいっくん、おっひさ~。みんなのアイドル、束さんだよ~」
五つの人型と共にアリーナに入ってきたのは、箒の姉にしてISの産みの親である篠ノ之 束さんだった。久々にその姿を見たが、昔とまったく変わっていない。
そして入って来た五つの人型を見ると、所々違い色も変わっているが、前に戦った無人機にそっくりだった。その無人機のISを見て前に襲撃してきた犯人が誰なのかを悟る。
「どういうことですか、束さん・・・・・・」
別に前のことを攻める気は無い・・・・・・が、武者同士の死合いは真剣勝負。横槍を入れられた俺は、真田さんに向けていた以上の殺気を束さんへと向ける。
「あはははは、まぁまぁ、そこまで怒んないでよ~」
束さんはいつも通りにニコニコと笑いながら言う。
しかし、本人の内心はまったく笑ってなどいなかった。
(な、何、この殺気!? いっくんなんでこんなに怒ってるの!? 怖くて膝が震えて来ちゃったよ・・・・・・・・・怖いっ)
俺は戦闘態勢のまま、束さんに問いかける。
「何故・・・・・・いきなりこんなことを?」
「それはね~、いっくんを助けるためだよ」
「助ける?」
いきなり助けるなどと言われても、何が何やら分からない。
俺が理解しかねていることを気にせず束さんは話し続ける。
「いっくん、駄目だよ、そんな訳わかんない物なんて使ってちゃあ。そんなもの、いっくんにはふさわしくない。このままじゃいっくん、死んじゃうかもしれないんだよ。そんな危ないものなんて捨てて、私がいっくんのためにISを作ってあげるよ。そうすればそんな変なの必要無いよね。だから・・・私がそんなの、壊してあげる。それでいっくんを助けてあげるんだ~」
束さんはニコニコと笑いつつも、不機嫌そうにそう話す。『変なもの』や『訳が分からないもの』というのは、どうやら正宗のことを指しているようだ。つまりは劔冑そのもののこと。
「織斑君、あの人は一体・・・・・・」
「一夏、アレは一体何なんだ?」
真田さんが俺にそう聞いてきた。いつの間にか師匠も俺の近くに来ていた。
「あれはISの産みの親である篠ノ之 束博士です。俺は小さい頃からお世話になっていて・・・・・・どうも俺が正宗を使い武者をしていることが気にくわないようです。それで無人機のISを率いて正宗を破壊しに来たようです」
大体束さんが言いたいことをまとめるとこんな感じだろうか。
つまりは・・・・・・俺に、この正宗に戦いを挑みに来たということなのだろう。
それはいい。しかし・・・・・・人の死合いに横槍を入れてきたことは関心しない。
「無人機? つまり彼女の後ろで控えている五機のISに人は乗っていないのか」
「はい、前と同じならそういうことになります」
師匠は俺にそう聞くと、ふむ、と何か考え始めた。
「いかに偉い人物だろうと、俺達の死合いに横槍を入れたのは許せん! 俺も殺らせてもらう」
真田さんは殺気を全開にして束さん達を睨み付ける。もう戦う気のようだ。
「ふ~ん、別にいっくん以外はいいんだけどね~。まぁ、別にいっか~、劔冑なんて目障りなんだから一緒に壊しちゃお~」
束さんはどうやら真田さんが戦うことも気にしないようだ。
俺は真田さんが戦うに当たって、アリーナの全体を見回す。もしここで真田さんが本気で戦ったら、只では済まない。
観客席はもぬけのからで誰も居ない。アリーナは外部からモニターされている以外、誰もいないようだ。そのことに安心する。
すると・・・・・・
「無人機ならば斬っても問題はないな。久々に刀を振るわせてもらうとするか」
師匠がそうこぼした。
それを聞いて・・・・・・冷や汗が止まらなくなる俺。
今、何とおっしゃられました? 刀を振るう。無人機なら斬っても問題ない? 師匠が?
それは・・・・・・非常に不味い。
師匠が斬ると言った。それはつまり、本気で斬るということ。それは俺が危惧している以上に不味いことになる。
俺は止めようとしようとしたが、師匠は既に動き始めていた。
「来い、村正」
『ええ、御堂』
師匠の呼びかけに応じて村正さんが本来の姿である蜘蛛の姿で師匠の前に飛び出してきた。
そして師匠は装甲の構えを取って誓約の口上を口にする。
『鬼に逢うては鬼を斬る 仏に逢うては仏を斬る ツルギの理ここに在り』
そしてその場に顕現する伝説の妖刀。
「では真田さんは一機をお願いします。一夏はもう一機を頼む。俺は残り三機をやる」
「それはずるいんじゃないですか? 二機二機でどうですか」
師匠は真田さんに向かってそう話しかけ、真田さんがそう軽口を言う。
二人からは真剣な殺気を感じ、俺は更に冷や汗があふれ出していた。
「別にどっちでもいいよ~。そんな訳わかんないのに束さんのISが負けるわけないもん。いっちゃえ~」
束さんはそんな俺達の様子を見て呆れ返ったのか、間延びした声で号令をかける。すると後ろに控えていた五機が飛び出し、俺達に襲いかかってきた。
「一夏、どれだけ強くなったか見せて見ろ。死力を尽くせ」
「あぁ~もう、わかりました!!」
師匠はもうやる気満々なのか、そう俺に言って来た。もはや止められないと判断して、俺は少しやけになりながらそう叫んだ。
そして向かってきた一機に向かって合当理を噴かしながら突進する。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
俺の斬撃に敵の無人機も左腕のブレードで対応する。
確かに前よりも格段に性能は上がっているのだろう。しかし・・・・・・・・・
「その程度かぁあああああああああああああああああああああああ!!」
鍔迫り合いのまま合当理を更に噴かし、強引に押し込む。
そのまま無人機をアリーナの壁に叩き付け、さらに剛力をもってごり押しする。
ひび割れ砕けたアリーナの壁に、無人機がさらにめり込み火花を散らす。
そのまま他の方に目を向けると、真田さんの『躑躅繚乱』によって無人機が複数の骸骨に齧り付かれていた。その高熱に張っていたエネルギーシールドが過負荷を負って真っ赤になっていた。
師匠の方は・・・・・・一方的な展開になっていた。
無人機は師匠の辰気加速によって手も足もでないままに蹂躙されていた。もはや無双である。
「え・・・・・・・・・」
さすがにこの展開には束さんも想像してはいなかったらしく、ポカンとしてしまった。
束としては、映像を元にデータを算出して余裕で劔冑を破壊できるように制作した。データで調べた限り、どうやったって劔冑は勝てないはずだった。
それが今はまったく逆の状態になっている。
無人ISは劔冑達によって蹂躙されているのだ。想定外も想定外であり、束の理解は追いつかなくなっていた。
これに関して、束は一つだけ見逃していた。
ISと違い、劔冑は武術で戦うものだと。つまり、ISと違い劔冑の強さは成長するのだということを。
「これで決める。村正、蒐窮一刀(おわりのたち)を放つぞ」
『諒解』
師匠がそう言うと、真田さんも終わらせるようだ。
「ISがどれくらい強いのか、まぁまぁ楽しませて貰ったよ。だけどこの程度か・・・これなら織斑君との死合いのほうが余程心躍る!! これで終わりだ」
二人に負けないよう俺も全力で答えることにしよう。
「正宗、俺達も恥ずかしくないよう全力でいくぞ!! 俺の体を殆ど持って行け!!」
『諒解』
俺はそのまま更に壁にめり込ませた敵に追撃をかけ距離を離すと、敵を見据えて叫ぶ。
『隠剣・六本骨爪ッ!!』
激痛に息が出来なくなりそうになるのを歯を食いしばって堪え、声にならない声をかみ殺す。
甲鉄化した肋骨が肉体から飛び出し、壁にめり込んでいる敵を捕らえ刺し締め上げる。
更に追加で、
『割腹・投擲腸管!』
甲鉄化した腸が敵に絡まり、更に敵を締め上げていく。
敵は拘束を解こうと藻掻くが、余計にしまり、シールドバリアーが火花を散らす。
斬馬刀を握る腕に力を込め、熱量を込めていく。次第に熱を放ち始め、手の肉を焼き始めた。
激痛という激痛が手に襲いかかるのを、我慢しながら吠える。
『朧・焦屍剣ッ!!』
灼熱化した刃を敵の胸に突き刺した。あまりの威力にシールドを貫通してズブズブと刃が刺さっていく。
「これで終わりだ! 右腕全部持って行け!!」
『諒解ッ!!』
正宗にそう言い終えると同時に右腕が食い尽くされる激痛に襲われる。
痛みに声にならない声を発しながら右腕を向けて放つ。
『飛蛾鉄砲・弧炎錫ッッッッッッッッッッッ!!』
右腕から吐き出された砲弾がゆっくりと敵へと飛んでいき、そして・・・・・・空を染めるくらいの大爆発を起こした。
そして真田さんの方も技を練り終わったらしく、放った。
『熾盛光閃翼ッ!!』
ビルほどの巨大な炎の龍がアリーナと敵ISごと丸々と呑み込んだ。
師匠はと言うと、肩に装着されている野太刀に手をかけ、紫電を発しながらその技を放った。
『電磁抜刀、穿』
その瞬間、世界が終わるかのような衝撃をアリーナを襲った。放たれた電磁抜刀は敵IS三機を呑み込んで、アリーナの三分の一が消し飛んだ。
真田さんが放った龍により、アリーナの三分の一が焼き尽くされ、消失した。
俺の放った正宗七機巧によってアリーナが壁ごと消し飛び、三分の一が爆破された。
敵IS五機は見る影も無く・・・というか跡形も無く消えてしまった。
結果・・・・・・第三アリーナは全壊し、跡形もない状態になってしまった。
何とか無事だった束さんは、そのあまりにも凄すぎる破壊の光景に何も言えない状態になってしまい、ペタン、と膝を突いて喪心してしまっていた。