あれからあっという間に週末になり、IS学園では全学年専用機持ち対抗タッグマッチが行われていた。
学園行事とは言え企業の人間や政府の高官など、多くの観客が来ていた。しかし、やけに人数が多いい。どうもISのことよりも真打劔冑の試合に興味があるようだ。さっきから俺が人目に付くところを移動するたびに、興味津々な視線が降りかかってきた。
その視線に辟易する俺。
しかし、そう疲れてもいられない。俺はそう思いながら迎賓用の控え室へと向かっていた。
俺の試合、つまり真打劔冑同士の試合は午後からであり、午前中は空いている。なのでまず俺がすべきことは、師匠と真田さんへの挨拶である。
俺はさっそく控え室に着くと、ノックを一回する。
「どうぞ」
かけられた声に従ってドアを開けると、そこにはスーツ姿の真田さんが座っていた。
「やぁ、織斑君。元気そうだね」
「そちらもお変わりないようで」
そう挨拶を交わす俺達。
すると彼はさっそくスーツの襟元を緩める。
「いやぁ~、やっぱスーツは苦手だね。苦手なんだよ、こういう恰好」
そう苦笑しながら言う真田さんに、俺も苦笑で返す。
まぁ、真田さんには失礼ながらあまりスーツが似合っていない。そう本人も分かっているのだろう。
真田さんは少し気を抜くと、俺の方に歩いてくる。
「今日の試合は楽しみにしているよ。全力で殺ろう」
「そうですね。こちらも全力でお相手させていただきます」
なんだろうか? さっき字がおかしかった気がする。
「そういえば審判役は確か、君のお師匠さんなんだろ。聞いた話だと、あの村正の仕手だって聞いてたけど」
「はい、そうですよ」
「後でちゃんと挨拶しないとな~・・・・・・・・・どれぐらい強いの?」
そう俺に聞く真田さんの目は、興味津々だった。
俺の師匠にして『あの村正』の仕手ということも気になっているのだろう。何せ真田さんが使う村正伝の本筋だ。気にならない方がおかしいだろう。
俺は感じたままに言うことにした。
「強い・・・・・・とても強いですよ。自分が未だに勝てるとは思えないくらいに強いです」
「へぇ~、そうなんだ。会えるのが楽しみだよ」
そう言う真田さんからは、闘志が燃え上がっていた。
会って早々仕掛けないか心配になる。
俺はその後真田さんに別れを言い、部屋を後にして今度は師匠に挨拶をしに向かった。
師匠の控え室に行くと、師匠はスーツ姿で椅子に座っており、村正さんが甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
「夏ぶりだな、一夏」
「久しぶりね、一夏」
「お久しぶりです、師匠、村正さん」
師匠はいつもと変わらない様子で俺に声をかけてくれた。
村正さんもいつもと同じ恰好をしていた。
その後たわいない会話をしていく俺と師匠。やはりと言うべきか、まだ恋人とかはいないらしい。
罪作りな人だと常々思っていたが、まさかここまでとは・・・・・・
そういうときの話をしていると、村正さんが少し不機嫌そうにふくれていた。
「ところで一夏~、あの娘とはどうなってるの?」
村正さんが俺の方にニヤニヤと笑いながら話を振ってきた。
無論何の話なのかは、その表情を見れば嫌でも分かった。
「いや、それは、その~~~」
「あ、そうなんだ。へぇ~~~~」
恥ずかしさから赤くなっていく頬を自覚していく。
そんな俺を見て、村正さんは何かを悟ったらしい。顔が更ににやけていた。
「そうなんだ~、あの一夏がね~・・・・・・感慨深いわ。それに比べて家の御堂は・・・」
「何か用か、村正?」
村正さんが期待するような視線を師匠に向けるが、師匠は何のことかわからない様子だった。
それを見て、師匠に呆れ返りながらため息を吐いていた。
俺は村正さんが気の毒で仕方ない。
「あんないい娘、滅多にいないんだから大切にしなさいね」
村正さんがそう笑いながら言ってくる。少しだけ声色には真面目さが入っていた。
だからこそ、俺も真面目に答える。
「ええ、一生大切にしますよ」
「あら、そこまで言ったつもりはなかったんだけど。ごちそうさま」
「うっ!?」
そうにやつきながら言われてしまい、俺はさらに真っ赤になる。師匠は未だによく分かっていないようだ。
「では、一夏。今日の試合は失礼のないよう死力を尽くして頑張れ」
「はい、恥ずかしくないよう、礼を尽くして試合に臨みます」
「うむ」
そう師匠に檄を飛ばされ、俺は控え室を後にした。
師匠と真田さんへの挨拶を終えて俺はと言うと、第三アリーナの観客席に座っていた。
「はい、一夏君。どうぞ」
隣には真耶さんが嬉しそうに笑顔を浮かべながら俺にバケットを差し出していた。
中には色とりどりの具が入ったサンドイッチが一杯入っている。
俺の試合が午後からなので、早めに昼食をとろうということに。そのため一緒に食堂に行こうとした(一緒に昼食をとることは最早当たり前)のだが、真耶さんは俺の所に来たときにバケットを持ってきた。それで一緒にアリーナで食べようということになったのだ。
「うわぁ、ありがとうございます」
美味しそうなサンドイッチに感嘆の声が自然と上がっていた。
そんな俺の反応に真耶さんも嬉しいらしく、より笑顔になった。
「そこまで喜んでくれるなんて・・・・・・作ってきた甲斐があります」
「本当にありがとうございます、これで試合も頑張れますね。だって真耶さんが俺のために作ってくれたものだから」
「もう・・・・・・一夏君たら」
そう答えると真耶さんは真っ赤になって恥ずかしがっていたが、嬉しいようだ。
さっそく食べることに。
「そう言えばお仕事のほうはいいんですか、『山田先生』」
そうわざとらしく聞くと、真耶さんは笑いながら答えた。
「今日の私の仕事は一夏君の試合のデータを取ることですよ。だから・・・一夏君と一緒にいても問題ありません」
そう言いながら俺に体を預けてきた。
俺も嬉しくなって肩に手をかけて抱きしめる。
「そうですか・・・ふふふ・・・・・・」
「なんですか?」
「何でも無いですよ」
そう答えて真耶さんを抱きしめる手に力を込めると、真耶さんは顔を赤らめつつもくっついてきた。
「はい、一夏君、あ~ん」
さっそく、くっついたまま俺にサンドイッチを差し出す真耶さん。
「真耶さん、人に見られちゃいますよ」
気恥ずかしさからそう真耶さんに言うが、真耶さんは笑顔のままだ。
「今みんな試合に夢中ですから、見てませんよ。だから・・・・・・あ~ん」
現在第三アリーナでは試合が行われており、皆其方に夢中だった。
アリーでは二年生と三年生のコンビ、それと会長と妹さんが戦っていた。
二人とも中々に良いコンビだ。うまくコンビネーションを決めている。
最近思ったのだが、真耶さんは人が見てなければ際限なくくっついてくるような気が・・・・・・
いや、それはそれで恋人としては嬉しいのだが・・・
恋人同士ならこんなものなんだろう(勝手にそう思い込むことにした)
そう思いながら俺は差し出されたサンドイッチに口を開ける。
「あーん」
「はい」
さっそく一口囓ると、ハムの塩気とレタスのみずみずしさが口の中に広がり、そのおいしさに頬が緩む。真耶さんが作ってきてくれただけに、その美味しさも一入だ。
「とても美味しいです、真耶さん。こんな美味しいサンドイッチが食べれて、俺は幸せ者ですよ」
そう素直に感謝して礼を言うと、真耶さんは下を向いてプルプルと震え始めた。
「ど、どうかしたんですか、真耶さん?」
少し心配になって顔を窺おうと覗き込んだ瞬間・・・
「んぅ・・・ふぅ・・・ちゅ・・・・・・」
思いっきりキスされてしまった。
途端に真っ赤になる俺。
最近こんなことが多いような気が・・・・・・
そして少し長めに唇を合わせていた真耶さんは赤くなりつつも唇を離した。
「もう・・・いつも一夏君は私がドキドキするようなことばかり言うんですから。嬉しくてどうにかなっちゃいますよ」
真っ赤になりながら潤んだ瞳で見つめられては、こちらも返す言葉が無い。
何も言わずに俺も真耶さんの唇にキスを返した。
「それはこちらの台詞ですよ。いつも真耶さんは俺をドキドキさせっぱなしなんですから。今だって幸せすぎて仕方ないですよ」
「もう・・・・・・」
それ以上は何も言わずにさらにくっついてくる真耶さんを、俺はしっかりと抱きしめた。
それからしばらくして昼食を再開。
俺は真耶さん楽しく昼食を食べた。
そして俺の出番になり、俺はアリーナのピットへと向かう。
その前に真耶さんからキスをせがまれてしまったが、何とか断った。
その時真耶さんはふくれてしまったが、許して欲しい。
もしキスしてしまったら、幸せのあまり顔が締まりそうにない。
それで試合になど臨めそうにもないのだ。なので内心、かなり泣く泣く断った。
そしてピットからアリーナに出ると、既に真田さんと師匠が来ていた。
「遅れてしまい、申し訳ありません」
「いや、別にいいよ。彼女さんとの楽しい時間を過ごしてたんでしょ。そこまで俺だって野暮ではないよ」
「一夏、あまり時間を取らせるのは失礼だ。早く構えなさい」
そう師匠に言われ、俺も試合をするために心構えを整える。
真田さんは俺が昼食に行っている間に師匠に挨拶を済ませたらしい。
そして・・・真田さんに見破られていることに少し恥ずかしかったりした。
俺と真田さんはアリーナの真ん中に来て対峙する。
師匠はそれを確認すると、少し離れた。
「さて・・・恋人との楽しい時間は過ごせたかな。では・・・・・・ここからは俺との楽しい『死合い』の時間だ。楽しもうか、織斑君!!」
「はいっ! 全力で行きます!!」
そして同時に装甲の構えを取り、お互いの劔冑を呼び出す。
「来い、正宗!!」
「行くぞ、村正伝!!」
俺達の前に飛び出す藍と紅。
ほぼ同時に誓約の口上を述べる。
『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』
『不惜身命 但惜身命』
そしてアリーナに現れる二人も武者。
観客席からは現れた藍と紅の武者に歓声が湧いた。
「では・・・・・・試合開始」
師匠がそう言うと同時に俺達は動いた。
合当理に火を入れ、村正伝へと突進をする。向こうも俺に向かって槍を構えながら突進してきた。
「いくぞぉおおおおおおおおおおおおっ『蜘蛛手十文字ッ!!』」
鋭く重い連続突きを俺は迎え撃つ。
「はぁああああああああああああっ『吉野御流合戦礼法、迅雷ッ!!』」
鞘から放たれた必殺の居合いが槍に襲いかかった。
そして・・・・・・
このアリーナで聞いたどの音よりも重く激しい激突音がアリーナに響き渡った。