ようでやっぱり甘いです。
久々なので注意!!
「昨日はありがとうね、織斑君。御蔭で簪ちゃんと仲直り出来たわ」
生徒会室で仕事をしていると、会長にそう言われた。
「いえいえ、自分は何もしていませんよ。解決したのは会長のやる気があればこそ、ですよ」
「そ、そうかな」
「ええ、ですからそのやる気でこの仕事も終わらせましょう」
俺は会長に笑顔を向けながら会長のデスクを指す。
そこには昨日休んだ分の仕事が溜まっていた。それを見て顔を青ざめさせる会長。
「つ、冷たくない織斑君」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。昨日は昨日、今日は今日です。張り切って終わらせましょうか。当然サボろうなどと考えないで下さいね。サボろうものなら妹さんに嫌われてしまいますよ」
「う~、鬼~」
「人聞きが悪いですよ。生徒の長たる者、ちゃんと責務は果たしませんとね」
そう笑顔で会長に告げると、会長はさらに唸りながら俺を睨み付けてきたが、無視しよう。
そのまま俺も仕事にかかることにした。
そのまま約三十分が経過した。
その間に会話は一切無し。俺はすべきことの殆どを終わらせて後は細かい書類の処理だけになっていた。会長の方を向くと、顔をヤカンみたいに真っ赤にし、頭から蒸気をだして熱暴走を起こしたような感じになっていた。布仏先輩が気の毒そうな視線を向けながら苦笑を浮かべ、少しでも仕事が捗るように会長に紅茶を入れてあげていた。
会長は入れてもらった紅茶を一口飲むと、はぁ・・・と重いため息を吐いた。
まぁ、吐きたい気持ちも分からなくもないが、この程度の量(今回の会長の仕事量は、大体一夏の一日分くらいの仕事量)でバテていては社会に出てやってはいけない。
会長は軽く眉間を揉みほぐすと、何かを思い出したかのように話し始めた。
「そう言えば今週末に全学年専用機持ち対抗タッグマッチが行われるわよね。織斑君はどうなってるの? ちなみに私は簪ちゃんと組んで戦うのよ。あの子、ああ見えて日本の代表候補生だから結構強いのよ」
会長はそう妹さんとの仲が修復できたことを喜びながら自慢してきたが、その話を聞いて俺の顔が緊張に固まった。
その様子に会長は何かがあったことを理解した。
「何かあったの、織斑君?」
俺は言おうか悩んだ末に言うことにした。
あまりこういうことは言うべきではないのだがなぁ。
「実は・・・・・・俺はタッグマッチには出ないのですよ。それどころかISと試合をすることもないみたいです」
「どういうこと?」
「昨日、あの後政府から連絡が来まして・・・・・・タッグマッチの日に一緒にIS学園で武者との試合を行うことになってしまい・・・・・・」
「え、なんでっ!? 私はそんな話聞いてないわよ」
そう驚きながら俺に食いかかる会長。
「それが・・・・・・怒らないでもらえませんか?」
「話によるわね」
「劔冑推進派によって劔冑の性能はどんどん世界に広がってます。自衛隊では武者部隊も出来ましたしね。外国でも注目が集まって欲しがる国も多いそうです。それで、ISとの戦闘とのデータもいいですが、『正式』に真打劔冑同士の戦闘データも取りたいということで・・・」
「別に怒るようなことは無いと思うんだけど?」
会長は? を頭に浮かべていた。
確かにここまで言った範囲に怒られるような要素は無い。問題はここからなのだ。
「不思議に思いませんか? 正式にデータを取るのだって、場所はどこでもいいはずなのに」
「あ・・・・・・まさかっ!?」
会長もやっと俺が言いたいことを理解したようだ。
「要は当てつけですよ。ISの本場たるIS学園でISを圧倒する性能を持って試合を行う。『劔冑同士の戦闘はISなんか目じゃないですよ』と世界にさらに知らしめたいのでしょう。今までもデータを世界に配信して来ましたが、隠し録りだったりとイマイチ信憑性に欠けていたものが多かったので、今回は正式にデータを取ると言うことです。ISのお膝元でそういうことをするということは、ISに対して強硬姿勢を示すことになります。ぶっちゃけ喧嘩をさらに売ってるわけですね」
「ええ、何それ! 何で私に話が来てないのよ!」
「たぶんこの後呼び出されるんじゃないですか。俺の方には政府直々に来ますから」
そう会長に答えると、会長はキーッ、と唸りながら怒っていた。
「そもそも、何で学園がそんなこと許可したのよ! 学園側には何のメリットもないじゃない」
「そこまでは俺も知りませんよ。ただ学園側はこのことを許可した、と言うこと以外はわかりません」
そう答えても尚、怒りまくる会長。
誰だって自分のホームで好き勝手されて良いわけが無い。そのことに俺は申し訳無い気持ちになる。
劔冑関連の話は政府が決めて俺が行うのが流れになりつつあり、俺はあまり拒否件がない。
この話もかなり拒否したかったのだが・・・・・・
まさか総理まで出てきて頼まれては無碍にも出来なかった。
仕方なく受けることに。
俺は一回ため息を吐くと、顔が疲労で少し歪む。
それを見て、布仏先輩が不思議そうに聞いてきた。
「話は大体わかったけど、何で織斑君はそんなに辛そうなんですか?」
俺は聞いて貰いたいと思ってしまい、愚痴る。ちなみに真耶さんにはもう愚痴ってある。
「戦う相手と審判役が問題なんですよ」
「誰なんですか?」
「布仏先輩は俺の臨海学校のときの試合は見ましたか?」
「はい、確か赤くて槍を使っていましたよね」
「そうです、あの人と何ですよ。自衛隊に臨時講師をしに行った時もそうでしたが、またあの人と試合をすれば、絶対に『死合い』になりますよ。今度はどれだけやられるのやら・・・・・・全身消し炭じゃ済まないかも・・・・・・」
「あはははは・・・・・・・・・」
俺の物騒な愚痴に、布仏先輩は苦笑を浮かべるしかなかった。
「しかも、審判役が俺の師匠なんです。無様な姿は見せられませんから、緊張してしまって・・・・・・」
更に漏れる愚痴に、生徒会室には苦笑が絶えなくなっていた。
生徒会の仕事を終えて俺はアリーナに来ていた。
師匠に無様な姿は見せられないし、真田さん相手なら死合いはほぼ確実。少しでもマシになるよう鍛錬に磨きをかけていた。
正宗に斬馬刀を出してもらい、技の型をとっていく。
刀を振っていく度、自分の精神が研ぎ澄まされていくのを感じた。
次第により速く、より鋭く、より大胆に、斬馬刀を振るっていく。それでいて心は水面のように静かになっていった。
そして三時間が経過し、辺りは暗くなっていた。
俺がそれを自覚したときには全身汗だくになっており、肌寒いはずなのに体は熱いままだった。
そろそろ帰ろうと踵を返したときに、真耶さんが手を振って此方に走ってきた。
「一夏く~ん!」
そう甘い声で俺の元まで来ると、少し息を切らせていた。
「どうしたんですか、真耶さん。そんなに急いで」
「一夏君が訓練してるは知ってましたから。そろそろ終わるかな、て思いまして。どうぞ、これ差し入れです」
真耶さんは俺にそう嬉しそうに言うと、俺の目の前にタッパーを差し出した。
それを受け取り開けると、中に入っていたのはレモンの蜂蜜漬けだった。
「これは・・・」
「レモンの蜂蜜漬けですよ。運動の後の栄養補給には最適なんです。一夏君が頑張ってますから、作ってあげようと思って」
そう笑顔で言う真耶さんの気持ちがありがたい。
俺は礼を言うと、さっそく一切れつまんで口に入れた。
蜂蜜の甘さとレモンの酸味が疲れた体に心地よく染みこむ。美味い!!
「どうですか、一夏君」
「ええ、とっても美味しいです。ありがとうございます」
「そうですか~。えへへへへ」
そう喜ぶ真耶さんが可愛くて仕方なかった。
俺は周りを見渡し誰もいないことを確認すると、誰も居なかった。
「これは俺を気遣って美味しい蜂蜜漬けを作って来てくれたお礼です」
そう言って真耶さんの唇にキスをした。
いきなりのことに真っ赤になる真耶さん。しかし、少ししたらうっとりとした表情なった。
唇を離すと真耶さんは嬉しそうな笑顔を俺に向ける。
「もう、一夏君ったら・・・・・・蜂蜜レモンの味がしましたよ・・・・・・」
そう恥ずかしそうに真耶さんは言うと、俺が持っていたタッパーから一切れレモンをつまみ、口に入れる。そして・・・・・・
「んぅ・・・」
今度は俺がキスされてしまった。
さっき真耶さんが言った通り、真耶さんの唇は蜂蜜レモンの味がした。