装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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生徒会長のお願いごと その3

「んぅ~・・・・・・・・・はっ!?」

 

 生徒会室に置いてあるソファに寝かせていた妹さんが目を覚ましたようだ。

俺はさっそく妹さんの前に向かう。

 

「目が覚めたようですね」

「えっと、その・・・・・・」

 

 妹さんは自分が何故こんなことになっているのか、理解が追いつかずにいた。そんな状態では不味いと思い、さっそく俺は何をしたのかというと・・・・・・

 

「すみませんでした」

 

 困惑している妹さんに向かって土下座をしていた。

 

「えっ!? えっ? あの・・・・・・」

 

 妹さんは俺がいきなり土下座してきたことに驚いていた。何故俺が謝っているのかが分かっていないのだろう。

 俺は土下座したまま事情を説明し始めた。

 

「会長が妹さんと仲直りしたいということは事実です。ですが、仲直りは当人同士でしか出来ないこと。しかし、妹さんが会長を避けていてはいつまでも出来るものではありません。ですので、少し強引ですが妹さんには眠ってもらい連れて来させていただきました」

「っ!?」

 

 俺の説明に妹さんは気絶する前のことを思い出し顔を強張らせた。

俺は土下座の体勢のままでいる。強引に連れてきた以上、いくら事情があろうとも悪いのはこちらだ。だからこそ、相手が許すまで頭を上げるわけにはいかない。

 

「織斑君、もういいわよ、頭を上げて頂戴。無理を言ったのは私なんだから」

「姉さんっ!?」

 

 俺の後ろから会長の声が聞こえてきた。

しかし、俺は頭を上げるわけにはいかなかった。これは俺が行った悪行に対し、妹さんが裁くべきことである。言い方は悪いが、会長には関係がない。

 

「お、織斑君、頭を上げて!!」

 

 妹さんが俺に聞こえるように大きめの声でそう言う。その声には姉への恐怖が宿っていた。

 

「織斑君が私にした事が良くないってことは、織斑君が一番反省してるよ。ここまで必死に真摯に謝られたら誰だってわかるよ。だから・・・・・・頭を上げて。そうしたのも織斑君が私と姉さんとのことを思ってのことでしょう。それを咎められるのは誰もいないよ・・・・・・」

 

 妹さんがそう俺を許す。

その言葉は確かに有り難いが・・・・・・それを聞いて自身を許していては、正義を成す者足り得ない。

生涯をかけて償わなければならないのだ。

 しかし、それはそれ、これはこれである。

俺の話は一先ず置いといて、今回は会長と妹さんの話が重要だ。

俺は自身の行いを反省しつつ、頭を上げて立ち上がる。

 

「このような手段しか取れなかったこと、自分の未熟さ故に反省しております。本当に申し訳ありません」

「も、もういいから・・・・・・」

 

 妹さんは俺の謝罪に丁寧に応じてくれた。

 

「何か私の時とは態度が違いすぎない」

「会長と違い、妹さんは『人間』が出来ておりますから」

 

 会長が自分との扱いの違いに文句を言ってきたが、そう扱われたいのならそれ相応の人格と言うものを見せて貰わないと。

 俺はぶぅ垂れる会長を放置して、妹さんと向き合う。

 

「会長はこんな感じですが、仲直りをしたいのです。しかし、妹さんが避けていてはそれも出来ないというもの。仕方なく今回のような手管をとらせていただきました。会長のお話を聞いては頂けないでしょうか?」

 

 俺はできる限り優しくそう聞くが、妹さんは会長が怖いのか、顔を引くつかせていた。

 

「で、でもっ!?」

「少々失礼とは思いますが、少し踏み込ませていただきます。妹さんは何故、そんなに会長を怖がるのですか?」

 

 俺に核心を突かれ、顔に動揺が走る妹さん。

少し沈黙した後に、まるで観念したかのようにポツリポツリと話し始めた。

 

「姉さんは昔から私より凄くて・・・・・・小さいころから比べられるのが嫌だったけど、姉さんが慰めてくれて、それで何とか頑張ってこれた。でも・・・やっぱり私は姉さんのことに少なからず劣等感を持ってて・・・それでも姉さんの妹として恥ずかしくないよう頑張ってきた。でも、それでも劣等感は募っていって・・・・・・姉さんが『楯無』を就任したときにああ言われて、そうしたらもう姉さんのことが怖くなって・・・劣等感が爆発して、顔を見たら怖くて動けなくなりそうで・・・・・・それで今まで避けてきたの・・・・・・」

 

 そう語る妹さんは本当にきつそうだった。

やはりと言うべきか、予想通りだった。会長の方にジト目を向けると、会長は目を逸らしていた。

 

「具体的に何が怖いんですか?」

 

 できる限り優しく、ゆっくりと聞くと妹さんもゆっくりと話した。

 

「姉さんに見捨てられたことが怖かった。姉さんにまるで駄目だって思われることが怖かった。姉さんのように何でも出来るようにならなくちゃって思ってたけど、なれない自分に愛想を尽かされて・・・・・・怖い・・・・・・」

 

 妹さんのことはこれで大体わかった。

凄い姉がいることによるコンプレックス。そしてその姉に見捨てられたかもしれないという恐怖。

 同じ凄い姉がいる身としては身に覚えがある。俺も武者にならなければこうなっていたかもしれない。

 酷い話を言えば、武者になったらこういうのとは無縁だ。

劣等感を抱くのならば修行しろ、見捨てられそうだと思うなら必死に稽古して見返してやれ。

そんなことを気にするくらいなら修行に専念しろ。そのような邪念は人の心を脆くする。武者ならば、只己を高めることに専心せよ。

 以上が俺が聞かされた武者の心構えの一つ。

なので俺は千冬姉に劣等感は抱いていない。それすらも呑み込んで修行に専念してきた賜物だ。それに・・・・・・今は真耶さんが俺と一緒にいてくれるから、そんなものとは無縁だ。

 おっと、本題が逸れたな。

妹さんが話し終えると、周りは静かな雰囲気に満たされていた。

会長は妹さんをここまで追い詰めていたのか、と顔が暗くなっている。こんな雰囲気では仲直りもあるまい。

 俺は場の雰囲気を和ませるため、妹さんの会長へのコンプレックスを和らげるために明るめに声を出した。

 

「そこまで会長が凄いでしょうか? 自分にはとてもとてもそうは思えませんが」

「え?」

 

 俺が言い出したことに妹さんがきょとんとする。

 

「妹さんは会長が凄すぎて怖いと申しますが、自分は妹さんのほうが凄いと思いますよ」

「え、何で・・・」

「少なくても礼節が出来てます。それが出来るだけでもご立派です」

「そんなことない! そんなこと・・・誰でもできるもの・・・」

 

 そう怯えた様子で言う妹さんに俺は笑顔を向けて言う。

 

「それが出来ない人もいるんですよ。特に・・・・・・そこで突っ立てるお人とかがそうです。妹さんは会長の能力が凄いから比べられて怖いと申しますが・・・・・・自分は少なくても、そこまで差はないと思いますよ。能力がいくら高かろうが、『人』が出来ていない人物はそれだけで魅力が半減します。逆に、能力が足りなくても『人』が出来てる人は、応援したくはなっても嫌う人は誰もおりません。自分は妹さんを見て、そう感じました」

 

 俺がそう言うと、妹さんは信じられない様子で此方を窺う。

俺はもう一押しする。

 

「それに・・・・・・あなたが思っている以上に会長は出来た人ではありませんよ。仕事は遅い上にすぐにサボろうとするし、人に迷惑かけてばかり。その上今回の仲直りの件もウジウジしてばかりで歯がゆいったらありゃしない。子供みたいに意地っ張りで頑固。とても『出来る』人物ではありませんよ。はっきり言って只の子供です。だから・・・・・・あなたが負い目を感じるほどに、立派な人物ではないですよ。気軽に『おい、この駄目姉』とでも罵って下さい。そこまであなたとの差なんてありませんから」

 

 それを聞いた妹さんは少し思考が停止していた。

まさかIS学園の全校生徒から尊敬される姉が、ここまで酷く言われるとは思っていなかったのだろう。

 

「お、織斑君? さすがに言い過ぎじゃないかな~、そこまで言われる覚えはないんだけど~」

「全部事実です。否定する要素は一欠片もありませんよ」

「ぐっ!? そ、それにしたって織斑君が異常なだけでしょ、仕事とかは~」

「人間やれば出来るんです。出来ないのはまだ会長が『甘い』からですよ。ですから妹さん、そんな気にしないで下さい。この駄目会長もまだまだ未熟ですから」

「ひどっ!?」

 

 会長が抵抗気味に反論するが、すべて封殺させてもらう。言っていることが真実だけに、会長はぐぅの根も出なくなっていた。

 

「・・・・・・・・・ぷっ・・・あっははははは」

 

 俺と会長のやり取りを見て妹さんが吹き出していた。

会長はいきなりのことに目が点になる。

 

「言った通りでしょう。この人はあなたが思っている以上に立派ではないと」

「そ、そうですね・・・・・・私が抱いていたイメージより・・・よっぽど駄目な人でした」

「そ、そんな~酷いよ、簪ちゃ~ん」

 

 笑いが止まらない妹さんに、俺に突っ込まれたことでへこむ会長。

これならもう大丈夫だと判断した。

 

「では俺はこれで失礼させてもらいます。お二人はまだ積もる話もございましょう。ですので、これを機に腹を割って話してみてはいかがでしょう。これは自分からの餞別です」

 

 そう言って、生徒会室に置いてある自分の鞄からある物を取り出すと、会長達へと差し出した。

 

「えっ!? これって、お酒!?」

「未成年なんですけど・・・私達・・・」

「めでたいときにはハメを外すのも良いものですよ。今回だけですから、秘密にお願いしますね」

 

 俺はそう言って一升瓶を受け取らせると、生徒会室を出て行った。

もうあの姉妹は大丈夫だろう。これで俺がすべきことはもう無い。

 そう思いながら、寮へと帰っていった。

 

 

 

 ちなみに・・・・・・この作戦を考えて真耶さんに言ってみたときに、

 

「まだ未成年なんですからお酒なんか飲ませちゃ駄目ですよ」

 

 と怒られた。俺は武者ということもあってか例外らしい。

しかし、俺はその答えを聞いてニヤリと笑ってしまう。

 

「お酒じゃないですよ。中身はこれです」

 

 そう言って真耶さんに見せたのは

 

『子供の飲み物、大吟醸バージョン』

 

であった。

俺だって未成年の飲酒はよろしくないと思っている。女性なら尚更だ。

これ以上悪行を重ねる気は無い。

 

 

 

 


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