そして山田先生の焼き餅が・・・・・・
生徒会長から相談を受けたのは会長の妹さんのことだった。
何でも、会長と妹さんは結構前から仲違いしているらしい。理由について聞いてみたところ、どうも会長が悪いようだ。しかし、話を聞くにつれて会長だけが全部悪いわけではないらしい。
更識家は特殊な家柄だ。故に、能力を求められる。
二人の姉妹は幼い頃からどちらが上かを競わされてきた。そして会長はその能力を示し、会長に一歩及ばない程度とはいえ、妹さんも示してきた。そのたびに周りから評価され続け、負けたほうは陰口を叩かれてきた。
それが会長には我慢できなかったらしい。
会長は幼い頃から妹さんを溺愛していたらしいが、評価されるたびに傷付く妹さんを見ては、自己嫌悪をしていた。
だからこそ、会長は考えた。どうすれば妹さんが傷つかずにすむのかを。
結果、そもそも比較されなければ良いと答えに行き着いた。
あまりの実力差、あまりの格差があれば比較の対象にはなり得ない。
そう考えた会長は、『楯無』を就任する際に言ったのだ。
『あなたは無能でいなさい。私がすべてしてあげるから』
と。
結果、妹さんは確かに比較されることはなくなった・・・・・・が、
会長は妹さんから避けられ、深い溝が出来てしまったようだ。
しかし、元来溺愛している妹さんに嫌われていることに会長は耐えられなかった。
仲直りをしたかったが、時既に遅し。出来た深い溝はマリアナ海峡並になっていて、取り付く隙も無くなっていた。そのため、未だに手をこまねいている、という有様らしい。
その話を受けた俺から出た感想が・・・・・・
「会長・・・・・・前々から思っておりましたが・・・馬鹿なんじゃないですか」
不機嫌さも相まって鋭さ二倍のこの反応。
「ぐほぉ!?」
会長は女子にあるまじき声を上げてその場で膝を付いた。
「い、一夏君、あまり可哀想なことを言っちゃ駄目ですよ」
俺の不機嫌さを察してか、真耶さんが俺の頭を撫でながら窘めていた。
撫でる手の気持ち良さに、会長の話を聞いて更に酷くなった頭痛が和らぐ。
「そんなことを言われて嫌わないわけないじゃないですか。それくらい、小学生だってわかります」
「で、ですよね~」
会長は立ち上がりつつも、冷や汗を掻きながらそう返してきた。
(言われるとは思っていたけど、ここまできつくストレートに言われるとは・・・・・・しかも未だに山ちゃんに膝枕してもらってるし・・・何かむかつく)
「何か反論でも?」
「いえ、何でも」
何か文句を言いたそうな顔をしていたのでジト目でにらみ返すと、また冷や汗を掻きながら速攻で返してきた。残念ながら、何を考えているのかはお見通しなんですよ。
ただ・・・・・・起き上がろうとすると、それを察してか真耶さんが起き上がれないように押さえてくるんですよ。顔を見ると会長の話に苦笑しているから、たぶん無意識だ。
俺は仕方なく? そのまま膝枕された状態で話を続けることにした。
「つまり要約すると、会長と妹さんの仲直りを手伝ってくれと。こういうことですか」
「はい・・・身も蓋もない言い方だけど、そうです」
さて、どうしたものか。
いや、別に会長を助ける助けないのことではない。
正義を成す者として善行は当然のこと。助けを求められたのなら応じるのは当たり前だ。それが家族の仲違いを直すのなら尚更だ。この世に肉親は一つしかないのだから、大切にしなければならない。
だからこの話を受けることは当然である。
では何かと言えば、方法だ。
話を聞く限りだと、妹さんは会長とは直に会うことはない。
となれば第三者が説得するしかないのだが・・・・・・
そんなものが本当の仲直り足り得るのか?
仲違いとは当人同士の問題であり、他の人間はあくまでも補助しか出来ない。
結局解決するのは本人同士であり、第三者が解決することなど有り得ない。
となればどうするべきか・・・・・・
考えること約五分、すぐに答えは出た。
俺らしく、正々堂々と聞きに行こうではないか。
そう決めて会長に返事を返した。
「わかりました、そのお話を受けましょう」
「えぇ、本当っ!?」
「ええ、でないと会長の仕事の能率が只でさえ低いのに、更に低くなってしまいそうですからね」
少し嫌み混じりに言うが、会長は気にせずにテンションが上がっていた。
「ありがとう、織斑君! 愛してる~」
「なっ!? 駄目ですよ更識さん!! 一夏君は私の彼氏さんなんですから!」
真耶さんは会長の悪ふざけにかなり真面目に反応して、俺の頭を力を込めて抱きしめる。
巨大な二つの膨らみの感触を顔に感じ、鼻血が出そうに・・・無かった。
どうも二日酔いで血の気も引いているらしい。少しだけ二日酔いに感謝。
「真耶さん、ただの悪ふざけですよ。だから真面目に反応しないで下さい。その、こういうのは嬉しいですが・・・」
俺の言葉を聞いて真耶さんは自分が何をやっているのかを自覚して、真っ赤になりながら慌てて俺の頭を解放した。
「す、すみません・・・」
「いえ」
「あははは~、ごちそうさま~」
そう笑いながら言う会長に一睨み。
それが人に物を頼む人間の態度か、という意味を視線に込めると会長はそれを理解しては小さくなっていく。わかればよろしい。
「では会長、明日の生徒会は休みにして下さい。時間が必要ですので」
「え、でもそうしたら仕事が・・・」
「その分、翌日に頑張ればいいことです」
「そ、そんな・・・・・・」
そう告げると、会長は死刑執行前の囚人みたいな顔になっていた。
それぐらいで嫌な顔されてては、この先やっていけない。この後も会長には苦労してもらわなければならないのだから。
その日はこれで話はお終いとなり、会長は保健室から去って行った。
俺はまだ体調が悪いことから寝ていることに。
眠りにつく前に見た真耶さんの優しい笑顔が印象的だった。
翌日・・・・・・・
俺は会長に妹さんのクラスを聞き、妹さんと話をすべく、一年四組へと向かっていた。
会長には生徒会室に居るように伝えてある。
さっそく四組に行くと、後ろの壁際に妹さんはいた。
話に聞いていてはいたが、ここまで会長と違うとは思わなかった。
容姿ではない、雰囲気がだ。
会長とは真逆で、静かな雰囲気だ。それは他の人からすれば『暗い』と称されるかもしれない。
周りに生徒達がいるのに、そこだけ隔離されたかのような印象を与える。
俺が教室へと足を踏み出すと、周りの女子が騒ぎ始めた。どうも、まだあの映画の影響が残っているらしく、気恥ずかしい。
それを振り切って妹さんの前まで行くと、声をかける。
「すみませんが、更識 簪さんであっていますか?」
そう声をかけると、妹さんはゆっくりと俺の方を向いた。
「あなたは・・・・・・一組の織斑君?」
イマイチ感情がつかめない声でそう返してきた。
「ええ、そうです。実はあなたにお話がありまして。屋上までご足労願えないでしょうか」
俺がそう言うと、周りで聞き耳を立てていた女子が騒ぎ始めた。
それをうっとうしく感じたらしく、妹さんは顔をしかめて立ち上がった。
「わかりました。行きます」
「すみません、ご迷惑をおかけしてしまって」
妹さんを連れて俺は屋上に向かうことにした。
後ろで女生徒達が騒ぎ立てていて、『告白』、『浮気』、『山田先生』とワードが聞こえてきたが無視、そういう話では無い。
俺は真耶さん一筋だっ!!
惚気は置いておいて、屋上へと上がると誰も居なかった。上々である。
俺はさっそく妹さんと向かい合い、本題を話そうとしたら・・・・・・
「あ、あの、すみませんでした!!」
何故か謝られてしまった。
俺がポカンとして呆気にとられていると、妹さんはさらにまくし立てるように謝罪してきた。
「あ、あの、姉がとんだご迷惑をおかけしてしまって・・・・・・そのせいで映画が上映されてしまって、さらに生徒会にも・・・・・・」
どうやら学園祭で会長がやったことを申し訳なく感じていたらしい。
聞いていたイメージよりしっかりしていることに少し驚いた。
「いえ、あれはもう過ぎた事ですのでお気になさらず。本人にも謝罪させましたしね」
そう笑みを浮かべて言うと、苦笑を浮かべていた。あのデコピンを思い出したのかもしれない。
俺はその謝罪を有り難く受けて、今度は此方の用件を言う。
「では今度の話をさせてもらいます。お話なのですが・・・・・・会長に会ってもらえませんでしょうか?」
「っ!?」
そう丁寧に言うが、妹さんは息を呑んで驚き、
「そ、それは嫌! 会えないです!」
と本気で嫌がった。聞いていた以上に溝は深いらしい。
「どうしても・・・ですか」
「無理です、私は姉とは会いたくありません!」
「本人が仲直りを所望していても、ですか」
「っ!? で、でも無理なものは無理です!」
そう言って嫌々と反応する。これ以上問い詰めたら泣き出してしまうかもしれない。
(仕方ないかぁ・・・・・・はぁ・・・)
内心でため息を付く。本当にこうする以外の手を思いつかない自分に呆れ返った。
「では・・・・・・御免っ!!」
「え・・・・・・・・・・・・」
妹さんがそう声を漏らすと崩れ落ちた。
俺の手は妹さんの腹の急所に入っている。要は当て身である。
崩れ落ちた妹さんを受け止めると、俺は大声で呼ぶ。
「正宗!!」
俺の呼びかけに応じて正宗が俺達の前に飛び出してきた。
『御堂、人さらいなど悪がすることぞ!! まったく、我が仕手がこのようなことなど・・・呆れて物も言えぬわ』
事前に説明したとはいえ、正宗が俺に説教をしてくる。
理解していることに、俺だってきついと思っているのだから言わないでほしい。
「これも仲違いした姉妹の仲を直すためだ。俺だってこんなことは良くないって分かっている。しかし、向こうが取り合わない以上、強引にでもするしかない。仲直りは当人同士でしか出来ないのだからな」
『ふんっ、減らず口を』
「そういうな。ではこのまま妹さんを生徒会室まで頼む」
『仕方ないとは言え・・・・・・はぁ・・・・・・』
正宗はため息を吐くと、気絶している妹さんを背に乗せ、生徒会室へと運びに行った。
俺は屋上で一人になると、自己嫌悪からまたため息を一回吐いた。