「大丈夫ですか、一夏君」
真耶さんの心配そうな声が俺の顔の上からかけられる。
「は・・・はい、何とか・・・・・・」
俺はそう何とか言いつつも、酷い頭痛と倦怠感に襲われていた。しかし、それらも頭の下にある柔らかい感触と真耶さんの甘い香りによって耐えられる気がした。
現在俺はというと、保健室のベットで横になっていた。
俺の顔は今かなり真っ青になっており、死人のような顔をしているだろう。
理由は単純、昨日の自衛隊への臨時講師が原因だ。正確に言うのなら、講義と訓練の後が原因だろう。
あの後、真田さん達に捕まった俺は、あの二人の行きつけの居酒屋に強制連行された。
さすがに未成年なのでお店に入るのはまずいと思ったのだが、店主が大雑把な性格のためにそのまま素通りされてしまった。それでいいのか、店主! と突っ込みたかったが、真田さんに封殺された。
そこから始まったのは宴会。
最初こそ、それなりに楽しくやっていたのだが、段々と酒が進んでいき・・・・・・気がつけば意識が朦朧とする始末。周りを見たら確認出来るだけでも酒瓶が二十本以上転がっていた。
店主はそんな俺達を見て爆笑していた。
俺は翌日に学校もあるので、酔い潰れかけている二人に一応声をかけて店を出た・・・・・・もとい、逃げ出した。
そうしなければ捕まってしまい、今度はどうなるかわかったものではない。
ちゃんと代金は払ってきたのだし、見逃して貰いたいものだ。
IS学園に戻って来れたのは深夜三時。
そこから一応仮眠を取り、五時に起床。起きたら凄い頭痛と倦怠感、それに吐き気に襲われた。
つまりは二日酔い。
しかし、鍛錬は毎日かかさず行っている日課、如何様であってもやらないわけにはいかない。
俺はそれらを我慢しながら鍛錬を行うことに・・・・・・
その後学校へ行き、授業を受ける。俺の顔を見て、皆何があったのか、と驚いていた。
特に真耶さんが心配そうな視線を向けていたので申し訳無い気持ちで一杯になった。
鍛錬の事もあって酒臭さは抜けたが、さすがにまだ頭痛と倦怠感、吐き気は抜けなかった。
なので俺はこれら三つに耐えながら授業を受けていた。
昼休みになったら真耶さんが凄く心配して俺の方に駆けてきた。
理由を仕方なく話すと、かなり叱られたが、その分心配されてしまった。
昼食は真耶さんと一緒に取ったのだが(いつものこと)普通に食べるのは無理だと真耶さんが判断して、俺は特別におかゆを出してもらった。
しかも、真耶さんが食堂に無理を言って作らせてもらった手作りである。
嬉しさから涙が出てしまった。
お礼を言うと、真耶さんは真っ赤になって照れながらも、
「一夏君が体調悪いんですから、看病するのは当たり前です! だって、恋人ですから」
と言ってくれた。
そのことが嬉しく、またその様子が可愛いものだから心が癒された。
どうも昨日の臨時講師で心が疲労していたようだ。真耶さんの笑顔が心に染みる。
自分で食べようとしたら止められてしまい、真耶さんから、はい、あーんで食べさせられることに。
さすがに人前では恥ずかしいので断ろうとしたのだが、
「病人なんですから、無茶しちゃ駄目ですよ。こういう時こそ、甘えて下さい」
と言われレンゲを取り上げられてしまった。
何故か嬉しそうな笑顔をしている真耶さんに、俺は逆らえずに従うことに。
ご満悦な顔で真耶さんは、はい、あーん、を俺にして、俺は羞恥で真っ赤に(顔は真っ青)なりながらもおかゆを食べさせてもらった。
恥ずかしかったが、心が弱っていることもあってか嬉しく感じた。
午後は休んだ方がいいと言われたが、只でさえ昨日休んだ身、休むわけにはいかないと自分を鼓舞して出ることにした。
そして放課後、生徒会室に向かい仕事を何とか終わらせる。
いつもより必死にやっていたため、会長が来る前に終わらせてしまった。なので会長には会わずにすぐさま帰ったのだが・・・・・・廊下で力尽きた。
正宗に頼んで運んで貰ってもいいが、どうせ説教されるのは目に見えている。心が参っているときにそんなものは受けたくはない。俺は必死に廊下の壁に体を預けながら引きずり、何とか保健室まで行った。
しかし、保健室には教員は居らず、勝手にベット借りることにした。
真耶さんにカフェには行けないことを連絡しようとしたところで、保健室の扉が勢い良く開かれた。
俺は少しびっくりしながらもそこに目を向けると、そこには息切れを起こしながら扉に手をかけて何とか立っている真耶さんがいた。
どうやら俺が廊下で倒れそのまま体を引きずっている所を多くの生徒が見ていたらしく、真耶さんに報告しにいった生徒がいたようだ。なら俺が体を引きずっている最中に手を貸してくれてもよいのでは? と思ったが、俺があまりにも必死な表情をしていたから声をかけ辛かったらしい。
「大丈夫ですか、一夏君!! 廊下で倒れたって聞いてっ!」
真耶さんは泣きそうな勢いで俺に詰め寄ると、俺を叱りつつもかなり心配してくれた。
そのまま看病するために付きそうと言い張り、現在に至る。
俺の今現在の状態はというと・・・・・・真耶さんに膝枕をされていた。
誰もいない保健室で心も体も弱っていることもあって、いつもより少し大胆になり、俺は恥ずかしながらも真耶さんに甘えて、なすがままにされていた。
「ふふふ・・・・・・」
それが素直に嬉しいらしく、真耶さんは俺の顔を笑顔で覗き込みながら頭を優しく撫でていた。
頭から伝わる柔らかさと優しく撫でてくれる手の感触に頬が緩む。
真耶さんの甘い香りがして、ドキドキしているのに心が落ち着くという矛盾を感じるが、それすら心地よい。それらによって俺が気持ちよさそうな顔になっていたらしく、真耶さんも嬉しいようだ。
「んぅ・・・」
気がつけばキスされていた。
真耶さんは俺から顔を離すと、
「えへへ、だって一夏君が可愛くて、つい・・・」
と真っ赤になりながら照れつつも笑顔を浮かべ俺を撫でる。
俺は幸せを一杯感じ、ウトウトとし始めてしまう。
「眠いなら寝ちゃってもいいですよ。ずっと側にいますから」
それが嬉しくて寝ようとしたのだが・・・・・・
「失礼しま~す、織斑君がここにいるって聞いて、それでちょっとお願いが・・・あ・・・・・・」
更識生徒会長が保健室に入ってきた。
俺達の姿を見て固まる会長、会長に膝枕を見られて固まってしまう真耶さん。
そして・・・・・・気持ちよい感覚を邪魔され、未だに頭痛と倦怠感に苛まれ機嫌がすこぶる悪くなった俺。
「何の用ですか、更識 楯無生徒会長」
不機嫌のあまり会長をフルネームで呼んでしまい、会長は俺の声で我に返った。
「その~・・・お邪魔だったかしら・・・」
気まずそうにそう話かけてきた。
「いえ、別に。ただ・・・・・・体調不良で看病してもらっていただけなんで」
普通に答えたつもりだが、機嫌の悪さが出まくっていたらしい。会長は見えない何かに刺され後ろに引いていた。
「やっぱり後にした方が・・・・・・」
会長は引け気味にそう言う。
その姿がいつもの様子とは違うことに違和感を感じ、俺は会長を呼び止めた。
「いえ、今でいいですよ。何だかいつもとは違うようですしね」
「え、いいの!」
俺は真耶さんの方に目を向けると、真耶さんも笑顔で応じてくれた。
「それで・・・・・・会長がいつもと違った様子になる用件とは、なんでしょうか?」
「え、そんなに顔に出てた?」
「いえ、そこまで顔には。ですが行動には出てますよ。そもそも会長は人にお願いするとき、そこまでオドオドしませんから、丸わかりです」
そう言われ、会長は観念したかのように此方を向く。
その顔には、不安が貼り付いていた。
「そ、その~、相談があるの。じ、実は・・・・・・妹とのことで・・・・・・」
「「妹?」」
会長はそういつもと違う不安な様子で俺に話し始めた。
俺はその相談を真耶さんと二人で聞くことになった。