でもやめられない。だって作者は甘党だから。
新しく書いた作品が全く甘くないので、甘すぎな気分をすっきりさせたい方はどうぞ
話を受けてから一週間が経ち、俺は今・・・・・・
自衛隊練馬基地に来た。
今日はここで講義と訓練をすることになっている。初めてのことに緊張して仕方ない。
ちなみに学校は公欠である。政府からの要請なのだから、公欠でなければ困るものだが。
基地に着き次第、俺は応接室へと案内された。
少し待っているよう言われたが、緊張でガチガチの俺はあまりにも余裕が無かった。
(何なんだろうか、この緊張は・・・・・・)
仮にも二回も死合いをした者が、この程度のことで緊張するとは如何なものか? と思うが、そういった物とは別種の威圧感を感じる。そのせいでさっきからあまり口が回らない。
そう緊張で固まっている俺。急に声をかけられたものだから、ビクッ、と震えてしまう。
「あっはっはっは~、久々だな、織斑君」
「元気そうじゃねぇか、織斑」
声がした方を向くと、そこには真田さんと、伊達さんが立っていた。
「あ、お二人もお元気そうで。お久しぶり・・・・・・伊達さんとは一週間とちょっとぶりですね」
「ああ、まぁな。あん時は楽しかったぜぇ、また今度殺ろうぜ」
会って早々物騒なことを言う伊達さん。この人は相変わらずのようだ。
一応政府から話を聞いていたが、この人に教官が務まるのか心配だった。この様子を見たかぎり、どうやら上手くやっているようだ。少しだけだが安心した。
「おいおい、会って早々何を物騒なことを言っているんだ」
伊達さんの言葉に真田さんが諫めるように言葉をかける。
うん、やはり真田さんは伊達さんと違って礼節が出来てる人だ。伊達さんの様子からみてそういったものとは無縁な感じなだけに、真田さんの存在は有り難い、そう思ったのだが・・・・・・
「その前に俺が先だろう。織斑君、今度また俺と死合わないか」
訂正。
この人も根っからの武者だ。俺も強い人とは戦いたいが、ここまで実直にはなれない。
この二人は最初会ったときは正反対に思ったが、実際は似たもの同士のようだ。
「か、考えときます・・・・・・」
そう答えるのが精一杯だ。
ふと前に弾に言われたことを思い出す。
『一夏はモテモテなんだからよぉ。ちっとは気付よ』
そんな事は無いと思っていたが、これがそういうことなんだろうか・・・・・・
こんな殺伐とした好意など欲しくは無いと思うのだが。
しかし、この二人の御蔭で緊張がほぐれたようだ。
すっかりいつも通りに戻っていた。
「こんなところでいつまでも立ち話もなんだ。さっそく会議室に行こうか。織斑君、準備はいいかい?」
「別に適当にやりゃいいんだ、そんなもん。口で言ったって分かるようなもんでもねぇんだしな」
伊達さんは笑いながらそう言う。たぶん俺を激励しているつもりなんだろうが、殆ど本音だろう。しかし、伊達さんが言っていることも真理であり、口で言っても分からないことも一杯ある。伊達さんはあまり深く考えるなと言いたいんだろう。その不器用ながらの心遣いが有り難い。
そして真田さんに促され、俺はさっそく会議室へと向かうことにした。
会議室に入った瞬間に集中する視線に肌がビリビリと感じた。
周りを見渡すと、当然とはいえ俺よりも年上の人達だらけだ。と言っても、それ自体は福寿荘でも同じなので気にはならない。しかし、この刺すような視線は軍人のそれであり、結構きつい。
しかし、俺は気力を振り絞って堂々と構える。ここで引いていては、人に物を教えることは出来ない。
先に入った真田さんが先に教壇に立つ。
「本日は特別に巷で有名な武者である、織斑 一夏さんに来ていただいた。皆、彼からいろいろなことを学んで貰いたい」
真田さんの声はついさっきまでの声とは違う、『教官』の声だった。
その声に気が引き締まる。しかし、ハードルを上げるようなことは言わないでほしかった。
「こいつがガキだからって舐めんなよ。こう見えて一週間ちょっと前にこいつとガチで死合ったときはマジで血戦だったんだからよぉ。しかも俺に勝ちやがった。腕は俺が保証するぜぇ」
伊達さんがそう言うと、周りから驚きが伝わってきた。
何度も思うが、ハードルを上げないで貰いたい。せっかく落ち着いてきたのに、また緊張してしまうではないか。
俺は二人の紹介を得て、教壇に上がると、口調を改めて話し始めた。
「お二人から紹介を受けた、織斑 一夏です。本日は皆様に講義と訓練を行うよう言われ来ましたが、そこまで畏まる必要はありません。気軽に聞いて下さい。では本日はよろしくお願いします」
そう言って一礼すると、控えめながらに拍手が起きる。
なんだか気恥ずかしい。もしかしてこれが入学初日の真耶さんの気持ちかなぁ~と思うと、それはそれで胸が温かくなった。
そしてさっそく講義を始める。
講義は二時間と長く、十分休憩を二回挟むことになっている。なので時間が一杯あるので、最初は質問タイムとすることにした。その事を真田さんと伊達さんに言ってみたのだが・・・・・・真田さんは肯定してくれたが、伊達さんからは『おいおい、学校かよ』と馬鹿にされてしまった。
そう言われても此方は学生故、こういうときにどう進めれば良いのか分からないのだから、大目に見てもらいたい。
「では最初の一時間は皆さんからの質問に答える時間にしようと思います。何か聞きたいことはありますか?」
そう言うと、さっそく手が上がった。上げたのは二十代後半くらいの男性である。
どうぞ、と言うと男性は席から立ち上がり此方を見る。
「織斑『教官』の使っている剣術について教えていただけませんか」
俺のような年下にさえ、丁寧な口調で質問してきた。
それは聞かれると思っていたので、すぐに答える。
「俺が使っているのは『吉野御流合戦礼法』と言う流派です。劔冑を使う剣術において、基本的な術理を持つ流派であり、より実戦に向いた剣術です」
その質問を皮切りに、色々な質問が出てきた。
訓練はいつもどれくらいやっているのかとか、俺の劔冑はどんなものなのかなど。
訓練について答えると、皆顔が青くなっていた。そこまできついことでは無いはずなのだが、それは俺だけなんだろうか。真田さんが声を殺して笑い、伊達さんがゲラゲラと笑っていた。
正宗については史実通りのことしか言えない。
そうやって質問しているうちに、皆さんの緊張もほぐれてきたようだ。
段々と気軽な質問も多くなっていく。
何が好物とか、趣味はなんなのかとか、学園生活はどうなのかなど。
それを何とか答えていく。どうやら完璧に緊張がほどけたようだ。
そして場が盛り上がってきたところで、一人の隊員からとんでもない質問が来てしまった。
「真田教官と伊達教官、どちらが強かったですか?」
その質問に俺は詰まる。
後ろの方に居る二人に目を向けると、此方の方を見て笑っている・・・・・・ように見えて目線はお互いににらみ合っていた。
両者の間にもの凄い火花が散っているように見えた。答えを間違えたら即座にこの場で両者死合いそうだ。
俺は冷や汗をかきつつ、冷静になりながら質問に応じる。
「その質問に関してはどちらも、と言うべきです。お二人ともとても強く、自分が勝てたのが奇跡に感じるくらいですから。また戦ったら、今度は勝てるかどうかわかりません。どちらが強いかなどと、比べられるものではないですよ。どちらも強い、それが答えですね」
そう答えた。
事実、どちらが強いなど本当に分からない。二人とも強すぎて、力量に差が無いのだ。だからこれが正解だと思う。
俺の答えに質問してきた隊員は納得したのか、満足下にうんうんと頷きながら席に着いた。
後ろの真田さんと伊達さんは、少しは鎮まったようだ。しかし、俺を見る目は、『なら今度は俺と死合おう』と言っていた。
その視線に冷や汗を掻きつつ、講義を再開していく。
そして今度は別の意味で爆弾を投下された。
「質問、よろしいでしょうか?」
そう言って手を上げたのは、何と女性の隊員だった。
物珍しさから少し驚きつつもそれに応じる。
「織斑教官は恋人はいるんですか?」
その質問に皆少しざわつく。
いきなりの質問に俺は驚いて固まってしまった。
「あれ、そういえばあの娘とはどうなったんだい?」
真田さんがしたり顔で俺にそう言って来た。
分かってて言ってるだけに、怒りが湧いてくる。
「ギャッハハハハハハハッ!!」
伊達さんが腹を押さえて爆笑しながら会議室の床を転げ回っていた。
そこまで笑うことですか! と突っ込みたくなる。
二人の反応に皆何かわかったのか、期待を込めた視線を向けてきた。
恥ずかしさから真っ赤になる俺。
しかし、ここではぐらかそうとしても、後ろの二人が居る以上逃れられそうに無い。
腹をくくることにして俺は答えた。
「その・・・恋人はいます」
そう答えると更に手が上がった。
これも女性であり、よく見るとこの三十人の内、三人は女性だった。
どこに居ようとも、やはり女性は女性。
この手の話は好きらしい。俺は根掘り葉堀り聞かれることになり、そのたびに赤面しつつ答えた。その答えを聞いて、おぉ、と驚嘆の声を上げる男性陣。ひそひそと話し声が聞こえ初め、「最近の若い人は進んでいるな」などなどと言われる始末。
俺はあまりの恥ずかしさに逃げ出したい気分で一杯になった。
そんな俺の様子を見て爆笑する伊達さんと、ニヤニヤと笑う真田さん。
その二人にどうしようもない怒りを感じながら、講義の一時間目は終わった。