撃甘でお送りさせていただきます。
あれから真耶さんに好きなようにさせていたら一時間が経ち、俺はまた茹蛸のように真っ赤になりながら伸びていた。
「す、すみません・・・・・・」
俺の状態を見て申し訳なさそうに謝る真耶さん。
さっきまで夢中になって俺を抱きしめキスを一杯していた反動がきたのか、此方も羞恥でポストみたいに真っ赤になっていた。
「で、でも、一夏君が悪いんですよ。あんなに嬉しい事言うんですから」
そう上目使いにそう言う。さっきまでのことを謝る気は無いようだ。
「い、いえ、その・・・・・・俺も嬉しくて、つい」
そう答えることしか俺にはなかった。
事実、さっきまで頭が真っ白になって夢見心地だったのだ。それくらい凄かった。
それに・・・・・・上目使いの真耶さんに言われてしまったら、俺は肯定せざる得ない。さすがに悪い事は駄目だが。
「もう、一夏君ったら」
柔らかな眼差しで真耶さんは俺を見つめる。
それが何だかくすぐったく感じた。
そのままじっとしていたくなるが、そういうわけにもいかない。
「あ、そういえば、お風呂沸かさないと」
「お風呂・・・ですか?」
そう、真耶さんが泊まるなら当然入浴も必要だろう。
別にいやらしい意味は無い。女性なら毎日清潔にしたいだろうから、泊まるなら風呂は当たり前だと考える。俺は今日は入れない(今現在の状態・・・・・・包帯だらけ)ので、沸かす気は無かったのだが、こうなっては沸かさないと駄目だろう。
「え、それって・・・・・・」
真耶さんは何か勘違いしたのか、かなり真っ赤になった。
何を考えているのかが大体分かったので止めに入る。
「いやいや真耶さん! そう言う意味じゃないですからね。そ、その・・・そういうのはもうちょっとしてから・・・じゃなくて! 俺はこんな状態だから入れないですけど、真耶さんは女性なんですから入らないと」
「あ・・・・・・ああ、そういうことですか! すみません、私ったらつい勘違いをしてしまって・・・」
そう慌てて取り繕うが、それがさらにお互いのことを想像してしまって二人とも真っ赤になってしまう。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
(き、気まずい・・・)
さすがにこのままではまずい。
そう思って俺はすぐに行動に移すことにした。
「そ、それじゃあ、俺は風呂に湯を張ってきますね」
「あ、それは私がします。一夏君は怪我人なんですから、そういうことは私がします。そのためのお泊まりなんですからね」
俺の行動をやんわりと止めると、真耶さんはそう優しく俺に言いながらウィンクをした。
その少しお茶目な行動もまた、可愛い、そう思う。
そう思いながら、さっきまでの気まずい空気を何とか払いのけ俺達はさっそく動くことにした。
真耶さんが風呂にお湯を張りに行っている間に、俺は何をしているのかというと・・・・・・・・・
頭を抱えていた。
当初は泊まるはずではなかったのだから、当然替えの衣類など持って来てはいないはずだ。
一日くらいなら服を洗濯しなくてもいいが、だからと言って寝間着まで服で良いはずがない。そんなことをすれば皺になってしまう。なので寝るときは当然寝間着を用意しなければならないのだが、それが問題だ。現在家にある女物は千冬姉のものだけだ。別にそれはいい。二年離れていたとはいえ姉弟、今更下着に何かしらの感情云々はまったくない。しかし・・・・・・
それを用意して真耶さんに渡すというのが・・・凄く気まずい。
何がどうという話ではないが・・・要は意識してしまうのだ。
しかし、無ければ真耶さんは困ってしまう。それはそれで困るわけで・・・・・・
俺はその思考を振り切って千冬姉の寝間着と下着を借りに行った。
そして取り次第リビングに戻り、真耶さんに渡すことに。
「あの、これ・・・千冬姉のやつを借りてきたんで、使って下さい」
「あ、その・・・ありがとうございます・・・」
俺が持ってきた寝間着を渡すと、真耶さんは少し苦笑しながら受け取った。
きっと俺の考えていることがわかっているのだろう。そのせいで余計に気まずく感じる。
「と、とりあえず、それではお風呂、いただきますね」
真耶さんは少しテンション高めでそう言うと、さっそく風呂場へと向かって行った。しかし、その顔があることを想像してしまい、真っ赤になっていたことは、お互いに分かっていた。
俺はそれを頭を振って振り払うと、またソファで横になる。
少し疲れが出たこともあって、横になると気持ちいい。
そして少し眠気からウトウトしそうになったが、その眠気は次の瞬間には消し飛ぶことになった。
シュルッ・・・シュルッ・・・・・パサ・・・
何かの衣擦れる音と、それが落下する音。
それが風呂場の扉越しに聞こえてきた。
普通なら聞こえない。しかし、武者として鍛えられた俺には、そういった小さな聞き辛い音も聞こえてしまう。
その音が何なのかなど、言わずとも分かるだろう。
それを聞いて顔が真っ赤になり熱を持ち始めるのを自覚する。
さらにその後は水の撥ねる音やシャワーの音、真耶さんの気持ち良さそうな声などが聞こえてきて、嫌でも妄想を掻き立てられそうになる。
そういうことを考えてしまう自分に嫌悪し、頭を思いっきりテーブルに叩き付けた。
もの凄い激突音がなり、頭の中まで衝撃が突き抜ける。結構な痛みに涙目になった。
「ど、どうしたんですか、一夏君!? さっきの音」
さすがに真耶さんにも聞こえてしまったようだ。
「い、いえ、何でもないです! ただ物を落としてしまっただけですよ」
そう言い訳をした。
まさか、あなたのお風呂姿を妄想しそうになっていました、などと言えるわけがない。
そう言うしかなかったが、我ながら苦しい言い訳だな、と内心苦笑した。
それから約四十五分後にそれは起こった。
「す、すみませ~ん・・・一夏君、ちょっといいですか?」
風呂場の扉越しに真耶さんが俺を呼んだ。
「どうしたんですか、真耶さん?」
ドキドキしつつも扉越しに話かける。さすがに扉を開けるわけにはいかない。
すると少しして真耶さんから少し困った応答が帰ってきた。
「あ、あの・・・・・・貸していただいたパジャマなんですが・・・・・・サイズが合わなくて・・・・・・」
どうも寝間着のサイズが合わないらしい。
「えっと、その・・・具体的には・・・」
恥ずかしいが、聞かないと他の物を用意できないので聞く。
「その、胸がかなりきつくてボタンが閉まらなくて・・・それでズボンのゴムが緩くて下がっちゃうんです・・・・・・」
真耶さんは恥ずかしそうにそう言う。きっと顔も真っ赤になっているに違いない。
(千冬姉・・・・・・)
姉に何か言いたかったが、言わないでおこう。そのほうが身のためだ。
しかし、困った。千冬姉のサイズが合わないのでは着れる寝間着が無い。
しかも今からの時間では営業している店も無いだろう。
どうしたものかと唸っていたところで、真耶さんから突拍子もないことを言われた。
「その・・・・・・一夏君のを・・・貸してくれませんか・・・・・・」
いきなりそう言われ固まってしまう俺。
しかし、真耶さんの声からはかなりの恥ずかしさが伝わってきたことからちゃんと応じなければならない。
すぐさま何か無いか考える。
俺は基本、襦袢を寝間着にしているが、アレは客人に出すような物ではないだろう。では他に無いかと考えると、ジャージなどが出てくるが、それも客人に出すような物ではない。
何か他にないかと頭を巡らせている俺に、真耶さんは更に爆弾を投下してきた。
「い、一夏君・・・その・・・一夏君のワイシャツって借りてもいいですか・・・」
その発言に俺の頭は爆発する。
「なっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ショックに思考が停止しかけるのを、歯を食いしばって止める。
「そ、それは・・・・・・」
そう聞き返してしまうが、
「だ、駄目ですか・・・・・・」
恥じらいつつもどこか泣きそうな声にNOとは言えなかった。
「い、いえ、別にいいですよ・・・・・・今持ってきます・・・」
「は、はい!」
真耶さんは凄く嬉しそうに返事をし、俺は真っ赤になりながらワイシャツを取りに行った。
そして取りに行った後に扉で真耶さんで見えないようにしながらワイシャツを渡した。その時に触れた真耶さんの手が温かくてドキッ、とした。
そして・・・・・・
「一夏君、良いお湯でした」
湯上がりの真耶さんがリビングに来た。
その姿に一瞬にして真っ赤になる俺。
俺のワイシャツは少し大きいので何とか着れたようだが、ワイシャツしかなかったので下は下着のみ。所謂『裸ワイシャツ』状態。
俺はまた鼻血が出そうになるのをバレないように堪える。
大きめで厚手のため、ちゃんと透けずに大事なところは隠せている。しかし、真っ白な足がきわどいところまで見えそうな上に、前はやっぱり少し窮屈なのか、胸元が開いていた。なので胸の谷間も見えてしまっている。そして風呂上がりなのと恥ずかしさから顔は上気しており、艶やかな表情をしていた。
直視出来ずに俺は目線を逸らしながら話すことにした。
その後さらに疲れが出たこともあって、俺は寝ることに。
真耶さんには千冬姉の部屋を使って貰おうと思ったのだが・・・・・・
「な、なんで俺の部屋にいるんですか?」
真耶さんは俺の部屋、具体的には俺のベットで、俺に『添い寝』をしていた。
「わ、わたしは一夏君の看護に来たんですから、一緒にいるのは当たり前です!」
そう言い切るが、やはり恥ずかしさから真っ赤になっていた。
言っていることは至極真っ当なのに、俺も恥ずかしい。
ここでNOと言えば、きっと泣いてしまうのではないだろうか。それぐらい必死な顔をしていた。
俺は仕方なく折れることに。真耶さんが寝たのを見計らって下のソファで寝ることにしようと思った。その・・・・・・・まだ一緒に寝るのは・・・その・・・早い・・・。
「わ、わかりました・・・」
そう答えると、真耶さんは真っ赤になりながらも嬉しそうだった。
そして一緒の布団に入ること約五分。
((ど、ドキドキしてまったく眠れない・・・・・・))
すぐ隣に真耶さんがいること意識してしまって眠れなくなっていた。
真耶さんも同じらしく、目が此方を見つめていた。
「そ、その・・・一夏君・・・手・・・握っていいですか」
そう恥ずかしそうに言って来た。
「は、はい・・・」
俺もそう答え、真耶さんの手を握ることに。柔らかくて暖かくて、どこか安心する。
おれはそう感じながらもドキドキしていた。
(一夏君の匂いがして、一夏君の温もりが暖かくて・・・一夏君の息が聞こえてきて・・・どうにかなっちゃいそうです!!)
真耶さんもかなり真っ赤になっていたようだ。
しかし人間、精神が昂ぶっていても、眠気には勝てない。
疲れもあってウトウトしてきた・・・・・・が、やはりと言うべきか、まだ眠れそうにないようだ。
真耶さんの息使いから寝たものと推測したので布団から出ようとしたのだが・・・・・・
「う~ん・・・・・・一夏く~ん・・・・・・大好き・・・むにゃむにゃ・・・」
そう寝言を洩らしながら真耶さんが俺に抱きついてきた。
(なっ、なっ!?)
混乱する頭。
目の前位まで近くなる真耶さんの顔。
身体に押しつけられる巨大な柔らかい二つの膨らみに、柔らかくすべすべな足で足を挟まれた。
真耶さんから香る甘い香りに意識が持って行かれそうになる。
全身の血管がポンプのようになり、身体全体でドキドキと感じているかのような錯覚を覚える。
このまま暴走してしまえ、とどこかで誰かが囁いた気がした。
その誘いはとても甘美で魅力的で従いたくなった。
しかし・・・その誘惑は途端に消し飛んだ。
「う~ん・・・一夏く~ん・・・・・・」
そう可愛らしく寝言を言う真耶さんの寝顔が目に入った。
とても安らかな寝顔だ。そんな『邪』な感情など、吹き飛ばすくらい。
俺はその寝顔を見て、さっきとは別の感情がこの胸を満たすのを感じた。
それはとても、幸せなものだった。
それをもっと感じたくて、しばらく真耶さんの寝顔を見ていたら・・・・・・俺も眠りに落ちてしまった。
きっと良い夢が見られるだろうと思いながら・・・・・・。
そして早朝。
千冬が帰ってきて一夏の様子を見に行った時に目の入ったのは・・・
『一夏と同じ布団で寝ていて、着崩れた裸ワイシャツ姿の真耶だった』
この後、千冬の絶叫に近い怒号がこの住宅街一帯に轟いたのは言うまでも無い話だった。