装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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できる限り熱く書きました。是非とも感想をお願いします。
字数が8000を超えたことには驚きです!


VS 伊達!

 俺はさっそく一人の武者の前に立った。

 

「悪いなぁ、彼女とイチャついているなか、こんな風に呼び出してよぉ。本当はちゃんと会ってから殺し合おう(やりあおう)と思ったんだけどなぁ、どうも邪魔しようとしてる奴が居っから叩き斬った」

 

 目の前の武者は気軽な感じにそう言って来た。さっき人一人斬った(IS装着なので死んではいない)とは思えない気軽さだ。

 改めて目の前の武者を見てみると、やはり合当理がない。特徴的なのは兜飾りだろうか。まるで三日月のようで左右非対称となっている。

 俺はまず礼を言うことにした。

理由はどうあれ、仲間を助けてもらったのだから、礼を言うのは当然のことだ。

 

「仲間を助けていただいたこと、まず礼を言います」

「別にそんなんじゃねぇよ、俺の獲物に手ぇ出されたくなかっただけだ。それより・・・・・・まわりの奴らをどうにかしてくんねぇか? 邪魔で仕方ねぇよ」

 

 武者はそう言うと周りを見渡す。

周りには箒達専用機持ちが包囲していた。いきなり現れた乱入者には当然の対応と言えよう。

 

「みんな、悪いけど包囲を解いてくれないか。この人は俺に用があるだけだから」

 

 みんなに聞こえるよう大きな声で言う。

俺は既に戦闘態勢に移行している。その声には殺気が載っていた。

その殺気に箒達が反応して下がる。その顔には、いつもと違う俺の雰囲気に皆呑まれて怯えが張り付いていた。

 

「これでどうでしょうか?」

「上等上等。んじゃまず、挨拶と行きますか」

 

 そう言って武者は装甲を解除した。

解除した劔冑は独立形態であろう牛の姿になり、装甲の下から出てきたのは禿頭をした男だった。

片目は怪我でもしたらしく、眼帯をしていた。それがさらに男に凄みを与えている。

身体はかなり鍛えられている。ここから見ただけでも凄い筋肉の付き方をしていて、着ているTシャツがパツンパツンになっている。

何故かシャツには『ずんだ餅』の文字がプリントされていた。

身長は高めで、俺より頭一つ分くらい高い。年齢は二十代後半くらいだろうか。

だが、これらよりも・・・・・・その顔に浮かんでいる狂喜の笑みが強く印象付られる。

 

「俺の名は伊達 政臣、御存知の通り武者だ。真田の野郎からお前さんのことを聞いたんだぜぇ。あいつがそんなにベタ褒めするなんて珍しいからなぁ、そんなに言うってんなら、そんなに強いんだろ? だから殺りに来たんだ」

 

 そう楽しそうに言う目の前の男・・・・・・伊達さんは俺を楽しそうに見る。しかし、その顔は肉食獣のそれだ。気を抜いた瞬間に牙を剝いて襲いかかってきそうだ。殺気がひしひしと此方に降りかかってくる。

 

「真田さんからの紹介でしたか・・・・・・当然試合(死合い)をご所望で」

「あったり前だろ! 強ぇえ奴がいるんだ、殺り合いたいのは当然だろ」

 

 俺と死合いした話を真田さんから聞いたらしく、それで戦いたいと思ったらしい。その姿勢は武者としては当然のこと、俺とてその気持ちはよく分かる。

 だからこそ分かる・・・・・・この死合いが回避不可能だと。

ならば俺もこの殺意の誠意に応えるのみ。

 

「まさか恋人の前だからってブルってんじゃねぇだろうなぁ」

「あっはっはっは・・・・・・ご冗談を言いますな。そのようなこと、些事と考えます。武者が死合いを挑む以上、そのような考えは捨てております」

 

 伊達さんのからかう物言いに此方も殺意を持って応える。

何度も言うようだが、武者の命を賭けた純粋な決闘は、『死合い』。試合にあらず、例え相手を殺す事になっても躊躇わずに刃を振るう。それぐらいに逼迫しているものなのだ。躊躇った瞬間には自分が斬られる、そういう世界だ。なので俺は・・・・・・

 

伊達さんを殺す。

 

そのつもりで刀を振るう。つもりと言ったが、殆ど殺す気だ。

そうでなければ殺されるのは此方なのだから。

 

「へぇ・・・・・・真田が言った通り、おかしなまでに覚悟が決まってやがる。いいぜ、その殺気。気に入った」

「お褒めいただきありがとうございます・・・・・・では、死合いましょうか」

「おう、んじゃ殺るとするかぁ!」

 

 そして俺は戦う決意を固めると正宗を呼び出す。

 

「来い、正宗!」

『応っ!!』

 

 俺の呼びかけに正宗が飛び出した。

 

「では改めて名乗らせていただきます! 自分の名は織斑 一夏、してこちらは天下一名物の相州五郎入道正宗、以後よろしくお願いいたします」

 

 俺が名乗ると、伊達さんも改めて名乗り返した。

 

「んじゃ改めて名乗るとすっかぁ。俺は伊達 政臣、んでこいつが相棒の大倶利伽羅広光。んじゃ・・・・・・殺るとするかぁあああああああああ!!」

 

 そして同時に装甲の構えを取り、誓約の口上を述べる。

 

 『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』

 『悪羅 悪羅 悪羅』

 

 そして俺達は互いに装甲し、その場には二騎の武者が現れた。

 

「では・・・当方正宗、いざ、尋常に参る!」

「いっくぜぇえええええええええええええええええええええ!!」

 

 そして俺達は市民アリーナの真ん中で激突した。

 

「はぁあああああああああ!」

「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 合当理を噴かせての突進に伊達さん・・・大倶利伽羅広光(以降は広光)も応じて此方に突進してくる。やはりと言うべきか、合当理から出る炎が見えない。しかし・・・・・・速い!

 俺の上段からの斬撃に、広光は片手上段で乱暴ながらに応じた。

激突する刀と刀が火花を散らし、激突の轟音を轟かせる。

そしてお互いに刀を弾き合う。

さらに横凪に一閃、また上段に構え直し連撃を加える。

敵騎も此方の斬撃に応じつつも、まるで狂犬のような剣が襲いかかってくる。

その一撃一撃に必殺の殺意が込められている。見事なまでの殺気だ。

真田さんの殺気を猛禽類のようなものとすれば、伊達さんの殺気は獅子のそれだ。もの凄く獰猛な殺気が斬撃となって俺に襲いかかっていく。

 

「ああぁあああああああああああああああああああっ!!」

 

 俺はさらに力を込め一撃を放つ。

その一撃は、伊達さんの刀ごと斬り捨てようとしたものだ。

伊達さんは迎え撃つが、予想以上の力に刀ごと後ろに弾かれ体勢を崩す。

 

「っあ、強ぇ! 中々の剛力じゃねぇか。負けちまったぜぇ」

 

 伊達さんはそう楽しそうに言いながら体勢を立て直していた。

膂力では此方のほうが勝っているようだが、向こうの方が速度は段違いに速い。

 俺はそのまま双輪懸へと移行する。

武者の本領は空中戦、当然高度優勢を取ったほうが有利。

向こうの方が速度が上の以上、少しでも速く高度優勢を取らねば此方が不利。なので体勢を整えている今がチャンス。

 俺は先に上空へと飛翔すると、向こうもさっそく飛び始めた。

しかし、あっという間に追いつかれる。

 

「正宗、やはり合当理が無い。どういう原理で飛んでるんだ? まさか師範代や師匠と同じ、辰気制御か」

『いや、それは違う。敵騎からはそういった反応はない。敵騎から検知されているのは気圧の乱れよ。つまり彼奴の騎航は気圧制御によるものだ。敵騎の陰義は気圧制御と推察する』

「つまりあの騎航は師範代と同じ、陰義によるものか。ということは、常に熱量を消費しているのか。そんな化け物じみたことが、あの師範代以外にもあり得るとは・・・・・・驚きだな」

 

 驚きつつも敵騎を見ると、確かに凄く速い。しかし、本来の劔冑から外れた作りになっている広光は旋回性が極端に悪いようだ。

しかし、それを補ってなお、速さが凄い。そのせいで高度優勢は先に奪われてしまった。

 

「んじゃ挨拶がてらだ! いくぜぇえええええええええええええええええええ!!」

 

 そして敵騎が此方に向かって降下すると同時に吠える。

 

『初音っ!!』

 

 その瞬間に・・・消えた。

 

「なっ!?・・・ぐぁぅっ」

 

 気付いた時には胸に激痛が走り衝撃が身体を駆け抜けた。痛んだ所に目を向けると、真っ赤な鮮血が流れていた。すぐに修復が始まる。

 

『胸部甲鉄に被撃! 損傷は中破、戦闘に支障は無し』

 

 何とか意識を戦闘に戻し敵騎の方に目を向けると、既に敵騎は下方からまた上昇し始めていた。

 

「正宗、まったく見えなかったんだが・・・・・・」

『被撃より後に激突音が聞こえた。つまり音速を超える剣撃よ!』

「まさかそこまでとは・・・・・・」

 

 速い速いとは思っていたが、それほどとは思わなかった。

 

「このままでは何も出来ないままやられてしまう。何か手はないか、正宗」

『うむ、どうやら敵騎は確かに速いが、その分一直線にしか来れぬようだ。確か『あいえす』にも似たようなものがあったはずだ』

 

 つまりカウンターを狙うしかないということか。

確かに一直線にしか来れないというのは朗報だ。それなら対処のしようもある。

 そして敵騎はまた上空から襲いかかろうとする。

 

「正宗、また出されてはまずい! 左手を使え、機巧を使う!」

『応、拝領致す』

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・」

 

 左手に激痛が走るのを歯を食いしばって堪える。

 

「もういっちょいくぜぇ! 『初ね「させるかっ!」」

 

 刀を振り抜こうと構え、此方にまた技を使おうとする広光に俺は左腕を向ける。

 

『無弦・十征矢っ!!』

「ぐおっ!?」

 

 左手から射出された鋼鉄化した指が広光に襲いかかる。

技を出そうとしていたために、敵騎の反応が遅れた。そのため広光は十征矢を直撃してしまった。殆ど甲鉄に弾かれてしまったが、しかし・・・・・・

 

「まさか指が飛び出してくるとは思わなかったぜ」

 

 そう楽しそうに伊達さんは言うが、その声には少し苦痛を感じ取った。

見ると敵騎の脇腹に一本だけ十征矢が突き刺さっていた。どうやら少しは効いたらしい。

 これで少しは意趣返しが出来たが、こんな戦法は何度も使えない。

向こうにあまりダメージを与えられない上に、寧ろ此方の熱量の消費が激しい。奇策は一回やれば次は見破られる。

 現に伊達さんは刺さった十征矢をさっそく引っこ抜いていた。

 

「中々に面白かったぜぇ! んじゃさらに行くとするかぁっ!!」

 

 伊達さんはまた此方にその速さを持って斬りかかってきた。

 

「やっはぁああああああああああああああああああああああ!!」

「かぁあああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 俺も応じて迎撃する。

その度に金属による甲高い激突音が空を振るわせる。

その剣戟が数合続いていく。

 

「かぁ~、強ぇ、強ぇな~。やっぱいいねぇ~、武者同士の死合いってのはこうじゃなくちゃなぁ。最近はISだ何だと出張って来ちゃいるが、どいつもこいつも甘くて仕方ねぇ。戦いってのはやっぱりよぉ、死合わねぇとな。そう思わないか、あんたも」

 

 伊達さんが興奮気味に言う。

きっと楽しいのだろう、この死合いが。

 

「自分はそこまで辛辣には考えてはおりません。守るべきルールがあるからこそ、人は安心してその事を行うことが出来ると考えております・・・・・・しかしながら・・・・・・武者同士の真剣な死合いはやはり、こうでなくてはならないとも、考えております」

 

 俺はそう応えた。

そう殺伐としていては、怖がって誰もやらなくなってしまう。しかし、武者の死合いに限りは別だ。

純粋な殺意こそ誠意。

死合いこそが武者の本分。きっと今、俺の顔には笑みが浮かんでいるだろう。

 

「はっ、小難しいことばっか言ってるが、あんたもやっぱり武者だな。さっきまで恋人と乳繰りってたガキとは到底思えねぇ」

「褒めてるのか貶しているのやら」

「一応は褒めてるんだぜ! だからよぉ・・・もっと殺ろうぜぇええええええええええええええ!!」

 

 そう伊達さんは興奮しながら叫ぶと、また上空から襲いかかった。

 

「いっくぜぇええええええええ!『白菊っ!』」

 

 そう吠えると此方に突進。すると・・・・・・

 

敵騎が四騎に増えた!

 

「な、何!!」

 

 驚いた瞬間に俺は四騎に連撃で斬られた。

 

「がぁああああああああああああああああ!!」

『騎体各所に被撃!! 甲鉄に多数の損傷あり』

 

 俺の身体のあちこちから血飛沫が舞う。

何だ、さっきのは! 敵騎を確認すると、もう数は元の一騎に戻っていた。

 

「正宗、さっきのは!」

『高速飛行による残像と推測する。しかしその連撃の分、一撃一撃の威力は低いようだ』

 

 音速で動けるのだから、残像を出すくらい当然出来るか。

しかし、その残像に集中する分、攻撃に力が乗らないようだ。

 

「正宗、もう少しだけ堪えろ。此方に策がある」

『諒解!』

 

 そう言って、さっそく策を実行に移す。

敵騎の技である『初音』には刀を置くように振るい、カウンターを狙い迎え撃つ。

そして敵騎はまた『白菊』を使ってきた。

 

「ギャハハハハハハハッ、いっくぜぇえええええ、『白菊っ!』」

 

 そして三騎の残像を率いて広光が此方に斬りかかってくる。

俺はこれを待っていた。

 

「正宗、熱量配分を筋力強化に七、合当理に三」

『諒解!』

 

 正宗に指示を飛ばし、俺は斬馬刀を上段に構え迎え撃つ。

 

「しゃぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

白菊による残像の連撃に吠えながら耐え、残像もまとめて斬り飛ばすつもりで力の限りを尽くし、上段からの一閃を放つ。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 血飛沫を舞わせながらに放った一撃が広光を捕らえ、思いっきり降下させる。

 

「げほっ・・・やるじゃねぇか! まさか肉を切らせて骨を断とうとするとはよう」

『敵騎胸部に被撃を確認、中破の損傷』

 

 広光の胸部には深々と斬られた痕が刻まれ、そこから血がドクドクと流れていた。

やっとまともに一撃入れることができた。しかし、安堵してはいけない。ここからが此方の番だ!

 俺は敵騎が下方に飛ばされたのを確認次第、急いで上方に飛行し、高度優性を狙う。

しかし、このままでは先程と同じで、相手の速度にすぐにでも高度優性を奪われてしまう。だからこそ、その前に仕掛ける。

 俺はある程度上がると、一旦合当理を切る。

そしてそこから重力と機体の重心を利用して空中で垂直反転。

下降するために合当理を上に向けると、また火を入れる。

そして降下しながら広光に上方から襲いかかった。

 

「おおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「何ぃいいいいいいい!!」

 

 さすがにこれには伊達さんも驚いたらしい。

俺はそのまま力の限り斬馬刀を叩き付けた。

 

「ぐぅうううううううううううううううう!!」

『敵騎腕部に被撃、腕部甲鉄に中破の損傷を確認! 御堂よ、見事だ』

 

 俺の斬馬刀が広光の腕を捕らえ、また広光は下方に飛ばされる。

 

「おいおい、まさか『金翅鳥王剣』かよ! なんてもん覚えてんだ、お前!」

 

 伊達さんがそう驚きの声を上げていた。

 

『金翅鳥王剣』

 

垂直騎航からによる反転落下攻撃。

自己より圧倒的に勝る敵を討つ、起死回生の剣。

遙か昔にいたとされる、マックス・インメルマンという人が作り出した魔剣である。

俺がこれを習得するに当たっては、色々とあった。

文献を調べ、自分で実施し、少しでも師範代の騎航についていこうと必死故に習得したのだ。

 俺はこの魔剣を用いてまた上方を取り、広光に攻撃を加えていく。そして敵騎を損傷させていく。

これにより、戦局はほぼ互角となった。

先程やられた分も取り返せる程度には回復した。

 

「おいおい、まさかここまでやるとは思わなかったぞ、手前ぇ」

「ありがとうございます」

 

 そう気軽に応えるが、お互いに損傷が激しく中破まで持って行かれた。俺の身体は斬られまくり、ボロボロである。しかし伊達さんは損傷こそ俺より多くないが、一つ一つの損傷が俺よりも深い。

何ともないように応えたのは意地である。実際じゃ熱量もかつかつでそろそろしんどくなってきた。

戦っている内に戦場は市民アリーナから山へと移っていった。

 

「んじゃ、そろそろクライマックスといくか! 耐えて見せろよ、織斑 一夏ぁ!! 『柴船っ!!』」

 

そう伊達さんは叫ぶと、広光の周りの風が渦巻き・・・・・・あっという間に巨大な竜巻になった。

 

「なっ・・・ぐぁあああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 たぶん気圧制御によって空気一気に上空へと押し上げたのだろう。俺は錐揉みされながら上空へと飛ばされた。

何とか体勢を整えるが、三半規管が滅茶苦茶にされてしまい、身体が安定しない。

 

『御堂、大丈夫か! 上空の気圧が変化した。何かが来るぞ!』

「な、なに・・・・・・」

 

 そう正宗に告げられた瞬間・・・・・・

上空から空気の滝が降りてきて、それに押し潰された。

 

「がぁっ・・・・・・ゥ・・・・・・・ギァ・・・・・・・・・・・・」

 

 何が起こったのかまるっきり分からなかった。

まるで生身で滝に投げ入れられたような、そんな感じだ。全身が押し潰され、肉が潰され骨が砕ける。装甲も殆ど打ち潰され、砕ける。

激痛のあまり声という声が出せない。

 

「発動までの時間が難だが、千の刃にも万の力を束ねた一振りの大剣にもなる、万化の獲物・・・『下降噴流』(ダウンバースト)だ。こいつは効いただろ!」

 

 敵騎は俺がボロボロの状態で降下していくのを満足げに見つめていた。

 

「こんなに熱くなったのは真田の時以来だぜ。もう殺れねぇのは残念だけどよ」

 

 そう残念そうに呟くが、俺には届かない。

 

 

 

 殆ど身体の感覚がなくなっていた。

あるのは激痛のみ。しかし、それも意識が薄れ掛かっているせいで感じなくなっていく。

このまま寝てしまいたいと、そう思ってしまいたくなる。

しかし・・・・・・そう思い目を瞑った瞬間、

 

真耶さんの顔が浮かんだ。

 

 それも泣き顔だ。戦う前にしていた顔よりも悲しそうだ。

そんな顔は見たくない。好きな人には常に笑顔でいてもらいたい。真っ赤になりながらも照れていて、それでいて幸せそうな、可愛い顔を見せてもらいたい。

今寝たら、きっと俺は死ぬ。

そうしたら、今泣いている真耶さんを笑顔にすることが出来ない。それは・・・・・・

 

嫌だ!!

 

好きな人を悲しませる事だけは、絶対にしたくない。

 

だから・・・・・・俺は・・・・・・・・・眠らない!!

 

そう決意した瞬間、世界がまた元に戻っていった。

 

 

 

 

『御堂、大丈夫か! 御堂!!』

 

正宗の声が聞こえた。

 

「あ、ああ、何とかな。いまの状況は」

『現在当騎は墜落中。損傷は大破! 戦闘は回避すべきである・・・・・・と言いたいところだが、御堂のことだ。当然、まだ戦うのだろう』

「ああ、当たり前だ! 意思ある限り俺は剣を振るい続ける!」

『それでこそ我が御堂だ! ではいくぞ、カッハァーーーーーーーーーーーーー!』

 

 俺はボロボロの身体を立て直し、騎航を再開する。

 

「いくぞ・・・・・・おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「何っ!? まだ向かって来んのか!」

 

 伊達さんは俺が復活するとは思ってなかったらしく、驚愕の声を上げていた。その動揺が金打声に乗って伝わってくる。

 

「今度は此方から行かせてもらう! 正宗、陰義を使う!!」

『諒解』

 

 そして正宗の口の装甲が展開される。

 

『善因には善果あるべし! 悪因には悪果あるべし! 害なす者は害されるべし! 災いなす者は呪われるべし! 因果応報!! 天罰覿面!!』 

 

「くらえぇえええええええええええええ!! 『柴船っ!!』」

 

 先程とは真逆に、俺の周りの風が渦巻き、あっという間に竜巻となって広光を飲み込む。

 

「ぐぁあああああああああああああああああああああああ!!」

 

さっきの自分と同じように広光は錐揉みされながら上空へと吹っ飛ばされた。

 

「まさか、そいつが噂の陰義返しの陰義かよ! まさかマジに返されるとは思わなかったぜ!」

 

 伊達さんは飛ばされた先で体勢を立て直していた。

この陰義についても聞いていたらしい。ということは当然その後も分かっているのだろう。

俺は逃がさないように合当理を全開で噴かして接近する。

 

「正宗、この好機を逃すわけにはいかない! 『捕まえる』ぞ!」

『諒解っ!!』

 

そして距離を詰める。

伊達さんはこれから来るであろうものを避けようとしていた。

 

「逃がさん! 『正宗七機巧の一つ、隠剣・六本骨爪!!』」

 

 激痛を堪えながら七機巧を発動させる。

脇腹から飛び出した鋼鉄化した肋骨が、広光に突き刺さり締め上げる。

 

「ぐぅうううううううううううううううううう!!」

 

 突き刺さる肋骨に苦痛の声を上げる伊達さん。

俺はさらに締め上げ、退避を不可能にする。そしてそのまま広光の下に回り込む。

 

「これであなたから受けたものを返せます。存分に楽しんで下さい」

 

 俺の声と共に、上空から空気の激流が俺達に襲いかかった。

 

「うぉおおおおおおおおおおっっああぁアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 伊達さんが声にならない悲鳴を上げる。

俺は伊達さんを楯にしているので被害を被らない。

広光の甲鉄はあっちこっち砕け散り、肋骨越しに伊達さんの肉体が潰れて破壊されていくのを感じた。

 そして激流が収まると同時に『隠剣・六本骨爪』を解く。

広光は俺と同じくらいボロボロになり、あちらこちらから血飛沫が舞っていた。

しかし、まだ戦闘は可能のようで騎航していた。

 

「・・・・・・やる・・・じゃねぇ・・・か・・・」

 

 伊達さんが何とか喋る。しかし、その声に力が無い。

 

「これで・・・・・・終わりです」

「ああ・・・・・・終わりだ」

 

お互いに間合いを取って最後の一撃を仕掛ける。

これで俺の熱量も尽きる。これで最後だ。

お互いに敵騎に向かって突進した。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「だぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 お互いに吠えながら刀を相手に振った。

ザッシュッ、という音と共に空に何か舞った。

 

俺の左腕だ。

 

斬られた所から血が噴き出す。

しかし、俺は叫ばない。もう痛みを感じる感覚が無い。

空振りした右腕の斬馬刀を捨てて広光の首を掴むと、片足を使い広光の足の裏から絡ませ押し込む。そして足絡みを軸に体勢が反転させ、広光の上を取る。

 

『吉野御流合戦礼法 二虎競落の法』

 

「ああぁあああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!」

 

そのまま落下し地面に広光を叩き付け潰した。

 

「げはぁっ!?」

 

 土煙が上がり、叩き付けた広光を中心に大きなクレーターが出来上がった。

もうこれ以上は技を出せない。これほどやってまだ動けたら俺の負けである。

しかし、伊達さんはもう動けないのか、身体から力を感じられない。

 

「・・・・・・・・・・・・さ、真田の言った通り・・・だな・・・・・・あんた・・・最高だったぜ・・・・・・」

 

 そう言って伊達さんは気絶したようだ。

俺は何も言わずに左腕を拾いに向かった。

 

(は、速く帰って・・・・・・真耶さんのところに・・・)

 

そう思いながら、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

約十分後に意識を取り戻した俺は、左腕を拾いボロボロのまま真耶さんの元へと帰った。

当然ながらふらふらで、もの凄く怒られて泣かれたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は甘すぎて甘すぎて、作者が死ぬかもしれません。
こうご期待!!

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