装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回の出だしはかなり甘いです。
注意が必要です。


キャノンボールファスト

 あっという間にキャノンボールファスト当日。

 

 俺は真耶さんと一緒に市民アリーナの観客席に座っていた。

IS学園の生徒である俺が何故観客席に居るのかというと、ちょっとした理由がある。

さて、皆は忘れているかも知れないが、俺が強制参加させられるのは戦闘行事のみ。いくら妨害が許可されているとは言えレースは戦闘ではない。なので俺は参加の拒否が可能。そしてもう一つに、正宗はISほど高速で飛行出来ない。真打劔冑は出来た瞬間にはもう完成形であり、拡張性はない。なので正宗にブースターやら何やらを着けたりすることは出来ないのだ。まぁ、装甲を外部から着ける(被せる)くらいは出来るかもしれないが。

そう言っていると速度において劔冑はISに勝てないと言っているように聞こえるが、概ねその通りだ。ただし、俺が知る限り例外が二人いる。

師匠と師範代ならISの速度すら余裕で超える速度で騎航するだろう。あの二人は規格外だ。

 まぁ、そんなわけで俺はこの行事に参加することが出来ないので見学させてもらうことにした。

しかし・・・・・・隣、それも至近距離で俺に身体を預けるようにくっついている真耶さんと一緒にのんびりと待つのもいいものだ。

九月の後半になってきたことで少しばかり肌寒く感じる。それが少し寒いらしく、真耶さんはいつも以上に俺に身体を預けて俺の肩に頭をコテン、と乗っけていた。

 

「い、いつもよりくっついてきますね」

「そ、そうですか・・・・・・」

 

 俺はいつも以上に密着してくる真耶さんにドキドキしっぱなしだった。さっきのんびりと言ったくせに、その実はドキドキしっぱなしで全然のんびりしていない。柔らかい感触が触れている部分から充分に伝わり、真耶さんの温もりを感じる。至近距離で真耶さんが俺の顔を笑顔で覗き込んでくるのだ。これでドキドキしないほうがおかしい。

 

「そ、その・・・今日はちょっと肌寒いですから・・・・・・」

 

 そう恥ずかしがりながらもさらに俺にくっつく真耶さん。

真っ赤になりながらも嬉しそうだ。

 

(か、可愛い! このまま抱きしめたい・・・・・・)

 

 そういう感情が湧き上がってくるが、さすがに公衆の面前、それは出来ない。

なのでぐっと堪えた。内心で堪えた自分を少し褒めたい。

 

「そ、そうですか・・・・・・なら仕方ないですね。でもそれじゃまだ寒いかもしれません。だから」

 

 そう答えて真耶さんの肩を軽く抱き寄せた。

 

「一夏君・・・・・・」

 

 さらに顔を真っ赤にしつつも俺に身体を預けてくれる真耶さん。真っ赤なのに嬉しそうに笑顔を向けてくれる。

 

(一夏君ったら、もう・・・本当に格好いいんですから)

 

 そんな笑顔を向けられると俺も心が温かくなる。

ああ、もう本当に可愛いなぁ、この人は。

真耶さんを見つめながら、そんなことを考えていた。

何故だかは知らないが、俺達の周りは人が居ないので、それが有り難かった。(二人のイチャつきっぷりに居た堪れなくなったために退去。二人は熱中しすぎて気付かなかった)

 

「そろそろ始まりますね、キャノンボールファスト」

「そうですね。一夏君は誰が勝つと思いますか?」

「う~ん、難しいですね。性能なら箒の紅椿ですが、あいつには経験が足りないし、精神的にも油断しがちですから勝てるかは分かりません。経験ならラウラやセシリア、シャルの方が上ですからこの三人のうちの誰かだとは思いますが」

「鳳さんは入ってないんですか?」

「あいつは好戦的過ぎます。逃げたり躱したりするより、叩き潰すほうを選ぶでしょう。その間に他の者に抜かれると思いますよ」

 

 そんな風にこのレースについて話していると、何故か真耶さんがジト目で此方を見てきた。この至近距離でそんな目を向けられるのは少し辛い。

 

「随分みんなのこと分かってますね」

 

 そう言って少し頬を膨らませる真耶さん。

その可愛らしい様子に笑いそうになるのを何とか堪える。

 

「全員一回は戦ってますから。戦えば大体の力量は分かりますよ。だから真耶さんが心配するようなことはありません、俺は真耶さん一筋ですから。ね、真耶さん」

 

 そう言い、拗ねる真耶さんの肩を抱く手に力を込めて此方にたぐり寄せる。

 

「は、はうっ!? もう、一夏君ったら」

 

 恥ずかしがって真っ赤になりつつも真耶さんは俺にもっとくっついてくれた。

本当に可愛い人なんだから・・・・・・気が気じゃない。

 そして箒達がさっそくスタート地点に揃う。

皆やる気に満ちた表情をしていた。よかった、どうやら今日は元気のようだ。最近ラウラを除いた四人が元気が無かったようだから心配していたが、大丈夫のようだ。

 皆がスタート前で闘志を燃やしていた。ラウラや鈴やセシリアは専用のパッケージを装着しているらしく、シルエットが装着前とかなり変わっていた。シャルはブースターを増設したらしく、リヴァイブの後ろから突きだしたブースターが物々しい。唯一何も付けていない箒は、スラスターを調節しているらしい。

 皆レースへの意気込みを感じた。

そして・・・・・・観客が一杯集まる中、レース開始のブザーが鳴り響いた。

飛び出す五人。さすがに肉眼では見えないのでモニターの映像で鑑賞する。といっても俺は肉眼でも捕らえられるのだが。

 さっそくトップにセシリアが躍り出た。

何でも臨海学校のときからダウンロードしていたらしく、たぶんだが一番高速飛行の練度が高い。なのでさすがとしか言いようがないな。

そしてそれを追随する鈴。専用のパッケージを使っているだけに、セシリアに引けを取らない。

そして競り合いを始める二人。

その二人がぶつかり合っているのを利用して今度はラウラが前へと乗り出した。その後ろからシャルがついて行く。箒はまだ様子を見ているようだ。

 そのままレースは二週目に突入。

さらに白熱していく。熾烈なトップ争いの上、またセシリアがトップに躍り出た所で突如、上空から打ち出されたレーザーがセシリア達の行く先を塞いだ。

急なことに回避機動を取ったセシリア達の目の前には、見たこともないISが立ち憚っていた。

 

 

 

 「何事だっ!」

 

 俺はこの事態に真耶さんを守るように後ろに回してアリーナにいるISを睨み付ける。

 

「あれはイギリスのBT二号機『サイレントゼフィルス』です!」

「知ってるんですか、真耶さん」

「はい、あれはイギリスのISです。でも少し前に強奪されたって情報が・・・」

 

 どうやらイギリスから盗んだISを使って襲撃をかけてきた輩のようだ。

セシリアは何かあるらしく、躍起になっているようだ。あのままではまずい。すぐにでも助けに行きたいが、周りはパニックに陥りかけているので係員と一緒に避難を手伝わなければならない。

 そうこうして避難の手伝いを終えしだいには、ラウラが堕とされていた。

シャルはラウラを守るためにそこから動けない。敵ISは三機を相手にしているというのに、まったく引けを取らずに戦っていた。寧ろ三機を翻弄すらしていた。

 そして敵が此方の方を向くと・・・・・・口元が笑っていた。

そしてそのスナイパーライフルの銃口を此方に、具体的には俺に向けてきた。

その行為から俺が狙いなのは充分に分かる。俺は即座に戦闘態勢に移行、正宗を呼び寄せようとするが・・・・・・

 

「おいおい、勝手に人の得物に手ぇ出してんじゃねぇよ」

 

 そのドスが効いた金打声がアリーナから聞こえた。

その声に反応してサイレントゼフィルスが此方に向けていたライフルを声のした方へと向ける。

そこには、一騎の武者が立っていた。空中にいるのに、合当理も噴かせずに。それどころか合当理も無かった。

その武者は威風堂々に腕を組んでそこに仁王立ちしていた。

 サイレントゼフィルスはその武者を敵として認識したらしく、ライフルを撃とうと構えた瞬間、

 

「おせぇんだよ、この雑魚がぁああああっ!!」

『初音っ!!』

 

 そう吠えると、その場から消えた。

え・・・・・・そう思った瞬間にはサイレントゼフィルスより下にいた。

それを俺が認識した瞬間・・・・・・サイレントゼフィルスの装甲が砕け散った。

サイレントゼフィルスはさっきの一瞬にして斬られたのだとやっと理解できた。

さっきまでIS三機を相手に、余裕とも言えるほどの動きで圧倒していたサイレントゼフィルスが、たった一撃で大破させられた。

サイレントゼフィルスは這々の体で逃げ出したが、武者は追いかける気がないらしく、その場に突っ立ったままだ。

 そのことに衝撃を受ける箒達。俺は即座に身構える。

箒達は復帰するとその武者を取り囲もうと動き始め、何が目的かを聞こうとした。

しかし、その必要は無用になってしまった。

 

「あぁ、お前等は別にいいよ。どこでも好きな所に行きな。俺が用があんのは・・・」

 

 そう箒達に答え、此方に視線を向ける。

 

「お前だよ、織斑 一夏!! お前と殺し合い(やりあい)に来たんだ!」

 

 そう俺に言い刀を向ける。

やはりと言うべきか、俺に用があるらしい。

俺は真耶さんの方を向き笑顔で言う。

 

「すみません、真耶さん。向こうから呼ばれたようなので行ってきます」

 

 すると真耶さんは泣きそうな顔になっていた。

 

「絶対に無茶しちゃ駄目ですよ! 絶対ですからね。それで無事に帰ってきて下さい、約束ですよ」

 

 俺を止めることは出来ないと分かってくれているので、そう声をかけてくれた。そのことが嬉しい。

 

「はい、できる限りそうします。だって、せっかくの誕生日なんですからね」

 

 そう答えて俺は武者の方へと歩いて行った。

 

(さぁ、久々の『死合い』だ)

 

そう思いながら・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 




次回はまったく甘くありません。
そのかわり・・・・・・熱いです。

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