一夏君の誕生日を聞いた翌日の夜。
私はというと・・・・・・居酒屋に来ていました。
実は一夏君の誕生日を祝おうと決意したのですが、恋人と過ごす誕生日というのはどう祝えば良いのかというのがよく分からなくて・・・・・・
なのでここは身内の方や先達の方にご意見を頂こうと思い本日に至った次第です。
ここに呼んだのは一夏君のお姉さんである千冬さん、よく学園で色恋の話が多く、殆ど失敗して赤提灯を潜る回数№1の榊原 菜月さん、それと趣味が渋いせいで中々恋人が出来ないと悩んでいるエドワース・フランシィさんの計三人。
この人達なら私の悩みにも答えを出してくれそうな気がしたので来て頂きました。
私達は四人揃うと、さっそく居酒屋に入って席に着きました。
まずは生ビールを全員頼んで乾杯。千冬さんは男らしくグイッと煽っていました。
私はと言うと、少し口を付けただけでやめます。前はそんなことなかったんですが、一夏君と付き合うようになってからお酒は殆ど飲まなくなりました。何というか・・・・・・あまり飲んでると一夏君に嫌われてしまいそうな気がして。それに一夏君と一緒にいると幸せすぎて飲む気にならないんですよ~えへへ・・・・・・
こ、こほん、本題から逸れてしまいましたね。では本題に戻ります。
私達はそれなりに飲んで(私はほろ酔い程度にしか飲んでませんよ)から気を見計らってみんなに相談することしました。
「それで、一体今日は何でこんな所に呼んだんだ、真耶?」
千冬さんが私を見ながら聞いてきました。普段から付き合いのある千冬さんは、私から誘うことが多くないので何かあると思ったらしいです。さすがは一夏君のお姉さん、鋭いです。
「じ、実は・・・相談したいことがありまして」
「珍しいじゃない、山田先生が私達に相談なんて」
「そうね、マヤが相談を持ちかけるなんて今までなかったし。愚痴と言えば榊原先生の専売特許だしね~」
私の話に他の二人も食いついてきました。やはり女性はいくつになってもこういう話とかが好きですね~。私も好きですし。
「その・・・一夏君の事なんですけど・・・」
「一夏のこと?」
「あの彼ね。どうかしたの?」
相談できる体勢が整ったと思い、私はさっそく話し始めました。
「その、一夏君の誕生日がもうそろそろなのは御存知ですよね、千冬さん」
「ああ、九月二十七日だ」
「ちなみに千冬さんはその日は?」
「私はキャノンボールフィストの後始末で帰るのが遅くなる。確か真耶は非番だったな」
そう、私は二十七日は非番、つまりお休みなんですよ。
だからその日は朝から一夏君と一緒に居ようと思いまして・・・・・・朝から一緒なんて嬉しくて仕方ないです、うふふふ。ただ、一夏君は参加こそしませんが授業なのでキャノンボールフィストは見学です。なので休みと言っても私も市民アリーナに行くことは変わらないのですけどね。でも一夏君の隣に座って一緒に見られるだけでも嬉しくて・・・・・・
その光景を思い浮かべてしまいます。
一夏君にぴったりとくっついて、一夏君の肩に頭を軽く乗せて。それで一夏君が真っ赤になりながらも嬉しそうに受け入れてくれて。真っ赤になった一夏君って凄く可愛いんですよ!
普段はきっちりしてて格好いいのに、照れたりしたときは真っ赤になったりして、そう言うギャップがまた可愛くて・・・・・・
「おい、真耶。妄想に耽ってないで本題に入れ」
「はっ!?」
いけません、ついつい妄想に耽ってしまいました。今日の目的を忘れそうになってしまいましたね。
「す、すみません。それで一夏君の誕生日なんですが、その、い、一緒に過ごしませんかって誘ってみまして・・・・・・」
何とか本題を口に出来たのですが、恥ずかしさとアルコールのこともあって頬が熱くなってしまいます。それを聞いた千冬さんは何とも言えない顔になってしまいました。
「そ、そうか。ま、まぁ、恋人同士なら当然のことだな(これではまた家に帰りづらくなってしまうな・・・・・・)」
「へぇ、山田先生ったら大胆ねぇ」
「変わったわね~マヤ。昔はそんなに積極的なタイプじゃなかったのに」
そうみなさんは口々に言います。そこまで変わった自覚なんてないんですけどね。これも偏に、一夏君の御蔭ですね、きっと。
「しかし、それがどうしたんだ? そのまま祝ってやればいいじゃないか」
「そ、それはそうなんですけど・・・・・・せっかく好きな人の誕生日を祝うんですから、何か思い出に残る、記念すべき日になるようなものにしたいんです」
そう、初めて出来た恋人の誕生日を祝うのだから、一生の記念に残るような、そんな誕生日にしてあげたい。私がそう力強く言うと、千冬さんを除く二人が死んだ目でこっちを見ていました。
((明らかに恋する乙女になってる・・・・・・羨ましい))
「お前の言いたいことは大体わかったが、具体的には?」
千冬さんは二人を気にせずに聞いてきました。
「実は、プレゼントをどうしようか悩んでるんですよ」
「プレゼント?」
「はい。酷い話なんですが、お料理では一夏君ほど美味しいものは作れないのでケーキを買ってくることしか出来ませんし・・・・・・せめてプレゼントだけでもと思ったんですけど・・・・・・・」
「「「ど?」」」
「一夏君が何をもらったら喜んでくれるのか分からなくて」
そう、私が悩んでいるのはそこに尽きます。
「別になんだっていいだろ。あいつは人からもらった物は大切にする性質だぞ」
「恋人からもらえる物だったら何でも喜ぶんじゃない」
「そこまで考えることなの? 贈り物は思いが大事なんだからそこまで難しく考える必要ないと思うんだけど」
みなさんが言っていることは私だって理解しています。でも・・・・・・
「だから悩んでるんですよ。一夏君はたぶん、これは自惚れとかじゃないですけど、絶対に私からもらったものを喜んでくれると思います。一夏君は優しいから。でも私は一夏君にもっと喜んでもらいたいんですよ、一夏君の予想を上回るくらいに」
「つまりは一夏が驚くほどに喜ばれたいと」
「はい・・・・・・」
一夏君は優しいから私があげたものはきっと何でも喜んでくれると思います。でも、私は、本当にもらって良かったって、思ってもらえるほどのものを送りたい。だって好きな人ですもの、喜んでもらいたいのは当然じゃないですか。いつも一夏君にはもらってばかりなんですから、私だって一夏君に一杯返したい。幸せにしてもらってる分、その幸せを倍以上で一夏君に返したいんですよ。(一夏はまるっきり反対のことを考えていて、真耶にもらってばかりで自分を不甲斐なく思っている)
そう皆さんに言うと、さっそく皆さんは考え始めました・・・・・・さらにジョッキを煽って。
すると顔をアルコールで真っ赤にした榊原さんがニヤニヤした顔で私の方を向きます。
「そういえば、あなた達ってどこまで行ってるの? キスは? それとも、もうその先もしちゃった?」
「なっ、何言ってるんですか榊原さん!? そ、そんな・・・・・・」
「ブゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
言われて想像してしまい、ボンッ、と音が鳴るかのように真っ赤になってしまいました。
千冬さんは飲んでいたビールを噴いてしまいます。
「い、一夏にはそのようなことはまだ早い!!」
咳き込みながらもそう言う千冬さんは私をジロ、と睨み付けます。わ、私はまだそういうことはしてませんよ! だから睨まないで下さい!!
「あっはははは! 二人の様子じゃまだみたいね」
エドワースさんが爆笑していました。そんな笑うようなことじゃないのに・・・酷いです。
「それだったら少しは刺激的にしてみてもいいんじゃない。たとえば・・・・・・プレゼントは私、とか言って裸にリボン巻いてさぁ。そしたら彼、我慢できずに飛びかかってくるかもよ」
そう悪ノリしつつも榊原さんが言います。つい想像してしまい、顔が沸騰したかのように熱くなってしまいます。しかし、さすが経験豊富な榊原さんです、まさかそんな方法があるとは思いもよらなかった。
(リボンで大切な所だけ隠した状態で一夏君の前に出て、「わ、私がプレゼントです・・・・・・よかったらどうぞ・・・・・・」と言う自分・・・・・・かなり恥ずかしくて死にたくなりますね。でも、一夏君もあんな雰囲気ですけど年頃の男の子ですし。やっぱりこういうのが好きなのかなぁ。確かに夏休みに一夏君の家に行ったときはかなりドキドキしていたみたいですし・・・・・・でも)
エドワースさんはそんな様子の私を見てさらに笑ってました。どうも二人ともかなりアルコールが廻ってきたみたいです。
「でも一夏君、前に『確かにそういうことをしたい気持ちはありますが、そういうことは責任を持てる立場になるまで待ってくれませんか』って言ってましたし」
「「どこの大人だ!」」
二人はそう突っ込んできましたが、私はあのとき嬉しかったんですよ。彼がちゃんと私のことを考えてくれていて。
すると今度はエドワースさんが笑いながら私に言いました。
「でもね、マヤ。確かに彼はしっかりしてて武士って感じだけど、やっぱり年頃の男の子なのよ。アレをするしないに関わらず、見せるくらいはいいんじゃない。それに男に我慢させるのは、あまりいい女じゃないわよ」
「そ、そうなんですか?」
「わ、私に振るな、知らん!」
つい意見を千冬さんに求めてみましたが、ぶっきらぼうにそっぽを向かれてしまいました。
心なしか顔が真っ赤だったような・・・・・・
でも自分がプレゼントというのは・・・・・・なんだか良い感じな気がしてきました。
私の身も心も一夏君に捧げる、まさに私の本望。それで一夏君が喜んでくれるなら私も嬉しい。それで押し倒されちゃったりしたら・・・キャァァァァァァァァ!
いけないいけない、妄想したら気絶しそうになっちゃいました。だ、駄目ですね、こんな所でこんなことを考えてちゃ。何だか身体が熱くなって来ちゃいました。
「それにね、それとは別にプレゼントを用意したっていいじゃない。プレゼントが一つしか駄目、なんて決まりないんだから」
榊原さんがそう明るい声で言います。
「なんだったらお揃いの何かをプレゼントするってのも一つの手よ。恋人同士ならこれは必須ね」
エドワースさんも会話に熱をあげて意見を上げてくれました。
その後も二人は現実味のない案やエッチな案など、色々と上げていき、その度に私は真っ赤になってしまいます。
その二人が止まったときはすでに酔いつぶれてました。
その間に千冬さんはこの会話を聞いてるだけで意見は一言も言ってません、ただ顔が赤くなってましたが。
私としても有意義なのかよく分からないものばかりでしたが、何とか参考にするような話が聞けて助かりました。御蔭で大体自分の中でプレゼントなどの案がまとまっていきます。
そしてそろそろ帰ろうと思い勘定のために席から立ち上がったところで千冬さんに呼び止められました。
「そうそう、真耶。誕生日の料理はお前が作った方がいいぞ。あいつはお前の作った料理が大好きみたいだからな。あいつは自分で作った料理を食べても笑わないが、お前が作った料理を食べると笑うんだ」
そう千冬さんは言いながら酔いつぶれた二人を起き上がらせてました。
(一夏君は私の作ったお料理で笑顔になってくれる、かぁ~。嬉しいなぁ、だったら誕生日も頑張ろう! 一夏君に喜んでもらえるように頑張らないと!!)
私はそう決意して勘定を済ませると、千冬さんの手伝いをしながら店を後にした。
一方千冬は・・・・・・
(あいつがお前のことをかなり自慢するかのように語るんだ。お前と一緒に居られて幸せだって、思いっきりな。そんなあいつならお前の料理だって喜んでくれるだろうさ、きっと、百パーセントな。た・だ・し、まだ義姉さんと呼ばせる気はないぞ、真耶!)
とそんなことを考えていた。