あれから俺がどうしたのかというと・・・・・・真耶さんを保健室へと運んでいた。
その際に背負うべきか抱きかかえるべきか(お姫様だっこ)するべきか悩んだが、その選択はかなりの労を要した。
理由は・・・・・・映画のせいもある。
あの映画のせいで俺と真耶さんの関係は正真正銘IS学園すべてに知れ渡ってしまった。
そのせいでどこに行こうと周りからの視線が突き刺さるのだ。
それも黄色い声と共に。御蔭でどこに行こうとも好奇の視線に晒されていた。
どちらにしろ見られる。
気絶している人間を運ぶのなら背負うべきなのだが、これにも問題が・・・・・・。
気絶している人間は起きているときよりも重いものだ。要因としては普段無意識に入れている力も抜けるからである。そのため気絶している真耶さんを背負うと、いつもより力が入っていないためにより俺に身体を預けることになる。結果・・・・・・いつも以上の重みと密着感を感じることになる。
あの映画を見させられたりしたあとではあまりにも生々しすぎて俺が耐えられかねない。
しかしお姫様だっこではさらに人の目を集めることになってしまう。
本気で悩んだ結果・・・・・・・・・
お姫様だっこで運ぶことにした。
今更人の目を気にしても仕方ないと開き直ってしまったからだ。
そしてお姫様だっこで真耶さんを保健室まで運ぶことに。
予想通り周りから黄色い声が湧き上がり好奇と羨望の眼差しが此方に殺到したが、俺は愛想笑いを浮かべながら保健室を目指した。
しかしまさか、制服姿の真耶さんを運ぶ日がこようとは思いもしなかった。
前も思ったのだが、真耶さんは軽い。軽すぎるとさえ思う。
本人は体重のことを気にしているようだが、俺はちゃんと食べてるのか心配になってしまう。
まぁ、体重のことを気にするのも女性っぽいので、そんなところも可愛く思えてしまう。
湊斗家ではあまり気にするのは多くなかったし・・・・・・(村正は劔冑なのであまり気にしていないし、光は武者故に太りづらい。他以下同文。ただし一条は気にしているらしい)
俺はそんなことも愛おしく感じながら真耶さんを保健室に運んだ。
さっそくベットに寝かせると、真耶さんは何だか気持ちよさそうだ。
「えへへ~、一夏く~ん・・・・・・・・・」
と可愛らしく寝言を言っていた。
(はぁ~・・・・・・可愛い・・・・・・)
などと思ってしまうが、仕方ないことではないだろうか。
恋人が寝ていても自分のことを見ていてくれるというのは、それだけでも満たされた気分になる。
俺は少しだけ幸せを噛み締めると、そっと真耶さんのおでこにキスをした。
ちょっとしたイタズラ心だったりする。きっと俺も映画に感化されたのだろう。
「っ・・・・・・」
自分でやっておいてあとから恥ずかしさがこみ上げてきた。
俺はそれを飲み込み、出口へと向かう。
「それじゃ真耶さん、失礼します。しばらくゆっくり休んで下さいね」
そう寝ている真耶さんに言い、俺は保健室を後にした。
保健室をでた後に俺は教室へと向かっていた。
放送で呼び出されたとはいえ、クラスの出し物を放置してしまったの不味いだろう。
すこし急いだ歩調で歩く俺にいきなり声がかけられた。
「すみません、ちょっとよろしいでしょうか」
俺に声をかけてきたのはスーツを着た女性だった。
歳は二十代くらい、長めの茶髪で綺麗な人だ。
女性は俺に軽く挨拶すると名刺を渡してきた。名前は『巻紙 礼子』、政府関係者らしい。
どうやら政府での話があるらしく、出来れば人に聞かれたくないようなので学園祭では使われていない第二アリーナの前にある更衣室へと向かった。
端から見れば女性と二人っきりになろうとしているようにしか見えないだろう。ただし・・・・・・そんな『色っぽい』ことではないが。
更衣室は使われていないだけにひっそりと静まりかえっていた。
「それで・・・・・・どういったご用件でしょうか・・・・・・亡国機業さん」
「なぁっ!?」
巻上さんにそう言うと巻上さんは驚愕に顔を固めていた。
俺はニヤリと笑いながら話す。
「政府からあなた方が此方に出向く話は聞かされておりました。今日のようなイベントは潜入しやすい。しかもあんな映画が上映されたあとに自分に声をかけてくるのはちゃんとした用がある人か、そのような謀を企んでいる人だけです。何よりも・・・・・・そんな『殺気』が隠し切れていないような輩が一般人であるわけがありません。必然的に亡国機業しかありませんよ」
「ちっ、既にばれてやがったか! その通り、私は亡国機業のオータム様だぁ!! 覚える必要はねぇけどなぁ!」
正体がばれたことに被っていた仮面を巻上さん・・・オータムは引きはがした。
さっきまで綺麗な感じの顔が狂喜に歪み殺意に満ちた顔になる。
「それで自分に何のご用でしょうか? 手短に済ませて頂けませんか」
「どうせわかってんだろ! 手前ぇの命と劔冑が狙いだよ。つーわけだ、劔冑よこして死んでくんねぇか」
「応じるわけないじゃないですか」
「そりゃそうだ。だから応じるようにするんだよ!」
そう言い切るとオータムは俺の目の前に何かのスイッチを翳してきた。
「こいつが何か分かるか? こいつはなぁ・・・・・・爆弾のスイッチだよ。押せばまぁ、学園が月まで吹っ飛ぶようになってる。何が言いたいかはこれでわかるよなぁ」
「つまりは学園に来ている人全員が人質だと」
「そういうことだ。『正義』を表する奴が人を守らないわけにはいかねぇよなぁ」
そう蛇のような視線で俺の挑発するオータム。
たしかに正義を成すものとして無関係な人を巻き込むわけにはいかない。
卑怯な手段に怒りが湧いてくるのを我慢して堪える。
一応此方にも秘策がある。
あの方には申し訳無いが、こういうのを防ぐためにも招待させてもらった。
あの方がくる場所である以上、絶対の安全を確保しなくてはならないある人達がいる。
「尚のこと聞けませんね。そんな卑怯な申し出を受け入れるわけにはいきません」
「はっ、正義の味方が自分の命ほしさに周りを見殺すのか。とんだ正義の味方様だなぁ」
「そう言うわけではありませんよ。何せ・・・・・・その爆弾はもう使い物にならないですから」
「何?」
「だからそんな脅しに引く理由はありません」
「そんな嘘が通用すると思うなよぉ!!」
そう言い捨ててオータムはスイッチを押し込む。
しかし周りは何も怒らなかった。
「なっ!? どういうことだ、こいつはぁ!」
驚きつつもスイッチを連打するオータム。
しかし一行に爆発する気配も無い。
「あなた方は甘く見過ぎだ。六波羅をね」
そう笑顔で告げる。
「今日の学園祭には六波羅次期盟主たる足利 邦氏様がいらしておられる。その影には常に六波羅特殊部隊『厩衆』がいる。彼らは六波羅に危害を成そうとするものすべてを容赦なく消していく。当然行く先にある危険なものもな。そんな爆弾を仕掛けたところで邦氏様がいらしている以上、当然無力化されている。つまりそんな爆弾は徒労に過ぎん」
「ちっ、糞六波羅がぁ!? ならこのまま手前ぇを殺すだけだ!!」
オータムがいらただしげにそう言い捨てると同時俺は正宗に呼びかける。
「正宗、斬馬刀を!」
『応』
オータムがISを展開しようとする前に正宗から飛ばされた斬馬刀を掴むと、即座に抜刀。
オータムに向かって一閃する。
「なっ!?」
まさかISを展開する前に斬り付けられるとは思ってもいなかったのだろう。オータムの顔が驚愕に染まる。そして・・・・・・
「がぁああああああああああああああああぁあああああああああああっ!!」
オータムの右腕が中を舞った。
オータムが叫ぶと同時に斬られた腕から血が噴き出し、血飛沫が舞う。
「今日は学園祭故、無粋なことはしたくない。大人しく腕を抱えて帰るといい。今からならすぐに治療すればちゃんとくっつく。嫌だというなら・・・・・・今度はその首を飛ばすぞ」
殺気を纏ってそうオータムに言うと、オータムは顔を恐怖で青ざめさせていた。たぶん血が足りなくなっていることも要因になっている。
「ちっ、糞がぁ!!」
オータムは弾かれるように切り落とされた腕を回収し更衣室を飛び出して行った。
「さて、急がないとな・・・・・・」
そう呟いて俺も更衣室をあとにした。