でも甘くしすぎるとお気に入りが減っていくんですよね~。
控えた方がいいかな~、と悩み中です。
亡国機業のオータムは大変に困っていた。
今年の春から亡国機業は本格的な活動を行おうとしていた。
他の国からIS・・・現行最強の兵器を各国から奪い、それを用いてテロなどを行う予定だった。
しかしその計画にはほころびが生じてしまう。
日本が劔冑を発表したからだ。
それまでISが最強だったはずだが、この劔冑によって世の中は少しずつだが変わり始めた。安全性や火力こそISのほうが上だが、誰にでも乗れて、しかも接近戦はISを凌駕する性能を持つ古からのパワードスーツ。これにより亡国機業の上層部も意見が割れてしまった。
曰く、ISよりも強いのならそちらを手に入れるべきではないだろうか、と。
それに反対したのはやはりISを操る女性陣だった。
それまでの自分達の優位を脅かされることに我慢ならなかったのだ。
そして白羽の矢が立ったのがこの劔冑を世界に発表した『織斑 一夏』だ。
この男をISで殺すことが出来ればISの優位は保たれる。
そう女性陣の上は判断した。また、男性陣もその意見には意外にも賛成だった。
そうすれば映像で出ていた正宗を手に入れることが出来ると判断したらしい。
そうなり、さっそく『織斑 一夏殺害、及び正宗の奪取計画』が始まったのだが・・・・・・
(どうすればいいんだ・・・・・・)
実行部隊のオータムは内心で頭を抱えていた。
殺そうにも仕方ないとはいえ都合が悪かった。
学園に潜入しなければならないために学園祭を利用したが、こう人混みが多くてはターゲットと中々接触できない。同じ理由で狙撃しようにも障害物が邪魔でターゲットを見つけたとしても一撃で仕留められる可能性が低い。
ここが重要であり、もし一撃で沈められなければ此方が不味くなる。
組織が調べた情報では真打劔冑とやらを使う人間には生体再生能力が高くなるらしく、ちょっとやそっとじゃ死なないらしい。
つまり一撃で仕留められなければ劔冑の装甲を許してしまい戦闘になってしまう。
もちろんオータムはそんなものに負ける気はないが、むしろそれによって騒ぎが大きくなり他のISが来られるのは勘弁願いたかった。
そうなれば色々とややこしい。ミッションの難易度が上がってしまう。
理想としては秘密裏に誰にも気づかれずにターゲットを殺害し、その劔冑を奪取。そして速やかに帰還。
しかしそう現実的にはうまくいくわけがなく、中々ターゲットに接触出来ずにいた。ターゲットのクラスの出し物を覗きに行ったら、生憎休憩時間でいないらしい。
普段着慣れないスーツを着て、うまくいかないこの任務にオータムのストレスは溜まる一方だった。
唯一の慰みは最初に寄った出店で買った焼きそばだろうか。
(あ、うまい・・・・・・)
オータムは懊悩しつつも焼きそばを啜り、ターゲットを探し廻っていた。
「それじゃあ、行きましょうか」
「そうですね」
真耶さんが楽しそうな笑顔を俺に向けながらはしゃいでいた。
その笑顔は本当に楽しそうで、俺も楽しくなってくる。ここ最近一緒にいられる時間が少なくなってしまっていたから、その分俺も嬉しい。
「それにしても・・・・・・本当に似合ってますね」
「そ、そうですか。一夏君にそう褒めてもらえるとやっぱり嬉しいですね・・・えへへ」
真耶さは真っ赤になりもじもじとしつつも嬉しそうだ。
まさか制服を着ている真耶さんをこの目で拝めようとは・・・・・・
感無量だ。
本当に似合っている。
制服そのものは普通のものを借りたらしい。
しかしとてつもなく似合い可愛い。制服の背丈も合っており、まさに真耶さんのためにあるように感じられた。
これは少し不埒で失礼なことだが、背丈もばっちりあっている制服だが胸囲だけは合っていないらしい。御蔭で胸が窮屈そうで目を向けられない。
「どうかしたんですか?」
「い、いやっ、何でも無いです!」
すこし挙動不審になってしまい急いで慌てる。
さすがにこんなのは恋人に見られたくは無い。
真耶さんが不思議そうな顔を此方に向けてきたが、俺は急いで取り繕った。
それでもやはり似合っている。眼鏡をかけていない真耶さんというのは、それはそれで新鮮味に溢れている。普段の姿も良いが、眼鏡がないと少し引き締まった感じがする。まさに美少女って感じだ。
本人に言うと怒られてしまいそうだが。
真耶さんははしゃぎながら手を絡めてきた。そのことに少しだけ驚いてしまう。
「どうしたんですか、真耶さん? 今日はいつもより積極的ですね」
「だって今日は学園祭ですから! 教師だって少しはハメを外したいんですよ。それに・・・この姿なら先生だってわかりませんからね。堂々と一夏君とくっつけますし・・・・・・」
そうもじもじしながら真っ赤になりつつもさらに密着する真耶さん。
そう言われると嬉しくて俺も笑顔になってしまう。
しかし・・・真耶さんは少しだけだが・・・やはり甘い。
本人は俺に甘えるようにくっついていて俺はさっきからドキドキとしっぱなしだが、それでも周りを伺う事くらい出来る。
(あ、真耶ちゃんだ~。いいな~彼氏)
(羨ましい。私も織斑君にああされたい)
(すっごいイチャイチャっぷり! 眩しいわ!)
と周りのクラスからそんな視線が此方に向けられていた。
モロバレである。
真耶さんが悲しんでしまうから手を離すわけにもいかず(俺だって嬉しいので繋いでいたい)この視線を浴び続けなければならないことに少しだけ汗をかいてしまう。
俺はその視線に耐えながら真耶さんに笑顔を向ける。
「ちょっと寄りたいところがあるんですけど、いいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
笑顔でそう返されると俺も嬉しい。
楽しそうに笑う真耶さんを見ながら、俺は最初の目的地へと向かった。
俺達が来た場所はIS学園の入り口であるゲート前だった。
俺は今日のイベントにある人を招待している。そろそろ来るらしいので出迎えようと思い来た。
「誰か来るんですか?」
「ええ、学園祭のチケットをお渡ししたので、そろそろ来るそうです。だからお出迎えを」
「一夏君のお友達ですか?」
「そ、そうですね・・・・・・たぶん・・・」
「?」
真耶さんは頭を可愛らしく傾けて人差し指を口に当てながら考えていた・・・・・・可愛い・・・。
きっと弾のことだと思っているのだろう。
残念ながらそれは外れだ。確かに弾からチケットをせびられたが、生憎先約があると言って断った。
では師匠かと言えばそうではない。あの人を呼べば当然後ろの人達も来ると言い出す訳で・・・・・・せっかくの学園祭を台無しにされたくは無いのでこのことは連絡していない。
真耶さんに無理を言ってチケットをもらい、俺はある人を招待した。
もう一人とは面識はないが、一応知ってはいる。
とあることで恩があり、その恩に報いると言っては大仰だが、招待させてもらった。
そして待つこと三分。俺達の目の前には高級車のリムジンが停まった。
そして中から二人の人物が出てくる。
「だからこんなので行かなくていいっていってるのに」
「まぁまぁ、おじさまがなさって下さったご厚意ですし、そうむげに扱わなくても」
「それはそうですけど・・・・・・もっと普通な感じに行きたかったんですよ・・・・・・」
そう少し困った感じな表情を浮かべる少年と、少年より少し年上の少女が此方に来る。
少年は利発そうな顔立ちで歳のわりにしっかりした印象を受ける。女性は長い黒髪に着物を着た大和撫子を体現したような感じだ。
俺は二人に近づき、さっそく挨拶をする。
「ようこそお越し下さいました、邦氏様」
「織斑さん! こちらこそ、お招きいただきありがとうございます」
そう少年は俺に丁寧に、歳不相応なまでに丁寧にお礼を返してきた。
そう、俺が招待したのは六波羅次期盟主、足利 邦氏様だ。
以前の会合があったからこそ、今の俺があると言っていい。その時の恩に少しでも報いるために招待チケットを送ったのだ。俺としても、邦氏様のことは応援したい。
俺はもう一人の女性にも挨拶をする。
「お初にお目に掛かります。自分は織斑 一夏と申します」
「あ、知っております、有名ですから。しかし何故邦氏君と?」
「邦氏様とは以前、ちょっとした縁で知り合いました。その際に多大な恩を受けさせて頂きましたので、少しでも返したく思い、本日招待させて頂きました」
「そんな・・・恩だなんて・・・」
邦氏様は少し照れた様子だ。
本人はそんなことは思っていないだろうが、これは俺が受けた恩なのだ。絶対に返したい。
「あ、あの~、一夏君? この人達は」
「あっ、すみません!」
少し置いてけぼりになってしまった真耶さんを慌てて此方に呼ぶ。
真耶さんの姿を見てさっそく邦氏様は気付く。
「ああ、この人があの・・・うまくいって良かったです、織斑さん」
「ありがとうございます」
そう笑顔で言う邦氏様に俺は心から感謝する。
残された女性二人は何か分からないといった様子だ。
俺はさっそく二人のことを真耶さんに紹介する。その際に邦氏様から素性は言わないよう強くお願いされた。外ではもうちょっと自由でありたいらしい。そのお気持ちはよくわかり、俺はその意に沿うことにした。
「こちらは邦氏さ・・・君。夏休みのときにお世話になったんです。そしてこちらは」
「私から言いますよ。私は岡部 桜子と申します。邦氏君の家に下宿させてもらっている者です」
そうおしとやかに此方に紹介する桜子さん。
邦氏様は見惚れて頬が赤くなっていた。真耶さんは「綺麗・・・・・・」とこぼしていたが、俺は真耶さんのほうが綺麗で可愛いと言いたい。決して惚気ではないと言いたい。
今度は真耶さんが二人に挨拶する。
「私は山田 真耶っていいます。その、IS学園の・・・」
言っている最中に片手で口を塞がせてもらった。
驚いた視線を向ける真耶さんに俺は片目をつぶり、人差し指を唇のまえに軽く翳す。
邦氏様は何故俺がそうしたのかがわかり、苦笑していた。
「彼女はその・・・俺の恋人です」
そう照れつつも紹介すると、桜子さんは少し驚き「綺麗で可愛らしい人ですね。おめでとうございます」と祝ってくれた。
「あ、ありがとうございます」
真耶さんは真っ赤になりながらも嬉しそうにお礼を返す。
そのさいに桜子さんから、あらあら、と言った感じに微笑まれてしまった。どちらが年上か分からなくなる。
挨拶もほどほどに俺は二人と別れることにした。
「お二人とも、是非とも楽しんでいって下さい」
「ありがとうございます。では」
そう言って離れる桜子さんと邦氏様。
俺は少しだけ邦氏様を呼び止める。
「(では邦氏様・・・頑張って下さい)」
「(・・・・・・はい、ありがとうございます)」
ある意味を込めた応援を送らせてもらい、二人は人混みへと紛れていった。
「(正宗!?)」
周りに聞かれないようしながら正宗を呼ぶ。
『(どうした、御堂よ)』
「(たぶん陰義でわからないだろうが、邦氏様の護衛に何人いる)」
『(詳しくは分からぬ。しかしそのような気配が微かながらにする。数は推定五くらいだ)』
「(そうか・・・なら大丈夫か)」
そう正宗と連絡を取り合った。
お忍びとは言え邦氏様は六波羅次期盟主。その命や何やらを狙う輩は少なくない。当然護衛もいるだろう。たぶんだが茶々丸さんが前に言っていた厩衆がいるはずだ。隠密の陰義をもつ劔冑が隠れていると睨んだ。これで邦氏様に『害成す』ものは駆逐されるだろう。俺も邦氏様には安心してこの学園祭を楽しんでもらいたい。
「どうかしたんですか、一夏君?」
少し心配そうな顔で俺を覗き込む真耶さん。
心配させてしまったようだ。いけないな、せっかくの学園祭なのに。
「いえ、何でもありませんよ。それじゃあ・・・行きましょうか」
今度は俺が進んで腕を組み真耶さんにくっつく。周りの目も少し気にはなるが、さっき心配させてしまったのだから、安心するように力を軽く込めて、少し抱きしめるような感覚で手を繋ぐ。
「そ、そうですね・・・それじゃいきましょうか」
真耶さんは真っ赤になり恥ずかしがりつつも嬉しそうに手を握り返してくれた。
そして俺達はぴったりと寄り添いながら校舎へと歩いて行った。
繋いだ手を密着するお互いの身体にドキドキしながら・・・・・・