うちのクラスの出し物が決まってから三日が経った。
その間にメニューや部屋の内装、価格設定など色々決まっていく。
メニューは簡単なものが多く、飲み物はコーヒーや紅茶、フルーツジュースなどで、食べ物はクッキーなどの焼き菓子やケーキ、喫茶店でお馴染みのナポリタンなど。
俺としては少しばかり不満だが、真耶さんにまぁまぁ、と宥められてしまった。
そこまで顔に出ていたのだろうか?
そして今日の放課後には外に出て衣装を買いに行くことになった。
前にしたインタビューの伝手を使って黛先輩から衣装を買える店を紹介してもらったのだが、何故あの先輩はこんなお店を知っているんだろうか? 本人曰く、『夏と冬にお世話になってるから』だそうだ。詳しく聞くのは藪蛇な気がして止めた。何事も首を突っ込んでは良いことばかりでは無い。
本来なら女子が行くべきなのだが、皆忙しい上にクラスの責任者である俺が買いに行くことに・・・・・・
引率兼女性の意見を聞くために俺は真耶さんにお願いして付いてきて貰うことにした。
真耶さんは俺の誘いに快く応じてくれた。
その際にクラスメイトがニヤニヤした笑いを此方に向けていたのは言わないで貰いたい。
そして俺と真耶さんは放課後になり次第に学園の外へと向かった。
「う~ん、久々のデートですね」
真耶さんが外に出て一番最初に言ったことはこれだった。
別にデートと言う訳じゃ・・・・・・と本来言うべきなのだが、そう言われて嬉しく思ってしまう以上、やっぱりデートなんだろう。本来の用事からは外れているが、そこはまぁ、見逃してもらいたい。
「そ、そうですね・・・・・・久しぶりな気がします。まだあの夏休みから一週間ちょっとしか経ってないのに」
「そ、そうですね・・・・・・」
そして自爆。
夏祭りのときのことを思い出してしまいお互い真っ赤になってしまう。
しかし無意識の内ににお互い体が近づいていってしまった。
「きゃっ!」「っ!?」
そして手が触れてしまい、お互いに急いで手を離す。
気恥ずかしくなってしまった。既にキスもして夏休みの間には当たり前のように手も繋いでいたというのに。何を今更と周りから言われても仕方ないくらいの反応をしてしまった。
「・・・・・・ちょっと勿体ないですね」
「え?」
「せっかく二人っきりなのに手を繋げないなんて」
そう言って俺の身体を見る真耶さん。
俺は今制服姿であり、真耶さんはいつもと同じ服を着ていた。
「一夏君は今IS学園の生徒として外に出てますから。私は先生として来てますからね・・・・・・」
真耶さんは少し悲しそうな笑顔を俺に向ける。
確かに真耶さんが言っていることは正しく、生徒と教員が手を繋いでいては問題になってしまうだろう・・・・・・『通常は』。
俺はそんな笑顔をする真耶さんの左側に立つと、少し強引に真耶さんの右腕に自分の左腕を絡ませるようにして繋ぐ。
「い、一夏君!?」
急なことに驚く真耶さんに笑顔を向けて答える。
「大丈夫ですよ、繋いでも」
そう言いながらぎゅうっ、と真耶さんの腕に力を込める。
「ここはIS学園じゃないですけど、まぁなんとかなりますから」
「あわわわわわわわわわわわわわわわ!!」
顔を真っ赤にしながら慌てる真耶さんを可愛いと思いながら更に体をくっつけていく。
まさか・・・・・・真耶さんが童顔だからどこからどう見たって先生には見えないとは言えない。
今の俺達はぱっと見でIS学園の生徒と私服を着た学生にしか見えないだろう。
本人に言うと傷つくと思うから言えないのだが。
教師と知らなければそんなものだろう。なので外で手を繋いでも問題無い。
「それじゃ行きましょうか。『デート』に」
「はい!」
俺がそう言うと、心底嬉しそうな笑顔で真耶さんが答える。
うん、可愛くて良い笑顔だ。最近荒んでいた心が癒やされるのを感じた。
俺は真耶さんと腕を組みながら礼のお店へと向かう。
真耶さんの顔からはもう先程のような悲しさは微塵も感じられない。とても幸せそうなご満悦な顔になっていた。
うん、やっぱり真耶さんにはこんな笑顔でいてもらいたい。
そう思いながら歩いて行った。
「ここが例のお店ですか」
「そうみたいですね」
そう言いながら真耶さんと目の前の店をまじまじと見る。
言っては悪いが、普通の代物を扱う店ではないので変な店だと思っていたのだが、実際に見てみるとそんなことはまったくなかった。
普通の服屋とまったく変わらず、内装も綺麗そうだ。
さっそく二人で店内に入った。
「いらっしゃいませ~!」
さっそく店員さんから声を掛けられる。
俺はさっそく黛先輩の紹介であることを伝えた。何でもこう言えば結構融通してくれるとか。
「ああ、KAORUKOちゃんの紹介ね。いいわよ、色々とサービスしちゃう」
そう店員さんは笑いながら言う。どうも黛先輩とは仲が良いらしいが、KAORUKOってなんだろう?
そう疑問に感じたが、それよりも予定優先で聞かないことにした。
取り敢えず俺がIS学園の生徒であり、学園祭にコスプレ喫茶をすることになったので衣装を買いに来たことを言うと店員さんはノリノリで話を聞いてくれた。
「それでそちらの彼女は?」
「はい、私は」
素直に答えようとした真耶さんを口を手で塞ぐ。
いきなりのことに真耶さんは目を白黒させていたが、言わせるわけにはいかない。
俺は手に当たる真耶さんの柔らかい唇にドキドキしながらも店員さんに答える。
「彼女は俺のクラスメイトです。衣装について意見を貰おうと思い一緒に来て貰いました」
「あら、もしかして恋人?」
「ええ、まぁ」
そう言われ照れてしまう。
真耶さんを見ると俺と同じように真っ赤になりながら照れていた。
「初々しいわね~。いいな~恋人」
そうしみじみ呟く店員さんに俺は苦笑しか返せなかった。
さっそく衣装についてまとめた紙を渡すと店員さんはすぐ用意できます、と快く答えてくれた。
「せっかくだから試着していかない?」
「いいんですか」
「ええ、実際に物を見た方が良いでしょ。それに幸い、丁度良いモデルが此処にはいるんだし。ね」
そう少し意地が悪い笑みを浮かべると、店員さんは今度は真耶さんの方に行くと、俺に聞こえないように真耶さんに何かを言う。すると真耶さんはヤカンみたいに真っ赤になっていた。
たぶん何か吹き込まれたんだろう。
しかし…実際の話、確かに衣装には目を通した方が良い。
サイズ云々は後で修正するにしても、どういう服かは見とくべきだ。
決して……店員さんに唆されて色々な格好をした真耶さんが見たいとか、そういうわけじ……すみません、嘘です。正直見てみたくて折れてしまいました。少しだけだが、こんなんで武者としてやっていけるのか不安になった。
俺はしばらく反対側を向いているよう言われ、その間に店員さんが真耶さんに衣装を渡して更衣室へと進めていく。
するとしばらくして真耶さんの驚く声がして、そのあと衣擦れの音が聞こえてきた。
音がする度心臓がドキドキして仕方ない。
そして待つこと約五分。
「それじゃいいわよ」
店員さんにそう言われ振り返る。
「では、じゃーん!」
そう大きめな声で店員さんは更衣室のカーテンを開ける。するとそこには・・・・・・
「お、おかえりなさいませ、ご主人様・・・・・・」
メイド服を着た真耶さんがいた。
黒と白のメイド服。
短めのスカートにガーターベルトをつけ、ハイニーソックスを穿いた足。
胸が主張されるタイプで、より胸が大きく見える。
いつもとは違う、見たことの無い真耶さんがそこにはいた。
「ど、どうですか・・・・・・似合ってます?」
顔を真っ赤にしながら此方を上目遣いで伺ってくる真耶さん。
俺は自分の顔が真っ赤になっていくのが分かりながらも目が離せずにいた。
ドキドキと心臓が破裂しそうな感じがしたが、それでも目が離せない。
「どうやら彼、釘付けみたいね~」
店員さんは俺の反応を見て満足そうな顔をしていた。
その声で何とか意識を戻す俺。
「は、はい、その・・・・・・似合ってます・・・」
何とか振り絞ってこれだけしか言えなかった。
「そ、そうですか・・・よかった~」
そう安心しながら俺に近づいてくる真耶さん。
俺の目の前にくるとさらに意識させられた。
「そ、そう言えばさっきの『ご主人様』ていうのは・・・・・・」
「はうっ!? じ、実は…その…ああ言え一夏君が喜ぶって店員さんが言ってたんで・・・」
そう真っ赤になりながら答える真耶さん。
俺は店員さんの方を向くと、店員さんは親指を上に立てた拳を此方に向けて笑顔をしていた。
俺は何とも言えない顔をしてしまう。
「はいはい、じゃあ次の衣装よ。彼氏さんはまた反対側を向いて」
「えぇ、まだあるんですか!?」
「ええ、まだ一杯あるわよ」
店員さんはそう笑顔で意気揚々に答えると、また真耶さんを更衣室に入れ、衣装を取りに行ってしまった。
その後もしばらくこれは続いていく。
ナース服を着た真耶さんは以外にもノリノリで、『これで一夏君の看病をしたいです』と言っていたが、正直勘弁願いたい。そんな格好で看病されてはドキドキし過ぎて心不全を起こしそうだ。
どこかにありそうな学校のブレザーを着たときは違和感のなさに内心驚いた。
実際にクラスに一人は居そうな感じ。
レースクイーンの格好は体のラインが主張されすぎていて直視できなかった。
チアガールの格好も以外と気に入ったようで、『これで一夏君を応援してみたいです』と喜んで動いて見せてみたが、それも出来れば止めて貰いたい。動く度に揺れる胸とか、アンスコを穿いているとは言え見えるスカートの中とか、気になって集中出来ないだろう、絶対に。
その後もしばらく真耶さんのファッションショーは続いていき、その度に俺はドキドキして、心臓が持つのか心配になった。
そして店員さんが満足するまでこれは続き、解放される頃には外が暗くなり始めていた。
店を出た頃にはもうすっかり暗くなり、帰らなくてはならない時間になっていた。
「もうすっかりこんな時間。早く帰らないといけませんね」
「そうですね」
「はぁ~、せっかく一夏君と色々なところに行きたかったのに・・・・・・ちょっと残念です」
真耶さんは少し残念そうな顔をしていたが、俺はそれを見ながら笑う。
「俺はそうでもないですよ」
「え?」
「だって・・・色々な真耶さんが見られましたから」
そう答えて携帯を真耶さんの目の前にかざす。
携帯の画面には真耶さんの色々な姿が映っていた。
「い、いつの間に撮ってたんですか!?」
携帯を見て真っ赤になる真耶さん。
バレないように写真を撮っていたのだ。
「せっかくの恋人の色々な姿ですから、撮っておきたくて」
「あ、あぅ~、恥ずかしいです。もう、一夏君ったら」
そう言いながらも俺に抱きつくかのように腕を絡めながらくっついてくる。
「いいんですか、『先生』」
「いいんですよ」
そう笑顔で真耶さんは答えると、不意打ちで俺の頬にキスをした。
「仕返しです。えへへへへ」
そう真っ赤になりながら照れる真耶さんを見て、俺は胸が一杯になるのを感じた。
こうして俺達はIS学園へと戻っていった。
今日のことはきっと将来忘れないだろうなぁ~、などと俺は思う。
だって、好きな人の色々な姿が見られたのだから。
これは余談だが、実は俺も衣装を着させられた。
真白いパイロットスーツのような感じのもだ。
着たら店陰さんのクリップボードを見せられセリフを言うように言われた。
「えぇ~と、何々・・・『人間だけが神を持つ。俺に力を見せろ、ユニコーン!』」