さて、朝っぱらからやらかしてしまい怒られてしまった後。
俺はというと、アリーナでの実習のために更衣室の前を通り過ぎようとしていた。
ISならISスーツを着なければならないものだが、劔冑を使う武者にはそんなものはないので着替える必要がない。
なのでそのまま行こうと思ったのだが・・・・・・
こうもつけ回されては流石に気になるというもの。
さっきから、具体的には教室を出た瞬間から俺を尾行している者がいた。
自惚れの線でおっかけなどと言えるものなら気も楽なのだが、気配を消しているあたりそのようなものではない。
この消し方は訓練を積んだ者のそれであり、警戒するなと言う方が無理な話だ。
俺は足を止めると後ろに振り返る。
「いつまで俺のことをつけ回す気ですか? 場合によっては容赦しませんよ」
そう誰も居ない通路に向かって言うと、物陰から誰かが出てきた。
「いやぁ~、さすがは武者ね。お見通しかぁ~。てっきり山ちゃんと付き合ってデレデレだったから鈍ってると思ったのに」
そう言いながら出てきたのは女生徒だた。
水色で外はねした髪に、服を着ていても分かるほどに抜群のプロポーション、自信がありありと出ている瞳をした少女。リボンの色からして二年生だ。
「何の用でしょうか、更識生徒会長」
「あれ、私って自己紹介したっけ?」
「自分の通っている学校の生徒会長を知らない人なんてまれですよ」
目の前にいる人はこのIS学園の生徒会長だ。
確かに一年生はやけにごたごたが多かったので面識はないだろうが、それぐらい少し調べれば直ぐに出る。
と、言うよりもパンフレットに載っているのだから見ればすぐに分かる話だ。
それに・・・・・・この人の情報は別の方も政府から受けている。
「それで、生徒会長が俺に何用でしょうか? それとも・・・・・・日本の対暗部用暗部の一つ、更識家の現党首、十七代目楯無が俺に何か?」
「・・・・・・へぇ~、そういうのも知ってるんだ~」
そう答えた瞬間に生徒会長の顔色が変わる。
「別に驚くようなことではないでしょう? 俺は政府の命でこの学園に来たんですよ。それくらいの情報は入ってきますよ」
「ちょっとずるいかなぁ~、こっちは君のことや劔冑のことをテレビを見るまで情報なんか無かったのに」
「それなりに隠されてましたからね。まぁ、歴代の天皇が厳重に封印していましたから劔冑はそれっきり表には出ませんでしたから仕方ないですよ」
そして場の空気が三度ほど下がっていくような感じがしてくる。
「へぇ~、そうなんだ。改めて思ったけど、君ってやっぱり危険ね。とても山ちゃんの前でデレデレしてる人物と同一人物とは思えないわ」
「それはどうも・・・・・・と言うかそんなことまで調べないで下さい、プライベートの侵害ですよ」
「まぁまぁ、結構面白かったわよ」
「そうですか」
普段なら赤面しながら反論なり何なりしているところだが、誰か分かった時点で警戒が上がり戦う手前の状態まで警戒レベルが上がった。
いつもの常態とはちがう。戦うときの状態へと切り替わる。
「そう殺気立たないでよ。ただ挨拶に来ただけよ、それだけ。それじゃあね」
生徒会長はそう明るい声で言って去って行った。
俺は気配が去るまで待った後に急いでアリーナへと向かった。
二学期初日に遅刻などしては堪らないからな。
更識 楯無は明るい声でその場を去ったが、冷や汗を搔き内心は余裕という余裕が無くなっていた。
一学期は何だかんだと言って生徒会もごたつき、一年生の前に出ることが出来なかった。
特に今回は政府から特別に入学させられた彼、織斑 一夏がいる。
劔冑という兵器を使う、武者と呼ばれる者。
更識家の裏の情報網を使っても中々情報が集まらない異端、それにISを圧倒する強さを見せつけられた。
それだけで要注意人物である。
学園内で出来る限り調べた結果、気持ちの良い芯の通った好青年であることがわかった。いかにも武者という言葉が似合いそうな人物。雰囲気が落ち着きすぎていて同年代に見られないことが悩みだったりする少年。そして恋人の前では歳相応な反応を見せたりする。
そういう調べが出た。
それを見て楯無が感じた印象は『お人好しでからかいやすそうな人物』というものだった。
それは想像していたものとは少し違っていた。
楯無は織斑 一夏の戦闘映像を見た限り、もっと獰猛で激しい性格だと思っていたのだ。
それだけあの戦い方は凄まじい。
そのイメージのギャップ差があって、それが気になり今日に接触してみたわけだが・・・・・・
その抱いた印象はどちらも当たりとは言いがたかった。
一人になったところを狙い隙を突いて背後から接近して目を隠し、『だ~れだ』とからかおうと思っていた。
こうやって相手をからかい、主導権を握るのが楯無の常套手段だった。
しかしその目論見は教室から尾行した時点でバレていた。
暗部として気配を殺すのにそれなりの自信があった楯無だったが、まさか直ぐに見破られるとは思わなかった。
そして観念して出たら向こうは楯無のことを裏のことまで知っていた。
政府が絡んでいる以上知っていてもおかしくは無かったが、まさか党首であることも知られているとは思わなかった。
そして楯無だと認識した瞬間に身に纏う雰囲気が変わった。
まったく隙が無くなり、うかつに手を出そうものなら一瞬にして斬り捨てられれる。そんな雰囲気になった。
そして殺気。
織斑 一夏にとってそう呼べるほどの代物ではないが(プールで男達に浴びせたのはこれの十倍以上)それだけで楯無は腰が引けた。
そして直感で理解した。
織斑 一夏は刀のような人物であるということを。
ただしすべてを斬るのではなく、任意に斬るものを決められる。そんな刀であると。
冷徹にして冷静、必要とあらば殺人もいとわない。そんな感じだった。
危険な人物になりうる可能性がある、だからこそ逃げるように去った。
もし本当の殺気を向けられたら、楯無はどうなっていたかわからくなるくらいに恐怖を感じた。
そう想像しただけで身震いが止まらなくなりそうになる。
暗部と言っても楯無はまだ十六歳の少女であり、本当の殺意を向けられたことは無い。
そのような者が武者の前に出ればそうなるのも無茶も無い話だった。
武者とは死合う者。
戦う以上加減はあれど殺意は本物であり、戦うのなら殺す気で戦うのだ。
楯無と武者たる一夏では地盤が違い過ぎるのだ。
そのことを実感で思い知らされた。
しかし、そんな彼が恋人の前ではああなると言うのは、何だか可笑しかった。
なので今後も接触してみようと、そう楯無は思った。何故だか面白そうだと、そう思ったからだ。
一応言っときますが、生徒会長がヒロインになったりとかそんなことはありません。
ここの一夏は山田先生一筋です。