アリーナへと歩いて行き、オルコットと俺は対峙する。
ただし・・・・・・俺は地面でオルコットは空中。対峙するといっても俺の目線は常に上であり、オルコットから、文字通りに見下されている。
「随分遅かったですわね。逃げずに来たこと、まずは褒めて差し上げますわ」
俺の姿を見た当初は驚いていたが、戦う以上、相手が何であれやることは一緒らしい。相も変わらず高飛車な感じだ。
「それはどうも」
最初は通信を入れてきたのだと思うが、劔冑にそんなハイテクなものはない。
金打声と呼ばれる通信機能があるだけで、当然ISには対応していないので、外部音声で会話をする。
「ぬけぬけと間抜けに来たあなたに、最後のチャンスをあげますわ」
胸を張って此方に指を指すオルコット。
「わたくしが一方的な勝利を得るのは当たり前のこと。ですから、惨めな姿を公衆に晒したくなければ、今ここで謝るというなら、許してあげないこともなくってよ」
専用の狙撃銃をこちらに向けながら降参を促す。
そうは言うが、それはどう見ても脅迫にしか聞こえないぞ。
「それは断る、俺にその権限はない。何より・・・・・・悪に屈することは、当方正宗に絶対無いっ!!」
俺は正宗の斬馬刀を抜いて、抗戦の意を表す。
「吉野御流合戦礼法 織斑 一夏。いざ、尋常に・・・参るっ!!」
「いいですわ。ならばあなたには無残に負けて、皆の笑いものになってもらいましょう。二度とISに楯突かないように!」
そうして俺達の戦いの火蓋は切った。
さて、早速どうするか。
相手のISの名前は『ブルーティアーズ』だったか。
射撃メインの機体らしい、てことは一応聞いていたが・・・・・・
どうにもクサイ。ISは武器を喚ぶことができるけど、だからって狙撃銃一本っていうのはどうなんだろうか。
接近戦ではほんの一瞬、コンマの時間が命に関わる。こちらは接近戦主体なのは映像である程度の予想はできる。近づけなければいいと思ってるんだろうか?
『御堂、何を悩んでいる。我らがするべきは決まっているであろう』
「・・・・・・そうだな。俺らが悩んだところで俺らの戦い方が変わるわけは無い」
『うむ。後追戦(ドッグファイト)は武者の恥、猪突戦(ブルファイト)は武者の誉れよ』
俺は悩むのをやめ、突撃体制をとり、合当理に火を入れる。
「さっきから何をノロノロと! 落ちなさいっ!!」
早速オルコットの銃が撃ち出され、光緑色のレーザーが正宗に当たる。しかし………
正宗には全くダメージが無い。
『胸部左側に被弾、損傷は微少。御堂、なんだこの攻撃は? これでは童に石を投げつけられたのと大差が無いではないか』
「そう言えば基本ISは軍事利用禁止って言う建前があるから、そこまで高出力にはできないんだったな。数打ならまだともかく、お前の装甲では・・・・・・ほとんど傷つかないんじゃ無いか。しかも此方は再生する」
『なんとつまらぬことか! 御堂、このような些事、すぐに済ませようぞ』
「応っ!」
俺は撃たれたのに全く無傷なことに驚いているオルコットに突貫した。
何なんですの、あの装甲は!!
私は一撃で終わらそうと思い引き金を引いた。
今回の試合の勝利条件は、
『こちらは相手を気絶させる、相手はこちらシールドエネルギーを0にする』こと。映像の模擬戦を同じ条件。
私の銃はシールエネルギーを結構削ることができる。絶対防御がないあのような代物に防げるようなものではない・・・・・・そう思っていました・・・・・・撃つ前は。
いざ、撃ってみれば、相手は全くの無傷。それどころか焦げ目一つ無いじゃありませんか。まったくダメージをおった感じがしない。
驚愕してる私に、あの濃藍色の劔冑が突撃してきた。
「はぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ひっ!?」
あまりの迫力に押されてしまい、身をすくめてしまった私は斬りつけられた。
「きゃぁああああああああああああああ」
とてつもない衝撃で後ろに飛ばされるが、何とかPICを使ってバランスをとり、立て直す。
シールドエネルギーをみてさらに驚く。一回斬られただけなのに、エネルギーを六分の一近く削られていたのだ。
「なんなんですの、あなたは!」
私はこのままではまずいと、隠し玉を使うことにした。
「行きなさい、ブルーティアーズ!」
そうオルコットが言うと、背中の非固定ユニットから子機が放たれた。
「なんだ、あれは?」
呟く俺に向かって子機からレーザーが放たれる。
「レーザーが出てきた!」
『何と摩訶不思議な!』
しかし当然正宗には傷がつけられない。そもそもの出力が足りないのだ。
『御堂、珍しいものに感動するは結構。しかし今は試合中だ、あとにせい』
お前だって珍ししそうに見てただろうが。
しかしオルコットはその子機を使って弾幕を張って距離を取り始めた。
攻撃力はあまりないが、目くらましにはちょうどいいし、何より・・・・・・
空に逃げられると攻撃しづらい。
こちらにはPICなんて便利なものはない。劔冑の飛行とは、従来の飛行機となんら変わらず、合当理を推進力に、母衣(ほろ)を翼に揚力と空中での操縦を行う。
はっきり言って、空戦では分が悪いのだ。
「正宗、あの飛行を試す。あまり文句は言うな」
『仕方ない。試してみよ』
俺は早速空を飛び、オルコットへと向かう。
当然オルコットはこちらに弾幕を張ってくるが、こんなものは小石の飛礫、無視する。
あと少し・・・というところでオルコットは直角に曲がって逃げる。ISならではの機動性であり、これがあるからこそ、今までの兵器とは違っているとも言える要因の一つだ。
そこで俺は普通の劔冑では考えられないような飛び方をした。
合当理を一旦切り、空中を慣性で体の向きを行きたい方向変え、合当理を臨界寸前まで噴出させる。
すると何と、直角で方向転換しての飛行が可能になるのだ。コレにより、ISとの空戦の差を埋めることができる。
しかし当然デメリットのほうが多いい。
まず、合当理が爆発寸前で危ない。臨界寸前まで噴かすのだから当たり前だ。
次にGの負担がかなり酷い。真打のような再生力がなければすぐにミンチの出来上がりだ。
最後に・・・本来の飛行法では無いため、劔冑本来の威力が出せない。IS相手なら問題はないが、劔冑同士の戦いではまず使えないのだ。
「な、なんですってえ!」
直角にターンを決めて迫る俺に、さらに驚くオルコット。
俺はさらに追撃する。
「正宗!子機が邪魔だ、撃ち堕とすぞ」
『了解。拝領いたす』
「う・・・・・・ぐぐぐ・・・ああああああァァァアアア!!」
『正宗七機巧 無弦・十征矢!!』
手の先から指がちぎれ飛ぶ激痛。
正宗の手の指が、俺の指ごと子機に向かって飛んでゆき、子機を四機とも破壊し尽くす。
さらにオルコットにも数発あたり、シールドを削る。
突然の射撃攻撃にオルコットは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になっていた。端正な顔が台無しだ。
先ほどの攻撃で銃も破壊されたらしい。チャンスだ。
俺は隙が出来たオルコットに突っ込んでいく。
「引っかかりましたわね。ブルーティアーズはこれだけじゃありません」
オルコットは接近する俺を見てにやりと笑う。
サイドアーマーが持ち上がり、そこからミサイルが出現。発射されて俺は見事に食らってしまった。
「これならどうですの、威力だけは一番のものですから。無傷というわけには・・・・・・」
そう独り言を言ってオルコットは自身を落ち着かせようとする。これで少しは相手も損傷したと、期待したのだが・・・・・・その期待は裏切られた。
爆炎と煙が晴れてきたところで相手の姿を確認するが、依然損傷は見られなかった。
『胸部装甲、脚部装甲に被弾。損傷軽微、戦闘に支障なし』
「この程度では正義は倒せん!」
「そ、そんな・・・・・・」
最後の一手すら防がれてしまい、オルコットにはもう攻撃手段が残ってないようだ。
「これで終わりだ、くらえ!」
俺はオルコットの上空に飛び、オルコットめがけて空中で前転しながら斬りかかった。
「吉野御流合戦礼法 月片!!」
俺が攻撃し終えると同時にブルーティアーズは中破し、試合終了のブザーが鳴り響いた。
『勝者 織斑 一夏』