千振茶必要!!
作者は書き終わりしだいに砂糖とともに沈んでます。
あれからまた屋台巡りを始めた俺と真耶さん。
夏の風物詩であるかき氷を買いに行ったのだが、またと言うべきか店主からオマケをされてしまい冷やかされてしまった。
「あははは、何か照れますね」
「そ、そうですね~」
その度に気恥ずかしくなって赤面してしまうが、真耶さんはそれが嬉しいらしく、照れながらも喜んでいた。そんな笑顔を向けられると俺も嬉しい気持ちで溢れてくる。
その気持ちを噛み締めながらかき氷を食べ歩いていた。
「ほらほら、一夏君! 見て下さい」
真耶さんは楽しそうに此方を向くと、べぇ、と舌を此方に出してきた。
真耶さんの舌は真っ赤になっている。
食べていたかき氷のイチゴシロップの色が移っていた。
それを見せつけるようにしている真耶さんが何だか可笑しくて笑ってしまう。
「あ~、笑うなんて酷いですよ。一夏君も見せて下さいよ」
そうプンスカというのがばっちり当てはまるような感じに真耶さんは怒ると、俺に舌を見せるようせがむ。その様子がまた可愛くて、ついつい言うことを聞きたくなってしまう。
「すみませんでした、つい可愛くて」
「そ、そんな・・・・・・」
そう言うと顔がまた真っ赤になる。その色は舌より赤くなっていた。
毎度ながらに思うが、本当に年上なのかと疑ってしまう程に可愛い。
もっと見ていたくもなるが、困らせるわけにもいかない。
俺は観念して舌を出すと真耶さんは、
「あはは、真っ青です」
と楽しそうに笑う。
その様子がまた無邪気に可愛くて、繋いだ手を引っ張りより密着する。
「ふぁっ!?」
「もう・・・・・・真耶さんって人は・・・・・・可愛くて仕方ないんですから」
「は、はうっ!? ・・・・・・もう、一夏君ったら」
真耶さんは恥ずかしがりながらも俺に身を寄せてくれた。
それがまた嬉しい。
「そ、それで、一夏君・・・・・・一口分けてくれませんか」
「ええ、どうぞ」
真っ赤になりつつも上目遣いで真耶さんがお願いしてきた。
もうテンションが可笑しくなりつつある俺は普通に頷き、一口すくって真耶さんの前に差し出す。
すると真耶さんも俺に一口指しだした。
「・・・・・・一緒に・・・・・・」
何がしたいのかが分かり、きっと俺の顔は提灯より真っ赤になっていただろう。
普段だったら恥ずかしさのあまり出来なかったが、今日なら何故かしても大丈夫・・・・・・そんな魔が差した。
「「あーん」」
二人で同時に差し出されたかき氷を食べた。
甘くて冷たいはずのかき氷が熱さのあまり一瞬で溶けてしまった気がした。
「えへへ、憧れてたんですよ~、こうして好きな人と一緒にはい、あ~ん、てするの」
そう恥じらいつつも、てへへ、と笑う真耶さんを見て、さらに頬が熱くなった。
真耶さんは前から思っていたが、結構乙女チックなところがある。
しかし本人にとても似合っているのでそんなところも好きだ。
そのまま抱きしめたくなったが、よく周りを注意して見てみると、顔が真っ赤になっている人が一杯いた。どうやら見られていたらしい。
急に恥ずかしくなり、俺は急いで真耶さんの手を引く。
「ど、どうしたんですか、一夏君!」
「すみません。ちょっと此処を離れましょう」
そして少し歩いた後に先程のことが周りの人達に見られていたことを伝える。
「えぇええええ! さっきの見られてたんですか!? は、恥ずかしぃ・・・・・・」
「まぁ、仕方ないと言いますか・・・・・・何と言いますか・・・・・・」
どうも二人で盛り上がるとお互い周りが見えづらくなるらしい。
お互いにそのあと恥ずかしさから真っ赤になっていた。
そのあとまた真っ赤になりつつも屋台巡りを再開した。
何と言うか・・・・・・俺達はやはり懲りない人間のようで、また同じようなことを2~3回やってしまい、その度に赤面することに。
特におばさん方からは、『あらあら、若いっていいわね~』と言われる始末。
しかし真耶さんはそれが満更でもないようで、恥ずかしがりつつも嬉しそうだった。
俺も人のことが言えないらしく、内心そう言われて悪い気はしない。
その後も廻っていき、真耶さんの案内でリンゴ飴の屋台に行った。
前から思っていたのだが、この屋台・・・・・・
男は買えない。
別にそんなことはないのだが、何と言うか、リンゴ飴は女性しか食べてはいけない。そんなイメージがあるのだ。
なので真耶さんが嬉しそうに買っていく中、俺は買えずにいた。
買ったリンゴ飴を美味しそうにチロチロと真耶さんは歩きながら舐める。
その真っ赤になった舌が艶っぽく見える度にドキドキして仕方ない。
「どうしたんですか、一夏君? 顔、真っ赤ですよ」
「な、何でも無いです・・・・・・」
きっと今、俺の頭からは湯気がたっているだろう。
そうして可愛らしく、それでいて艶っぽくリンゴ飴を食べている真耶さんを連れ歩いている最中、あることを思い出した。
「そういえばこの神社、箒が巫女として舞を披露してるんだったか。見に行きませんか」
「え、いや、その・・・・・・それは止めた方がいいかと・・・・・・」
妙に歯切れの悪い答えが返ってきた。
まぁ、無理に見る必要もないかと思うが、せっかくの『幼馴染み』の晴れ姿、見てやりたい気持ちもあった。
「それじゃあ、遠目から覗くのはどうですか」
「そ、それくらいなら・・・・・・」
何とか納得してもらい、早速俺達は舞台へと向かった。
舞台では丁度良く、箒が舞い始めていた。
舞衣装を着て化粧を施し、刀と扇子を持って舞う。
「わぁ、綺麗・・・・・・」
真耶さんは舞う箒を見て感嘆の声を上げる。
確かに綺麗だとは思うのだが・・・・・・俺には舞う箒を夢中で見ている真耶さんの方が綺麗に見える。
なので俺は箒よりも真耶さんの方に見入っていた。
(な、何故、一夏が此処に!? しかも山田先生と一緒にいるんだ!?)
箒は舞ながらも困惑していた。
失恋してからの約一ヶ月ちょっと。
何とか立ち上がれる程度に回復こそしてきてはいたが、ただそれだけ。
未だに傷が痛んで仕方なかった。
しかしいつまでもこうしてはいられないと、前向きになって頑張ろうと努力した。
そのために今回の舞の話も受けた。
そして当日。
神社の巫女として仕事を手伝い、早速舞を舞い始めたら・・・・・・よりにもよって初恋の相手にして振られた一夏と、一夏が告白して受け入れて恋人となった山田先生が見に来ていたではないか。
これはどんな罰だろうか・・・・・・そう思わずには箒はいられない。
「どうしたんですか、一夏君? こっちをじっと見て」
俺の視線に気付いたらしく、不思議そうな顔を此方に向ける真耶さん。
まさか真耶さんに見入ってました・・・・・・とはこの衆人観衆の中では言えない。
少しだけだが頭が冷めてきたため、そう判断できた。
「いや、その~」
しかし残念なことにその後の返しは考えてなかったので詰まってしまう。
すると真耶さんは俺の視線が自分の持っているリンゴ飴に向いていると勘違いしたようだ。
「もしかして、これ、食べたいですか?」
「いや、そういうわけでは・・・・・・はい・・・・・・」
他に言い訳も思いつかず、実際に少しだけ食べてみたいこともあって頷いてしまう。
「じゃ、じゃあ、はい、あーん」
真耶さんは恥ずかしそうに持っていたリンゴ飴を此方に差し出す。
丁度さっきまで真耶さんが食べていた歯形が付いたところだった。
それを見て、何だか妙にドキドキする。
俺はドキドキと心臓の鼓動が高鳴るのを感じながらリンゴ飴に向かって口を開ける。
「あーん」
少し囓る程度に一口。
周りの飴が甘く、中のリンゴが甘酸っぱい。
しかし胸の中がそれ以上に甘酸っぱい気持ちで満たされる。
「ッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何だか胸が張り裂けそうなほどにいっぱいいっぱいな感じがした。
これも一つの幸せかもしれない。
だって・・・・・・こんなにも嬉しいのだから。
(ああぁああああぁあああああああああああああああああああああ!?)
分かっていたこととはいえ、実際に目の前でやられるとショックが大きい。
一夏と山田先生のはい、あーんを見てしまい箒はショックを受けてしまった。
そのため刀を持つ手が緩む。
手をすっぽ抜けてしまった刀が山田先生の方へと飛んでしまった。
何があったのかは知らないが、舞っていた箒の刀が真耶さんの方に飛んできた。
真耶さんはと言うと、未だにはい、あーんの余韻に浸かっていて顔がふにゃけている。
本当ならその顔をもっと眺めていたいが、そんな時間は無い。
俺は即座に真耶さんの前に出て刀の軌道を見切ると、
「ふんっ!」
手が切れないように峰の方から打ち上げ弾いた。
弾いた刀は上空をくるくる回り、見事に箒の手にすっぽりと戻った。
「「「「「おぉおおお!!」」」」」
周りに居た観客が俺を見て歓声を上げる。
「ど、どうしたんですか!? 何があったんですか!?」
真耶さんはいきなりの歓声に混乱していた。
きっと知らない方が良い。
俺はその歓声のせいで居づらくなってしまい、真耶さんを引っ張ってその場を離れた。
箒はこの際、あまりの衝撃にまたへこんだという。
その後また少し廻った後に、打ち上げ花火を見ようと、参道の奥にある雑木林へと上った。
古くからあり、実は一部が崖になっていて辺りを見回せるのだ。当然花火も見える。
昔見つけて以来ずっと内緒にしている場所で、俺だけの秘密。
今日初めて他の人を招いた。
「ここがゆっくり花火が見れる場所ですよ。俺だけの秘密の場所です」
「わぁ、綺麗・・・・・・」
真耶さんは崖から見える夜景の見惚れていた。
そして始まる花火に二人だけで見入る。
何だか、二人だけの世界になった気がした。
少しすると真耶さんは俺に背を預けもたれかかる。
柔らかい身体の感触と甘い匂いにドキっとする。
俺はそれが当たり前であるかのように真耶さんを後ろから抱き締めた。
「えへへ・・・・・・幸せですね。好きな人と一緒にこうしてもらいながら花火を見て。夢が叶いすぎてどうにかなっちゃいそうです」
そう顔を真っ赤にしながらも体をすり寄せ甘えてくる真耶さんが可愛くて抱き締める力がこもる。
そして思う。
この人は本当に・・・・・・麻薬みたいな人だなぁ、と。
好きすぎて仕方なくて、絶対と言って良いほどに飽きない。それでいてどんどん新しいものが見えてきては、またもっと好きなる。
麻薬のように中毒性があって、それでいて胸焼けを起こしかねないほどに甘いのに全然おこらない。
もうこの人以外好きになるのはあり得ないと思った。
そして花火が見える中、俺は真耶さんに言う。
「真耶さん・・・・・・大好きです、愛してます」
「私もです、一夏君・・・・・・愛してます」
そしてどちらも同時に顔を寄せ、唇を合わせた。
永い、それこそ交際を始めて一番永いキスをした。
胸の中が幸せ一杯で溢れていた。
こうして俺の、初めての恋を経験した夏は終わりを告げた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
もはやこの場には砂糖しか無い。
作者は砂糖になったのだ。
次回からは二学期です。
いやぁ~、夏休み長かったですね~。