※ブラックコーヒー推奨
さて、夏休みもあと僅かになりつつある今日この頃。
辺りは夜の帳が降りようとしており、夕日が沈みかけていた。
そんな中、俺はと言うと・・・篠ノ之神社に来ていた。
今日はここで夏祭りがあるのだ。
夏の思い出として是非とも真耶さんと行きたいと思い、誘ってみた。
真耶さんは俺の誘いを快く聞いてくれた。そして鳥居の前で待ち合わせをしている。
前回のこともあって俺は真耶さんよりはやく来た。
またナンパでもされてはかなわない。
そう思ってしまう俺は心が狭いのだろうか・・・・・・
そうしている内に、カランカラン、と下駄の鳴る音が此方に向かってくる。
「一夏く~ん、お待たせしました~」
音の方を振り向けば、そこには満面の笑顔を浮かべた真耶さんが慣れない下駄で此方に小走りしてきた。
そして俺の手前で足をもつれさせる。
「きゃっ!?」
「危ない!?」
地面に倒れ込む前に受け止める。
抱き留めたときに香った甘い匂いに胸がドキッとした。
「大丈夫ですか、真耶さん? 怪我とかしてませんか」
「は、はい。大丈夫です」
真耶さんが無事かどうかを確かめてから手を離した。
真耶さんの顔は真っ赤になっていたが、俺も同じになっていることだろう。
そして改めて真耶さんを見る。
薄ピンク色で菊の花がデザインされている浴衣を着ていた。とても良く似合っている。
髪型はいつもと同じなのに、浴衣から覗くうなじが艶っぽい。
俺は真耶さんの浴衣姿に見惚れてしまい目が離せなくなる。
「どうしたんですか、一夏君? 顔、真っ赤ですよ」
「い、いや、その・・・・・・浴衣姿の真耶さんもきれいだなって・・・・・・」
「は、はぅ~~~~」
素直に答えてしまい、真耶さんは真っ赤になって頬を両手で押さえてしまう。
あぁ、可愛いなぁ・・・・・・ついつい頬が緩んでしまう。
「とても良く似合ってますよ、その浴衣」
「は、はい、ありがとうございます! 一夏君の浴衣も似合ってますよ」
「ありがとうございます。嬉しいですよ」
真耶さんに褒めて貰ったのは素直に嬉しい。
俺が今着ている浴衣は師匠のお古を譲り受けたものだ。
武者にならなかったら古物商になりたかったと言っている人なだけに、物持ちが凄く良い。
しかしもう着れないものなので、ということで頂いた物だ。
色はありふれた物だが、藍色をしている。
どうも正宗といい何といい、俺はこの色と縁が深いようだ。
「それじゃ行きましょうか」
「はい!」
そう言って手を差し出すと、真耶さんは嬉しそうに笑顔で手を繋ぐ。
少し汗ばんだ手が吸い付くように手に合わさってドキドキした。
そして俺達は身を寄せ合うようにくっつきながら夜店を廻ることに。
言い訳では無いが一応言っておこう。
このぴったりと真耶さんとくっついているのは、この人は彼氏持ちだと主張して、よからぬ虫が近づかないようにするためであって、決して真耶さんと人前も気にせずにイチャつきたいとか、そういうことではない!(人それを言い訳という)
「何から廻りましょうか」
様々な屋台が並ぶ参道で、俺達は何を買おうかと身を寄せながら相談する。
俺自身、あんまり屋台での買い物をしたことがない。
小さいころは千冬姉に迷惑をかけたくなくて遠慮していたし、最近までは修行に明け暮れていてそれどころではなかった。
なのでどう屋台を廻れば良いのかがよく分からない。
「一夏君はお祭りにはあまり来なかったんですか?」
「いえ、そういうわけではないんですが、あまり買い食いをするタイプではなかったので」
あまりこういう場で暗い話はよくない。
なので苦笑しつつはぐらかした。
すると真耶さんは少し生き生きした顔になり、此方に笑顔を向ける。
「でしたら、私がお祭りの楽しみ方を教えてあげます!」
そう嬉しそうな声で言ってきた。
多分お姉さんらしい、年上として良いところを見せたいんだろうなぁ、と憶測される。
真耶さんは結構お姉さんぶりたいから。
そう意気揚々に笑う真耶さんが可愛くて仕方ない。
「それじゃお願いします」
「はい! 頑張りますよ~」
素直にそう言うと、真耶さんは花が咲いたように笑顔になった。
本当に可愛い人だなぁ、と改めて認識させられた。
そして最初に来たのは綿菓子の屋台だった。
「最初は綿菓子です。このふわっとした食感と口の中で溶ける甘さが堪らないんですよ」
そう子供のようにはしゃぐ真耶さん。
ちょっと酷いが、年上とは思えないはしゃぎ具合だ。俺はその光景を見て苦笑する。
さっそく真耶さんが一つ買って見るのだが・・・・・・
サイズがやけに大きい。どう見たって他のやつの1.5倍は大きい。
「すみません。これ、こんなに大きいんですけど」
一人分にしては多すぎるので俺は店主に聞いてみる。
「ああ、そいつぁオマケだ兄ちゃん! こんなべっぴんな彼女さんがいるとは幸せ者だねぇ。彼女さんとそいつを食いねぇ! それでその分の幸せを俺んところにも分けてくれよ」
「そ、そんな・・・・・・」
屋台の主に冷やかされ赤くなる真耶さん。
可愛かったが、俺は苦笑してその場を抜け出す以外は出来なかった。
屋台から離れるとさっそく真耶さんは綿菓子を食べ始める。
「う~ん、やっぱり甘いですね~」
ご満悦な真耶さん。
俺も少しは食べたいが、さっき冷やかされたこともあって買いそびれてしまった。
そのことを俺の顔を見て分かったのか、真耶さんは笑顔で此方を向く。
「はい、一夏君、あーん」
持っていた綿菓子を一口分千切ると、俺の口に指しだしてきた。
「え、あの、真耶さん?」
いきなりのことに反応が遅れる。
「一夏君が食べたそうな顔していましたから。だから、はい、あーん」
顔を赤らめつつも俺に綿菓子を差し出す真耶さん。
どうも祭りの雰囲気にあてられたらしく、大胆になっているようだ。
しかしそれは俺も言えることらしく、あまり疑問も持たずに応じる。
「あ、あーん」
そして口の中に綿菓子が入る。
うん、甘い。
しかし砂糖以外にも甘く感じさせる何かがある気がした。
すると真耶さんは今度は此方に綿菓子本体を渡すと、期待を込めた眼差しを此方に向ける。
何がしたいのかはよく分かる。
俺は一口大に綿菓子を千切ると、艶っぽい真耶さんの唇の前に差し出す。
「はい、真耶さん、あーん」
まさか人前でこんな行為に出るとは思わなかった。
これも祭りの雰囲気にあてられて正常な判断がしづらいからだろう。(言い訳にしか聞こえない)
「あーん」
真耶さんは嬉しそうに差し出された綿菓子に向かって口を小さく開けると、パクン、と綿菓子を口に入れる・・・・・・俺の指ごと・・・
「なっ、ま、真耶さん!?」
急なことに固まる俺。
真耶さんは俺の指を離さず、舌で綿菓子が溶けるまでチロチロと舐めていた。
舌の感触に心臓がドキドキと大きく鼓動を鳴らす。
そして満足したらしく指を離すと、
「えへへへ、一夏君の味がします」
と、もの凄く真っ赤になり照れながら言ってきた。
俺はというと・・・・・・・・・顔がヤカンみたいに沸騰してしまっていた。
恥ずかしい上に何とも言えない気持ちがこみ上げてきて仕方なかった。
しかしよく見ると真耶さんもかなり恥ずかしかったようだ。
お互い赤面する。
しかし祭りの熱気にあてられた俺達はまた同じように綿菓子を交換して、はい、あーんをし始める。
冷静に考えてみれば恥ずかしすぎて穴があったら入りたい気持ちになるところだ。
祭りの雰囲気恐るべし。
そしてまた真耶さんが俺に綿菓子をはい、あーん、と差し出し、それを食べようとしたところでそれは中断させられた。
「な、なにやってるんだ、一夏」
声がした方を向くと、そこには・・・・・・
羨ましそうな目を向ける弾と、真っ赤な顔をしていた蘭が立っていた。
若干変態チックかも・・・・・・