お説教されてはや二時間。
やっと気が済んだのか正宗はどこかに行ってしまった。
そして俺達はというと・・・・・・
「あ、足がぁ・・・・・・・・・・・・」
真耶さんがその場で床に倒れ込む。足が痺れてろくに動けないのだ。
二時間も正座させられていたのだから当然と言えることだ。
俺は慣れているのでどうと言うことも無いが、慣れていない人間にはまさに地獄だろう。
「真耶さん、大丈夫ですか?」
「す、すみません。少し無理です・・・・・・」
真耶さんはかなりきつそうだった。
見ていて可哀想になってくる。
なので俺は真耶さんを介抱することにした。
さっそく倒れている真耶さんの体を此方に引き寄せる。
「な、何をするんですか、一夏君っ!?」
いきなり体を持ち上げられたことに驚く真耶さん。
俺は何も言わずに真耶さんの頭を自分の膝に乗せて膝枕をする。
「足がきついでしょう。しばらくゆっくり休んで下さい」
「えっ!? あわわわわ」
自分が何をされたのかが分かって真っ赤になりながら慌てる真耶さんは可愛くて仕方なく俺の目に映る。
俺は真耶さんに足を伸ばさせて頭を軽く撫でる。サラサラした髪の手触りが気持ちいい。
「臨海学校の時とは逆ですね」
つい悪戯心からそう真耶さんに聞いてしまう。
聞くと真耶さんは恥ずかしそうにする。
「そ、そうですけど・・・あまりいじめないで下さい」
「こんなに可愛い人をいじめるなんてしませんよ。俺はただ素直に思った事を言ってるだけです」
「ぅぅ~~~」
そう可愛らしく唸る真耶さんも可愛い。
俺はしばらく真耶さんの頭を撫でながら顔を見る。
真耶さんは赤くなりつつも俺のなすがままにされていた。
そうしてどれくらい経っただろうか・・・・・・
真耶さんはぽつりとこぼす。
「・・・・・・駄目ですね、私・・・年上なのに。一夏君に頼ってばかりで、甘えちゃって・・・」
「そんなことないですよ。俺は真耶さんに助けられてばかりで、寧ろ俺の方が甘えてばかりで申し訳無いです。それに・・・・・・」
そう自分を責める真耶さんに俺は励ますように笑顔で答える。
「彼氏なんですから、寧ろもっと甘えて下さい、もっと頼って下さい。俺はその方が嬉しいですよ」
「い、一夏君・・・・・・」
真耶さんがじーん、と感動して潤んだ瞳で此方を見つめる。
さ、さすがにキザったらしかっただろうかと少し心配になる。
まさか自分がこんな事を言うとはなぁ・・・・・・
「だ、だったら、一夏君ももっと甘えて下さい。もっと頼って下さい。だって私は一夏君の彼女で、『おねえさん』なんですから」
恥ずかしそうにしつつもしっかり意思表示をする真耶さんを俺は微笑ましく思いながら頭をなで続ける。
「ええ、そうします。これからはもっと甘えさせてもらいますよ。ね、真耶さん」
そう言って真耶さんの頬に軽いキスをする。
「もう、一夏君ったら・・・・・・」
真耶さんは真っ赤になりつつも此方に笑みを向けてくれた。
その後、真耶さんの足の痺れが取れるまで俺は膝枕をしながら真耶さんの頭を優しく撫でた。
しばらくして正宗がまた部屋に入ってきて鍛錬の追加を言い渡してきた。
またこのような場面を見られて気まずい俺はそれを断ることが出来なかった。
庭に出て朝と同じ鍛錬をまた繰り返す。
その様子を見て真耶さんは凄いですね~、と驚いていた。
なんとも気恥ずかしい限りの時間だった。
その後は忘れていた宿題を教えてもらうことにした。さっそく甘えさせてもらうことに・・・
リビングのテーブルで肩がぶつかりそうなくらい近くに真耶さんが座る。
俺が分からないことを聞くと、真耶さんは意気揚々に身を乗り出して嬉しそうに教えてくれた。
その際に顔が近かったり、大きな胸がテーブルの上に乗っかっていたり、此方の腕や肩に当たったりしてドキドキしっぱなしだった。
知らせた方が良いのだが、頼ってもらえることが嬉しくて喜んでいる真耶さんに言えるわけがなかった。
決して、その方が良い目を見れるとか、そう言うことでは無い。
勉強を教わっている間に時間が進み、もう六時に差し掛かりそうになっていた。
せっかくなのだから夕飯も食べていっては、と誘ってみたら喜んでくれた。
さっそく作ろうと台所に入ったら、真耶さんも手伝うと言って来た。
お客様にそのようなことをさせるわけには行かないと俺は言うが、真耶さんは上目使いで手伝わせて下さいとお願いしてきた。
そうされては断ることはできない俺。
本当に好きな人には甘くなってしまうなぁ~、と実感した。
台所で肩を寄せ合ってお互いに料理をする。
何だか新婚みたいだなぁ、と思ってしまい頬が熱くなってくる。
真耶さんも同じことを考えていたらしく、真っ赤になっていた。
お互いに野菜を切ったりしていると、俺はついつい真耶さんの方に目が行ってしまう。
よく考えたら料理をする女性というのは初めてみた気がする。(光や村正に教えているときは別として)
何というか・・・こう・・・・・・良いものだな。
少しだけ師匠の気持ちが分かったかしれない。
そのせいで手元が留守になってしまい指を切ってしまった。
「い、一夏君、大丈夫ですか!?」
真耶さんが俺の指を見てかなり驚く。
指を見ると少し深く切ったのか血が結構出ていた。
この程度の傷など、武者にとっては傷以下でしかないので気にもならない。
「大丈夫ですよ」
「でも、血が!?」
「これくらい放っておいて平気ですよ。すぐに塞がります」
俺がそう言うと、でも、と言って何かを考える真耶さん。こんなので心配させてしまったことに少し申し訳無く思う。
真耶さんは何かの決意を固めると顔を真っ赤にして俺の手を両腕で持ち上げると・・・
「し、失礼します!」
と大きな声で言って、パクンと俺の切った指を口にくわえた。
「なっ!?」
あまりの事に驚きで声が出なくなる。
真耶さんが顔を真っ赤にしながら懸命に傷を舐め始めたのだ。
「んぅ・・・ちゅぅ・・・ちゅる・・・ちゅ・・・」
舌が傷口をちろちろと一生懸命に舐め、啜る音が小さいながらに聞こえてくる。
熱い舌が傷口を舐め回し、焼けてくるような熱を持ってくる。
「っぅ・・・・・・・・・・・・」
何だかイケナイことをしているみたいでゾクッとした。
しかしその何だかイケナイ雰囲気は扉の音と共に喪失した。
「今帰ったぞ、いち・・・か・・・・・・?」
いきなり扉が開いて千冬姉が帰ってきたのだ。
そして俺と真耶さんを見て固まってしまった。真耶さんは真剣にやっていて気付いていなかったようだが、俺はばっちりと気付いている。
俺も見られてしまったことに固まってしまい、部屋には懸命に傷を舐める真耶さんのちょっとエッチな感じの音だけが微かに鳴っていただけだった。
気がつけば100話。
これからも頑張っていきたいですね~。