HOTD ガンサバイバー   作:ゼミル

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――――次に窓の外を見た時には、太陽の角度がかなり傾いてた。

 

率直に言って腰が痛い。一応行動に支障は無いけどさ、こんなにハードなものだったとは思いもよらなんだと言おうか何つーかかんつーか。

 

そして一方的に蹂躙されていた里香は平気でケロッとしてる件。一連の内容を思い返したって嬉し恥ずかし甘酸っぱい感情とかは全くもって湧きゃしないが、呆れ多分な驚きに俺は襲われてた。

 

でもいつまでシャワー浴びながら悶えてるつもりだよあのバカは?

 

 

「さっさと服着て出て来いってば。きっと小室達、下に集まって待ってるんだと思うぞ」

 

「う、うん今出るから――――アハッ、こっちもまだまだ垂れてきちゃう。いっぱい出してもらったからなぁ・・・」

 

 

間違いない。コイツ、まだすっ飛んだままでいやがる。アレだけ手荒くヤられといてよくもまあ嬉しそうに出来てるものだ。Mか?

 

・・・そもそも俺も里香が出て来るまで辛抱してるのは何故だ?決まってる、里香が婆さんみたいに皺くちゃにふやけるまでシャワー浴びてようがどうでもいいが、ほっといたら何時までも下で準備を終えて待っているであろう小室や宮本に迷惑をかける羽目になるからだ。

 

2人の部屋に荷物と装備が無かったから既に此処から離れるつもりだろうと踏んでいる。宮本はともかく小室は義理堅そうだから、勝手に黙って置いて出ていくようには思えない。

 

更に10分以上してからようやく里香は事の直前と同じ恰好(但しワイシャツは俺の予備)で部屋から出てきた。足取りはしっかり、噂に聞く股関節部に残る異物感から来る蟹股歩きとかみたいな後遺症も見受けられない。

 

だらしない表情でさりげなく下腹部辺りを愛おしそうに撫でているのは無視。勝手にしやがれ、だ。

 

尚、赤かったり白かったり乾いてえらくガサガサな染みとか汚れまみれになったシーツは引っぺがしてシャワールームにあった汚物用の籠に突っ込んで置いた事を一応明記しとく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、待たせた―――・・・・・・何故に一斉に目を逸らす。というか何で全員集合?」

 

 

返ってくるのは思いっきり乾いた笑い。特に平野は遠い目だし、高城は俺を見た途端いきなり怒り心頭な様子だし鞠川先生はうふふふふなんて意地悪っぽく笑ってるし。「若いな・・・」って何悟ったような顔で呟いてるんですか希里さん。

 

あー、もしかしなくても、何ヤってたかバレバレな訳ね。別にどうだっていいけど。

 

 

「ア・ン・タ・達ねぇ!よ、よ、よよよよよよりにもよって私の家で盛ってんじゃないわよ!よりにもよってこんな時にぃ!!」

 

「悪い高城、部屋のシーツ汚しちまった。正直スマン」

 

「ああもう!そんな全く誠意の籠もって無い顔で何言ってんのよ!死にたいの!?」

 

「避妊はちゃんとしたのかしらぁ?学生で妊娠は流石に先生も感心しないぞ?」

 

「大丈夫ですよぉ。出来ちゃってもマーくんとの赤ちゃんなんですからちゃんと大切に育てますから」

 

「明らかにそういう問題ではないと思うぞ・・・」

 

 

何とも居心地の悪い空気になってきた。そういえば、敷地の門から見覚えのあるマイクロバスが出ていくがアレは一体何なんだろうか。すぐに出てすぐの下り坂に消えたけど。

 

・・・・・・何だろう。肉欲に溺れたせいで激しく向こうからやってきたチャンスをまた逃した様な気がするのは。

 

くぐもった声の様な音がふと耳に届く。発生源は鞠川先生の手の中の携帯電話。

 

 

「先生、電話繋がってるみたいですけど」

 

「え?あっ、本当!もしもしリカぁ?良かったー、生きてたねー!」

 

 

電話の主は俺の隣に居るのと同じリカという名前らしい。例の銃やハンヴィー持ってた先生の友達か?

 

 

「そういや小室、何かあったのか?皆して集まってて」

 

「あー、いや、それがさ、実はさっきさ・・・」

 

「・・・・・・鉄砲とか借りちゃって―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――終末の光は、あまりにも唐突だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光の訪れには何の前兆も無かった。ただいきなり空が一瞬、白一色に染め上げられたのだ。

 

陽光とは別種の、温かさも何も感じられない無機質な光。本能がこれだけは教えてくれた。アレの正体は、とことんロクでもない代物だと。

 

それを証明するかのように、耳障りな音がすぐ近くでした。鞠川先生の手元と、俺の胸元。

 

発生源は、携帯電話。取り出してみると画面がブラックアウトしてうんともすんとも云わない。少なくとも一方的に里香を責めてた最中はずっと充電しっぱなしだったから電池切れな筈がない。

 

脳内の警鐘が大音量で打ち鳴らされる。周囲でも異変が起きていて大まかな内容が否応無しに耳に飛び込んできた。

 

車のエンジンがかからない。主人のペースメーカーが壊れてしまったみたいなんです。停電と同時に全てのPCがダウン。

 

 

「真田!古馬!アンタらの銃のドットサイト覗いてみて!」

 

「・・・ドットが消えちまってるよ。もしかするともしかするみたいだな」

 

「話、私のも」

 

 

ビンゴ。どうやら最悪の展開の様だ。何が起こったのか大体の予想が付いてしまった。それは高城も同じらしい。

 

 

「一体何が起こったっていうのさ真田。高城さんも」

 

「多分EMPだ。元凶が『北』か中国かロシアか、それともアメリカかは知らんがな」

 

「EMP、って何なの?」

 

「EMP攻撃。HANE、高高度核爆発とも言うわ。

大気圏上層で核弾頭を爆発させると、ガンマ線が大気分子から電気分子を弾き出すコンプトン効果が起きる。飛ばされた電子は、地球の磁場に掴まって、広範囲へ放射される電磁パルスを発生させる。その効果は、電子機器にとっては致命的。アンテナに成り得るものから伝わった電磁パルスで、集積回路が焼けてしまうわ」

 

「最近の軍じゃ、ICBM(大陸間弾道弾)とかで核が飛んできた場合は核弾頭そのものの威力よりも付随して発生するEMPの方に重きを置いてるらしいぞ。高度にもよるが、効果半径は100kmオーバーになるって聞いた事がある」

 

 

他の面子も事の重大性を時間差で理解してきたのか、一斉に顔を蒼褪めさせた。

 

 

「つまり我々は――――」

 

「そう、もう電子機器は使えない!」

 

 

そしてこのご時世、今やありとあらゆるライフラインが精密機器によって制御されている以上、それらを制御する精密機器が使い物にならなくなろうもんなら。

 

この世界は、石器時代に逆戻りしたも同然。

 

 

「平野、今すぐ装備整えてありったけの弾身に着けとけ。ロクな予感がしないからな」

 

「わ、分かった!皆の分も取ってくる!」

 

 

平野がハンヴィーの車庫に消えて僅か数秒後。

 

訪れた事態はまさしく最悪だった。

 

 

「ば、バリケードがぁ!!」

 

 

叫び声のした門の方に顔を向けると、必死な形相の男が門をくぐろうとして――――背後から延びた無数の手に絡め取られ、敷地内に踏み込む事が出来ないままそのまま食い殺された。

 

誰に?決まってる、<奴ら>以外の何がある。

 

つまりEMPのドサクサか何かでバリケードが破られて、どっかに空いた穴から<奴らが>雪崩れ込んできたと。

 

 

「――――グレイト」

 

 

声には出さず口を小さく動かす程度。内心ガッツポーズしてしまう。たった今餌食になった人には悪いが、ここから先は楽しい愉しい殺戮ショーの始まりだ。

 

 

「門を閉じよ!急げ!警備班集合、死人共を中に入れるな!」

 

 

近くで何処までの芯の通った声が響いた。何時の間に現れたのか、高城の親父さんが部下達に指示を出している。

 

 

「会長!それでは外にいる者達を見捨てる事に!」

 

「今閉じねば全てを失う!やれ!!」

 

 

親父さんの言葉に躊躇いは無い。銃の引き渡しに関する問答の時にも顔を合わせた彼の副官もその辺りは理解していたのか、断腸の思いをありありと顔に張り付けながらリモコンを取り出した。

 

まだ気付いていないのか、全ての電子機器が使えなくなっている事に。

 

何度もボタンを連打してから諦めた彼は、部下に人力で閉じるよう指示を飛ばす。その間にあっという間に100体近い<奴ら>が門の所に押し寄せようとしていた。

 

数人がかりでようやく巨大な門が閉じる。が、<奴ら>の数本の腕が門同士の隙間にねじ込まれ、完全には閉まっていない。

 

バキバキ、と生木がへし折れるような音が聞こえてくる。門に押しかけた<奴ら>が後続と門の間に挟まれて身体中の骨が砕け折れる音。だけど当人達(?)はお構い無しに門へと重圧をかけている。

 

遂に隙間から<奴ら>が1体、門の内側に侵入してしまった。

 

だがしかしすぐに斃れる。前触れもなく後頭部が吹き飛び、数歩ふらついた所で倒れてしまう。

 

何が起こったのか誰かに問うまでもない。

 

 

「・・・・・・(ニヤリ)」

 

「すまねぇ兄ちゃん、俺が間違ってた!」

 

 

武器弾薬の入った大型バッグを持って戻ってきた平野のVSSによる狙撃である。引き攣った表情で謝罪してたオッサンはそういや俺と平野を囲んでた中の1人だ。

 

ぶっちゃけ平野が浮かべてる笑みは形容しがたい危険な類の笑みだった。誇らしげに立ててる親指が全く合ってない。

 

 

「はいこれ銃と弾!」

 

 

平野が持ってきた得物の中から、俺はM79グレネードランチャーを手に取る。門に固まってる今、もっと頭越しに狙えば結構な効果が期待できるだろう。

 

文字通り無用の飾りと化したドットサイトをM4から取っ払っていると、部下から自身の得物を渡されて装備を整えてる高城のお袋さんが目に入った。

 

彼女の得物はVZ83、スコーピオンという通り名が有名なチェコ製のサブマシンガン。自分で破いたと思われるドレスの裾から覗く太腿が眩しい。本当に高校生の子持ちか?

 

ちなみに太腿にも小型拳銃用のホルスターを巻き付けている。

 

 

「これ、沙耶ちゃんにはもう十分かもしれないけど良ければお使いなさい」

 

「る、ルガーP08!?ストックとドラムマガジンまで!」

 

「しかもオランダ植民地軍モデルで菊紋入りの菊ルガーですぜ奥さん」

 

「こんなの使い方分かんないわよ!大体、何でママまで銃持ってるの!?」

 

「ふふ・・・ウォール街で働いてた頃、エグゼクティブの護身コースに通ってたもの。弾当てるの、パパより上手いかもね」

 

 

それなんて武闘派夫婦?

 

そうこうしている間にも更に大量の<奴ら>が門を圧迫し、如何にも頑丈そうな鉄門の軋む音が、呻き声と共に不気味に響いている。

 

 

「もうケータイとか使えないの?」

 

「ケータイどころかコンピューターもまず全滅!電子制御を取り入れてる自動車もまともに動かないだろうし、多分発電所もダメ!EMP対策を取っていたら別だけど、そんなの自衛隊と政府機関のごく一部だけの筈」

 

「直す方法はあるのか?」

 

「灼けた部品を変えたら動く車はあるかも動く車はあるかも。たまたま電波の影響が少なく壊れてない車がある可能性も・・・勿論クラシックカーは動くわ」

 

 

父親の問いに高城はすらすらと答えを返してみせた。喚き立てるだけだった学校で出会ったばかりの時とは大違いだ。

 

しかし俺は親子の問答よりも、悲鳴を上げる鉄門の方に意識を傾けていた。そろそろヤバい。レールから車輪が外れそうなほどの重圧。もう耐えられそうにない。

 

 

「お喋りはそろそろ終わりにした方がいい。平野、俺が仕掛けるから援護射撃宜しく」

 

「オッケェイ!」

 

 

遂に破滅が訪れる。圧力に耐え切れなかった鉄門が耳障りな衝撃音をたてて倒れ、一斉に<奴ら>が敷地の内側へ雪崩れ込む

 

その<奴ら>の軍勢めがけM79を発射した。銃声と比べてかなり間抜けな、盛大なすかしっ屁みたいな破裂音。白い尾を引いた躑弾が鼻先で着弾。対人躑弾の直撃を食らって<奴ら>が肉片と化す。

 

単発のM79は連射が効かない。その間隙を埋めるのが平野の狙撃だ。片膝を突いた膝射の姿勢で1発1発丁寧な、しかし速いペースで的確に<奴ら>の頭部を射抜く。

 

戦果は10発で10体。最高の戦果だ。コイツならきっと凄腕のスナイパーになれるに違いない。VSSのマガジンが空になるのとグレネードランチャーの再装填が完了するのは同時だった。

 

手榴弾に毛の生えたような威力しかないとはいっても、これだけ数が多いと巻き込まれる規模も違う。だけど数が減った気分にはならない。数発躑弾撃ちこんだって焼け石に水、それぐらいの数に今や高城邸は侵略されていた。

 

とっくにこっちにも被害が出ている。運悪く門の近くに居た避難民の多数が<奴ら>の餌食になっている。立ち向かおうとしてる人も中には居るが、それよりも怯えて逃げようとして無駄に終わってるのも多い。

 

急速に広まる混乱の喧騒に、複数のフルオート射撃の連打が加わった。ようやく高城の親父さんの部下達が反撃を開始した様だ。

 

数十の火器の一斉射撃の迫力が凄まじい。策もへったくれもなく<奴ら>はのろのろとした足取りでまっすぐ突っ込んでくるだけだから成す術もなくバタバタ倒れていっている。

 

 

 

 

――――でもそれだけだ。

 

 

 

 

「頭を狙え!<奴ら>の弱点は頭だ!」

 

 

そう言いながら弾幕を抜けてきた数体に指きりバーストを数発づつお見舞いする。ドットサイトがなくても標準装備のアイアンサイトの存在が幸いだった。。ストックを肩に当てて構えた時、しっかりとフロントサイトとリアサイトが重なり合うよう真っ直ぐ構えるのがコツだ。

 

脳漿が後頭部から飛び出したそいつらは糸が切れた人形の様にあっさりと倒れていく。混乱して逃げ惑う避難民に引き寄せられたのか、雪崩れ込んできた<奴ら>の一部が男達の殺傷地帯から逃れ、門から高い塀の内側を沿うようにして大回りなコースで屋敷に近づいてきている。

 

テントやトラック、積み上げたままの物資が視界を遮って接近に気づくのが遅れてしまう。屋内でのCQB(屋内戦闘)訓練を思い出した。加えて<奴ら>と逃げ遅れた避難民がごっちゃでうっとおしい。さっさとどけ。

 

 

「孝、左!」

 

「クソッ、何時の間に!」

 

 

宮本の警告に小室が反応して、唐突にぬっと現れた中年男性の<奴ら>をKS-Kで撃つ。胸元を散弾に喰らって倒れはしたが、まだ動くそいつの額に宮本がモスバーグの銃剣をねじ込んで入念に息の根を止めた。

 

俺の周囲では他の皆も戦闘に加わっていて、高城はあの借り物のイサカを腰だめにぶっ放し毒島先輩も踊るような華麗な動きで次々日本刀で<奴ら>の首を刈ってみせている。

 

里香もへっぴり腰ながらSIG552を乱射していて、鞠川先生は情けない悲鳴を漏らして頭を抱えて蹲っていた。ちょっとは手伝え。

 

 

「おい、希里さんとありすちゃんは何処行った!?」

 

「さっきまで皆と一緒に居た筈なんだけど――――」

 

 

パパァ!!と鳴り止まない銃声の中で、確かにそんな悲鳴が聞こえてきた。何処からだ?

 

 

「ありすちゃん!」

 

 

平野がいきなりこっちに銃口を振り向けた。親友がトチ狂ったかと考えるよりも早く横に転がった。衝撃波が感じ取れるぐらいの距離を弾丸が掠める。

 

置き上がりながら平野の銃口の先に顔を向けると、頭の後ろ半分が消失した<奴ら>の死体を希里さんが手荒く身体の上から押しのける所だった。涙目で駆け寄るありすちゃんに「大丈夫だ」と言っているのが耳に入る。無言で親友と拳をぶつけ合った。

 

だが被害はどんどん増すばかり。<奴ら>の数も減るどころかむしろ倍増していた。抵抗の銃声が逆に街中の<奴ら>を呼び寄せてしまってるんだろう。

 

これじゃあ持たない、と本能的に直感したのは俺だけじゃなかったらしく、

 

 

「パパ、家に立て篭もって――――」

 

「守って何の意味がある!あの鉄門を破られたのだ、家に籠っても押し入られ、喰われるだけだ!」

 

 

高城の親父さんの意見は全く持って正論だ。そこへ副官の男性が古めかしいライフルを抱えて駆け寄ってくる。

 

 

「2階から確認しました。隣家に配置した者達はまだ襲われておりません!門の補強も可能です!」

 

 

親父さんの決断は早かった。敵中を突破し隣家へと逃げ込む、その為に部下だけでなく生き残りの避難民にも戦うよう檄を飛ばす、

 

その間も俺は迫りくる<奴ら>を殺して殺して殺し続けた。弾の消費を抑えるべくセミオートに切り替え、リズミカルにトリガーを絞る。反動が肩を蹴る度に血飛沫が飛び、頭蓋の中身が散乱する。終わりの見えない殺戮と死者の波。

 

M4のマガジンが空になる。その間隙を突いて迫る<奴ら>。レッグホルスターのP226Rを抜き、西部劇の早撃ちよろしく手首の動きだけで銃口を動かして撃った。膝を吹き飛ばし、ガクリと傾きながら動きの鈍った<奴ら>の頭部に今度は両手で銃口を向け直し、息の根を止める。

 

見回すだけで獲物はよりどりみどりだ。うろついていた手近な<奴ら>の側頭部に拳銃のグリップを思い切りたたき付け、底部へべっとり血が纏わりつくのもそのままに半身になりながら正面から近づいてくる若い女の<奴ら>の足を払い、地面に倒れた所で思い切り頭部を踏みつけた。

 

確かな手応え、否、足応え。やっぱり生きた人間より骨とかが脆くなってる気がする。

 

 

「真田、前に出過ぎ!早くこっちに来て!」

 

 

平野の警告通り、いつの間にか仲間は全員ハンヴィーの停めてある車庫のとこに集まっていた。呼ばれたのでしょうがなく皆の元へ戻る段になってようやくマガジンチェンジ。勿論そのまま捨てずに空マガジンはベストのマガジンポーチに戻す。

 

背後で爆発。手榴弾よりも規模は大きい。トラックの荷台で見た代物の存在を思い出す。

 

 

「この車に乗って逃げるってのか?でも予算削減で対EMP処置は省かれてんじゃなかったっけ」

 

「そうでもないぜぇ兄ちゃん!」

 

 

どっから現れんですか松戸さん。車体の下からいきなり現れた彼に驚いて高城と里香が飛び上がっていた。スカートを押さえながら。

 

 

「ラッキーですよお嬢様。もう1台の方のSUVは完全にオシャカですが、コイツは対EMP処置されてます!しっかりと銅の3重被覆までして、マニアックな持ち主も居たもんだ!」

 

「じゃあ、この車動くんですね!?」

 

「ええ、でもダメージを受けてるんでちょいと不安が残りますが細かく見てる時間がありませんし、アッチの方もチェックせにゃならんので」

 

 

松戸さんが示す先には、別の車庫の裏手に置いてあった例の8輪ATVの姿が。何でこんな所に移動してあるんだ?

 

俺達の見てる前で松戸さんはATVのエンジンフードを開けて調べ始めた。自然、自分達の役目を理解して車庫の周囲に<奴ら>が集まってこないか警戒する。

 

高城の親父さん達が派手に暴れてるせいか、こっちに<奴ら>が寄ってくる気配は大してない。それでも遠くから俺達は親父さん達の援護に加わった。

 

一応世話になった人達だ。借りは返させてもらおう。ついでに里香に使えないSUVの方に置いたままの荷物をハンヴィーに運び込むよう言っておいた。物資が無くて困るよりは、有り過ぎて困る方がよっぽど良い。

 

やがてエンジン音が1つ増えた。

 

 

「何度も調べたがどこもいかれてない。コイツも電子燃料噴射装置もバッテリーケーブルも皮膜されてるからだな。いけるぜ!」

 

「荷物も全部移し終えたよ!でも量が多くてちょっと狭いかも」

 

「僕はこっちのバギーの方に乗るよ。皆はハンヴィーの方に乗って!」

 

 

次々と分乗する。俺も数歩車に近づいた所で背後での動きに気付いた。正確には動こうとしない存在に、だ。

 

 

「パパ?早くおくるまのろうよ」

 

 

ありすちゃんに手を引かれても、希里さんは曖昧に笑ってその場に立ちつくしたまま。

 

希里さんのワイシャツとネクタイは胸元からに袖の辺りまで血がべったりと張り付いていて、それはきっと平野の銃撃に助けられた時の――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと待て。

 

あの血は本当に、返り血だけなのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・どうやら、私は此処までの様だよ」

 

 

力無く笑ってみせた希里さんが持ち上げてみせた左腕には、小さく噛み千切られて抉れた傷跡が刻まれていた。

 

 

 

 

 

 


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