二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~   作:祭永遠

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明けましておめでとうございます。

一ヶ月以上開いてしまいました。原因は他のSSを読みふけっていたことにあります。
すみませんでしたー。
お正月とは1月いっぱいまでのことらしい。なので今この話を投稿しても問題ない!!

ちなみに今回は甘くありません。
ただのデートです。砂糖は吐けません。ブラックも用意する必要もございません。もしかしたらキャラ崩壊してるかも?

それでもよろしければお読みください。


そのに!!

 

除夜の鐘がテレビから鳴り響いて早数時間。俺は正月も変わりなく早朝トレーニングをしたあと家に戻りシャワーを浴びる。汗を流し終え、正月定番の雑煮を食べる。今日はこのあとシリカと初詣に行く予定なので、早めに準備を整え家を出た。池袋の駅にて待ち合わせをしているので、最寄りの駅から一本で行ける。カードの残高を確かめて、往復分があることを確認し改札を通る。周りには同じように初詣に向かう人が多く、わざわざ袴や振り袖を着ている者もいた。

 

駅のホームで電車が来るのを待つ。電光掲示板には次の列車の到着時刻が表示されており、時計を確認するとあと五分ほどで到着時刻になる。自販機でコーヒーを買い、熱さと格闘しながら喉に通す。ちょっとした苦味が口の中に広がり、それが胃の中へ落ちて行くのを感じ体の芯から温まる。電車を待つ人たちはどうもカップルが多い。

 

 

『まもなく一番線に急行池袋行きの列車が参ります。黄色い線の内側まで下がってお待ちください』

 

 

聞き慣れたアナウンスが耳に響く。それからすぐに列車がスピードを落としながら入ってくる。俺のいる位置は十両編成の列車の一番前。電車の出口が池袋の改札に一番近いところに立っている。目の前で電車が止まり、乗客が降りるのを待ってから乗り込む。正月だからか車内は満員となっており、おしくらまんじゅう状態である。そこからさらに乗り込もうとする人もいるので息をするのも苦しくなる始末。早く車の免許を取りたいと切実に思う。

それから電車に揺られ約三〇分、目的の池袋に到着し待ち合わせ場所である駅構内の某ふくろうの銅像へ足を運ぶ。そこにはまだシリカの姿は見えない。俺の方が先に到着したようである。それもそのはず。今の時刻は九時過ぎで、待ち合わせ時間は十時。およそ一時間も早く来ているのだ。いくら待たせる訳にもいかないとは言っても少し早すぎたか、と思いつつこれでどこか店に入って時間を潰している間にシリカが来ては元も子もないので、大人しく銅像の前で待っているとする。

 

銅像の前を待ち合わせ場所に指定する人はそれなりに多いようで、次々と人が入れ替わる。大人数でわいわいと目的地へ向かう人や、カップルで仲睦まじく手を繋いで行く人、池袋の駅から近いのか家族連れて歩く姿もちらほらと見かけた。

 

そうやって人間観察をしていること三十分。見慣れた影が姿を現せた。

 

 

「お早うございます夏希さん。お待たせしました」

 

 

「いーや、俺も今来たとこだから待ってないよ。それにしても俺はてっきり振袖で来るもんだと思ってたわ」

 

 

「私も最初はそうしようかと思ったんですけど……やっぱり移動を考えたらこっちの方がいいかなーって」

 

 

そう言うシリカの服装はいつもと変わらない私服だ。ジーンズ生地のショートパンツに黒のニーソックス、靴は脛の部分が埋まるくらいのブーツ。上は(インナーは見えない)ベージュのコートを着ていた。個人的な感想で言えば寒くないのだろうか、というのが一番にくる。特に下など男で言えば靴下のみ。以前気になって聞いてみたところ、きちんと夏用や冬用で生地が別らしく見た目以上には寒くないとのこと。

 

 

「じゃ、ちょっと早いけど行こうか」

 

 

「そうですね」

 

 

そう言ってから人が流れていく方面へ向かって歩きだす。階段を登り地上へ出ると空気の冷たさを感じる。するとシリカがおもむろに手を差し出してきた。

 

 

「手……寒いです」

 

 

「それは気が効かなくて申し訳ない……はい」

 

 

俺が渡したのは冬の便利なお供、ホッカイロ。もちろん先程まで自分が使っていたのでシリカが使うには問題ない温度となっている。

 

 

「………………」

 

 

しかし何が不満だったのか無言のまま返されてしまった。しかし他に何があるだろうか。シリカは手袋などつけずに素手のままである。ちなみに自分は手袋はガッチリ装備済み。そこまで考えたところで合点がいった。俺はつけていた手袋をいそいそと外し、シリカに渡した。

 

 

「確かにホッカイロじゃ片手しか温かくならないもんな、気づかなくて悪かった」

 

 

「……前々から思ってたんですけど夏希さんって時々物凄くバカですよね」

 

 

俺は何か悪いことでもしたのだろうか。自分の手を犠牲にしてまで手袋を差し出したというのにこの言われよう。

 

 

「もっとこう別のがあるじゃないですか。周りを見てください」

 

 

そう言われて周りをよく観察してみると俺たちと同じような男女の二人組、もといカップルはだいたい手を繋いでいた。

 

 

「そう言うことね。……はい、これでいいですか?」

 

 

「普通はすぐ気づくものなんですけどね……」

 

 

シリカの手を取り目的地までの道のりを歩いていく。何せ時間はたっぷりある。少々時間はかかるがそれもたまにはいいだろう。

シリカは歩くペースが遅い。身長から見て歩幅も狭いし、本人の性格から見ても案外のんびりしている。目指すは御嶽神社、西口から徒歩十分にあるはずなのだが、結局は倍の時間をかけてしまった。

 

 

「それじゃお参りでもしますかね……まあ、本来なら初詣って地元でやるべきらしいけどねー」

 

 

「多分気にしてる人は少ないですよ?」

 

 

「だからこそ……かな?神社に屋台とかさ、お祭りじゃないんだからとか思う訳よ。ずっと先の未来では初詣もクリスマスとかハロウィーンみたいに変な解釈されそうで怖いわ」

 

 

「……なんかあり得そうですね……」

 

 

そうこう話している内に賽銭箱の前に到着した。三ヶ日の最終日だからか人の姿は疎らである。元々そこまで有名な神社ではないし、初詣と言えば一日と思っている人が多いためだと思う。ちょっと奮発して五百円玉を賽銭箱に投入、二礼二拍手一礼を済ませてお参りは終了となる。

余談ではあるが、御願い事は二拍手の内に済ませるらしい。これって二拍手の間が不自然に空くと思うのは俺だけだろうか。ここの神社は厄除けがメインと言われているので俺の周りの人達の厄除けを御願いしておいた。

 

 

「お参りも済ませた事ですしおみくじ引きましょう!!」

 

 

「引っ張らなくてもおみくじは逃げないから」

 

 

シリカに引きずられるようにして売り場まで着く。窓口から中を見ると受付の人の後ろには番号が書かれた棚があった。恐らく何かを引いて書いてあった番号の棚から結果を渡されるタイプのおみくじなのだろう。

 

 

「おみくじ二つお願いしまーす」

 

 

「はい、それでは二回分で六百円になります」

 

 

「じゃあこれで」

 

 

俺は懐から財布を取り出し、千円札を差し出す。シリカがおみくじなんだから自分で払わなきゃ意味がないと言ったので後で貰うと伝える。受付のお姉さんに少し笑われてしまった。

 

 

「お預かりいたします。こちら四百円のお釣りです。それでは此方を下に向けて、棒が出てくるまで振ってください。書いてあった番号をお伝えください。結果をお渡しいたします」

 

 

係員のお姉さんが両手でなんとか持てるくらいの筒を渡してくる。それをシリカに渡し、先にやれと視線で促す。

 

 

「ん……しょ……っと、二十七番です」

 

 

「はい、じゃあこちらです」

 

 

シリカは大事そうに結果が書かれた用紙を受け取る。俺が引くまで結果は見ないようだ。俺もさっさと引いて百七十八と書かれた棒を筒へ戻す。

 

 

「百七十八です」

 

 

「はい、こちらです。ありがとうございました」

 

 

俺も紙を受け取り、シリカと受付から離れる。

 

 

「それじゃあいいですか?せーので開けますよ?」

 

 

「「……せーのっ」」

 

 

ぴらっ……そんな音と共に結果を見る。結果は小吉、金運がほぼなし。恋愛運は現状維持、健康運が下降気味。総合運でやや下降であった。隣のシリカを見るとなぜかフリーズしていた。

 

 

「」

 

 

「おーい、どったの?」

 

 

おみくじとシリカの間に手を入れて振ってみるも反応がない。悪いなー、とは思いつつもシリカのおみくじを覗き見た。

 

 

「うっわ……大凶とか本当にあるんだ……初めて見たわ」

 

 

「うううう……夏希さあん……恋愛運があああ……」

 

 

そう言われ恋愛運の欄を見てみると驚く程にフルボッコだった。曰く付き合っている男性がいる場合は確実に別れるとか。

 

 

「まあまあ、おみくじなんて気の持ちようだよ。あんま気にすんな。それにそれを避けるためにあのくくりつける奴があるんだしな」

 

 

「うううう……でも……でもおおおお……」

 

 

「大丈夫だって。今さらおみくじ一つでどうこうなるような関係じゃないでしょ?ほらさっさとくくりつけて昼飯にでもしよう」

 

 

隣で涙目になりながらおみくじをくくりつける作業に必死になってるシリカは可愛らしく見えた。おみくじで一喜一憂するところは女の子らしい。

神社から出てMのマークがシンボルのファーストフード店へ入る。シリカは未だショックから立ち直れず、「なんで恋愛運が一番悪いの?金運とかから引いてよ……」とか呟いている。

 

 

「ほらいつまでしょげてんだよ……もうすぐ順番だから頼む物考えといて」

 

 

「……いつものでお願いします」

 

 

「はい了解」

 

 

ここでシリカの言ういつものはテリヤキのセットSサイズのことである。自分の分とシリカの分の料金を払い禁煙席へ座る。四人がけの奥がソファーになっている席が開いていたので、ソファーの方をシリカに譲り、俺はシリカの対面の椅子へ座る。

 

 

「「いただきます」」

 

 

これは物を食べるときには、絶対に欠かしてはいけない。これ鉄則。適度に塩がかかっているシューストリングポテトを消化していく。どうやら揚げたてらしく舌が火傷するかと思うくらい熱かった。それにびっくりした俺は外見冷静、内心大慌てでセットのドリンクへと手を伸ばす。コーラの強い炭酸が喉を通る。これは生や発泡酒を飲んだ時に近い感覚があり、ついぷはーっとやってしまうのは愛嬌と言うことで勘弁していただきたい。

 

 

「……恋愛運……恋愛運……」

 

 

正面からポテトを消費しながらぶつぶつと言っているシリカは少し怖かった。目のハイライトが消えており、朝は……いや、おみくじを引く前はあんなに元気だったのに今は見る影もない。それをしばらく観察しているとポテトが無くなった。それなのにシリカの手は空の袋に手を伸ばし見えないポテトを口に運んでいる。思ったより更に重症であった。ちょっと見るに耐えたないので、自分の手元にあったポテトをシリカの口に運んでみた。すると手が動きを止め口だけが動き出す。

これは小学生の時に学校で飼っていたウサギを思い出す。奴らも野菜スティックをこんな感じでポリポリと消化していた。

 

 

「なあなあ、いつまで落ち込んでんの?」

 

 

「だって恋愛運ですよ?私と夏希さんの今年を占う物でよ?どうしたって気になっちゃうんですよ……」

 

 

「でもなー……俺の方は現状維持って書いてあったし……これを考えたら問題ないじゃん?しかも別れるって書いてあったのはシリカの方でしょ?なら結論から言うに振られるのは俺じゃん。なのでシリカが落ち込む必要はどこにもないさ」

 

 

「私は別れるつもりなんてないですよ。一年以上かけてやっと実ったんですから」

 

 

「なら尚更心配する必要はないでしょ。俺も珪子も別れる気はなし。来年も再来年もこれだけは変わらないよ」

 

 

「そ……そうですよね!!うん……私も気にしないことにします!!そうとなればいつまでも落ち込んではいられません。せっかくのデートです。このあとも付き合ってくれますよね」

 

 

半ば強引に付き合うことが決定されているものの、否を唱えるつもりもない。時間は何時だって有限だ。

そして決断したときのシリカの行動は早い。残っていた物をさっさと食べ終えると俺の手を取って店を出る。二人で出掛ける時は必ずと言って良いほど本屋へ立ち寄る。まあ、俗に言う二次元関係の物ではあるが。

 

 

「あっ、これ新刊出てたんだー……」

 

 

「え!?これラノベ!?」

 

 

「……?そうですけど」

 

 

シリカは目的地に着くとラノベコーナーへ一直線、新刊をチェックしている。俺が狼狽した理由はタイトルにある。なぜならばリリカルおもちゃ箱とあったからだ。この作品、前世ではとあるエロゲのファンディスクだった。これをアニメ化したものが魔法少女リリカルなのは。この二つの作品はコンセプトが違うのでほとんど別作品となっているが、どちらも懐かしい作品である。少し興味が湧いたので手に取ってパラパラとページを捲ってみると、そこは鳴海市ではなくミッドチルダが描写されていた。

 

 

「……これどんな作品?」

 

 

「これはですねー……」

 

 

シリカの話によると、なんというかほとんどリリなのであった。違うところはフェイトの立ち位置にクロノがいて、なのはとは付き合っていること。そしてクロノの立ち位置にフェイトらしき女性がいたこと。あとは概ねリリなのと変わらないようだった。

どうやら話から察するにシリカは結構お気に入りらしいので一巻だけ買ってみた。

 

 

「買わなくても貸しますよ?」

 

 

「こういうのは自分で買ってこそだろう?」

 

 

俺にも自称オタクとしてのプライドがある。中にはそんなプライドなんていらないと言う人もいるだろう。だが俺には数少ない譲れない物なのだ。

 

二人で買い物を終えたあと恒例のウィンドウショッピングである。男である俺には退屈であると言わざるを得ない。それでもシリカの笑顔が見られるのならば、俺の退屈などくそ食らえ。報酬としては破格のものだと思っている。

 

 

「あっ、これ可愛い」

 

 

「んー……!?」

 

 

シリカが見つけたのはちょっとしたイヤリング。何の事もないシルバーのものである。ダイヤがついている訳でもない。特別何かを使っている訳でもない。見た目から判断して安そうなら買おうかと思っていたのだが、値段を見て正に目が飛び出した。少し目を擦って値段を見直して見てもゼロの数は変わらない。これは諦めざるを得なかった。

 

 

「さて、そろそろ日も暮れてきたなー。帰るか」

 

 

駅に向かいながら切り出す。

 

 

「えー、私としてはもうちょっと一緒にいたいなー、なんて……」

 

 

「俺と出掛ける度に遅くなってんだろ?たまには早く帰ってやれ」

 

 

不満そうなシリカを抑え、駅に着いたところでカードにお金をチャージする。

駅が集合場所だった事からわかるように、俺とシリカでは乗る電車が違うのでここでお別れとなる。

 

 

「むうううう……じゃあまた来週デートしてください」

 

 

「あいよ」

 

 

シリカの乗る電車の改札付近で、電車が出るギリギリまで話す。これもお決まりだった。

 

 

「あっ、そろそろ時間……あーあ、帰りたくないなー……」

 

 

「帰れ。来週のデート無しにするよ?」

 

 

「はい!!帰ります!!じゃあ気を付けてくださいね」

 

 

「おー、お前もな」

 

 

チラチラとこちらを伺って目線を送ってくるシリカを一蹴。即座に意見を翻すシリカも面白い。

シリカが改札を通る前にちょいちょいと手招きをした。

 

 

「どうした?」

 

 

「……んっ」

 

 

「」

 

 

唖然とした。こんな公共の場、しかも帰宅者がかなり使う時間帯の池袋駅で頬とは言えキスをされた。

本人はさっさと改札を通り抜け、してやったりみたいな顔をしている。

 

 

「何してんだアホ!!」

 

 

「べーっだ」

 

 

そんな仕草をしてそそくさとシリカは階段を降りて姿を消す。しばらくそこに立っていたが周りの視線が気になり、俺も改札方面へ急ぎ足で向かった。

 

 

 


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