二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~ 作:祭永遠
「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」
ええ、ええ、来てやりましたよ。デスゲームだってわかってんのにそれでもSAOに参加するのは狂人と言っていいよね。心配するな、自覚はある。
「私の名前は茅場晶彦、今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」
周りの驚きっぷりが凄い。………シリカはなんでみんなが驚いてるのかがわからないみたいだな。そこまでゲーマーってわけじゃないんだな。
「プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく[ソードアート・オンライン]本来の仕様である。諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない。……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合―――ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる」
「………クゥドさん」
おわっ…集中して聞いてたからびびった。
「あの茅場?っていう人のことって本当なんですか……?」
「………原理的には十分有り得る話だよ。ナーヴギアの3割はバッテリセルというもので作は (サンチとは)。これだけの容量があれば脳細胞中の水分を高速振動させ、摩擦熱によって脳を焼くことができる。簡単に言うと電子レンジと同じようなことが俺たちの脳内で起こると考えてもらってかまわない」
「そ……そんなっ………嘘ですよね…?」
「いや、こればっかりは事実だよ。茅場が本当にそれを実行するのかは別としてね」
まあ、実際にはやるわけなんですけどね。
今までの説明だけで全部がわかってしまったら変な疑いをかけられるので自重しよう。
「諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べた通り、アインクラッド最上部、第百層まで辿り着き、さこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう」
あれ?知らないうちにずいぶんと説明が進んでる。
考え事に集中しすぎたかな?
「それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してみてくれ給え」
あい、了解っと。…………いやー、どうでもいいけど1万人分のサウンドエフェクトってすげー音でかいわ。
「クゥドさん。この所持品の一番上にある[手鏡]ってアイテムでいいんですか?」
「そうだよー」
「んー……何も起こらないですよ?………きゃっ…」
何回も言ってるけど……すげー。1万人を白い光が一気に包みこんでいる。
んー……どうやら収まったみたいだね。隣は………うん、シリカだね。
生前?なんて言えばいいんだ?転生前?にアニメで見たシリカそのままだ。いやー、アバターよりかわいい現実の容姿っていったいどうなのよ?と製作者を小一時間問い詰めたい。
「やっぱり何も変わってないように見えるんですけど…………あれ?クゥドさん髪の色が変わってますよ?どうなってるんですか?」
…………あっれー?もしかしてシリカってけっこうな天然さんだったりする?原作じゃあそこまで詳しい描写なかったし…。
でもまあ、気がつかないのも無理はないと思う。だって俺のアバター現実の容姿のまま髪の色変えただけなんだよね。
実際、こうなるのわかってたからめんどくさかったなんて理由でアバターを適当にしたわけでは断じてない。ないったらない。
「まあ、とりあえずもっかい鏡見てみ?」
「………?まあ、別にいいですけど……うん、やっぱり私が映ってるだけでおかしなことはなにも……………っえええええええええ!?あれっ!?私が私になってる!?」
「いや、元からシリカはシリカだろ」
「あっ、いやそうじゃなくてえっと、現実の姿に変わってるんです!!アバターじゃなくて」
うん、ナイスリアクション。
「それは俺もだよ?」
「ええええ?でもでもクゥドさん髪の色以外何も変わってませんよ!?」
「そりゃ髪の色以外全部そのままアバターにしたもん」
「そ……そうなんですか!?でも、なんでこんなことをするんでしょうか?」
「それはわからないけど、これもすぐに説明してくれるさ」
そろそろ周りも慌ただしくなってきてる。
「諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は――SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?これは大規模なテロなのか?あるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と。私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた。………以上で[ソードアート・オンライン]正式サービスチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の―――健闘を祈る」
これで説明は全て終わりか。なら、さっさと行動あるのみだな。
「そんじゃ行きますかー。…………?どうしたの、シリカ?」
よく見れば分かりやすいぐらいに震えている。やはり怖いのだろう。今までは我慢してたみたいだけど………切っ掛けは俺の行動かな?
「何なんですかこれ?意味わかんないですよ。ゲームから出られないって嘘ですよね?何か私悪いことしました?なんで私がこんな目にあわなきゃ……」
「シリカ、まずは落ち着いて。そして俺の話をよく聞いて。………非常事態の時は物事は常に最悪を想定して動かなくてはならない。俺はそう教わった。だから俺はこれを現実の物として考えることにした。そうなるとこの始まりの街にいる意味はなくなるから俺はすぐにでも次の村にまで行こうと思う。俺はこれでもβテスターだからレベルが低くても安全に村まで行けるルートを知ってるし、シリカ一人ならば庇いながらでも十分に余裕がある」
そこで俺は一息ついて、
「シリカ、君はどうする?俺に着いてくるか、この始まりの街でゲームがクリアされるのを待つか………君が自分で決めるんだ。」
これでここに残るって言われたらもうしょうがない。俺もキリみたいにソロでやろう。
「私は――迷惑じゃなかったら着いて行きたいです……!!多分ですけどここに残っても何も変わらないだろうし……それに、一人じゃ不安で………」
「迷惑だったら誘ってないって。それじゃさっさと行こうか。今日のうちには村に着いておきたいからね」
「はい。わかりました」
「それと途中で、モンスターと遭遇することもあると思うけどこれは全部潰していこう。基本方針は村まで最短距離を進んでく。そして、戦闘方針はます、俺がスキルをぶちこむからそのあとスイッチ、でシリカのスキルで止めだ。第一層のモンスターは攻撃力もないから焦らず練習通りにやれば問題ない。もちろん危なくなったらすぐに助けるから安心してほしい。できるね?」
少し厳しいかもしれないけどこれくらいは今のうちからできるようにならないとすぐに死んでしまう。これはシリカを死なせないためとも言っていい。
「………はい。ちょっと怖いけど…頑張ってやってみます!!」
よーし、いい返事だ。立ち直るのがけっこうはやい。
やっぱり一人だけの時と他に誰かがいるっ場合だと精神的にも変わってくるもんなのかな?
「それじゃシリカにパーティー申請を出すからそれを受けたらここを出よう。今日から俺とシリカはコンビだ。よろしくな」
「はい!!こちらこそよろしくお願いします!!」
そのあとは道中危険なこともなく、シリカも危なげなくスキルを使いこなし予定よりも早く村に着いた。
ちなみに村に着いたのは、夕日が落ちてから一時間ほどたってからだった。