二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~ 作:祭永遠
アルゴが家に来た次の日、他のメンバーにも連絡を取り、全員の予定が合った二日後に会議を開くことになった。場所は外ではあれだと言うことでなぜか家になってしまった。理由としては二人がすでに一ヶ所に纏まっているからとついでにリハビリも兼ねてだそうだ。
全員して遠いのにわざわざ来てくれるから正直ありがたかった。
そして申し訳ないが母親には出掛けてもらっている。この話はおいそれと外で出来るものでもないし、かと言ってSAO関係者でもないのに巻き込むわけにもいかない。
父親の方は普通に仕事に出掛けている。
まだ十二月の半ばだが、普通の学校へ復帰出来ない俺たちには平日でも問題ない。
そして今日がその二日後にあたる日だ。個人的にはなんとか原作より早く終わらせてアスナのリハビリ期間を長くし、無理なくSAO関係者が集まる学校に入学させてあげたい。原作では相当無理なリハビリをして入学に合わせたって話だから、そんなことはさせたくない。
ゆっくりとキリトと共にリハビリをしてもらって、さらに二人の距離を縮めてもらいたい。そしてそれを俺が盗撮すれば完璧なホームビデオの完成だ。SAO内であんなに貯めた記録結晶はどうせALOにログインしたら使えなくなるし、今の内から現実用に撮り貯めておこう。
いずれ行われるであろう二人の結婚式のために!!
そのためにはまずアスナを助けて、なおかつご両親を説得させなければならない。アスナはええとこのお嬢だからな、これがまた厳しそうな気がする。
さて、話が逸れてしまったがシリカたちを迎える準備は整っている。気軽につまめる茶菓子は和と洋で両方揃えてあるし、飲み物も完璧だ。これぞおもてなしの心。
「今日はそんな軽いお茶会みたいな感じでいいの?もっと重要なことだと思っていたのだけれど」
「わかってないな。こういうのは気持ちだよ、気持ち。少なくとも飲み物は消費するだろうよ、なんたって会議だからな」
アルゴとそうこう話しているうちにインターフォンが鳴った。
「さてさて、一番は誰でしょうねー。つか本当に早いよ、まだ昼前なんだけど」
「あら、早く集まるのはいいことじゃない」
アルゴの声を背に部屋を出ていく。まあ確かに何時集合とか時間は決めてなかったからあれだけど、せいぜい昼過ぎになると思っていた。俺は玄関についている覗き穴から誰が来たのか確かめる。
そこにいたのは男二人と女の子一人の三人組であった。それを確認たので扉を開けて迎え入れる。
「お前ら随分早いな。すでに半分以上のメンバーが集まっちまったよ」
「何時に行けばいいかわからなかったからな。とりあえず早めに来てみたんだが……大丈夫だったか?」
「大丈夫だ、問題ない。それと迷ったりしなかったか?」
「大丈夫だったよ。そこまで遠くなかったし複雑でもなかったから」
俺の問いにケイタとサチが大まかに答える。
「そうかい。んじゃまあとりあえず入れよ。俺の部屋に案内するぜ」
三人はお邪魔します、と一声出して靴を揃えて上がってきた。二階に上がり一人で貰うには広めの自分の部屋へ向かう。俺の部屋の間取りはおよそ十二畳、入口から見て正面と右手に窓がついており右手奥にベッド、左手奥に勉強机が置いてある。右側手前には収納スペースがあり、そこには春夏秋冬季節など関係なしに衣服が詰め込まれている。そして壁に沿うようにして本棚がズラリと並んでいる。これは俺がこの世界に転生してから集めたマンガやライトノベルである。どんな作品かはご想像にお任せします。
部屋の中央には電機カーペットが敷いてあり、その上にこたつを鎮座させ、そこに先ほどまで用意していた茶菓子などが置いてある。
三人に暖かい飲み物を出すと携帯が鳴る。それはメールの新着通知を知らせる音で、差出人はシリカであった。
どうやら駅でリズと合流したらしいが、いまいち文面だと家がわかり難いので迎えに来てほしいとのことだった。
しかし家にはすでにサチたちが来ていて、そのまま放置するのは申し訳ないので電話をかける。
「もしもしシリカ?家がわからないってこと?……はいはい……もう三人は家に着いてるから電話で説明するからその通りに歩いて。……うん、そんなかからないから……そうそう、そこで曲がってそのまま真っ直ぐ行くと無駄にでけぇ日本屋敷みたいな家があるから……信号とかも全部真っ直ぐな……その屋敷を過ぎて五件目の家がそうだから」
そうやって十分ほど説明し、終えたところで電話を切る。それから五分もしないうちにチャイムが鳴った。
内側から見るとシリカとリズの姿があったので鍵を開ける。
「「お邪魔しまーす」」
「ようこそ、会議室は二階の部屋になるから上がってくれ」
こうして俺の部屋に約一ヶ月半ぶりにギルメン全員が揃った。シリカとリズにも飲み物を出して一息ついてから話を切り出す。
「さて……皆、寒いなかわざわざありがとう。今さら自己紹介とかいらないよな?どうせ本名で呼ぶわけじゃないんだし。今回皆に集まってもらった理由は全員にすでに説明はしてあるから省こうと思う。ならば何をするのか、それは役割分担だ」
「ま、そうなるでしょうね。それで、主な分け方としてはどうする?」
「ああ、まずは大まかに俺と一緒にALOにダイブするメンバーと、アルゴと現実で須郷の黒い部分を見つける二つに分ける。俺と一緒にダイブする方はソフトの入数によってかわる。それだけは覚えておいてくれ」
リズの質問に軽く答えると全員が頷いてくれる。
ちなみにすでに黒幕がアスナの許嫁である須郷ということはあらかじめ話してある。なかなか理にかなった説明を考えるのに時間を要したが、なんとかアルゴでも納得できるような理由をでっち上げられた。
まあ、須郷がヒースクリフ―――茅場の後輩で、昔から自分は茅場より出来る人間だと思い込んでるって知り合いから聞いて、もしかしたら繋がってるかもしれないという説明をさもあり得そうに言っただけだが。
「そしてALOにログインする際、ダイブするメンバーは全員SAOのプレイヤーデータをALOへ移す。こればかりは運次第だが、この二つのゲームのセーブデータのフォーマットがほとんど同一だから恐らく上手くいく。ちなみに他も色々とSAOとALOは根本的なプログラムやら何やらが似通ってるから他に良いこともあるかもしれん。つまり初っぱなからチート全開ってわけ」
「うーん……反則ですけど仕方ないですよね?私たちはゲームをするんじゃなくてアスナさんを助けるのが目的なわけですし」
「というかアンタはそんな情報をどっから仕入れてきてんのよ……」
「情報元はテレビ。アーガスが潰れたあと、それをレクト?っつう会社のなんとか部がSAOのサーバーを買い取ったって言ってた。それを元にALOは作られたっぽい。そうじゃなきゃここまで似通ったゲームがポンポンと出来るわけがねえ。……それじゃあまずはソフトが入手出来た時の所有者の優先順位を決めよう」
「あっ……ごめん、クゥ。私はこっちでもアルゴと組みたいからソフトはいいや」
「了解、じゃあサチとアルゴはこっちで情報集める係だな」
それからしばらく会議に時間がかかる。
その結果、二つ目以降ソフトが入手出来た時の優先順位はこうなった。
2シリカ
3リズ
4テツオ
5ケイタ
まさかここまで決まるのに一時間以上かかるなんて思ってもいなかった。ログアウト不可なんてゲームをようやくクリアしたばかりだというのにどれだけゲーム好きなのか。
「ちょっと待ちなさい。どうして二つ目以降の話をしてるのかしら。まだ手元には一つもないはずよ?」
アルゴの疑問は最もだ。
「それがな……一つはあるんだよ」
俺はそう言いながら机の引き出しを開け、ALOのソフトを取り出す。
「実はお前らの入院先を教えてくれた人がな……くれたんだよ。まさか目の前でソフトを見せられた時はビビったけどな」
そう、菊岡はなぜかALOのソフトを持っていたのだ。どうやら何かの参考になればと所持していたのを無理をいってもらってきた。
「そしてこれがネットで見つけたアスナさんと思われるキャラ」
そして俺は一枚の用紙をテーブルに置く。
これは原作でエギルがキリトに見せた物と同じ。普通にネットで発見出来たので正直驚いた。
それをみんな食い入るように見つめて、俄然やる気が出てきたようである。
「ソフトに関しては同じ人に無理を言って手配してもらってる。つっても大人気らしいからもう手に入らない可能性もある」
「そ……そしたら、どうするんですか……?」
「んなもん俺が一人で行くに決まってる。そうじゃなきゃこのソフトを貰った意味がないからな」
全員が何かを言いたそうにしているが、SAOと違い直接的な危険性はない。それだけ言うとしぶしぶ納得してくれたようだった。
アルゴチームの方は下手したらなんの収穫もなく終わるかもしれない。なぜならば相手はあの茅場の後輩なのだ、恐らく巧妙に隠しているだろう。なので俺はアルゴにあるものを渡しておく。
「アルゴ、こいつは俺が密かに造ったお手製のボイスレコーダーだ。キリトに渡して、アスナさんの病室に入ってから出るまでずっと電源をつけてもらっといて」
「クゥ坊……あなたなんでこんなもの造れるのよ?」
「キリトは十歳で似たようなもん造ったぞ?そんな奴と俺はずっと一緒だったんだ、これくらい当然だろ」
初めて見たときは呆然としたのを覚えてる。というか化け物か、とツッコミをいれたくなったのは懐かしい思い出だ。
「恐らくアスナさんはいいとこのお嬢様だ。入院してる場所からしてみんなと違ったからな……それと許嫁もいるしな」
「ふーん、なるほどね……キー坊にはその許嫁かそれに近い人物が病室に来たら使うように言っておけばいいのね?」
「その通り、しかし上手く録音出来て警察に持って行っても相手が相手だ。すぐに提出するのは避けさせろ」
「本音は?」
「あの二人の仲を割くような奴はとりあえずフルボッコにしたいのでALOでの権力から現実の社会的地位まで全てを一度で底辺まで落としたい」
リズは頷いてくれてるが、他からはドン引きしているようだった。こちらでのアルゴの情報収集能力がどれほどかわからないがなんとか情報を持ってきてほしいものだ。
「ちなみに行動開始日は新年一発目……つまり一月一日を予定している。なにか異論はないか?」
「そうねえ……私ってこんな状態だし予定もないのよね……皆はどうなの?」
「俺らもそんな感じだ。とりあえず家で大人しくしてろって感じ」
テツオの言葉にサチとケイタは頷く。シリカも特に問題はなさそうでアルゴは言わなくてもわかる。
「……決まりだな。年末までにソフトを集められた数だけの人数で事に当たろう。集められなかった分の奴はアルゴたちの手伝いになる。それでいいか?」
全員を見渡し確認を取る。異論はないようなのでこれで会議は終了となった。
「あ、最後に情報収集は事に当たるまでは全員で行う。少しでもいい、どうでもいいことでも構わない。多く須郷の情報が欲しい……協力してくれ」
「そんなの当然じゃない!!むしろ言われなくてもやるつもりだったわよ!!」
「リズ……サンキューな。さて、これでだいたいの方針も決まったし、けっこういい時間になった。飯でも食べに行こうか」
それからぞろぞろと七人連れで駅近くのファミレスに入りのんびりと過ごした。周りからしたら相当うるさかったと思うが今日だけは許してほしい。なんせ初めて現実でメンバーが揃ったのだ。それは全員があの二年間を生き抜いた証拠であり、なにより絆の証明でもあるのだから。