二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~   作:祭永遠

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俺は先日ヒースクリフから貰った双剣を手にフィールドで戦闘をしている。

ただ時間があまりにも少ないので、そこまで使えるものになるかは分からない。

しかしそれにしてもこの双剣スキル……最低でも八連撃と確かにヒースクリフが言っていたように、連撃数は群を抜いている。

ただバグということもあり、最高連撃数が百というバカげた数値となっていた。まあこの技は、スキルの熟練度が900を越えないと使えないので、クリアまでに使えるようにはならないだろう。

 

今から約一ヶ月ではせいぜい上がっても500だ。ちなみにそれくらいまでなら簡単に上がるが、それ以降は技も強力になるぶん習得も難しく熟練度も上げにくくなる。

武器の威力が高いので最前線でも通用するが、まだ公にはしたくないので攻略組から外れて熟練度を上げている最中だ。

 

もちろん初めて使う武器なので、一人でやるなんて馬鹿げたことはしない。必ずシリカを連れて必要以上の安全マージンを取り行動する。

今も俺の熟練度上げに付き合ってくれているシリカに、いつかはお礼をしないといけないと思いつつ向かい合う敵に集中。先程使えるようになったソードスキルを試してみる。

 

 

「ええ……と?これでいけるか?」

 

 

ソードスキルを発動させるためには、システムアシストが発動するまでのモーションを自分で作らなければならない。

それが上手くいかないと、ソードスキルが発動しなかったり、不発で終わってしまうこともある。

故に一つの技でも、どの体制からでもモーションに入れるようにするために何回も練習を重ねる。

 

そして俺が今発動させようとしているのが双剣スキルの下位技である【絶影】。

この技は一撃毎に攻撃箇所が変わる。目の前で剣を振り、何回もダメージを与えるのではなく、すれ違いざまに一撃を与えることを計十回ほど繰り返すもので、どの位置からでも同じようにダメージを与えられるので重宝している。

 

うん、上手く発動した。

これでこの下位技は習得したと言っても過言ではない。

ちなみに技が解放されただけで習得とは言えない。どのような状況下においても繰り出せ、ダメージを与えらる算段をつけられなければ意味がない。

 

今日の最終チェックということでシリカとデュエルをする。

ここ最近このスキルの熟練度上げの作業をしたあと、シリカと戦闘を行うのが定例となっていた。

 

俺もシリカもどちらかと言えばスピードタイプなので、対人戦の相手としては申し分ない。

シリカは応用力や戦闘技術が上がるし、俺も完成度を見ることが出来るのでお互いに良いことばかりであった。

 

場所を決闘場に移しお互いに向き合う。

 

 

「それじゃいつも通りに。どちらかのHPがイエローゾーンに突入したら終了な」

 

 

「わかりました。それじゃあ……行きますっ!!」

 

 

シリカが声と共にダッシュをして俺の懐に入ってこようとする。そのダッシュを利用し短剣を右手に構え、左上から袈裟斬りのように振り下ろす。

俺は体を捻ってそれをかわす。

 

かわしたところでシリカはそのまま剣の軸を水平にずらし、回転。遠心力を使い横凪ぎに払おうとする。

それを左の剣で受け止める。

多少たたらを踏む程の威力だがそこは足腰で支え、余っている右の剣で左の剣の真横を通るようにシリカの剣を跳ね上げる。

 

それと同時にシリカはその跳ね上げられた武器の遠心力を利用し後方へ宙返り、着地と共にバックステップで距離を空ける。

 

シリカがバックステップしたのと同時に、俺は距離を詰めるため前進。

そのまま片方の剣で突くように腕を伸ばす。それをシリカが避ける。また同じ方の剣で突く。シリカが避ける。突く。避ける。突く。避ける。

 

幾度か繰り返したあと、シリカが慣れてきたころに不意討ちで、手持ちぶさたになっていたもう片方の剣でシリカの胴体めがけ払う。

シリカは虚をつかれたが、しゃがんでこれを回避しそのまま足払い。

 

それに引っ掛かってしまった俺は、受け身を取れず背中から地面に落ちる。

これを好機と見たか、シリカはすぐに立ち上がり俺めがけ剣を振り下ろす。これを横に転がることで回避。その際シリカの足を巻き込むことも忘れない。

そのままシリカも地面へ倒れこみ、これでお互いに地面で寝転がる形となった。

一瞬目を合わせたあと二人同時に立ち上がりそのまま戦闘を再開する。

 

慣れていない双剣を使っている影響だが、シリカにはいつも押されてしまう。

攻撃速度や回数はこちらの方が上であるにも関わらずだ。

理由としてはシリカの戦い方にある。シリカはなるべく堅実に戦うタイプで、あまり無茶をしない。

避けるための反射を鍛え続け、ただ振り回しただけではロクに攻撃も当たらない。

隙が出来れば絶対に見落とさず、確実に攻撃を当ててくる。

手数で勝負する双剣では分が悪いのも当然であった。

しかしだからこそシリカとの模擬戦が役に立つ。

シリカ以上のスピードは攻略組でもなかなか見かけない。

血盟騎士団のアスナが互角くらいと言えるレベルであった。

 

シリカのスピードと戦っていると、最前線のMobたちの動きが止まって見えたりする。

だから双剣スキルの練習に付き合ってもらっているのだった。

熟練度の低い状態でシリカとの戦闘に慣れておけば、いずれ熟練度が高くなった時楽になる。

それがシリカに熟練度上げを手伝ってもらっている理由であった。

 

そして今回も俺の敗けで模擬戦は終了した。

少し隙が出来たところに、直ぐ様ソードスキルであるアーマー・ピアースが懐に決まってしまった。

これは短剣スキルでも下位技であり、単発となっているので攻略組ではあまり使われなくなっているが、状況に応じてシリカは使い分けていた。

 

 

「あ…そう言えば今度お礼をしてくれるって言ってましたよね?」

 

 

「おー?まあ、出来ることなら」

 

 

「そしたら……今からご飯食べに行きませんか……?ええと……出来れば…二人…で」

 

 

「うん?そんなんでいいの?別に俺は構わないよ」

 

 

やたっ!!と小さくガッツポーズを決めて喜んでいたが、どうしたのだろう。

飯なんざいつも一緒に食べてるのに。

 

とりあえずギルメンに今日俺とシリカの二人は、外で食べてくることを伝えて店に向かった。

道中シリカが頻繁にメッセを開きぶつぶつと顔を赤くしながら何か呟いていたので、気になって覗こうとしたら怒られてしまった。

 

そして着いたお店は見たことがあるところだった。

 

 

「ここにしましょう」

 

 

シリカに確認をする。

 

 

「本当にここでいいのか?俺の驕りなんだからもっと良いところでも平気だぞ?」

 

 

「違います……ここがいいんです……私たちの出発地点……ギルドを立ち上げた時に相談したところ」

 

 

そう。シリカが望んだところはギルド、ゼロの騎士団が発足した酒場であった。

特に何かが美味しかったような記憶はないがここがよかったようだ。店内に入り注文をする。

 

 

「懐かしい……今でも不思議です。私がこうして最前線で攻略組として生き残っていることが……全部クゥさんが引っ張っていってくれたおかげです。今日はお礼を言いたかったんです……あの時私を見つけてくれてありがとうございます。私を連れて行ってくれてありがとうございます。そしてそのあともずっと私のそばにいてくれてありがとうございます」

 

 

俺は早継ぎに聞こえた言葉にほとんど反応も出来ず頷いているだけだった。

どうしてこのタイミングで?

その答えはすぐに出た。

 

 

「私は……クゥドさんが好きです…多分出会った時からすでにそうだったんだと思います。ゲームをしていてあんなに楽しかったのは初めてでしたし、そのあとこんな状況になっても自分を見失わないでこれた……全部全部クゥさんの期待に答えたかったんです」

 

 

今度こそ本当に言葉が出なかった。

脳内ではなぜ?とかシリカはキリトにじゃないの?とか色々な言葉が飛び交っている。

正直訳がわからなかった。

 

 

「……クゥさんが私の事を妹みたいな感じでしか見ていないことは知ってます…まあ、寂しいですけど。これからは私の事をちゃんと意識して下さい。それからお返事は頂きます。このいつ死ぬかわからないゲームの中でやっと決心がついたんです……私はクゥさんが好き。多分これ以上ないってくらいに……だから……!!」

 

 

シリカが続きを言おうとしたところでウェイターのNPCが料理を運んできた。

 

食べましょうか、とシリカがにこやかに言ったのがこの会話の終わりとなった。

しかし俺は先程の告白が現実のものとは思えず、ずっと頭の中で反芻してばかりでそれ以外は何も頭に入ってこない。

 

そのまま気がつけばギルドホームへと戻っており、シャワーを浴びて自室にいた。

それまでの経緯は全く思い出せない。

どうやってここまで帰ったのかも、その帰り道でシリカと何を話したのかもである。

 

しばらくはこの状態で悩み続け、周りからは心配な顔で見られたが平気なふりをした。

そしてそれを振り切ったのは一週間後のこと、まずはシリカをちゃんと見てあげよう、全てはそこからだと思った。

 

多分結論はそう遠くないうちに出る。

なぜなら悩んでいるのに幸せな気分なんて、そうそうあるものじゃないだろう?

 

これはこれで贅沢なのかもなと思いながら、今日も熟練度上げに付き合ってもらうのだった。

 

 


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