二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~ 作:祭永遠
今、俺とシリカは迷宮区の中程にいる。
他の攻略組はボス部屋にて戦闘を行っているはずである。
それなのになぜ俺とシリカは未だにこんなところにいるのか、それにはいくつかの理由があった。
一つはアルゴから協力要請のメッセージが入ったこと。
もしかしたらボスの新しい情報が入るかもしれないということでその手伝いだ。
一時は攻略組の人たちにも待ってもらっていたが、何か予定外のことがボス部屋であればすぐに引き返す、ということで先に行ってしまった。
もう一つは俺とシリカも参加したかったのだが、レイド上限人数を一人上回ってしまうため、誰か一人がレイドから外れることになってしまう。
コンビなのに同じレイドに入れないなんて話になっても困るだけだ。
それなら最初から参加を諦めて、他でコンビネーションやそれぞれの個人技を鍛えるという選択もありだと思う。
そして、アルゴからメッセを受け取った俺はシリカを伴い、待ち合わせ場所へと向かった。
アルゴはすでにそこにおり、詳しい内容を話始めた。
そのボスの情報を手に入れるにはクエストをクリアする必要があるらしくそのために俺へメッセを飛ばしたらしい。
どうも一つではなくいくつかクエストをクリアする必要があるらしく、今回はボスの攻略に参加しない俺たちに白羽の矢を立てたという。
例えボス戦に参加しなくともクリアを望んでいる俺たちは
、二つ返事で了承し三人でそれぞれ必要なクエストをクリアしていく。
全ての情報が出揃った時は驚いた。
この層ではボス自体が変わっているらしく、それを知った俺たちはすぐに迷宮区に入った攻略組を追いかけて今に至る。
俺とシリカの後ろから足音が二つ余計に聞こえる。
この足音の持ち主の一人はアルゴである。
二人で大丈夫と言ったのだがどうしても自分の口からこの情報を言いたいらしく着いてきている。
さしずめ俺とシリカはアルゴの護衛だ。
そしてもう一つの足音の持ち主はネズハという青年のものだ。
この青年はウルバスで鍛冶を行っていたのだが、とある理由から例の体術スキルを身につけ、今回のボス戦に参加したいということだった。
ここまできて、ようやく記憶の片隅からプログレッシブの二話の内容が頭に蘇ってきた。
正直十四年もたっていて、本編ですらかなり薄れてきているのに、プログレッシブまで覚えていられなかったようだ。
余談だが、赤鼻のトナカイに関しては、すでにその回だけで何百と見ているので、脳内再生が可能なレベルに至っている。
ネズハは迷宮区の前で一人でオロオロしながらうろついていたので、どうせ迷宮区に入るのだからさらに一人くらい増えても問題はなかったので、声をかけてこの珍妙なメンツとなったのである。
寄ってくるモンスターを、俺とシリカの二人で凪ぎ払いながら進む。
アルゴはAGI全振りのため戦闘は出来ないし、ネズハにはボス戦のために力を温存させる。
最悪、俺とシリカはボスとは戦わないので、迷宮区で力を使いきってしまっても構わない。
その分三層へ行くのが遅くなってしまうが、死者が出るよりはいい。
迷宮区の最上階に到達し、あとは道なりに真っ直ぐ突き進むだけなので、ここでスピードをあげる。
俺、アルゴ、ネズハ、シリカの順で一応警戒はしながらボス部屋の前まで移動する。
シリカには最後尾で後ろを警戒してもらっているので、何かあっても対応はできる。
そんな警戒は杞憂となり、あっさりとボス部屋に到達した。
ここで一端止まり、声をかけた。
「さて、ネズハさん。心の準備は?」
「大丈夫です!!」
ネズハは気合充分といった様子で、今にも走りだしそうな感じだ。
するとアルゴが少し焦ったように言葉を出した。
「少しボス部屋が騒がしい気がすル……急ごウ」
アルゴがそう言うので開いていた扉からボス部屋に入り奥に行くと、今まさにトーラスキング…二層、真のフロアボスが大暴れする寸前であった。
しかも、ボスの前にはキリトやアスナ、レイドのリーダーであるリンドやキバオウも倒れていた。
恐らくボスのブレスをもろに喰らい、麻痺しているようだった。
それを確認すると、すかさず後ろから来たネズハに指示を出す。
「ネズハさん!!投擲スキルでボスの王冠を狙ってください!!ディレイしているうちに近くに倒れているプレーヤーを回収します!!」
「わかりました!!多分僕でもディレイさせられ、しかもそのあとしばらくタゲを取れるので、その間になんとかある程度HPを回復させてあげてください!!」
「了解です!!シリカ!!とりあえずキリとアスナさん回収だ!!俺がキリを運ぶからアスナさんを頼む!!シリカのステータスなら抱えてもほとんど動ける!!」
「はい!!」
シリカの返事とともに、全員行動を開始する。
まず、ボスの圏内に入らないよう近づきネズハにサインを送る。
ネズハの了承のサインが送られるのと同時に、ネズハの体が投擲スキルを発動させるためにモーションに入る。
「やああっ!!」
ネズハの手から武器が飛び、綺麗な曲線を描きボスの王冠の下辺りにぶつかり、カアアアアンと甲高い音が響きボスがディレイした。
「シリカ!!」
「はい!!」
そのチャンスを逃さないように、俺とシリカはボスの足元付近に転がっているキリトとアスナを回収する。
「油断すんなって言ったのによ」
「………悪かったな…」
キリトを抱え壁側に放置し、後をエギルに任せたあとアスナを運んでいるシリカを手伝う。
他のメンバーもネズハがタゲを取ってボスを引き付けているうちに、全て避難が完了していた。
するとボスの目が光り、雷のブレスを放とうとする。
「避け………ろ…」
キリトが掠れた声で呻く。
叫ぼうとしていたようだが麻痺のせいでこうなっていた。
俺は安心させるようにキリトに教えた。
「ああ、大丈夫だよ。ブレスのタイミングならネズハさんは知ってるから」
俺がそう言うとブレスがくるタイミングを察知し、ネズハは余裕をもってかわしている。
キリトの顔が驚きに変わった時だった。
一緒に迷宮区を上がってきたもう一人のプレーヤー、アルゴの声が近くで響いた。
「ブレスを吐く直前、ボスの目が光るンダ」
キリトはいきなり現れたアルゴに、呆然とした視線を送っていた。
しばらくそうやっていたのでいつの間にかキリトの麻痺が治っていて、アルゴに突っ込まれてから気づいたように起き上がった。
アルゴはキリトが起きたのを見ると、キバオウとリンドの方向へ歩き出した。
一言か二言か話して、撤退するかボス戦を続行するか決めている。
どうやらアルゴはボス戦を続行するなら、タダで情報を教えるらしい。
数秒悩んだ結果レイドのリーダー格二人は、続行させることを決めたようであった。
アルゴがプレーヤーたちに情報を教え終わったところで攻略に入る。
俺たちはすることもなくなったので、端にいるのも邪魔だし部屋の外でのんびり待つことにした。
「いやー、間に合って良かったなー」
「本当に良かったです。ネズハさんも喜んでましたし、これからボス戦で会うことも増えますね」
「んー…多分ネズハたちは今回っきり……もしくはこの層の攻略が終わったら、しばらくは出てこないだろうね」
シリカの言葉に否定の言葉を返す。
あれだけボスの攻略に憧れを持っていたネズハが、今回だけでこれからはボス戦に参加しないことがシリカには不思議に感じられたらしい。
そこで俺はネズハたちが行っていた強化詐欺について話す。
詳しくは覚えていないので、かいつまんで重要と思われた部分だけ話した。
キリトたちと蜂狩りに行く前に見てたやりとりは、強化詐欺の一連であったこと。
一度はアスナも詐欺にあったが、それはキリトが裏技を使いなんとか武器は取り戻したこと。
フィールドボスと戦っていたリンド派でもキバオウ派でもないプレーヤーたちは、実はネズハとパーティーを組んでいて強化詐欺で奪った武器を売り、それで自身の武器や防具を強化して前線にまできたこと。
そして、今に至るまでの経緯を話したところ、シリカは悲しそうな顔をして呟いた。
「どうして詐欺なんて手を使ったんでしょう?……そんなことをして、バレたらただじゃ済まないことくらいわかるはずなのに…」
「出遅れたくなかったんじゃないかな……多分すぐにでもボス戦で活躍したい、攻略組と呼ばれたい、そういう色々な理由があったんじゃない?それにはどうしても邪道に手を出すしかなかった…とか、そんな理由じゃなくてただ単に優越感に浸りたかったとかもしれない。まあわからないことだし、想像するだけ無意味だよ。俺たちはクリアを目指すためにも、こんなところで止まるわけにはいかないからね」
少しだけ冷たいような、突き放すような言い方になってしまった。
強化詐欺をしていたプレーヤーをカバーする気はないし、感じ方は人それぞれなので、と納得させる。
二人で色々話していると、不意にアルゴが姿を現しこちらに声をかけてきた。
「お二人サン、ボス戦は終わったゾ。キー坊とアーちゃんは先に三層へと続く扉へ入っていっタ。オネーサンは後から転移門が開通したら行くから先に行っててくレ」
アルゴはそう言うとまたボス部屋の方へ消えて行った。
俺たちもそのあとに続き、三層へ向かう途中ボス部屋をぐるりと見渡した。
周りのプレーヤーたちはまだ興奮が冷めないようで、わいわいと勝利の余韻に浸っている。
そこを通りすぎ、一層の時と同じように扉を開けて、くぐった先にある階段を登って行く。
「さて、これから三層に入るけど、いつも通りやってくれれば俺とシリカのレベルなら問題ない。油断はせずに、だけどもリラックスして行こう。限界ギリギリまでこのゲームを楽しもうぜ」
ちなみに現時点で俺のレベルが16、シリカが15となっている。
ボス戦を経て、キリトがレベルアップしてたら確か15でシリカと同レベルになるはずだ。
二人でコンビネーションを確認するために、何回、何十、何百と続けていくうちにどんどんレベルが上がった。
「はあああああ……途中まではそこそこ良いこと言ってたんですけど、最後で台無しですよ。こんなゲーム楽しめるわけないです」
シリカから盛大な溜め息と鋭い突っ込みを受けながら、俺は三層へと続く扉を開け放った。
第二層これにて終了。