ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース 作:宇宙刑事ブルーノア
『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』
チャプター44『一足先に自由になった歩兵の為にです!』
メガフロート艦上・遊園地跡内………
「喰らえっ!」
弘樹に向かってバズーカからロケット弾を放つイプシロン。
「………!」
弘樹は飛んで来るロケット弾をギリギリまで引き付けると、これまたギリギリで爆風の殺傷範囲内から逃れ、イプシロンに四式自動小銃を発砲する。
その内の1発が、イプシロンの左肩を掠めた!
「! 馬鹿なっ!?」
驚きながらもすぐさま左手にM3サブマシンガンを握って反撃するイプシロン。
コチラも数発の弾丸が弘樹の身体を掠め、戦闘服を切り裂く。
「ッ!!」
「!!」
回避行動の為、地面の上を転がる弘樹だが、イプシロンは容赦無く銃弾を叩き込んで来る。
そして、起き上がると思われた瞬間を狙い、再度バズーカからロケット弾を放った!
「!!」
弘樹の姿が爆煙の中へ消えた!
「やったかっ!?」
そう思うイプシロンだが、油断無く弘樹が消えた爆煙の中を睨んでいる。
そして、弘樹は………
「…………」
ギリギリのところで致命傷を回避し、爆煙の中に息を殺して潜んでいた。
「…………」
爆煙の方へ慎重に歩を進めるイプシロン。
立ち上る煙の中に、目を皿の様にして注意を配る。
「…………」
と、弘樹は足元に在った小石を拾い上げると、左の方向へと投げた。
地面に落ちた小石が音を立てる。
「!!」
その音に反応するイプシロン。
「!!」
その隙を衝き、弘樹はイプシロンに向かって発砲した!
「!? ヌアッ!!」
完全に隙を衝かれたイプシロンだったが、持ち前の尋常では無い反応速度で致命傷を避ける。
それでも、左の二の腕を撃ち抜かれ、激痛が走る!
「!!」
その痛みを強引に無視し、バズーカを弾丸が飛んで来た方向へ放つイプシロン。
「! ッ!!」
躱そうとした弘樹だったが、バズーカのロケット弾が空中で爆発!
飛び散った破片が、弘樹の左肩から二の腕に掛けて突き刺さった!
「!!………」
だが弘樹も激痛に耐えながら、イプシロンに再度発砲!
「ッ!!」
今度は確実に、イプシロンの右肩を撃ち抜いた!
右腕が動かなくなり、バズーカを落とすイプシロン。
しかし、被弾の衝撃でブッ飛ばされながらも、反撃にM3サブマシンガンをセミオート撃ちの様に発砲する。
内1発が、弘樹の右脛の内側を掠める。
「!!」
致命傷ではなかったが転倒する弘樹。
(弾切れ………!)
すぐに立ち上がる弘樹だが、四式自動小銃の弾は先程ので最後であった。
手榴弾も使い尽くしており、残る火器はサイドアームのM1911A1。
それも1マガジン分………
7+1の8発であった。
「………チッ!」
一方のイプシロンも、舌打ちしながらM3サブマシンガンを捨てた。
如何やら動作不良を起こした様である。
「…………」
するとイプシロンは、『何か』を取り出して残った左腕に握る。
それは、まるで鎌の様に歪曲した刃の付けられた槍であった。
「! 『バランシング』か!」
「ほう? 良く知っているな」
僅かに驚きの声を挙げた弘樹に、イプシロンはそう言い放つ。
『バランシング』………
伝統的な槍術の一種だが、謎が多い武術であり、その内容を詳しく知る者は少ない。
殆ど使い手も居ないが、クメン校にはこの武術が代々受け継がれている。
弘樹が知って居たのも、クメン校出身の友人達の存在が有ったからだ。
「…………」
イプシロンに呼応するかの様に、弘樹は四式自動小銃を地面に置くと、右手に英霊を握り構える。
剣道三倍段と言う言葉が有り、一般的に刀剣で長物を持つ相手と戦う場合、刀剣側は長物側の3倍の段位が必要とされる、と言う意味である。
それ程までにリーチの差とは埋め難いものなのである。
加えて、今弘樹は右腕しか使えない。
イプシロンも左腕しか使えないが、コレではリーチの有利不利が更に出て来る。
(懐に飛び込むしかない………)
そう考える弘樹だが、それは当然相手に読まれている。
いや、例え読まれて居なくとも、イプシロンの反応速度では対応されてしまう可能性が高い。
状況は手詰まりの様に見えた。
「…………」
それでも弘樹は、腰を落とし、踏み込む体勢を執った。
(来るか。さあ来い、舩坂 弘樹………踏み込んで来た瞬間が貴様の最期だ)
油断無く弘樹を見据えるイプシロン。
弘樹はジリジリと摺り足でイプシロンとの距離を詰めて行く。
「「…………」」
凄まじい緊張感が両者の間に漂う。
心なしか、周囲の音が小さくなって行っている様に錯覚する………
そして弘樹がまた摺り足で1歩踏み込んだかと思われた瞬間!!
「!!」
摺り足を終えた瞬間に、神速と言える速度で踏み込んだ!
(! 来たかっ!!)
しかし、イプシロンは動揺無く、超人的な反射神経でそれに対応する。
イプシロンに向かって全身のバネを駆使した突きを繰り出す弘樹。
「そこだぁっ!!」
だがイプシロンはその突きに対し、切り上げを繰り出す。
突きを繰り出した英霊がイプシロンの槍に下から弾き上げられ、弘樹の手を離れた!
「!!」
「今度こそ終わりだ! 舩坂 弘樹っ!!」
そのままイプシロンは、切り上げた勢いを止めたかと思うと、弘樹の脳天目掛けて槍を振り降ろす!
「………!!」
そこで弘樹は、振り下ろされてくる槍の刃に向かって、自ら頭を突き出した!
「! 何っ!?」
ヘルメットが刃と接触し、槍の刃が中頃から折れて真上に打ち上げられた。
「!? ッ!!」
だが、半分になった槍の刃は、弘樹の戦闘服を切り裂く!
衝撃でブッ飛ばされる弘樹。
「フッ、驚かせおって………!?」
勝利を確信したイプシロンだったが、そこでブッ飛ばされた弘樹が、何時の間にか右手にM1911A1を握っていた事に気づく。
「!!」
普通の人間ならば反応出来ないが、イプシロンは反応し、弾道を即座に予測する。
「………!」
(躱せるっ!!)
直後に弘樹が発砲したが、イプシロンは弾道を見切っており、身を反らす。
だが………
何と放たれたM1911A1の弾丸が、落下してきた折れた槍の刃に命中!!
銃弾に弾かれた折れた槍の刃が、イプシロンに向かった!
「!? 何だとっ!?」
軌道を見切っていた銃弾は避ける事が出来たが、弾かれて飛んで来た折れた槍の刃は完全にイレギュラーだった。
折れた槍の刃は、イプシロンの戦闘服の胸………
心臓部分に突き刺さる!
「馬鹿………な………」
イプシロンがもんどり打って倒れると、ブッ飛ばされていた弘樹も地面に叩き付けられる。
「「…………」」
そして2人共倒れたまま、少しの間、沈黙が走る………
やがて、戦死判定を知らせるブザーが………
イプシロンの方から鳴り響いた。
「…………」
その直後に、弘樹が戦闘服の斬られた部分を右手で押さえながら立ち上がる。
如何やら、初めから斬られる積りで居た様で、寸前で致命傷を避けた様だ。
「…………」
そのまま弘樹は、倒れたままのイプシロンに近づく。
「………み、見事だ………舩坂 弘樹………私の負けだ」
倒れたままのイプシロンが、呻きながら弘樹を見上げて言う。
「フフフフ………だが確信したよ………お前が同類だと言う事をな」
「………!」
それを聞いた弘樹が、一瞬嫌そうな表情を浮かべた。
「………確かに………お前もPSだ………」
「………違う」
「PSだ………でなければ、倒された私のプライドは………」
「…………」
「普通の………人間には………こ………の………私が………負ける………わけが………な………い………」
そこでイプシロンは体力の限界を迎えた様で、まるで力尽きた様に気を失った。
「…………」
気を失ったイプシロンを暫し見下ろしていた弘樹。
「…………」
だが、やがて踵を返すと、地面に刺さっていた英霊を抜いて鞘に納め、背を向けて離れて行く。
「…………」
しかし、ある程度離れたかと思うと、再びイプシロンの方を振り返った。
「………!」
そして、M1911A1を抜いたかと思うと、空に向けて発砲した。
それは弘樹なりの………
一足先に自由になった歩兵の為の行為だった………
◇
メガフロート艦上・某所………
「そんな………イプシロンが………」
モニターに映る、倒れたままのイプシロンの姿を見て、愕然となっている千代。
「やはり舩坂 弘樹はPSの様ですな」
とそこへ、ロッチナが現れたかと思うと、千代にそう言って来る。
「! 違うわ! イプシロンこそがPSなのよっ!!」
「その完璧なPSであるイプシロンを倒したのです。それと同等に戦える人間が居ると思うのですか?」
「アイツは普通の人間よ! 何の特殊な訓練も受けていないわっ!!」
「訓練は絶対条件ではありません。能力こそが問題なのです」
弘樹がPSであると言う事を頑なに認めたくない千代に対し、ロッチナは淡々とした様子で語る。
「彼の能力は完璧なPSのソレです。既に舩坂 弘樹がイプシロンを倒した事で証明されています」
「違う………違うわっ!!」
(………家元と言えど、所詮は母親と言う事か)
決して弘樹の事をPSとして認めようとしない様子の千代を見て、ロッチナは内心でそう冷めていた。
「………愛里寿………そうよ! まだ愛里寿が居るわっ!! 愛里寿が西住 みほに勝てば良いのよ! そうすれば試合はコチラの勝ち! アイツの戦術的な勝利なんて意味が無くなるわ!!」
最早言っている事が支離滅裂に成り始める千代。
そんな千代の心境を知ってか知らずか………
モニターの映像は、みほ&ミカと戦う愛里寿の様子に切り替わるのだった………
◇
遊園地跡・中央広場………
並走して走りながら、広場の中心を抜けようとするⅣ号とBT-42。
しかし、バイキングの横を通り抜けようとしたところ、センチュリオンがバイキングに向かって発砲!
被弾の衝撃で、バイキングがⅣ号とBT-42に向かって来る!
「! 停車して即座に後退っ!!」
「ミッコッ!」
Ⅳ号は素早く停車すると同時にバックし、BT-42はバイキングが当たりそうなギリギリの位置を擦り抜ける。
直後に、BT-42の方がセンチュリオンに向かって発砲。
しかし、センチュリオンはBT-42の砲弾を防盾に当てさせて弾き飛ばすと、そのまま富士山型の展望台へ向かった。
「…………」
そして、展望台の頂上に位置取り、Ⅳ号とBT-42を見据える。
それに対して、Ⅳ号とBT-42は、富士山型の展望台の斜面を回る様にして登りながら、センチュリオンに肉薄しようとする。
そこでセンチュリオンも、Ⅳ号とBT-42とは逆方向に回る様に、富士山型の展望台を下り始めた!
そのまま、最初にBT-42と接敵。
BT-42が発砲して来たが、砲弾は僅かに上を擦り抜け、反撃にとセンチュリオンが擦れ違い様に砲撃。
しかし、BT-42はドリフトの様な動きを見せて回避。
直後に今度はⅣ号が現れて発砲して来たが、読んでいたセンチュリオンは一瞬停止して回避。
そのまま、展望台の階段部分に沿って降り始めた。
Ⅳ号とBT-42もその後を追い、左右に広がってセンチュリオンを挟み込んで挟撃しようとする。
コーヒーカップとあのイギリスの有名珍兵器『パンジャンドラム』をモチーフにしている回転ブランコの間を擦り抜けると、左から来ていたBT-42の方へ進路を取った。
BT-42が発砲したが回避され、反撃にとセンチュリオンが発砲して来たが、BT-42はドリフトで車体を斜めにして躱す。
今度はセンチュリオンを追う形で来ていたⅣ号が、エンジン部を狙って撃ち込もうと速度を上げて接近したが………
センチュリオンは履帯から火花を散らしながらブレーキを掛け、車体と砲塔を旋回させたかと思うと再度発砲した!
幸いにも砲弾は外れ、車体左側前方のシュルツェンが吹き飛ぶだけに終わった。
その間にセンチュリオンが退避するが、そのセンチュリオンに向かってⅣ号が発砲する。
だが、センチュリオンはⅣ号に背を向けたまま僅かに右へスライドして砲弾を躱したかと思うと、そこから車体を旋回させて再度Ⅳ号へ発砲!
今度は砲塔右側のシュルツェンが吹き飛ばされる。
センチュリオンはそのまま回転する旋回を続けて、進行方向を戻す。
そして再度旋回を始めたかと思うと、メリーゴーランドの陰からチャンスを窺っていたBT-42に向かって発砲。
砲弾はメリーゴーランドの柱に当たり、爆粉煙がミカの視界を遮ったが、BT-42は構わずに発砲した。
しかし、旋回を続けていたセンチュリオンはまるで駒の様な動きでBT-42の砲撃を回避。
と、履帯の負荷を考えて旋回を止めると読んでいたⅣ号が加速してセンチュリオンに肉薄。
そのままドリフトで背後を取ろうとする。
「…………」
だが、その動きを呼んでいた愛里寿は、Ⅳ号の停止位置に砲塔を旋回させていた。
背後を取ったかと思われた瞬間に、センチュリオンの砲撃を喰らうⅣ号。
幸い掠めただけで済んだ為、被害は車体右側のシュルツェンに留まる。
更にⅣ号は、掠めた衝撃でブッ飛ばされたのを利用し、広場の壁に後部からぶつかって一瞬だけ静止すると、センチュリオンに向かって発砲した。
しかし、センチュリオンは自慢の超信地旋回で回避する。
更に回避の旋回をしたまま迫って来ていたBT-42に向かって発砲までする。
BT-42は砲撃を中止して回避機動を取る。
「…………」
するとそこで、愛里寿が車内の乗員に、後ろ手で拳から人差し指と小指を伸ばしたハンドサインを送る。
その指示を受け、センチュリオンの装填手が榴弾を装填。
先ず、BT-42が遮蔽物として隠れたゴンドラのアトラクションを破壊。
そこでBT-42の援護の為、Ⅳ号が回転ブランコの柱の陰からセンチュリオンに発砲する。
けれどもセンチュリオンはそれを意にも介さず、V2ロケットを思わせるアトラクションの後部に位置取る。
そして、V2ロケット内に榴弾を放った。
ロケット内部で爆発した榴弾の爆風が後部から吹き出し、あたかも本当のロケットの様にV2ロケット型のアトラクションが飛翔!
そのままⅣ号が盾にしていた回転ブランコにブチ当たった!
回転ブランコが倒壊し始め、上部のパンジャンドラムがⅣ号を潰さんとする。
「麻子さんっ!!」
「!!」
だかそこは天才操縦士・麻子。
倒壊位置を見極め、見事にパンジャンドラムの車輪の間にⅣ号を納めた。
そのままパンジャンドラムと並走するⅣ号。
車輪の隙間から、センチュリオンに向かって砲撃する。
そして今度はセンチュリオンの方が発砲して来たかと思うと、砲撃はパンジャンドラムに命中。
パンジャンドラムは粉々になり、ブランコが四方八方に飛び散った。
そこで抜け出したⅣ号はBT-42と合流。
BT-42が先陣を切り、Ⅳ号がそれに続きながら、センチュリオンに航空機のヘッドオンよろしく正面から仕掛ける。
しかし、センチュリオンは2つの砲弾の間を縫う様にして回避したかと思うと、またも超信地旋回で回転しながら発砲。
Ⅳ号の砲塔後部のシュルツェンを吹き飛ばした。
やがて、両者は距離を取って反転すると、お互いに睨み合う様な態勢になる。
(凄い………まだあのシステムは使ってないのに………コレが島田流の………ううん、愛里寿ちゃんの強さ)
未だにシステムは使っていないと言うのに、粗自分達の方が追い込まれている状況に、みほは内心で戦慄する。
「………西住さん。少し良いかな?」
「! ハイ………」
とそこで、不意にミカが声を掛けて来て、みほは軽く驚きながら返事をする。
「私があの子に隙を作る………そこで西住さんが決めてくれ」
「! 出来るんですか?」
「ああ、コレまでの遣り取りで確信したよ。あの子の癖は変わって居ない………姉の私にはそれが分かる」
確信しているかの様な表情でそう言うミカ。
「ミッコ。全力でどれぐらい持つ?」
「1回壊れたからね。3分………いや、5分は持たせてみせるよ」
「流石だね。アキも良いかい?」
「ミカの無茶ぶりなんて、今に始まった事じゃないでしょ?」
ミカの問いに、ミッコもアキも勇ましい返事を返す。
「ありがとう、2人共………」
「よせやい。ミカにお礼言われるなんて、背筋がむず痒くなるよ」
「言ってる事は良く分からない事が多いけど………ミカの事は信じてるからね」
「…………」
2人のその言葉に、ミカは笑みを浮かべるのだった。
一方、愛里寿は………
(!? お兄ちゃんが負けた!?)
丁度イプシロンが弘樹に倒されたと言う報告が入って来て、驚愕の表情を浮かべていた。
(もし私まで負けたら、お母様が………お父様の願いも………嫌だ………そんなの絶対嫌だ!!)
負けられないと言う気持ちが、強迫観念の様に湧いてくる。
と、その時………
突然、愛里寿の装着しているヘッドフォンにコードが繋がっているノートPCが………
独りでに起動したのだった………
つづく
新話、投稿させていただきました。
弘樹とイプシロンの壮絶な戦い。
最後は、弘樹お得意の捨て身攻撃でイプシロンを撃破。
しかし、イプシロンは最後までプライドに生きたのだった。
一方、みほ&ミカと愛里寿の戦いも接戦。
2輌の強みを活かしてコンビネーションで仕掛けようとしますが、そこでイレギュラーが?………
では、ご意見・ご感想をお待ちしております。