ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース 作:宇宙刑事ブルーノア
『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』
第187話『異能生存体です!』
カンプグルッペ学園艦・カンプグルッペ学園の敷地内………
「オラオラッ!」
「カチコミだ、カチコミーっ!!」
「全員ブチのめせーっ!!」
「いてもうたれーっ!!」
ぶっそうな台詞と共に、カンプグルッペ歩兵達を蹴散らしているベルウォール機甲部隊の面々。
中心となっているのは、2両の駆逐戦車、ヤークトパンターとエレファントである。
「テメェ等ぁ! 千冬に遅れを取るんじゃねえぞっ!!」
「アンタ達………音子に負けたりしたら承知しないよ」
ヤークトパンターの車長である『山守 音子』と、エレファントの車長である『土居 千冬』がそう言い合う。
共にベルウォール戦車部隊の元キャプテン候補であり、ベルウォール戦車部隊の不良女子達を其々に纏め上げている人物である。
この2人、実は幼馴染なのだが、好きなものが同じになることが多く、共に喧嘩っ早い性格な為、常に争いが絶えない。
更に、前キャプテンが後任を決めずに学園を去ってしまい、以後両者グループの間で次期キャプテンを狙った抗争が頻発。
キャプテンが決まらなければあらゆる活動が行われない為、歩兵部隊も事実上の活動休止状態になってしまい、元々不良なベルウォールの歩兵達は再び非行行為に走り始め、学園の治安は悪化。
その為、ベルウォール機甲部隊は活動休止状態となっており、全国大会に出場していなかった。
しかしつい先日………
中須賀 エミがベルウォールに在籍していた旧友の『柚本 瞳』が出したスカウトのオファーを受けて転校してきた。
更に時を同じくして、バーコフ分隊の面々も転校して来て、荒れに荒れていたベルウォール歩兵部隊をその腕っぷしで瞬く間に纏めあげる事に成功。
そのままバーコフ分隊がエミの傘下に入り、次期キャプテン争いにも介入。
戦車道部のメンバーも手が付けられなかった歩兵道メンバーを纏めたバーコフ分隊の実力と、エミ自身の努力もあり、彼女は新たなキャプテン………総隊長として認められる事となったのだった。
「千冬! テメェにだけは負けねえからなっ!!」
「フフ、言ってな………」
いがみ合いながらも、次々にカンプグルッペの戦力を潰して行く2人。
何だかんだ言いつつも、実は仲が良い様である。
「何かアイツ等ばっかり目立ってる!」
「クッソ―ッ! 私達だって負けてないのにーっ!!」
そんな音子と千冬の活躍を悔しそうに見ているⅡ号戦車を駆っている双子の姉妹『柏葉 金子』と『柏葉 剣子』
元々は戦車道部を目の敵にしていた自動車部の会長と部長で、親の権力を使って好き放題していた姉妹だったが、エミとの対決に敗れた事や、うっかりバーコフ分隊を本気で怒らせてしまった事で、今や立派な戦車道部のメンバーである。
コチラも、愛車であるⅡ号戦車に愛着を持つなど、何だかんだで戦車道を楽しんでいる。
「オラッ! 退け退けぇっ!!」
「邪魔する奴はしばくぞっ!!」
「「「「「「「「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」
そんな戦車部隊の面々と同様に、一昔前のバンカラな不良生徒の集団であるベルウォール歩兵達も、言葉通りにカンプグルッペの歩兵達をしばいている。
「アイツ等、やるなぁ!」
「コレはコッチも負けてらんねえぞっ!!」
「遅れを取るなぁっ! 突撃ーっ!!」
「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」
そんなベルウォール機甲部隊の面々に触発され、大洗機甲部隊の面々の士気も上がる。
と、その時………
「! あの煙は?」
大洗歩兵の1人が、カンプグルッペ学園の敷地の一角から、激しい黒煙が上がって居る事に気づく。
それは、最悪の事態を知らせるものだった………
少し時間は遡り、大洗歩兵の1人が黒煙を発見する前………
「廃倉庫は何処だ?」
「こ、この先、500メートルの所だ………ぐえっ!?」
襲い掛かって来たカンプグルッペ歩兵の内の1人を捕まえた弘樹が、尋問でまほの居る廃倉庫の詳しい場所を聞き出し、気絶させる。
「西住総隊長! 廃倉庫はこの先500メートルのところですっ!!」
「了解!………待ってて、お姉ちゃん」
弘樹からの報告を聞いて、みほの気持ちが逸る。
「総隊長………」
「まほ殿………」
「まほ………」
兵員輸送車に便乗しているエリカ、久美、都草も同じである。
そして遂に………
一同はその廃倉庫の前々で到達する。
「総隊長ーっ!!」
途端に、エリカが兵員輸送車から飛び出し、廃倉庫の中へと飛び込もうとする。
「! エリカ殿ぉっ!!」
「エリカくん! 待てっ!!」
迂闊に飛び込むのは危険だと、久美と都草も飛び出して、エリカを止めようとする。
だが、そこで!!
1両の戦車が、エリカと廃倉庫の間へ割り込んで来た!!
「!!」
「! エリカ殿っ!!」
「エリカくん!!」
エリカが思わず静止すると、追い付いた久美が彼女にしがみ付き、都草が2人を庇う様に戦車の前に立つ。
現れたのは、Ⅲ号戦車M型だった。
「貴様等! よくもやってくれたなっ!!」
そのハッチが開いたかと思うと、天親が姿を見せる。
「! アンタッ!!」
「無駄な抵抗は止めろっ!」
「もうすぐ学園の全域の制圧が完了するわっ!!」
「もう貴方達の負けです! 投降して下さい!」
エリカが声を挙げると、弘樹、エミ、みほがそう言い、天親に投降を促す。
「煩いっ! もう終わりだと言うのなら、1人でも多く道連れにしてやるまでだっ!!」
「まだそんな事を!」
「それに此処でカンプグルッペが終わったとしても、私の復讐は既に遂げられているのだっ!!」
「………如何言う事だ?」
復讐が遂げられていると言い放った天親に、弘樹が表情を険しくして問い質す。
「フフフフフ………」
だが、天親はその問いには答えず、狂気の笑みを浮かべると、Ⅲ号の主砲が旋回を始める。
「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」
身構える一同。
しかし………
Ⅲ号は主砲を弘樹達では無く、廃倉庫へと向けた。
「!?」
「何っ!?」
みほと弘樹が驚きを示した瞬間!!
Ⅲ号の主砲から、火炎が噴き出したっ!!
如何やら、Ⅲ号M型の改造車であるⅢ号火焔放射戦車だった様である。
火炎は忽ち、廃倉庫を燃え上がらせる!!
「! 撃てっ!!」
それを見たエミが慌てて指示を出し、ティーガーⅠの主砲が火を噴くと、Ⅲ号火炎放射戦車へ直撃!
至近距離からの砲撃で、Ⅲ号火炎放射戦車は横転し、天親は車外へ投げ出された!
「コイツッ!」
「何て真似をっ!!」
すぐさま大洗歩兵達とベルウォール歩兵達が取り押さえに掛かる。
しかし、Ⅲ号火炎放射戦車の火炎を浴びた廃倉庫は一瞬にして炎に包まれる!
競技用の安全な火炎では無い。
本物の炎である。
「キャアアッ!」
「助けてぇーっ!!」
まだ中でまほを見張っていた戦車部隊員達が、慌てて飛び出して来る!
「ちょっとっ! 総隊長はっ!? 西住 まほは如何したのっ!?」
その内の1人を捕まえたエリカがそう問い質す。
「ま、まだ中に………」
「!? 何ですってっ!?」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
その答えを聞いたエリカが戦慄し、一同にも衝撃が走る。
既に廃倉庫は完全に炎の塊と化しており、人が内部に入るのは不可能である。
戦車ならば突入出来るかも知れないが、元が廃倉庫なので、下手に破壊して突入すれば、炎上して脆くなっている建物が潰れてしまう可能性も有る。
「総隊長ーっ!!」
「まほっ!!」
だが、それでも構わずに、エリカと都草が、廃倉庫へ突入しようとする。
「お姉ちゃーんッ!!」
更にみほも、Ⅳ号に備え付けられていた緊急時用の消火器を引っ掴むと、燃え盛る廃倉庫へ突入を試みる。
「エリカ殿っ! 都草殿! 駄目でありますっ!!」
「みほ! 落ち着きなさいっ!!」
しかし、エリカと都草は久美に、みほはティーガーⅠから飛び出したエミによって止められる。
「離しなさいっ! 久美っ!!」
「久美くん! 離してくれっ!!」
エリカと都草が久美を振り解こうとする。
流石の都草も、この事態に冷静では居られない様だ。
「お姉ちゃん! お姉ちゃーんっ!!」
「みほ! 駄目よっ!!」
一方、エミに止められているみほも、完全に錯乱しており、まほの名を呼びながら尚も炎上する廃倉庫へ飛び込もうとしている。
「ハハハハハハハハッ! 燃えろっ!! 全て燃えてしまえぇっ!!」
「テメェもう黙れっ!!」
その光景を見ながら、天親は狂気の笑いを挙げ、大洗歩兵の1人にそう怒鳴られる。
「消防車はっ!?」
「今連絡したけど、この燃え方じゃ到着までに建物が持たんぞっ!!」
了平の言葉に地市がそう返す。
最早まほはもう駄目なのか………
そんな思いが一同に過ったその時………
エミに押さえられていたみほの手から消火器を引っ手繰った人物が居た!
「!!」
「…………」
弘樹だっ!!
燃え盛る廃倉庫へ走りながら、消火器を噴射する弘樹。
それにより、消化液が噴き掛けられた部分の炎が、一瞬消える。
「!!」
その瞬間に弘樹は空になった消火器を放り投げると、何の躊躇も無く炎が消えた部分に在った窓を突き破って廃倉庫内へと突入!
直後に、再び燃え上がった炎が、弘樹が突入した部分を燃え上がらせる!
「!? 弘樹くんっ!?」
「あの馬鹿っ!!」
「クソッ! 水だっ! 水持って来いっ!!」
炎の中へと突入した弘樹を見て、その場の混乱が更に激しくなるのだった………
一方、その燃え盛る廃倉庫内では………
「ゲホッ! ゴホッ! だ、誰かっ! 助けてくれぇっ!!」
充満する煙にむせながら、必死に助けを求めるまほ。
未だに柱に縛られている彼女だが、奇跡的にもそこまでは炎が及んでいなかった。
しかし、何れは炎が回るのは明らかであり、見張りをしていた隊員も全て逃げてしまったので、逃げる事も出来ない。
このままでは確実に焼け死んでしまう………
「ゴホッ! ガホッ!………頼む………誰かぁ………」
段々と声が弱々しくなっていくまほ。
(もう………駄目だ………)
遂にそう思ったまほの脳裏に、幼少時のみほとの思い出が蘇る………
(みほ………こんな事になるんだったら………お前にもう1度………姉として接してやりたかったなぁ………)
次々と走馬灯が過る中、意識を手放そうとするまほ。
………と、その時!!
炎の中から、人影が飛び出して来た!!
「!?」
「御無事ですか?」
驚いて急激に意識を覚醒させたまほに、人影………弘樹はそう問う。
「! 舩坂 弘樹っ!? 何故此処にっ!?」
「話は後です」
まほの問いを後回しにし、銃剣を使ってまほを拘束していた縄を切る。
「コレを………」
「うわっ!?」
そして何と!
自分の戦闘服の上着とヘルメットを脱いだかと思うと、まほに着せた!
歩兵道用の戦闘服には安全の為に、防火服としての機能も有している。
無論、消防等の専門の装備に比べると大分劣るが、それでも並みの炎ならば耐える事が出来る。
だが、それを脱いだと言う事は、当然弘樹自身が危険に晒される事になると言う事である。
「だ、駄目だ! コレは君のだろうっ!!」
「生憎、しぶとい身でしてね………」
慌ててまほが戦闘服を返そうとするが、弘樹はそう言って制する。
と、その瞬間!!
とうとう耐え切れなくなった廃倉庫が崩落を始めたっ!!
天井が崩れて、大量の瓦礫が弘樹とまほへと降り注ぐ!!
「!?」
「!!」
まほが硬直する中、弘樹は彼女に覆い被さる様に跳び掛かったっ!!
同時刻、廃倉庫の外でも………
「あ、ああああっ!?」
「まほっ!!」
「お姉ちゃんっ! 弘樹くんっ!!」
轟音と共に、廃倉庫が崩れ落ちる様子を見て、エリカ達とみほの顔が青褪める。
と、その時………
上空からエンジン音が聞こえて来た!
「! 一航専の四式重爆撃機っ!!」
空を見上げた楓が、その音の正体が一航専の四式重爆撃機の編隊である事に気づく。
四式重爆撃機は燃え盛る廃倉庫の上空へ差し掛かったかと思うと、爆弾槽を開き、消火弾を投下!
空中で炸裂した消火弾の消火剤が、廃倉庫の火災を一瞬で鎮火した!
「! 弘樹くん! お姉ちゃんっ!!」
「総隊長!」
「まほっ!!」
みほ、エリカ、都草が、火災の消えた廃倉庫跡へと突入する。
「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」
他の一同もすぐさま駆け寄り、瓦礫やら何やらを退かし始める。
「お姉ちゃん! 弘樹くん! 返事をしてぇっ!!」
悲痛な叫びを挙げながら、必死に瓦礫を退かして行くみほ。
「………ほ………み………みほっ!」
「!?」
と、その彼女の耳に、まほの声が飛び込んで来る。
「! 総隊長!」
「まほっ!!」
「まほ殿っ!!」
エリカ達もその声に気づき、声がする場所へと集まると、その場所の瓦礫を退かし始める。
「退いてろっ!!」
「ココは俺達に任せておけっ!!」
すると、力仕事は自分達の担当だと、地市とバーコフを先頭に大洗歩兵達とベルウォール歩兵達が集まって、その場所の瓦礫を集中して退かし始める!
「総隊長………」
「お姉ちゃん………弘樹くん」
不安そうな眼差しで、その様子を見守っているエリカとみほ。
「! オイッ! 手が見えるぞっ!!」
「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」
とそこで、ザキが瓦礫の中から伸びていた手を発見する。
一同が集まると、ザキが言った通り、瓦礫の中から女性のモノと思われる手が1本伸びていた。
「西住 まほだ!」
「瓦礫を退かせっ! 慎重にだっ!!」
すぐさま、その手の近くに在った瓦礫を慎重に退かし始める大洗歩兵達とベルウォール歩兵達。
「よし、良いぞ!! 引っ張り出せっ!!」
「「「「「せーのっ!!」」」」」
やがて、大きく隙間を作る事に成功すると、数名がまほの手を掴んで慎重に引っ張り出す。
「お姉ちゃん!」
「まほっ!」
「総隊長っ!」
「まほ殿っ!」
すぐさま、みほ、都草、エリカ、久美が傍へと駆け寄る。
「う、うう………みほ………都草………エリカ………久美………私は………助かったのか?」
みほ達の声に反応し、まほは呻き声を挙げると、やや焦点の合って居ない様子の目を開け、そう呟いた。
「まほ………良かった」
「総隊長………良くぞご無事で」
「いや~、ヒヤリとしたであります」
その様子を見て、都草はまほを抱き締め、エリカは涙を流し、久美は安堵の息を吐く。
「! その戦闘服とヘルメット………お姉ちゃん! 弘樹くんはっ!?」
しかし、みほだけは、まほの身に着けていた戦闘服とヘルメットを見て、弘樹の安否を気に掛ける。
「! そうだ! 舩坂 弘樹は!? 彼は私を庇って………」
その言葉で、まほの意識が急激に覚醒した瞬間………
「居たぞっ! 弘樹だっ!!」
弘樹を見つけたらしいゴダンがそう声を挙げた。
「! 弘樹くんっ!!」
すぐさまみほが、その場所へと走る。
「うっ!? コレはっ!!………」
「マズイ! 嬢ちゃん、来るなっ!!」
しかしそこで、コチャックが何かに気づき、バーコフがみほを止めようとしたが間に合わなかった。
「弘樹くん!………!!」
そこでみほが見たのは、まだ瓦礫に半分身体が埋まっている弘樹の姿だった。
「弘樹くん!!」
すぐに引っ張り出そうと、みほは弘樹の元へ駆け寄り、その身体に触れる。
すると、その手にヌチャリと言う、液体を触った様な感覚が走った。
「えっ?………」
みほが呆然となりながらその手を見やると………
その手は、赤黒い液体………
『血』で真っ赤に染まっていた。
「えっ?………」
思考が停止するみほ。
そのまま再び弘樹へと視線をやると………
弘樹の身体の下に、血溜まりが出来始めている事に気づく………
「!? 嫌あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」
やっとの事で脳が思考を再開した瞬間に、みほは悲鳴を挙げる。
「救急車だっ! 急げぇっ!!」
混乱が広がる中で、バーコフの叫びが虚空に木霊するのだった………
◇
数時間後………
横須賀市の総合病院・手術室前………
当初はカンプグルッペ学園艦の甲板都市の病院に運び込まれた弘樹だったが、怪我の程度は重く、すぐに近場の横須賀市の病院にドクターヘリで空輸された。
現在は手術室で緊急手術を受けている状態である。
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
その手術室前の廊下には、みほを始めとしたあんこうチーム、地市、了平、楓、シメオン、ハンネス、エグモンド、六郎、エミ、バーコフ分隊の面々。
そして、軽傷だった為に既に治療を終えたまほにエリカ、都草と久美の姿が在った。
流石に全員は入れないので、他のメンバーは病院の外で待機している。
皆が固唾を呑んで手術が終わるのを待っている。
「…………」
特にみほの様子は深刻であった………
長椅子に座って俯き、膝の上に乗せている両手を固く握り締めている。
「みぽりん………」
「西住殿………」
その両脇には、沙織と優花里が座り、みほの肩と握っている拳の甲に手を乗せている。
「大丈夫ですよ、みほさん。舩坂さんの事ですから、きっと大丈夫ですよ」
「そうだ。アイツは不死身だ」
更に沙織の隣に居た華と、優花里の隣に居た麻子がそう言って励ます。
「………うん」
しかし、みほは弱々しい返事を返すだけだった。
とそこで、手術室のランプが消えた。
「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」
みほ達が立ち上がり、全員の視線が手術室の扉に集まると、中から手術着姿の主治医が出て来て、マスクを外す。
「先生! 弘樹くんは!!」
すぐにみほが主治医へと詰め寄る。
「大丈夫ですよね!」
「そうだ! アイツがそう簡単に死んでたまるか!!」
「しぶとさなら隊長以上な人ですよ!」
「先生!」
シメオン、ハンネス、エグモンド、六郎も同じく詰め寄る。
だが………
「手は尽くしたのですが………残念です」
「えっ?………」
主治医がそう言い、みほの頭が真っ白になった瞬間………
手術室の中から、顔に白い布を置かれた弘樹を乗せたストレッチャーが、看護婦達によって運び出されて来る。
「!!」
「あ! ちょっとっ!!」
みほはすぐにそのストレッチャーに駆け寄ると、看護婦の抗議の声も無視して、顔に乗せられていた布を取り払う。
そこには、まるで眠っているかの様な弘樹の姿が在った。
「…………」
震えながらもその顔に手を触れるみほ。
その顔はまだ温かかった………
「弘樹………くん………うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」
その瞬間にみほは、堰を切った様に弘樹の胸に縋り付いて泣き始めた。
「嘘だろ、弘樹………」
「お前が死ぬなんてよ………」
「クソッ!!」
「弘樹………」
バーコフ、ゴダン、ザキ、コチャックも信じられないと言った表情を見せる。
「「「…………」」」
地市、了平、楓は言葉も無い様子だ。
「みほ………」
エミは泣きじゃくるみほの肩に手を置くが、何も出来ずに只途方に暮れる。
「すまない、みほ………私が迂闊だったばかりに………」
まほが申し訳無さそうな表情でみほへと謝罪する。
「ゴメンナサイ………ゴメンナサイ………みほ」
「エリカ殿………」
エリカも責任を感じており、泣きながらみほへ繰り返し謝罪し、久美はそんなエリカに寄り添う。
「舩坂 弘樹………こんな事になるとは………非常に残念だよ………」
そして都草は、弘樹と勝負出来なかった事へ未練を感じると共に、掛け替えのないライバルを失った事で虚無感に見舞われていた。
「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」
弘樹の胸に縋り付き、泣き続けるみほ。
………その時!!
………ドックン………
「!? えっ!?」
みほはピタリと泣き止み、驚愕の表情を浮かべた。
「? みほ?」
「みぽりん?」
「如何したんですか?」
「西住殿?」
「何だ?」
突然泣き止んだみほに、エミ、沙織、華、優花里、麻子が怪訝な顔をする。
「…………」
しかし、みほはそれには答えず、弘樹の胸に耳を当てた。
………ドックン………
「!!」
そして今度はハッキリと耳にする。
弘樹の………
心臓が動く音を!!
「! 弘樹くん! 弘樹くん!!」
途端に、みほは弘樹の身体を揺さぶる。
「み、みぽりんっ!?」
「西住殿っ!?」
「ちょっ! 落ち着きなさいってっ!!」
「みほさん、駄目です!」
沙織、優花里、エミ、華は、みほが錯乱したのかと思い、押さえようとする。
「………うん?」
麻子も押さえに入ろうとした時、何かを感じて、弘樹の事を見やる。
すると………
身体に掛けられていたシートの隙間から見えていた弘樹の右手が、ギュッと握り締められるのを目撃する!
「!? ヒイイッ!?」
途端に麻子は、悲鳴を挙げて尻餅を衝いた。
「!? 冷泉殿っ!?」
「如何したの、麻子!?」
「あ、あああああ………」
優花里と沙織が尋ねると、麻子は尻餅を衝いたまま顔を青褪めさせ、震える指で弘樹を指す。
それにより、一同の視線が弘樹へと集まると………
「…………」
弘樹の目が………
ゆっくりと………
開かれた………
「「「「「「「「「「!?!?!?」」」」」」」」」」
衝撃の余り固まる一同。
「………此処は………何処だ?」
そんな一同の驚きも知らずに、弘樹は至って普通にそう言って、上体を起こす。
「そ、そんな馬鹿なっ!? 確かに死亡確認を!?」
「あああ………」
主治医が信じられないと言う顔で狼狽し、看護婦の1人が気絶する。
「弘樹くん!」
「おわっ!? みほくん?………」
「良かった………」
只1人だけ、みほは上体を起こした弘樹に抱き付き、その身体の感触をしっかりと確かめる様に抱き締めるのだった。
◇
その後………
結局弘樹の復活の理由については、主治医の誤診と言う事で決着が着いた。
その際に主治医が………
「いっそその方が精神衛生的に助かる………」
と力無く呟いていたのが印象的であった。
翌日には弘樹は退院。
カンプグルッペ学園は、まほの証言もあり、改めての連盟の査察でコレまでの数々の不正が発覚。
当然、失格処分となり、黒森峰は準決勝を不戦勝となる。
歩兵道の教官であったカン・ユーは逃亡したが、戦車道の教官である天親は殺人未遂で逮捕され、一部の生徒も書類送検となった。
更に、カンプグルッペは無期限の大会出場停止処分を受ける。
カンプグルッペを襲撃した大洗とベルウォールについては、事前に迫信と杏が手を回して於いた事と、常夫が友人達に頼んで便宜を図ってもらったので、御咎め無しとなった。
しかし………
復讐は既に遂げられている………
そう言っていた天親の言葉が、本当だったと言う事を………
この後、黒森峰と西住流は思い知る事となった………
つづく
新話、投稿させていただきました。
この作品でのベルウォールの事について、少し補足説明させていただきました。
しかし、今回最大の見所は天親の凶行と、異能生存体・弘樹です。
とうとうまほを殺そうとした天親。
燃え盛る炎の中へ、まほを救出に向かった弘樹だったが、自分が命を落とす事に………
だが、彼は不死身の分隊長・舩坂 弘の子孫………
死亡が確認されて、尚蘇ってみせたのだった。
しかし………
復讐は既に遂げられている………
次回、黒森峰と西住流は、この言葉の意味を思い知る事になります。
では、ご意見・ご感想をお待ちしております。