何時の間にか無限航路   作:QOL

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お久しぶりです。
なんとか仕上がったので投稿します、はい。


~何時の間にか無限航路・第36話 ネージリンスinゼーペンスト編~

■ネージリンス編・第36章■

 

 

 

 

―――素敵な王子様なんて存在しないと思っていた。小さなころに夢見た御伽噺にしかいないのだと、収容施設の一室に幽閉されてからもずっと思っていた。

 

 そして、それは事実だった。だって私を助けに現れたのは王子様なんかじゃない。どこにでもいそうな、ただの男の子だったんだもの―――

 

 

 

 

 

「この部屋になります。何か用事がございましたらおよびください」

  

「ありがとうございます。―――はぁ」

 

 帰りの宇宙船。案内の人が帰った瞬間、失礼だったが私は一人溜息を吐いた。あの男の子、私を救い出してくれたユーリのことを思い出して、思わず。

 

「もう! このキャロ様がただ帰るだけなんてつまらないじゃない!」

 

 そんなことを叫んだ。はしたないと思いつつもアイツに抱いた不満の所為で足をバタバタさせた私は悪くない。せっかく大企業の令嬢たるキャロ様が救いの王子という名誉を授けてあげようとしたのに、それを拒んだアイツが悪いのよ。普通そこは謹んでお受けしますでしょうに……変なヤツ。

 

 まぁ、そんな変な奴だったけど、あれほど馬が合う人は初めてだったと思う。普段会う人は皆、私の背後にあるセグェン・グラスチ社の肩書に酔う。それは畏敬であり悪意であり、私はそれを背負うことを強要され、そして私自身を見据える者は殆ど居なかった。

 

 しかしユーリは私の事を知っているハズなのに態度を変えなかった。まるで私がどういう存在なのか解っていないかのようだったけど、それはあり得ない。だって私の前にわざわざ来たってことはお爺様に依頼されたってことだし、そうなれば私の素性は知っていて当然だもの。

 

※実際はユーリはキャロの素性は知っていたが、ゲーム知識ゆえに彼女の肩書がどれだけすごいのか想像できてなかっただけである。

 

 アイツは本当に明け透けで、何時の間にか私は自分を偽らないで素の自分を曝け出して接していた。令嬢のキャロではなく只のキャロを真正面から見据えてくれている事が嬉しかったのだ。同時に終生の友を得たと確信できた瞬間だったわ。これがビビッとくるっていう感触なのね。

 

 本当にアイツといると楽しいと思えたの。わずかな時間しか会っていないけど、友情は時間の長さじゃないのよ。楽しくて楽しくてもっと遊びたかったのに……。アイツはそれを拒絶した。

 

「はぁ~、このまま帰るのかぁ~」

 

 現実が追いかけてくる。それだけでやっぱり溜息が出る。このまま宇宙船に乗り込んでいれば私はこれまでと変わらない日常へと帰るのだろう。あの息が詰まりそうな閉塞した世界という日常へと戻る。考えれば考えるほど体から活力が消えていく感じがした。

 

 どうしたものか。まさかこんな気分に陥るとはね。だけどジタバタしようが結果は変わらない。周りは皆、私を令嬢として扱うの。皆がそれを求めている。だから私は私にできる唯一の反抗。つまり溜息を吐くしかなかった……ハァ。

 

 そんな風に憂鬱な気分に浸っていると、いきなりブザーが鳴った。これは部屋に入室していいか尋ねるブザーだわ。誰か来たようね。

 

「失礼しますお嬢様。ご機嫌はいかがですか?」 

 

「見てわからないかしらファルネリ? 憂鬱よユウウツ」

 

「あら?幽閉部屋が恋しくなりましたか? お嬢様もだいぶ趣味が変わりましたわね」

 

「ちょっと!?」

 

 冗談ですわ。と宣うウチの教育係に少しだけ殺意が芽生えるが、幼少からの付き合いであるので、これくらいはただのジャブである。ま、じゃれあいの一幕ですわ。気の置けない仲とは、きっとこういう関係をいうのよね。

 

「見てわからない?私はいま憂鬱な気分に浸っているのに忙しいのよ」

 

「いえ、少しお聞きしたいことがございまして。お嬢様は何故、ユーリくん……こほん、ユーリ艦長のフネに乗りたがったのかと」

 

「アンタも見ない間に変わったわね」 

 

 少なくとも私が知っているファルネリは、まじめ一辺倒。会社に入り働くことが美徳と考え、勝手気ままな0Gドッグたちのようなアウトサイダーは見下していたと思うんだけど? 一体何があったのかしら?

 

「そうですか? ―――そうかもしれませんわね。物事は一辺倒ではなく多角的に見るという言葉の意味を体験いたしましたから、少しは変わったのかもしれませんわ」

 

「それはやっぱり、ユーリのフネにいたから?」

 

「はい。彼らのフネでしばらく寝食を共にいたしました。存外、彼らも悪くないと」

 

「うわ~、これは明日は槍が降るわよー」

 

 微笑みの女性と化した世話役に苦笑しつつそう返した。以前からの彼女を知っている分、違和感を覚えてしまうのはファルネリが大人に見えたからかしら?これはきっと二回りくらいは成長しているんじゃないかしらね。

 

「ま、まぁ私のことはいいじゃないですか。それよりもお嬢様?」

 

「えっと、私がアイツの船に乗りたがった理由だっけ?そんなの簡単よ。これでも白馬の王子様にあこがれてたのよ」

 

「えぇ~」

 

「何よいいじゃない! 普段から抑圧された少女の儚い幻想でしょう!? ……まぁ迎えに来たのは白馬の王子様って感じじゃなかったけど、それでも―――」

 

「んー、お嬢様?」

 

 理由を騙る(かたる)私を、ファルネリは静かにジッと見つめてきた。その視線はまるで咎めているようであり、それでいて全部理解しているようでもある。

 

 もう……、ファルネリにはかなわないわね。

 

「はぁ~、他言は無用よ? 私はね。自由を体感してみたかったの」

 

「自由ですか?」

 

「その意味は貴女なら理解できるハズよね? ファルネリ・ネルネ」

 

 思わずフルネームで目の前にいる世話役に語り掛けるあたり、この時の私は一体どんな表情を浮かべていたのだろうか。目の前にいるファルネリの表情を見れば、あんまり見れた顔はしてないんでしょうね。

 

 そう、私は私を縛る肩書きから逃れたかった。それが例え一時的なものでも、きっと本物の宇宙航海者である0Gドッグのフネに乗れれば、束の間の自由を体験できると思ったのよ。でも全ては儚い夢だったわね。 

 

「うーん、でも……、いや可能よね?―――そうだわ。ねぇお嬢様?」

 

「なに? 今の私は魔王からは逃げられないと宣言された低レベル勇者の気分なんですけど?」

 

「例えがいまいちわかりませんが、それよりもですね。実はわたくし私物のいくつかをユピテル……、ユーリ艦長隷下の艦隊の旗艦ですわ。そこに置き忘れてきてしまったんです」

 

―――ほう? それはそれは。

 

「なら、取りに行かないといけないわね。あーでも、もうファルネリと離れ離れになるのもコリゴリだから、私もついて行ってあげるわ」

 

「ああ、なんてお優しいお嬢様! 私、感動です!」

 

 繰り広げられる茶番。ワザとらしく大業に両手を広げて見せるファルネリを見て思う。彼女は役者にはなれそうもないわね。でもファルネリ、ありがとう。

 

「さぁそうと決まれば行くわよ! ついてらっしゃいファルネリ!」

 

「え?ちょっとお嬢様!ユピテルに向かうには小型艇を用意しないとって、そっちじゃなくて反対側ですわ!おぜうさまー!!」

 

 

***

 

 

 

 

 さーて、来週のユーリさんは!

 

 

 ユーリです。

 まさか自治領を征服することになるなんて思いもよりませんでした。これも頑張ってくれたクルーたちのおかげって奴ですよ。でも自治領を傘下に加えたわけじゃないので税収とか手に入らないんですけどね。

 

 さて次回は

 

 『ユーリ、後ろ向きに全速前進』

 『頭ぶつけてあっぱらぱー』

 『ご利用は計画的に』

 

 の三本です。

 

 来週もまた見てくださいね。じゃんけんっぽんっ! うふふふふふ。

 

 

 

 

 

「――……ーリ。ユーリ起きな」

 

「……んあ?」

 

 微睡をむさぼっていた俺をトスカ姐さんが揺さぶっている。どうやら気が緩んで少しばかり居眠りをしていたらしい。なんせようやく山場を越えたからな……ところでなんか変な夢を見た気がするのは気のせいか?じゃんけんをしないといけない気がするんだが?

 

「どうかしたかい?」

 

「いや、次回予告でじゃんけんっていう発想がすごいと思ってたッス」

 

「は? まぁいい。もうすぐフネに戻れるから着いたらすぐにこの宙域から離れるよ」

 

「そうッスね。思えば長いようで短かったッス」

 

「アンタが宇宙ナマハゲ怖いとか言い出さなきゃもう少しいられたけどね」

 

「いやだって、万が一利用したのバレてたら、ダークマターにされそうじゃん?」

 

 おもわず真顔でそういう俺に、隣にいたトスカ姐さんは一瞬訳が分からんという顔をしたが、いつものことなのですぐに素面になり今後の予定を確認してきた。俺たちは機上の人となっている。呼び寄せたキーファーに分乗して上空に待機している艦隊へと戻る最中なのだ。

 

 あの後、地上では色々あった。元領主で自分に起きた不幸に嘆き、喚き散らすバハシュール♀のケツを蹴って――ああ、実際に蹴り上げたわけじゃないぞ? 発破をかけるって意味だぞ? あれは元男だが一応女になっているので暴力はいけない。俺は紳士なのだ。

 

 話を戻すと、あんまりにもバハ子が喚くのでバズーカ片手に笑顔で早く行けよオラと凄んでやったところ、脱兎の如く荷造りして逃げていった。これなら手を出してないからセーフだよな? …え? アウト? 中間のセウトでおねげぇしあす。

 

 さて、持てるだけの私財を手に出て行ったバハ子を見送った後もまだ仕事が残っていた。今回の戦いの事後処理である。原作ではそんな描写はなかったのだが、一応現実なので早い話が俺達自身が事後処理もしなければならなかったのだ。

 

 まず手始めに、これまでゼーペンスト自治領の行政を仕切っていた役人達を全員領主館に集合させ、ガソリンをばら撒きヒャッハー汚物は消毒だ~! ……なんてしてませんよ? 世紀末じゃあるまいし。

 

 彼らを集めたのは自治領の管理を全て任せるためだった。一つ説明しておくと、俺たちはゼーペンスト自治領を征服を宣言したが、その領域の保有は宣言していなかった。

 

 これは宇宙航海者である俺たちにとって、自治領なんてもんは足かせにしかならないからである。考え方によっては本拠地が作れると考えることもできるが、本来根無し草で放浪する我々にとって、本拠地は隠しようもない弱点を作るようなものなのだ。

 

 これが無慈悲な夜の女王様が保有していた移動要塞なら手に入れることを考えただろう。勝手に追尾してきてくれるドック付き移動要塞とかよだれがでるほど欲しい。だが複数の星系が入り混じる自治領なんてマジでいらん。

 

 勿論、自治領をうまく統治できれば不労所得ゲットのチャンスだ。けど領民を統治するということはかなりの責任が生まれる。彼らを統治するには常にその場にいて管理しなければならない。

 

 そんなのがあった日にゃ宇宙を自由に旅することができなくなる。宇宙を巡り冒険するのが俺が掲げた旅の目的だ。旅が出来ないのであれば当初掲げた目的に反してしまう。

 

 そもそも不労所得とは言ったが、ざっと調べただけでも前領主の散財の所為で領内の経済は火の車であり、不労所得を得る為に自治領を発展させるために、出稼ぎに出て私財をなげうって援助し、領内を発展させないと不労所得を得られない状況とか……、あれ? 不労所得ってなんだっけ?

 

 とにかく俺のpocketには大きすぎるネー。統治のノウハウなんて都市開発シミュしかやったことがないのに、行き成り十数個もある星系の統治なんて出来ないお……。

 

 まぁ、地上から上る前に集めて仕事をソォイッと丸投げしてやった役人たちは、もともと仕事しないボンクラの変わりに、自転車操業ながらも自治領を守ってきた行政のエキスパートだ。彼らなら……彼らならやってくれるッ! 他力本願って最高だぜ。

 

『こちら機長です。まもなく当機は旗艦ユピテルに到着します。シートベルトは外さないよう願いまーす』

 

 アナウンスが鳴った。半日程度、眼下の惑星にいただけだというのに、なんだか何ヵ月も旅をしていたような気分だ。やはり俺の居場所は白鯨艦隊なんだと改めて思う。

 

 惑星の低軌道上に到達したキーファーの客室窓から外を見れば、地上の大気圏と宇宙の境目に佇む愛しの我が旗艦が見て取れた。彼女は小さな駆逐艦たちに囲まれ悠然とそこにいる。雪のように白い装甲で覆われた彼女は、この漆黒の宇宙では少し浮いていた。

 

 もともとズィガーゴ級戦闘空母ってのは、海賊が設計したフネであり、その外観も名前に偽らずまさに頭蓋骨を模した形であった。眼孔や鼻孔や口腔にあたる穴があった場所が艦載機の発艦ハッチであり、これは視覚効果を狙った造形で相手を威圧するのが目的であったそうだ。

 

 それが今やどうだ?マッドたちの改造により髑髏のように見せるためのすべての穴が装甲板のブラストドアで完全に塞がれ、のっぺらとしてしまったが、見れば見るほどクジラの頭そっくりである。初めて見た人間が白鯨と名付けるのもうなづける話だな。

 

 視線をユピテルから移せば、等間隔に浮かんでいるS級やK級たちの姿も見える。これが俺が築き上げた艦隊だ。馬力が違いますよ。

 

 これからも頼むぜ―――

 

 着艦シーケンスに入ったキーファーの中で俺はそう思った。

 

 

***

 

 

 さて、とりあえず出港したはいいものの……、次の目的地はどうしたものか悩む今日この頃。普通なら次の目的地決めてから宇宙に出るものだが、そこはほら?ノリと勢いで生きている俺達なので行きあたりばったりで宇宙に漕ぎ出してしまった……、本当は この星系のどこかに大海賊ヴァランタインが多分まだいるので、遭遇する前に別の宙域に逃げておきたいだけなのだが、さもありなん。

 

 ともあれ、次の目的地については、いくつか案が出たものの、最終的には大マゼランとの懸け橋、一大交易地マゼラニックストリームに向かうことで決定された。

 

 他にどうしても行きたいという場所もない上、エルメッツァ、カルバライヤ、ネージリンスの主要三国はすでに訪れており、三国以外はロウズのような辺境宙域ばかりなので、常に珍しさと刺激を求める俺らとしては交易地であるかの地はうってつけであった。

 

 たくさんの人々が集まり、彼らがたくさんの物を持ち込み、それらが大金にかわるかゴミくずに変わるかの駆け引きが日夜行われ、海千山千の商売人たちが鎬を削る大フロンティア……。

 

 そんなスリルも満点な旅の交易地に行かないなど、観光地で名物見ないで帰るようなモンである。というかここに行かないとなると後は深宇宙探査くらいしかやることがない。

 深宇宙探査。それは小マゼランでも大マゼランでもない未踏破宇宙を、ただひたすら、何か発見があるまで無人の宇宙を飛び続けるという地味に拷問のようなことをする仕事である。当然I3エクシード航法も航路がないので短距離しか行えず必然的に冷凍睡眠でもしない限り、ベラボウな時間 暇である。さすがにまだ無重力の宇宙と一体化して悟りを開くような事態にはなりたくはない。

 

 そんな訳だから、せっかくだから俺はこの交易地行きを選ぶぜ! むしろそっちがいいッス! 何でもしますから!

 

 ………何故か交易地で地酒を自費で買う羽目になった。解せぬ。

 ふ、ふん。トスカ姐さん一人分くらい酒代くらい余裕で出せますしおすし。それくらいは蓄財してあるし……現地では安くておいしいのを探そう。彼女の酒量を考えて。

 

 ともあれ、行き先を交易地に決めた理由はもう一つある。ヤッハバッハ帝国の存在だ。その強大な軍事力を背景に数多の星間国家を征服し滅ぼしてきたヤッハバッハ帝国。豚が太るように膨れ上がっただけのエルメッツァ星間連合とは違う、100代以上にわたり戦う事を国粋とした軍事大国。ツワモノたちの大群だ。

 

 その実力は疑うところなく、先遣隊ですら小マゼランくらい滅ぼせる戦力を有しているという冗談みたいな連中である。そんな筋肉モリモリマッチョマンの変態がひしめきあっていそうな奴らがいつ頃来るのか、その正確な時間は解ってはいない。

 

 だが、相手は確実に小マゼランに向けて近づいてきている。もし原作の流れに沿うのであれば、ほぼ確実に相手どらなければならない相手だ。大筋から外れて……いや、外さなかったし、トスカ姐さんのこともあるので、おそらく相手どる羽目になるだろう。

 

 そうなると、どんな木っ端な情報であっても欲しい。少なくとも辺境宙域をウロウロして時間を浪費して、気が付けば周囲一面ヤッハバッハの領域でしたという四面楚歌もかくやという恐ろしい事態だけは避けられるはずである。周囲一面筋肉とか余裕で吐けるぞ。

 

 交易地なら大なり小なり情報が流れてくるだろうし、そういったのを専門にしている連中もいるだろう。商人は情報が命だっていうしな。餅は餅屋である。

 

 

 そんなわけで次のボイドゲートを目指し白鯨艦隊は航路を進み、出港してから艦内時間で1時間が経過し、白鯨艦隊は惑星ゼーペンストを囲むように点在する小惑星帯に差し掛かっていた。

 

 小惑星帯には漆黒に彩られた宇宙の遥か遠くの銀河かあるいはガス雲か、それらの輝きに照らされて、大小さまざまな岩石がシルエットを浮かび上がらせていた。ユピテルを超える大きさの氷塊もあれば、人よりも小さな岩石まであり、多種多様な彩りを沈黙の世界に加えている。

 

 航路に沿うようにして横たわるこれらが、いつ惑星の素材となるか、それは誰にもわからない。だが万有引力という鎖に繋がれた岩石群は、いずれ大きな星へとまとまっていくだろう。纏まり、砕かれ、そして集まる。これこそ流転する宇宙の原理であり、少なくても数万年は先の話であった。宇宙ってスゲーなぁ。

 

 一方、壮大な妄想をしながら俺は艦内の散歩をしていた。今回も無事出港でいたからな。後は何か起きるまで自由にしていられる。

 

「……ようやく自治領征服が終わったッスよ。原作だと一時間かからないからもっと短いかと思ってたが普通に時間食ったわぁー」

 

 誰もいない通路を歩きながら、思わずそうつぶやいた。現実的に考えれば一時間で一つの星系を征服とかあり得ないのだが、元がゲームの世界だと知っているからこその感想であろう。現実的には一時間じゃ無理なことくらい、さすが俺でも理解している。

 

 もっとも、ヤッハバッハ並みに戦力あったらこの程度の星系なんぞ一時間でおちるかしらん? ……いかんいかん、いくら想像とはいえ不謹慎だ。ああ、でも今回俺達がやらかしたことも地上からみれば同じか。

 

「…………死にたい」

 

「なに仕事終わりの会社員みたいな顔してるですか? 艦長さん」

 

 おもわず鬱ってると声を掛けられた。振り向くとそこには一人の女性が……というか、ファルネリじゃん。はて? 彼女は助け出した令嬢キャロと共に先にネージリンスへと帰還したハズなのだが何でここにいるんだ?

 

 だが、彼女に会ったなら、俺は言わねばならない。

 

「ネルネル・ネルネさん、アンタなにしとるんスか?」

 

「ファルネリです! アナタわざとやってるでしょ?!」

 

「いやぁ、それほどでもぉ」

 

 名前を間違える、ユーリはついやっちゃうんだ! そんなお約束をした俺に相変わらずいいリアクションをするネルネさん。もう、そんな反応するからやめられない(ゲス顔)

 

 まぁ会うたび結構このネタやってたから、さすがになれたのか溜息一つ吐いたあとすぐに元に戻っちゃうようになったけどな。少し物足りないと感じるのはSの素質があるからだろうか? いやいや、俺は紳士、自重しないと。

 

「――ってそれどころじゃない。お嬢様見てません?!」

 

「え? どうゆうこと?」

 

「それが逸れてしまいまして、それからずっと探してて……」

 

「そんで降りそびれたと? ねぇ阿呆ッスか?」

 

「うぐぅ、いいかえせませんわ」

 

 ファルネリさんによると、広すぎる艦内でお嬢様が迷子になっているらしい。見学ツアー中にトイレ行った拍子に逸れるとかそんなベタなと思ったが、実際事件は起こっているんだ!……その所為で二人とも降りれなかったのだから、なんというか、馬鹿?

 

「でもなんですぐ知らせなかったッス?」

 

「ブリッジへのコールは出港の時には基本シャットダウンされていて連絡できなかったのよ」

 

「いやこっちじゃなくて保安部に……」

 

 そういうと彼女は目をそらした。さては―――

 

「見学許可証のままなんスね」

 

「し、しかたがなかったのよ。お嬢様とすぐ降りるつもりだったし」

 

「一応ちゃんと説明すれば保安部もそう取り計らってくれるッスよ?」

 

「さ、最悪そうしようとおもったのよ?」

 

 でも俺が通りがかったから丁度よかったと。

 

「とにかくキャロ嬢を探せばいいッスね?」

 

「ホントごめんなさい」

 

「ついでに二人とも密航者じゃないことにもしとくッスよ。万が一保安部とかに撃たれたくないでしょ? それとセグェン会長にも連絡入れとくッスよ。行方不明の責任まで負わされちゃたまんないッス」

 

「本当にありがとうございます! あ、会長にはすでにIP通信で連絡済みですわ」

 

「……用意のいいことで」

 

 まったく、手を焼かせるぜ。どうりでコソコソと俺に直接話しかけてくるわけだ。見学許可証は文字通りフネを見学する人間が持つパスのようなものだ。これはクルーになりたいと考える人間がどんなフネなのかを見て回るために発行する一日乗組員券のようなもんで、決められた区画を見て回れるようになっている。端的に言えば就活生の会社見学みたいなもんだろうね。

 

 んで、ファルネリさんはお嬢様をネージリンスに連れていく為に既にフネを降りる手続きを済ませているが、書類は提出していないらしいので、一応まだクルーの扱いになる。だが文字通り見学で済ませる予定だったキャロ嬢はただのお客様。そして出港前に降りなかったので必要な手順を踏んでいない今は密航者になる。

 

 密航者の扱いはフネによって違うが、ひどいところは宇宙服で外にほうりだすこともあるらしい。技術の進歩で確かに余裕ある航海が出来るような時代だが、それでも急な増員は物資の消耗度合いの計算に影響が出るので敬遠されている。

 

 まぁウチは元から定員割れして、ユピなどの機械たちを代用している現状なので、放り出したりはしない。しないけど密航者相手に保安部は容赦はしないだろうからなぁ。白兵戦がある世界なので、乗組員や客人じゃない場合は拘束するのが定石だからな。

 

 そういう意味ではファルネリさんの判断は正解だったってわけだ。甘ちゃんの俺ならキャロ嬢を拘束しろとか言わないと考えたんだろう。事実だし、その気もないから実際正しい。うん。

 

 必死に頭を下げるネルネに、その妙に様になっている姿に、これまで苦労してたんだろうなと少しだけ目頭が熱くなった。とりあえずはユピテルを管理する統合統括AIユピに艦内を捜索もらおう。艦内をほぼ管理している彼女ならすぐにキャロ嬢を見つけられる。いやー高性能なAIがいてよかったよ。

 

 そう思った、その時である。

 

「ぬぉっ!?」

「わぎゃっ!?」

 

 一瞬だが激しい揺れが起こった。俺は二回くらいバウンドし、床にたたきつけられた。バウンドついでにファルネリさん巻き込んで下敷きにしちまった。紳士としては女性をかばうべきなんだが……すまねぇと心の中で謝りつつ、懐から取り出した携帯端末でユピに連絡を入れ状況を聞いた。

 

「ユピ! なにがあった!」

 

《攻撃です! 行き成り攻撃をうけて――敵は一隻、戦艦クラスです!》

 

「攻撃されるまで気が付かなかったッスか! 解ったとにかくそっちにいく! それまではトスカさんに指示を仰げ、まだブリッジに居るでしょ!」

 

《了解です!》

 

 端末を懐に戻して立ち上がる。敵は一隻、戦艦クラス……ああ、やばい。やばいぞコレ。想像通りなら、かなりやばい。 

 

「ファルネリさん、緊急事態ッスからお嬢様探しはまた後で」

 

「ええ解ったわ。大食堂にでも避難してます」

 

 そういうと埃を払って歩いていく彼女を見送り、俺は走り出した。

 

…………

…………………

…………………………

 

「状況は?」

 

「超長距離からの初撃は外れ。だけど続く第二波第三波の波状攻撃でK級駆逐艦が一隻食われたよ。そのあとレーダーからロスト。現在警戒機を発艦させてある」

 

 ブリッジについた俺を待っていたのは、やはりというべきか普段とは違う少し重苦しいと感じる空気だった。

 

 後で詳しく聞いたところ、航路を航行していた艦隊にむけて、突如漆黒の闇を切り裂くようにいきなり閃光が走ったらしい。閃光はそのまま白鯨艦隊に所属するK級駆逐艦の一隻に突き刺さり、右舷側に閃光を喰らった駆逐艦は船体をくの字に折り曲げながら進んでいた軌道から弾かれ、数秒後に内部から青い火球に包まれた。轟沈であったそうだ。

 

 奇襲にも似た攻撃に慌てて索敵を行った直後、敵艦がレーダーから消える。電子妨害装置も高度な物を持っていると判断したトスカ姐さんが、早期警戒仕様のVF—0(AEW)を発艦。索敵範囲を広げているが、現在発見には至っていないと。

 

「まずいッスね」

 

 思わずそう零した。自分でいうのもなんだが、ウチの索敵機器は結構優秀だ。その目を搔い潜り尚且つ駆逐艦とはいえ魔改造された艦を一撃で沈められる攻撃まで行えるフネなど、現宙域において一隻しかいないハズ。

 

「右舷に高エネルギー反応っ、敵艦です」

 

「「なに!?」」

 

「データ解析中…………居ました。本艦隊からみて4時下方、50kmクラスの小惑星の影です。艦種は―――識別完了、グランヘイム級です」

 

 ミドリの冷静な、それでいてよくとおる声がブリッジのスピーカーを通して響き、一瞬だけ静寂が舞い降りた。そして―――

 

「「「「なんじゃそりゃぁぁあああああ!!?」」」」

 

―――絶叫も絶叫、大絶叫の合唱が唱和された。

 

「後ろに回られたってのかい! なんてこった……」

 

「いっそ全面降伏して全部明け渡すッスかねぇ」

 

「……いや、グランヘイムにしては攻撃が甘い。あれが本気ならこっちは一時間と持たないだろうに、まだ損害は駆逐艦が一隻だけだ」

 

「ほうほう、その心は?」

 

「知らないよ。でも何が目的だとしても狙われている以上どうにかしないとやばいよユーリ」

 

 降伏させるのが目的ならば、攻撃前に降伏を促す通信を入れてくるのがセオリーである。そしてここまでで相手からの通信は一切来てはいない。これは明確な攻撃の意思があるという事である。

 

 ここでふと疑問が生じた。原作ではヴァランタインはユーリ達の前に姿を現し直接対決してきたが、なんで問答無用で攻撃受けてるんだろう?――と。

 

 そもそも原作における主人公とヴァランタインの出会いは、質屋に預けたエピタフが強奪されたあたりから始まる。想像がつくだろうがエピタフを強奪したのは大海賊で、主人公は無謀にも強奪者を追いかけ戦いを挑むが、軽くあしらわれてエピタフは奪われた。

 

 だがこの時白兵戦を挑む為、ヴァランタインは主人公と直接邂逅し、そこで主人公に何かを感じたのか、その後エピタフを持つ“資格”があるかどうかを試すかのようになるのだ。

 

―――問題はここ、冒頭の強奪者を追いかけてのところであろう。

 

 原作では強奪した犯人を見つけてすぐに追いかけたが、俺の方は質屋に入れたすぐ次の日に、小型輸送船が質屋の倉庫ごと強奪していった。戦艦を造る金稼ぎの為に近場にいなかったので、俺っちは強奪者、つまりヴァランタインと邂逅していなかったのである。

 

 つまり、こちらのユーリはヴァランタインに見出されていない。ヴァランタインからしてみれば目の前の艦隊は運悪く目の前に通りかかった獲物にしか見えていないにちがいない。エピタフに関する何かをしているが、敵は海賊、獲物を見たら襲い掛かるのが定石ってわけだ。やだねまったく。野蛮人め。

 

「全艦対艦対空戦闘準備、陣形は菱形輪形陣に移行。今回は守りだ。敵の迎撃をしつつ離脱のスキを狙うッスよ」

 

「聞いた通りだ! 全艦対艦対空戦闘準備! 気合入れなッ!」

 

「「「アイアイサー!」」」

 

 とはいえ、襲われたなら対処しなければならない。すでに捕捉されているから逃げるのは難しいが、俺は仲間の力を信じるぜ。たぶん逃げる隙くらいは作れると思うんだ。

 

「各艦の回航が終わるまで、リングボディの砲を使うッス」

 

「了解、リングボディへのエネルギー回路開きます」

 

 ユピテルの盗人かぶり型、あるいは頬かぶり型とも称される中央船体を囲む輪っか。アクティブステルスリングボディには等間隔に配置された単装主砲がある。ホーミングレーザー砲シェキナが登場するまではこの艦のメイン火力であり、シェキナ登場後は影が薄くなったものの使えなくなったわけではない。

 

 特に艦隊が陣形を組むために移動中なので、シェキナみたいな四方八方に撃ってそれを偏向させる特殊兵装は使いづらい今、ただの単装レーザー砲の方が使いやすいのだ。砲塔なので前後に撃てるし、威力に関してはもともと主砲だったのでそれなりにあるハズ。さぁぶっ放してくれ。

 

「――全砲発射、用意よし!」

 

「撃てッス」

 

「はいよ! ぽちっとな!」

 

 打てば鳴るように号令にあわせ躊躇なく発射ボタンをストールは押した。リングボディの上下合わせて4基の単装主砲が吠える。この時点では改装できる規格の砲が小マゼランにないので設計した当初のままの砲だが、口径と威力だけ見れば小マゼランではオーバーキルな火力を持っている。

 

 さて、どれだけ効くか……。

 

「第一射着弾。効果確認―――2発着弾はしましたがシールドで防がれました」

 

「あちらさんのシールド展開率は?」

 

「およそ89%を推移しています」

 

「ふむ、成程。効いてないわけじゃないッスね」

 

「だけど、崩すのは容易じゃないねぇ」

 

「私が持つどの艤装でも、かのフネの防御を破るには時間がかかると計算されます」

 

 うんそうだね。プロテインだね。

 ミドリさんの淡々と上げてくる報告を聞きながら予想通りと思った。今の砲撃、小マゼランのフネなら大破は確定だったんだが、さすがはグランヘイム級だ。あのフネを包み込む対エネルギー・プロアクティブ力場シールド(略してA.P.F.S)がまるでジェリコの城壁だ。

 

 まぁあの城壁は軍団の鬨の声で崩されたんだけどさ。こっちも大声あげたらシールド消えてくれないかしらん? ともあれ、エネルギー着弾の閃光の中から現れたグランヘイムに目立った損傷はなく、悠々と艦首を白鯨の中心、すなわちユピテルへと向けていた。これは回避すらしなかった、いや必要がなかった事を意味していた。

 

 なんだろう、普段俺達が海賊あいてにしていたことをやり返されている気がしてきた。これは、まさかこれまで喰った海賊達の積年の恨みか?!

 

「終わったらお祓いしないといけないかも……」

 

 一人呟いた言葉は、艦内に響く警報に搔き消された。

 ああもう、上手くいかないなぁ……。

 




ひひひ、もう前の投稿からどれだけの時が……。
でもまだ挫けないぞ。健康に害が出ない程度に書き続けるわ。

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