何時の間にか無限航路   作:QOL

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ちょっと追加しました。


~何時の間にか無限航路・第26 話、カルバライヤ編~

■カルバライヤ編・第二十六章■

 

 

 クモの巣はてんやわんやの大混乱に陥っていた。準備していた大型ミサイルを搭載した巡洋艦艦隊が唐突に爆散してしまったからである。情報ばかりが錯綜し、正確な情報が上がって来ない。基本的に群れで行動こそするが軍隊的な規則的な行動を取らない彼らの弱点が、まさに浮き彫りになった形だった。

 

 ドエスバンがとにかく事態を収拾すべく部下に指示を出すモノの所詮焼け石に水。混乱は収まらないばかりか、どうして艦隊が爆発したのかを問う通信が殺到し、クモの巣の通信設備がパンク状態に陥った程だ。

 

 しかし、これだけでは終わらない。彼らが混乱している間に、更なる死神がゆっくりとその姿を現したからだ。ソレは一見するとタダの小惑星に見えた。だがよく見ると蒼白い光に覆われて、クモの巣へと迫って来ているではないか。

 先程まで混乱していた所為で察知が遅れ、衝突コースであることは確実。頼みの迎撃設備を稼働させようとも、艦隊が来ると踏んで展開していた艦隊が邪魔で撃つことが出来ない。海賊艦隊は今だ混乱していたのだ。

 

 混乱により迎撃指示を出したのにもかかわらず、迎撃の大型ミサイルを発射したのはわずか数艦に留まった。これが本来の数のミサイル巡洋艦が居たならば、さらに倍の大きさの小惑星ですら砕くことが出来ただろう。

 だが先ほどの攻撃で小惑星が迫る宙域のミサイル巡洋艦はほぼ壊滅状態。しかも中には混乱していて我先に逃げようとしたまでは良かったが、別の艦にぶつかり逆に逃げられなくなるという始末である。そんな無様な者たちを前に死神は待ってくれない。

 

 巨大な蛹の様な形をした小惑星を改造したサマラの基地『コクーン』。エンジンから漏れ出るインフラトン粒子の輝きによって、蒼白い光を発するソレは、文字通り死神の如く、容赦なくクモの巣へ衝突した。

 

『コクーン』の針路上に展開していた海賊艦隊は、混乱の内に『クモの巣』と『コクーン』の間に挟まれて青い火球へと変わり、また衝突の衝撃でクモの巣を形成していた岩石の小惑星を繋ぎとめていたパイプラインは拉げ、まるでビリヤードのごとく互いにぶつかり合いながら、ちぎれて飛び去ってしまっていた。

 

 被害をこうむったクモの巣の生き残った通信設備には、全周波帯で背筋から凍りそうな程冷たい女性の哂い声がただひたすら流れているだけだった。

 

 

 

 

***

 

 

『アハッ……アハッ……アハハハッ……アハハハハハハハハハッ!!!!』

 

 

 いま正に、通信のスピーカーからサマラ様の馬鹿笑いが響いている。なにかがツボに嵌ってしまったのだろうか? 『くもの巣』が崩壊していくのを見てからずっと笑い続けていた。というか肺活量あるなオイ。

 

 俺達は既にクモの巣へとすぐに到達できる位置へと来ている。奴さんらが探知できる範囲のギリギリ外側と言う訳だ。このまま『コクーン』が動き回れば、こうボールをナインボールに当てたみたいにポカポカとビリヤードみたいに動くだろう。

 

 挟まれて爆散する海賊船がまるで花火のようである。宇宙規模だからスゲェ派手で壮大な花火を上げたような姿は圧巻の一言であるが、あえて言おう。キタねぇ花火だぜ。

 

『アハハハハハハハハハハ―――ッ!!!』 

「まだ笑ってる。めっちゃハイテンションッスね。声を掛けるのに勇気がいるッス」

「はぁ~、サマラの悪い癖さ。感情が一定を越えた途端、堰を切ったようになるんだからな」

「アレは喜んでるッスか?」

「ああ、めちゃめちゃ楽しんでるんだろうさ。脳内麻薬がダバダバ出まくりッて所だろう。昔ある星の花火大会であんな風にわらって恥ずかしかったよ」

「花火大会でもああなるんスか!?」

 

 意外な事実に驚愕しながら、全周波帯に入るサマラ様の爆笑する声を少し引きながら聞いていた。彼女の爆笑はともかく、この戦い方はまさに“無慈悲な夜の女王”と呼ぶにふさわしいものだった。慈悲の一つもありゃしない。なんせ広範囲に笑声を響かせながらも、嬉々として生き残り艦隊へ吶喊してるんだから。

 

――と、その時警報が響く。どうやら生き残りがいたらしい。

 

「クモの巣方面から、大型艦船複数接近中です。艦種は装甲空母、識別はザクロウの監獄長専用艦です艦長」

 

 どうやらドエスバンが乗った船らしい。これは逃げようとしたところに鉢合わせてしまったのかな? 何にしてもどうしてやるか、やっぱり殲滅が一番?

 

「艦長、保安局艦より通信が届いています」

「おろ? 内容は?」

「現在保安局艦隊が急行中、到着は2時間後、ドエスバン所長は情報を得たい為、生かして捕えられたいとの事です」

「成程、確かにヤツは人身売買の情報を握っている可能性もあるね」

 

 成程、俺らはこの先のムーレアに行ければ良い訳だから、邪魔になるグアッシュ海賊団が手を出せなくなればそれでいい。サマラ様の小惑星基地『コクーン』の犠牲によりグアッシュ海賊団は完膚なきまでに破壊されてしまったので、ある意味で目的は既に達成されているといってもいいだろう。

 

 あそこで沈没船から脱出するネズミ並に逃げているドエスバンがどう頑張ろうとも、もうこのカルバライヤ宙域で再起を図ることはもう出来ない。なにせグアッシュという人物が作って有ったグアッシュ海賊団という下地があったからこそ、ドエスバンと言う男が頂点になっても機能し続けた訳だしな。

 

 それを潰したのだし、俺ら的にはこれで一件落着だ。だが保安局の仕事はまだ終わっていない。海賊に捕まって何処ぞへ奴隷として送られた人々の追跡を行わないといけない。だからドエスバンを捕まえたい訳だ。直接人身売買の指揮とってた訳だし、それを吐きださせなきゃならんのだろう。

 

 しかし―――

 

「むむむ」

「なにが『むむむ』なんだい?」

「いや、結構俺達働いたし、あれくらいの敵なら保安局でも対応できるんじゃないかって思ったんス」

 

 すでに十分働いたと思う。あのバゥズ級をカスタムしたミサイル巡洋艦から被害を受けないようにするため、色々と開発したりしたしな。普通ならああいうのと一戦交えるのも一興なのだろうが、被害が出ると分かっていて真正面から戦うものかよ。そんなの俺の興が向いた時しかやらないね!

 

 おそらく、向かってくる装甲空母にはドエスバンが乗っているのだろう。確かにヤツはトスカ姐さんにひどい仕打ちをしたし、聞いたところではエロい目で姐さんを嘗め回すように見てきたという下種だという。

 だが、『くもの巣』の崩壊を見ていたら、なんだか高々小物なドエスバンに執着して気炎を上げるのもアホらしく感じたのである。怒りが消えた訳じゃないが一々相手にするほどの相手じゃない気がしてならなかった。

 

 実際、よく見れば敵は装甲空母が一隻、ザクロウで見たのと同じヤツが中心で、他はグアッシュ海賊団の赤いカラーリングをした巡洋艦と駆逐艦が多数で周囲を固めている。これくらいなら保安局でも対応できるんじゃね?

 

「む~~~………よし決めた。護衛艦だけ排除して、あとは保安局に任せよう」

「まぁ先を急ぎたいし、あれだけの戦力ならそれでも十分だとは思うね」

「てなわけで、ミドリさんは保安局艦に返信。護衛艦は落とすから後はお好みにって送っておいてくれッス」

 

 そう連絡すると、何やら遠回しに文句を言ってきた。曰く航路の平和の為に手伝えとさ。手伝うのは良いけど火力があるから撃沈しちゃうんだけどと返すと黙り込んでしまった。おいおい、他力本願なのもいいけどさぁ。まぁいいけど。

 

「ストール。分かってるッスね?」

「あいよー、出番だな」

 

 俺の思惑を読み取り、ストールが攻撃準備を淡々と済ませた。号令一つですぐに攻撃できるだろう。では、仕方ないのでちょっとだけお手伝いしてあげよう。

 

「シェキナ照準。目標、敵護衛艦。撃ーっ!」

 

 号令に合わせて手を振り下ろすと、ユピテルの両舷に備え付けられたレーザー砲列から延びた幾条もの光が敵艦隊に襲いかかり、護衛艦をすべて破壊、もしくは航行不能に追い込んだ。うーん、さすがはホーミングレーザー砲シェキナ。チート並みだね。

 

 攻撃を受けたドエスバンの居るであろう装甲空母は呆然としたのか足を止めたが、何故か保安局艦も動かない。仕方ないので通信で早く捕まえた方が良いのではというとやっと我に返り、敵艦の脇に接舷して中に乗り込んでいった。

 

「んじゃ行きますか」

 

 ホントは『くもの巣』の残骸に取り付いてサルベージしたいところなのだが、あちらでは無慈悲なサマラ様が海賊団残党狩り祭りを絶賛開催中であり、無双していて近寄れる雰囲気じゃない。もう全部彼女ひとりでいいんじゃないかな?

 

 ま、もう俺達の役目は終わっただろう。そう判断した俺は残してきたK級突撃駆逐艦に修理が終わり次第合流するよう命令し、その後、『くもの巣』を通り過ぎて先へ行くことにしたのであった。

 

 というかね、実はさっき気づいたんだけどさ。ホロモニターの片隅に小さなモニターがね、浮かんでるんですよ。そこになんでだか知らないけど、ニコニコとしたジェロウ教授が映っているんですよ。 

 ええそうです。無言の笑顔催促です。あの人マジなマッドサイエンティストだから、無視したらナニされるかわかんないのが怖すぎる。朝起きたら、俺は改造人間にされてしまっていた! そんなのはちょっと御免かな……、でも仮面被ってライダーやるのはちょっといいカモ……。

 

 

***

 

 

 ドエスバンは呟く。こんなはずじゃなかった。こんなはずでは……。

 

「さっさと歩け! グズグズしてるんじゃないこの罪人め!」

「グっ、ワシを誰だと」

「仲間を騙し、同胞を売りとばした下種野郎だろ。お前の発言は全て記録する。法廷で良い弁護士を雇ってきっちり全部話すことだな」

「むむむ……」

 

 両手に手錠を嵌められ、逃げられないように前後両脇に立つ保安局員がドエスバンを歩かせる。どうしてこうなってしまったのだろうと彼は自問した。あの自治領との奴隷商売で得た富でキチンと防衛体制は整えていたのはずだ。過剰ともいえる大型ミサイルを用意し配備させたというのに海賊共の使えなさといったら。

 

 いや違う。本当に悪いのは、アレだけのミサイル防衛網を破壊した奴らだ。小惑星が自律して飛んできた時も驚いたが、ミサイル防衛網が機能していればどうにかなったのだとドエスバンは思った。

 なぜなら、あのにっくき宙域保安局が、海賊本拠地用に開発したという、対地上攻撃用大型ミサイル『プラネットボンバー』の弾頭を、裏ルートで仕入れたものを組み込んだミサイルもあったのだ。

 本来なら保安局が使うべき兵器で逆に反撃するという楽しい光景になったはずであり、地上攻撃用なだけはあり、高々小惑星位なら破壊はムリでも、数を使って衝突軌道をズラすこと位出来た筈だった。

 

 いくつもの筈が頭に浮かんでは消えていく。本当にどうしてこうなったのだ。

 

「そういや聞いたか? 俺達が乗り込んで捕縛しにいく羽目になったのは、あの白鯨艦隊がそういってきたかららしいぞ」

「そうなのか? 高々0Gドッグ風情が正義の保安局を顎で使ったとでもいうのかよ。何様だよまったく」

「いやでも聞いた話じゃかなりグアッシュ海賊団相手に奮闘したらしい。詳しくは知らないが、くもの巣の防衛網破壊もあいつらがやったらしいし、逃げ出したこいつを足止めしたのも白鯨艦隊だったそうだ」

「でもこいつのフネが来たとき、戦わずに俺達に放り投げたんだろ? たく最後までやれってのよ。仕事増えても給料は増えねぇんだからさ俺達」

 

 両脇を歩く保安局員の会話に聞き耳を立てていたドエスバンの耳がピクピク動いた。どうやら、自分がこうなってしまった原因は白鯨艦隊にあるというではないか。

 

 彼はかつて見たデータを思い出す。白鯨艦隊、海賊を主に狩る0Gドッグ。バウンティーハンターという訳ではなく、輸送から鉱山採掘に酒場の借金の取り立てまで無節操に何でもする連中の集まりだとか。

独自の戦力を有し、こと海賊に対しては容赦がなく。対峙した海賊はその協力無比の戦力を前に手も足も出ずに倒され、最後はフネごと没収されてしまうという。

 

まさに海賊専門追剥集団。海賊に恨みがある連中なのかと言えばそうでもなく、タダ金になるからという理由で全てを持っていくのだと聞いた。

 

「そうか、白鯨……そうか」

「ん? なんか言ってるぞこいつ」

「しらん。俺達の仕事はこいつを今牢屋に入れるだけだ。ほら入れ」

 

 背中を叩く様に押され、つんのめりながらもドエスバンは牢屋の中に入った。エアロックの合金製ドアが施錠され、保安局員共が立ち去った後もドエスバンはまるで狂ったように呟き続ける。いやそれは最早呪詛であった。自分を追い落とした白鯨への。

 

「見ておれよ白鯨。俺の兄弟に連絡を入れて、いつか必ず兄弟がお前たちに復讐を為すぞ。白鯨め、白鯨め!」

 

 

***

 

 

 さて、とりあえず『くもの巣』から離れ、惑星ムーレアへの航路に入ってからすこしして保安局の艦隊が『くもの巣』に到着したと、あの場に居た保安局艦から通信が入った。ドエスバンも無事に捕獲出来たらしい。俺らの援護の御蔭だと一応礼を言われたので受け取っておいた。まぁなんか納得してない顔してたけどさ。

 

「保安局のバリオ宙尉から通信です艦長」

「繋げてくれッス」

『聞こえるか、ユーリ君。ザクロウ所長のドエスバン・ゲスの捕獲協力に感謝する』

「ふぅ、これで終わりッスね~お疲れっしたー」

 

 やれやれだぜと汗を拭うようなしぐさをしながら、そうバリオさんに返した。少なくてもドエスバンを捕まえた訳だし、ホントお疲れ様でしたって感じである。連中のおかげで無駄に遠回りとお使いさせられた気分だぜ。

 

『終わりか……それならいいんだが……』

「え?何そのフラグ立てる台詞」

『なんでもないさ。というかお前ら後片付け俺達に押し付けてさっさと行きやがったな? わかってんぞー俺は』

「~♪ なんのことかなぁ~」

『口笛でごまかすんじゃねぇ――まぁいい。実際お前らはムーレアに行くのが目的だったんだもんな。ああ、あと俺はドエスバンを保安局まで連れて行くが、後でお前らも顔を出してくれよ。礼もしたいしな。また飲もうぜ』

「良いっスねぇ。またおごり?」

『あ、いや。今回はせめて割り勘でお願いしたいかなー。俺公務員だからボーナスまだ先なんよ』

「うわ世知辛ぇ」

 

 項垂れ哀愁漂わせるバリオさんに憐みの目を向けた後、適当に話をしてから通信を切った。あー、これで後は遺跡巡りだけ~と背伸びをした瞬間、何故か閉じた筈の通信用ホロモニターが再び投影された。

なにかと思えば、そこには実にスッキリとした雰囲気を漂わせたサマラ様が映っているじゃありませぬか。ああ、また勝手に通信回線ハックしたなこの人。

 

『では我々もこれで失礼させて貰おう』

「サマラ様、何時の間に回線に」

『ふん、私は海賊だ。通信回線に割り込むことなどたやすい』

 

 それはそれで違う気がする。この人たまに天然だ。

 

『そうそう、別れの挨拶序に一つ教えておいてやる。今回の連中は只の海賊では無い』

「タダの海賊じゃない……と言う事は海賊の中の海賊! その名も海賊エリート」

『――私は話しの腰を折られるのはあまり好きじゃないんだ』

 

 あ゛あ゛?と女性が出したらいけない低い声で凄まれた。あまりの怖さに漏らしかけたのですぐさま艦長席の上で土下座をかましたところ、なんか怒気が減った。

 

『プライドはないのか小僧……次は無いぞ』

「サー! イエス! マム!」

『はぁ……とりあえず、背後に居る連中に気をつけるんだな。ソレとトスカ! その小僧は面白いが、もう少し相手を選んだほうが良いぞ』

「ははは、バカだけどその分退屈しないからいいのさ」

『ふ、それならそれでいいか。それじゃあな小僧。また何時か共に戦える時に会おう』

「さようならサマラ様。また何時か会おうッス」

 

 強制接続されていた通信が切れ、ホロモニターが再び消えたのを見て、俺は艦長席に再び深く座りなおした。なんか長丁場だったので気が抜けてしまった。

 

 それにしても唯の海賊じゃない、か。背後にいる奴に気を付けろとは物騒だな。トラブルは単体じゃなく数珠のように繋がっていることが多いから、これもまた何かのフラグなのかもしれない。まぁ俺達ならどうにかなるだろさ。

 

「はぁ、ようやく終わったッス」

「今回は結構強行軍だったねぇ。何処かで休暇を入れないとダメじゃないか?」

「序でに宴会もでしょ?」

「当ッ然。流石は艦長、解ってるねぇ」

「ま、これでムーレアに行ける様にはなったッス。だけど一度休息と取らないとマジで不味いッスからね。ユピ」

「はい、近隣の惑星のリストです。何処に行きましょうか?」

 

 とりあえず、のんびり出来る場所が良いな。適度に自然があって近い惑星は……おやこのままムーレアに進むとちょうどいい惑星に出くわすじゃないか。

 

「良し、ゾロスに向かおうッス。自然が多い惑星みたいッスからね」

「ゾロスか。ムーレアにも近いし、良いんじゃないかい?―――そう言えばゾロスには火炎ラム酒が売ってたねぇ。宴会するにも丁度良いね」

「リーフ、針路をゾロスに向けてくれッス。トクガワさん、エンジンスタートッス」

「「アイサー」」

 

 

***

 

 

 ムーレアにほど近い超辺境惑星ゾロス。総人口67億2300万人程度の星で、エメラルドグリーンの海と大理石のような白色の岩が多く点在する居住可能惑星である。

 

「いやー、まさか0G酒場がやって無いとはな」

「お陰で近場の居酒屋を貸し切り……はぁ0G割引使えないから高くつくなぁ」

「艦長しみったれたこと言うなよ。そんな時はアレだ飲むに限るんだぜ?」

 

 へいへい、良いですよねー。この後の経理から漏れた書類は全部俺に回るんだぞ? とりあえず宴会は夜に予約して朝まで貸し切りとした。どうせ騒ぐならその方が良いだろう。日中は遊ぶに限る―――てな訳で。

 

「やってまいりましたゾロスの赤道直下大海水浴場!」

「「「「わーーーーーー!!!」」」」

 

 そんな訳でなんとなくソラから見てたら、この星の海が綺麗に見えたので、やってきたという訳である。メンバーは相変わらずのトーロとイネスと俺の野郎三人組だ。暇そうなヤツに声を掛けたら自然とこうなった。

 

まぁたまには男同士で遊ぶのも悪い事じゃない。女性相手は結構気を使って疲れるところがあるからな。だが、とりあえず突っ込みたい―――

 

「なんで俺達より先に整備班の男どもがこんなにいるんスか」

「ソレはな艦長。俺達が休暇を貰いせっかくナンパをしようと思ってきた海に、偶々艦長が来ていただけの事なのさ」

「ふーん、状況説明ありがとケセイヤさん」

「いやいや何の何の」

 

 ナンパか、でも地上の人間に迷惑をかけないのが0Gの鉄則じゃ―――

 

「艦長は俺達の出会いの場を奪うのかい?」

 

―――とりあえず、その手に持ったスパナとかしまって欲しいなぁ。なんて。

 

「あ、いや。うん海はいいよねぇ。いいんじゃないかな? ナンパ」

「艦長公認だオメェら! 迷惑にならない様に紳士的にやるぞ!」

「「「「「「おおおお!!!」」」」」」

 

 いや、ナンパで紳士的とか有るんかいな? とかなんとか突っ込む前に、整備班連中は消え去っていた。 早いなオイ! 砂浜で砂を巻き上げて走る人間なんて初めて見たわ。

 

「いいの?アレ」

「ならイネス。おまえ止めてこい」

「う、遠慮しておく」

「ま、彼らも息抜きが必要なのさ。少年たちも楽しまなければ損だぞ?」

「……いきなり現れたミユさん。何故にここに来てるんスか?」

「「わっびっくりした」」

 

 おかしいな。整備班連中と言い、この人と言い、何で俺の行く先に知り合いがいるんだ? イネスとトーロ以外に声はかけていない筈なんだが……。

 

「深く気にしたら疲れるだけだよ少年」

「そんなもんスかねぇ? で、なんでミユさんは白衣着て来てるんスか?」

「これは私のトレードマーク。脱ぐときは寝る時くらいだよ」

 

 いやそうは言いますがね? なら何で白衣の下が水着なの? アレですか? どこぞの人造人間作ってる泣き黒子が特徴の博士ですか? え? 違うの?

 

「ここは海水浴場だ。水着を着てないと入れないだろう?」

「いやまぁそう何スけど……なぁ」

「ああ、すごい目立つぜ」

「せめて長袖のシャツ程度にできなかったのかい?」

「それは研究者のポリシー反するよイネス少年。それに少年たちも完全武装では無いか」

 

 ミユさんはそう言うと俺たちの姿を見てニヤニヤと笑う。俺もここで買ったしなぁ水着。オーソドックスなトランクスタイプのやつ。他二人もほぼ同じガラと色が違う程度である。

序でに何故か売っていたアロハシャツと麦わら帽で完全装備だぜ。

 

「ま、しゃーないっス。俺たちも楽しむッス」

「その方が良いだろう。他にも来ている連中と楽しんだらどうだい」

 

 その口ぶりだと、他にも一緒に来ている人がいるのか?

 そう思っていたら、此方へと近づいてくる人の気配が複数。

 

「ミユさーん、飲みモノ買って―――って、あれ? 艦長も海水浴なのかい?」

「き、奇遇ですね艦長」

「ありゃ? ルーべとユピも来てたんスか?」

 

 そこに居たのは我がフネの機関副班長のルーべと、何故か顔が紅くすこし口調が変なユピが居た。二人ともリゾートらしい格好で、ルーべはスポーツ系の水着の上にパーカーを羽織りユピは青のセパレートである。うむ、どちらも健康的な色気に満ちておる。

 

しかし女性三人衆とか珍しい組み合わせやね。俺達三人といい勝負じゃね? それに彼女らは系統が違う美人さんだからナンパが多そうだな。

 

「ボクはミユさんに誘われてね!艦長たちは?」

「俺もまぁ息抜きに来たって感じッスかね」

「右に同じく」

「僕も左に同じく」

「じゃあ、ボク達と一緒に遊ぼうよ! いいでしょうみんな?」

「わ、私はかまいませんよ! むしろ喜んで!!」

「ふふ、ユピは可愛いな。当然私もOKだよ少年たち」

「おおう、ミユさんエロいな」

「おまえそんなんじゃティータにまた拳骨もらうぞ?」

「良いじゃないッスかたまにはさ。遊ぶだけなんだし、お言葉に甘え様ッスかね」

 

 なんか話の流れで俺達も一緒に行動する羽目になった。どうせ夜までに戻ればいい訳だし、俺がいなくても向うは向うで勝手に宴会始めちゃうだろうしな。

 

 

―――せっかく海に来たのだし色々と楽しもうじゃない!

 

 

「うぇみだー!」

 

「「わー!」」

 

「ぱらそるだー!」

 

「「わーー!!」」

 

「トロピカルドリンクだー!」

 

「「わーーーー!!」」

 

「そして何故か俺アロハだー!」

 

「「わーーーーーー!!!」」

 

「そして俺はぱらそるの下に寝そべるのだー!」

 

「「わー! ってコラ艦長(ユーリ)(少年)!」」

 

 

 な、なんやええやんか! 俺泳げないんだから……。フネには風呂場はあるけど泳げるプールとかだってないし、前の世界でもカナヅチだったし。

 だからそんな『ええ、あそこまで乗っておいて』的な目で見ないでくれー! 俺の繊細なガラスのハートがブレイクしちまうよ!

 

「ふむ、少年の意外な弱点だな。泳げないなんて」

「宇宙遊泳は出来るんスけどねぇ~」

「いや、それ泳いだウチに入らないよ」

 

 ですよねー。

 

「あ、あのう。だったら私と一緒に練習しませんか? 私もこの身体になってからは海は初めてで」

「お、良い考えかもね。ならボクが2人に泳ぎ方を伝授しようじゃないか!」

「い、いや、オイラは別に泳げなくても生活に支障は―――」

「いいじゃないか少年。何事も挑戦だぞ?」

 

 い、いやですから俺はあくまで息抜きに来たんであって、新たな世界に飛び込む訳じゃない。ていうか野郎二人組俺をたすけろー!

 

「あ、ミユさんあっちで涼まない? 僕熱いの苦手で」

「そうだな。トーロ少年はどうだい?」

「俺ぁちょっと食べ物買ってくるぜ。何かいる?」

 

やろー逃げやがったー!はくじょーものー!

 

「さぁ艦長! 泳げるのは楽しいんだよ!」

「その、頑張りますから」

 

二人とも何故に肩を掴むのですか?ちょっと引っ張らんといてって聞いて無い?!

 あと頑張るって何!? まってー! まだ心のじゅんびがーーー!

 

 

 

 

 

アッーーーーーーー!!

 

 

 

 

 

 そして、夕方になるまで、俺は泳ぎの練習をさせられた。

 

 片方は健康的な褐色短髪美少女。もう片方は脱いだら凄いポニーテイルの美少女。コレどんな拷問? とりあえずバタ足が出来るようになったのはいいけどさ。泳げないから何度か抱きついた程度は大目に見てくれる娘達で助かったよ。 

 

 そして何故か途中で俺の水泳レッスンを見学し始めた整備班たちに呪の視線を浴びせられながらもその場を後にし、宴会へと向かったのだった。

 

「そういえばトーロも泳げたよな。なんでユーリに教えなかったんだ?」

「イネス。お前はなんも分かってない。野郎に抱き着かれる趣味はお前と違ってこのトーロ様には断じてない!」

「僕だってないわいッ!!」

 


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