何時の間にか無限航路   作:QOL

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※この回にはTS要素が含まれます。苦手な方はご注意ください。


~何時の間にか無限航路・第11話、エルメッツァ中央編~

■エルメッツァ編・第十一章■

 

 

 光陰矢のごとし、気がつけば時間は流れ数日後―――

 

 フネは惑星バルネラ、ジェロン、ネロを経由しドゥンガへと届こうとしていた。当初予定していた通り、ドゥンガへと近づけば近づくほど紛争で稼ごうとする輩と遭遇する機会が右肩上がりに劇的に増えていった。

 

 ただ海賊などが義勇軍として組み込まれているとはいえ、ある程度の統制がなされているからか、海賊船と遭遇した時のようにすぐに戦闘に発展という事は無かった。国には面子がある、自身の陣営に所属するフネが敵ならばいざ知らず中立を掲げるフネを襲うことは事実上の交戦規定違反となりえたからである。

 

 とはいえ何事にも例外はあり、やれスパイのフネだとか規定なんざクソ食らえヒャッハー!な馬鹿も当然いた。そういう輩には大抵一隻は正規軍の軍艦が帯同しており、万が一を考えればルーのじっ様を危険にはさらせない事もあり、海賊討伐の時と違いむやみやたらに戦うことは出来ず攻撃を回避しつつ待避。航路を迂回しての移動となり、少し歯がゆい思いをした。

 

 お蔭で逆らう奴は(海賊限定だが)ブチコロス!を生業としてきたのでフラストレーションの溜まり方が半端ではないことになった。乗員のバイタルを観測し、その総合値を“疲労値”として表示するシステムで感知していた疲労値が鰻上りに上昇したのは、きっとこのフラストレーションの所為だったに違いない。

 

 艦内にあるレクリエーションルームや訓練場の利用回数が増加したとユピが観測していたので間違いないだろう。陸に上がればエンターテイメント施設やレクリエーション、リラックス施設、後は夜の大人の為の施設などである程度は発散できるのだが、時間が限られているので道中の適当な惑星に寄る事も出来なかった。

 

 

 その事はトスカ姐さんも含め、クルー達は特に重くは見ていなかったようだ。俺と違いある程度の航海歴がある乗組員たちはもっと悲惨な環境に置かれた事もあり、この程度はまだ軽い方だと理解していたからだ。

 

 だがストレスに敏感な現代日本人だった俺は、このフラストレーション溜まる状況を重く考え、これを解決する為にサド医師やサナダさんケセイヤ等に疲労値を抑えるような発明を命じたのは余談である。

 

 そういった些細な出来事こそあれど、基本的に大きな戦闘などは起こらず、やがて艦隊はドゥンガに到達した。約束どおりルーのじっ様とウォル少年をドゥンガに降ろし、策に必要な工作が終わるまでしばらくこの宙域にとどまることとなった。

 

 

 さて星と星との間にはいろいろあるようで実は何もない。真空なんだからとかそういうわけではなく、銀河間や恒星間で見れば沢山あるといっても過言ではないのだが、それはかなりマクロな視点であり、俺たちのようなミクロの視点で見ていると偶に遠い恒星の重力に囚われて軌道を巡っているデブリベルトくらいしかお目にかかれない。

 

 デブリすらない宇宙は木枯らしも吹かないほどにまっくらで冷たい。地上世界を照らしてくれている太陽もここまでは照らせない。太陽は遠く、ボールペンの先で紙をつついた時の点くらいに自己主張をやめている。

 

 可視光線が少ないだけで僅か数十mを遮断している隔壁の向こう側は素粒子や電子といった人体に有害な宇宙線の嵐だと思うと、静かな海を思わせる宇宙すらも意外と騒がしいのだろうと思えてくる。科学的には騒がしいのだろうが実際に目で、肌で感じる宇宙というのは暗黒で、とても寒そうに見えた。

 

 そしてその漆黒の宇宙の中を綺麗な放物線を描いて飛翔する光が突き進んでいた。その光は上と下に分かれており、まるで鏡写しの様に弧を描きながら、動き回るある一点を目指している。その一点に到達して交差すると宇宙に小さな閃光がきらめいた。

 

 

「―――エネルギーブレット、標的に夾叉着弾、被害計測中」

【計測完了、敵艦への損害は装甲一部剥離および一部武装大破、重要攻撃目標の噴射口大破を確認。予測機動力70パーセント低下】

「降服勧告を発信…………敵艦からの降服信号を受信、我が艦の勝利です」 

「今回も百発百中だなストール!やるじゃねぇか!」

「へっ!長年の勘と優秀なFCSとユピのお陰よ!」

「戦闘状態解除、EVA要員は各員配置についてください。繰り返します―――」

 

 ミドリさんのその言葉をきっかけにブリッジに流れていた緊張の空気が徐々にほぐれていく。何を隠そういきなり冒頭から正規軍の帯同していない火事場泥棒的な海賊と戦闘していました。隙間産業ご苦労様だといいたいが今回は相手が悪かったな。

 

 

「艦長、鹵獲海賊船の解体、およびジャンクパーツの仕分けが完了しました。後で目録に目を通しておいて下さい」

「え? はやくないスかミドリさん?」

「あんたがボーっとしている間にEVAとVFの共同で片したら5分も掛からなかったんだよ」

「そうなのトスカ姐さん?」

「それもこれも、こんな事もあろうかと開発しておいたVF用解体工具パッケージのお陰だな!」

「ケセイヤよ…開発というか、元々あった大型重機用のプラズマ・カッターと牽引ビーム発生機に持ち手をつけただけだろう」

「それは言わん約束でしょうサナダよぉ。さて格納庫に見に行こうぜ!」

「使えるかどうかは直接見ないと解らないからな。よし行くぞ」

 

 我が艦隊きっての技術屋たちは肩を組むようにしてブリッジを後にした。

 あー、うん。着実にVFの手持ち武装バリエーションも増えてるな。工具を武装扱いしていいのかと思うところはあるが、別の宇宙には工具片手に惑星サイズのクリーチャーと戦ったレジェンドなエンジニアがいるから何処もおかしいところはないな。

 

 気を取り直して、俺たちは惑星ドゥンガに降りた伝説の戦略家と評されるルー・スー・ファー、本名ルスファン・アルファロエンというご老体がベクサ星系の資源採掘問題を発端に起きた紛争解決の策を成功させる為、いろいろとドゥンガで根回ししている間、適当に航路を往復して時間を食っていた。

 

 クルーの中ではあの薄汚い老人にそんな事できるのかという者もいたが、いやいやボロボロなのは旅装だからであって、その本質はかなりの人物だと俺の勘が告げている――っていう。

 本当はそういう人物だと知っているからだし、俺には新人類にゅーたいぷ的な勘なんてないお(^ω^)

 

 

「ユーリ、ぼさっとしてないで状況を常に見てなよ」

 

 ルー爺さん…なんかこういうと某エセ英語を会話に混ぜてしゃべる人みたいだが、じっさまのことを考えていたらトスカ姐さんに仕事しろと怒られちったい。それにしても紛争地帯だっていうのに火事場泥棒紛いの活動をする隙間産業な輩も結構いるもんだな。

 

 さっきの戦闘も実はのんべんだらりと惑星間輸送をしていたこちらに対し、唐突に襲い掛かってきた連中を返り討ちにしたものだったりする。普通の0Gドッグなら商品輸送中は戦闘を拒否したいものだがウチはちがう。むしろこういう輩を歓迎している節がある。

 

 何故なら――――

 

『艦長!コリャスゲェ!旧型のMBW-20000番台の反陽子弾頭だ!発射管が無いのに何で持ってんだろうな?どっかの分捕り品か?』

『こっちには軍がつかう連装高角レーザー砲のスペアだ。一体どういうルートで手に入れたんだか…』

 

――――とまぁ、こういった具合に中々いい装備をそろえている事があるのだ。

 

 そのままでは使えないが、そこはマッドな職人チートがいる我々である。カプラが合わないなら間に別のソケットをはめ込めばいいじゃないとばかりに、艦内工房で俺には理解できないことを平然とやってのける。そこにしびれるあこがれるぅ!へビィな連中だぜい!そういったので消し飛ぶ開発費もへビィだぜい!…へぇあ。

 

 ま、落ち込んでもしゃーないので、いつもどおり仕事するか。作業進行を確認する為に開いておいたウィンドウを空間タッチパネルで手前に引き寄せる。すると画面の向こうから、EVA作業班の班長をしているルーインさんが無重力空間を見事な体勢移動でスムーズにこちらに向かってくるのが見えた。

 

 ストンと音でも聞こえてきそうな軽やかさで通信ウィンドウが投影されている作業指揮台に着地してみせたところを見計らって、俺はねぎらいを兼ねて口を開いた。

 

 

「ルーインさん、お疲れさんッス」

『なぁに、空間重機もトラクタービームもなかったロウズ時代に比べれば楽なもんだ。出来るなら俺達のボーナスに少し色つけて欲しいかな』

「そりゃ勿論。ついでによく冷えたビールもいかが?」

『……わかってるねぇ。んじゃ作業がんばるかねぇ』

 

 ルーインが再び軽やかなステップを踏んでEVA作業中の空間へと飛び出していくのを見送り、再び作業進行の確認をしようとモニターに目を移したとき、別の部署からのコールが来た。これは保安からかな?

 

『捕虜にした海賊を脱出ポッドに移譲させた後射出しました』

「ご苦労さん。あれェ?でもトーロは?」

『トーロ部長は後をこちらに任せて戻りました』

 

 トーロのヤツ、報告とか面倒くさいこと副官に丸投げしたな。その報告を聞いたから、俺はヤツの給料を下げてやるのだ。艦長って実質管理職みたいな気がしてきたのは、もう今更である。

 

 しかし発射管無いのに反陽子弾頭を持っていたとはな。確かにブラックマーケットで捌ければいい金になっただろう。ちっぽけな海賊を一時的に潤す程度には、だが…。

 俺達の場合はあまり変わらないから、この分だと売らないでマッド共のおもちゃになるかもしれないな。フネに搭載するヤツとはいえ弾頭自体の大きさはかなり小さいし。

 

「反応弾装備みたいな事になったりして…」

「ん?ユーリ、どうかしたかい?」

「うんにゃ、何でも無いッスよトスカさん」

 

 一瞬反陽子魚雷を搭載したVF-0雷撃装備型が浮かんだ。マッド共なら片手間で作れちまうよ。広大な宇宙空間じゃ反陽子弾頭の爆発なんて大きな花火程度でしかないけど、おもちゃをもらった子供は遊びたがるのが世の常というもの。すこしは自重を覚えこませたほうが…いや、それではマッドの持ち味が…なやむのぉ。

 

「EVA班、全員を収容しました。艦長?」

「あー、いつもみたくなんか考え込んでるし、ユーリは放って置いて、とにかく目的の星にむかうよ。副長権限でね」

「了解、トスカ副長」

 

 …あれ?俺っていらなくね?

 

 

「お、戻ってきたね――ところでユーリ。あの爺さんとわかれて既に一週間が経過したわけだが」

「今だ連絡なしッスね。どんだけ待てばいいんだか」

「ま、お陰で総資産は増えてるけどね」

 

 紛争地帯になるって訳で集まってくる連中は総じて装備が良い。しかもウチのクルーには、敵さんのフネのエンジンだけ壊して無力化出来るいろんな意味で人間じゃないヤツがいる。普通は出来る芸当じゃないけど、出来ちゃうんだからしょうがないのだ。お陰でほぼ丸々一式の装備を売れるのだ。

 

 どれだけのもうけになるかというと最高で原作の100倍くらい。なお原作での通常戦闘勝利時に手にはいる金は3桁を超えることはあまりない。輸送船を沈めれば別だけど…あれはレアモンスターみたいなもんだから、狙って稼ぐのが難しかった覚えがある。

  とにかく、ジャンク品では無くて買い取りという形になるからもらえる金額が高いのだ。ソレもマッド共に食いつくされそうになる時があるけど、ある意味些細な事だ。

 

 

「うしし、銭ズラ、世の中銭ズラ」

「気持ち悪い顔してないでとっとと仕事しな!」

「ぶ~!だって俺すること無いッス!」

「だったら仕事をあげようか?装甲板の整備手伝いでもしてきな!生身で!」

「いや、それ死ぬッス」

 

 幾ら俺でも生身で宇宙に出たら「URYYYYYYYYっ!」ってなっちまうよ。

 具体的に言うとかなり気持ち悪から抽象的にボカしておく。

 

 

「ならVFの訓練で回収したジャンクのパッケージ作業を手伝ってみたらどうですか?艦内でやる事ですから危険はないでしょうし」

「―――その手があったか!」

 

 ミドリさんの提案にぽんっと手を鳴らすが、トスカ姐さんがまったをかけた。

 

「やめときな、あと1360時間以上のシミュレーター訓練を積まないと周りが危険だよ」

「別の意味で危険でした」

「ちくせう……、じっ様、本当にさっさと連絡くれッス…」

「艦長、ルーさんから連絡がありました。至急迎えに来てほしそうです」

「よし!聞いたな?善は急げ、時は金なり!すぐに迎えに行くッスよ!」

 

 

***

 

――――ドゥンガ・酒場――――

 

「おお、ココじゃココじゃ」

「ココじゃじゃねぇよ爺さん。のんきに酒なんか飲みやがってよ。アルデスタとルッキオの両国ともドンドン戦力が増してるってのに」

 

 酒場に入ると、ルーのじっ様がカウンターの片隅で暢気に酒を飲んで待っていた。 あまりにもノホホンとしたその態度にトーロが文句を言う。たしかにまるで駄目な爺さん、略してマダジが孫を無理やり酒場に連れ込んだようにしか見えない。到底、水面下であれやこれやと暗躍してきた様には見えんわな。

 

「うむ、ソレでいいんじゃよ。器に過ぎた料理を乗せれば、その器は砕け散る物」

「はぁ?」

 

 トーロはあっけにとられている。まぁ脳筋に理解しろって言っても酷か。

 

「つまりだトーロ、もうすぐルッキオは自壊するって事ッス」

「ど、どういう事だよ?なんでルッキオが?」

「ワシとウォルは今まであらゆる手を用いた」

 

―――とりあえず長かったので要約させてもらうぜ。

 

 簡単に言えばじっ様たちはあらゆるコネを使い、ルッキオ側が兵を募っていると、この宙域各所にばらしたらしいのだ。事実軍では義勇兵として募集を賭けていたし、本当の事なので、各所から報奨金目当ての海賊やらゴロツキが集まって行く。一見すると一方的に片方の戦力が増した様に見えた事だろう。

 

 だが実際はというと、軍は集まってしまったゴロツキ達への対応に頭を抱えていたらしい。集めたのは良いが今度は集まり過ぎてしまい、監督が行き届かない所為で起こる問題によって暴動や略奪が軍内部で起こってしまうくらいなんだそうな。

 

 非正規軍である寄せ集めのゴロツキ共には軍機なんて関係無い。だから好き勝手やっていたらその被害を軽視できなくなった軍から自粛するように怒られて、その腹いせに迷惑行為を行い、それを叱りつけという無限ループ。

 

 これではルッキオ側は戦っている余裕はない。紛争をする前に自陣営の問題を先に解決しなければ、良くて軍の崩壊。最悪自治領の機能が停止する事すら起こりえる。だから紛争続けるのも難しくなってきているんだそうだ。

 

「奴らは自国内で増えてしまったゴロツキたちの問題に苦労しているからのぉ。そいつらを制圧するという名分があれば―――」

「中央政府軍も動かすことが出来るってワケッスね?」

 

 手の平を返すようなしぐさをしてみせると、ルーのじっ様はにこりと笑ってみせ。

 

「そのとおりじゃ艦長」

 

 そうおっしゃられました。いやはや、考えてみると紛争する前に内戦を引き起こして、ボロボロに潰しあいをさせた所を横からかっさらう訳か。しかも暴動が起きることが前提の策だから無関係な市民にも被害が出なくはない。戦略とはいえエゲツねぇなオイ。

 

「そしてこれはワシの考えた策では無く、実はウォルが考えたものなのじゃ」

「ウォル少年が?…ってアレ?ウォルくんは何処に?」

「…(もじもじ)」

 

 見れば柱の陰に隠れてこちらの様子を伺っているいるウォル少年。

 恥ずかしいのか?そのモジモジとした仕草にすこしキュンってしたお。

 

「此奴はこの年でワシの教えを見事に自分の物としておる。やがては銀河を指呼の間に納めるような軍師になる事じゃろうて」

「へぇ、こんな小坊がねぇ」

「成程、将来は敵に『まてあわてるな!コレはウォルの罠だ!』とか言わせるワケッスね?わかります」

「……(もじもじ)」

 

 これまた恥ずかしいのか、指の先をこすり合わせてもじもじしている。今のこの姿を見ちまうと、正直ルーのじっ様の評価が過大評価に思えてくるのだが…。今現在の生ける伝説の人がそう評したくらいなんだし潜在能力は実際すごいのだろう。ということで未来に期待しよう。

でも今のウォルくんの状態だと、ただの童顔軍師にしか見えないだろうなぁ。

 

「さて―――そろそろ行こうかね」

「ん?何処にッスか?」

「ルッキオのゴロツキ退治じゃ、民間人のお前さん等が襲われて反撃したという既成事実が必要じゃからの。その連絡を受けて中央政府軍が動き出すと言う訳じゃ」

 

 なるほど、これまで火事場泥棒な海賊しか相手にしてこなかったが、ようやくその制限を外せるという訳か…狩りじゃー、狩りじゃー。

 

「良いか?ルッキオ軍の中のゴロツキ共のフネだけを狙うのじゃ。決して正規軍のフネを沈めてはならん。よいな?」

 

 でも正規軍をぶっ潰してはいけないらしい。縛りプレイは続行のようだ。でもまぁ…。

 

「あいあい、ルーさん。任してくれッス」

「こんな事もあろうかと、正規軍の連中とかち合ったときには逃げていたからねぇ」

「ほっほ、それは良きかな」

 

 こうして、ルーのじっ様たちと合流した俺達はゴロツキ退治へと出発した。標的は海賊と傭兵などの烏合の衆だけで、他には手を出してはいけないという縛りつき。間違って正規軍に手を出すと、あとから厄介なことになるようなので駄目らしい。

 でも、やるなといわれるとやりたくなるのが男の子だけど、空気は読もう。うん。

 

 

***

 

―――ベクサ星系~ルッキオ間・中間航路―――

 

「艦長ー、レーダーに感ありー、ルッキオ軍を発見しました~」

「艦種識別、一番艦は正規軍のテフィアン級駆逐艦です」

【あとはスカーバレルのジャンゴ級2隻、混成艦隊みたいです】

 

 レーダー担当のエコーさんが敵艦発見を報告し、オペレーターのミドリさんがその情報を解析し、AIのユピが補足を加える。この三段階により情報はより確かな物へと昇華するのだ。

 

 お蔭でさっそく此方へと迫る艦隊を見つけ出した。可哀そうだが紛争解決の為の生贄だ。さっさと落ちてくれや?怨むなら伝説の爺さんを怨んでくれ。

 

「対艦戦闘用意!全儀装を立ち上げろッス!」

「アイアイ、第一級戦闘配備、コンディションレッド発令します」

「各砲塔稼動、レーダーとリンク、重力レンズ形成を確認、シェキナ発射準備完了。ところで照準はどれに?」

「正規軍の一番艦以外を粉砕してやれッス」

 

 砲塔が待機状態から稼動状態に移行する。同時に機関出力が上がったことで対光学兵器防御兵装のAPFシールドの出力も上昇し、一瞬旗艦ユピテルの周囲が歪んだように揺らいだ。攻撃準備完了、この瞬間が一番ドキドキする。

 

 こちらの動きに気が付いたのか、ルッキオ混成艦隊の機関出力が上昇し、あちらさんも攻撃準備万端といったところ。正面からの撃ち合いは数では向こう、性能ではこちらが上。すでにお互いのロックオンは完了し、あとは命令あるのみ。

 

 一触即発、いつ戦いの火蓋が切られてもおかしくはない。 

 

 のだが――

 

「ねぇトスカさん、気の所為じゃなかったら何スけど」

「奇遇だね。私もちょっと驚いているよ」

【敵2番艦、3番艦、反転。戦線を離脱し、一番艦のみ突っ込んできます】

 

 こちらの姿を確認した瞬間、突如艦隊運動が乱れたかと思うと、敵艦隊の2番および3番艦が急減速をしたかと思うと思いっきりUターンして見せた。あまりの動きに敵旗艦であるはずの1番艦も対応できず、むしろ僚艦のその行動に驚いたのか動きが止まってしまっていた。

 

 どうも俺たちの姿をセンサーで捕らえた瞬間に離脱を図ったようだが。

 

「そういえば前にルッキオに参加しようとしてた海賊が俺たちのこと知ってたッス」

「―――そうか!スカーバレル海賊団なら私らの特徴を知っていても不思議じゃない」

 

 小マゼランにはいない巨大艦が二隻もいるのだ。初代旗艦の駆逐艦クルクスも加えればある種特徴的な艦隊構成だといえる。

 

「俺たちが海賊相手にしてきた仕打ちも理解してるんだろなー。そうじゃないかな?百発百中のストールさんよ」

「ネーミングセンスないなリーフ。お前こそ神業的な躁艦で敵艦の攻撃をかすらせもしなかったじゃないか」

 

 敵艦からしてみればたまったもんじゃないよなァそれ。

 

「でも、フネごと持ってっちゃうのは…やりすぎ?」

「いいえミューズ。ただでさえウチの台所は後先考えない研究者たちの所為で火の車に近いんです。ソレくらいしないとご飯が食べられません」

 

 んで海賊限定でパンツのゴムまでかっさらった、と。

 そりゃ…海賊だったなら逃げ出すような仕打ちだぜ。

 

「うぐっ、な、なんだか耳が痛い話だな」

「おぬしも片棒をよく担いでおるからのぉ。しかたないじゃろうサナダくん」

 

 どうやら俺たちは海賊相手に暴れ過ぎたようだ。連中が尻尾巻いて逃げて行くのがレーダーマップのモニターにて確認出来る。デカイし特徴的なフネだから噂も広まるのも早いわな。

 

 そうこうしているうちに我に返ったのか、正規軍がこちらに牽制砲撃をしながら離脱艦を追いかけ始めている。攻撃は、確かにこちらに届いている。そのうちの一発が、APFシールドに阻まれてプラズマの光を発した。

 

―――そう、これでいい。これで。

 

「敵艦からの攻撃が命中。APFSにより本艦に被害なし」

「それで、どうするよ艦長?海賊船はまだシェキナの射程範囲内だけど?」

 

 戦術モニターを見上げながらストールは呟くように言う。空間投影されているモニターには射程圏から逃れようと加速中のグリッドが表示されている。こうも情けなく配送されると見逃したい心境に駆られるものだが、俺は甘ちゃんであるが目的は見失わないぜ。

 

「目標に変更無し、各砲発射」

「アイサー」

 

 躊躇なくホーミングレーザー砲『シェキナ』が稼動する。両舷の開かれた装甲ハッチからせり上がっている80門のレーザー発振機に仄かに光った次の瞬間には、各砲座一番砲から順次レーザーが虚空へと放たれた。

  レーザーが向かう先には光すら捻じ曲げる空間の強力な歪みがある、その重力井戸により形成された重力レンズに飛び込んだ凝集光の群れは、弧を描くように緩やかに進路を変えるとその矛先を敵艦隊に向けた。 

 捻じ曲げられたレーザーは、まるで意思をもっているかのように敵一番艦を過ぎ去り、離脱を図っていた敵ゴロツキ艦へと直進する。弧を描きながら左右から迫り来る光の束を見た敵離脱艦は浮き足立っているが、もう遅い。

 

「エネルギーブレット、2番艦および3番艦へと直進。命中します」

【2番艦、命中しました。インフラトン反応拡散中、撃沈です。3番艦はブリッジと機関部に命中。轟沈です】

「よし、当て逃げみたいだけど次の標的を探すッス!」

 

 シェキナの光に貫かれた海賊船は、そのまま宇宙デブリの仲間入りを果たした。この光景を見ていたルッキオ正規軍はあっけに取られていたが、俺たちはソレを無視して逃亡した。

 

 この戦闘の記録は宙域に監視網を引いている中央政府軍に送られる。恒星間通信だから、後数時間もすれば中央政府から軍が派遣される事だろう。こちらの識別は0Gドックのまま、つまりは民間人だからな。どんな形であれ紛争に巻き込まれた民間人が敵さんから攻撃を受けたという形になる訳だ。

 

「またまた敵さんはっけ~ん!」

「流石に紛争をしているだけの事はある。遭遇率が高いな」

「今度は全艦向かって来るようです。艦長」

「指示は変わらず、攻撃が始まり次第、敵に与するゴロツキ共のフネを狙えッス!遠慮はいらないッス!」

 

 こうして紛争地域に入ってから数時間後、俺たちが攻撃を受けたのを遠距離監視網で覗き見していたであろう中央政府軍がようやく重い腰を上げ、かなりの大艦隊を率いてルッキオとアルデスタとの紛争へ介入をし始めた。

  

 大義名分は紛争地域にてどさくさにまぎれて民間人に手を出す不穏分子達の殲滅。外交的な見地から両国はこの大艦隊を中央政府からの圧力と認識し、そしてこの時を上手く狙って現れた中央政府から派遣された特使が提示した調停を両国が受諾。

  

 ベクサ星系における紛争はめぼしい被害――海賊たちの略奪は除く――を出すことなく、紛争を終結させる事が出来たのであった。

  

  

 

―――ちなみに両国で紛争の終結と和平調停が結ばれている頃、俺達はと言うと…。

 

 

 

『おーし!レアメタル30トン!採掘完了だ!』

『リチウム、ベリリウム、タングステン、チタン、マンガン、バナジウム、ストロンチウム、セレン、ニッケル、コバルト、パラジウム、モリブデン、インジウム、テルル、ハシニウム、ガミラシュウムの16種類を確保。現在パッケージ作業中』

『こっちはレアアースだな、プロメチウムとルテチウムが殆どだ!コイツは高く売れるぜ!』

『量としては、10トン程度、こちらもパッケージ作業中』

『パトロール隊が巡回するまで後20時間、それまでに後10トン程貰っちゃいましょう!』

『『『おー!』』』

 

 どさくさにまぎれて、重機だけが放棄され人がいないままの採掘場を勝手に使って、レアメタルとレアアースを大量確保していた。売り払って金にしても良いし、そのまま修繕素材にしても良し。猫ババは最高だね!良い子は真似すんなよ?

 

「…ふぅ、後少しで作業完了か」

「おつかれさん、しかしなんとかなったみたいで良かったね」

「うむ、良くやったの艦長」

 

 作業工程をコンソールモニターで確認していると、トスカ姐さんとルーのじっ様が俺に話しかけてきた。トスカ姐さんは嬉しそうに、そしてルーのじっ様は少しだけ冷や汗をかきながら―――

 

「しかし抜け目がないと言うか何と言うか」

「へへ、照れるッス」

「「いや褒めてないから」」

 

 俺の所業に恐れを為していた。いやね?どうせこの星系まで出張って来たんだから、少しくらい貰ったって問題無いだろう?どうせいずれは採掘されちまう鉱石達だ。遅いか早いかの違いでしかねぇんだもん。それなら俺たちが有効利用しても問題なかろう?うん、完璧な理論武装だわい。わはは。

 

「それはともかくとして、ユーリ艦長はよくやってくれた。これで無闇やたらに戦火が拡大する事もなかろう。そうじゃな、艦隊戦におけるちょっとした技を進呈しようかの。なに、ワシからのちょっとしたテクニックのプレゼントじゃわい」

「技ッスか?」

「うむ、一時的にフネのリミッターを全て外す裏ワザ、その名も『最後の咆哮』じゃ」

 

 最後の咆哮って、確かゲームにおいて全力攻撃する特殊技能だったっけ?ある意味必殺技だったような。

 

「でも、何かすこぶる縁起が悪い名称ッスね?」

「いうな、事実これは奥の手じゃからの。コレを使うとコンデンサーのエネルギーを全開放してしばらくの間は使用可能なエネルギーが低下するからのう。文字通り最後にしか使えんじゃろう。その分効果はお墨付きという訳じゃ」

「あはは、ありがたく貰っておくッス。何かの役には立つかも知れないッスから」

「うむ、それじゃユピくん、このデータをインストールしておいてくれ」

【了解しましたルーさん】

 

 ルーのじっ様が懐から取り出したデータディスクをコンソールに挿入すると、ユピがそれを使えるようにインストールを始めた。しかしホント使えるのか使えないのか解らん技だな。それはともかくとして、これからどうするべ?

 

「次はどうするッスかねぇ」

「うーん?次は海賊の本拠地でも叩くんだろ?」

「ファズ・マティの位置判明してるなら、巨大な小惑星ぶつけるのダメッスかね?」

 

 こう、行け!アク○ズ!忌まわしき記憶と共にっ!――みたいな感じで?

 壮大な失敗フラグが立ちそうな予感。白い悪魔こわいです。

 

「う~ん、そうしたいのは山々だけど、この宙域じゃそいつは無理だろう」

 

 トスカ姐さんはそう言うと、コンソールを操って宙図を見せてくれる。宙図上には中佐からもらったデータを重ねた海賊の本拠地である人工惑星ファズ・マティの予想位置を示す宙域が表示されているのだが、そこへ続く航路に赤い線で表示された部分がある。

 

 航路をまたがる形で描かれた赤い線、その詳細はメテオストームと表示された。そう言えばちょうどファズ・マティはメテオストリームの向う側だったな。このメテオストリームって言うのは、この周辺の重力場によって引き起こされている小惑星帯の大規模な河の事で、何の準備も無しに突っ込むのは非常に危険な場所でもある。

 

  そう言った意味ではファズ・マティは天然のバリアーに守られた要塞と呼べなくは無い。遠距離からの攻撃は全てメテオストリームによって壊されてしまうからである。分厚い岩の河に何を投げ込んでも粉砕されるのが落ちという事だ。

 

  俺が今言った小惑星を用いた遠距離攻撃も同じ。いかに大きな小惑星を撃ち込もうが、メテオストリームにさえぎられてしまうから持っていく事なんて出来ない。幾らなんでも重力偏差で小惑星が渦巻くあの嵐の中を通る小惑星の軌道計算なんて出来るわけがねぇ。

 

「なら、直接乗り込むしかないんスかね?」

「そうだね。とりあえず縄張り直前にあるゴッゾに向かってみたらどうだい?」

 

 トスカ姐さんはそう言うと、宙域図に示されたメテオストリームのギリギリにある小さな星を指さした。ふむ、人は住んでいるみたいだから情報くらいあるだろうな。

 

「よし、決定。次の目的地はゴッゾ」

「了解だユーリ、みんなに伝えておくよ」

 

 こうして、ベクサで猫ババを完遂した俺達は、その足でゴッゾに向かったのであった。

 

***

 

――――惑星ゴッゾ軌道上・通商管理局、軌道エレベーターステーション―――

 

 

「ですから、コレ以上は高く買い取りは出来ませんってば!」

「そこをもう一声!大丈夫、いけるっス!ローカルエージェントさん!あんたのいいとこみていみたい!サービスッ!サービスッ!」

「私にそんな機能ありません。レートでしか売れないのです」

「頑張れ頑張れ!諦めんなよ!そこを頑張れば何とかなる!いけるいける!」

「いけません!」

 

 く!頭が固いな!ならば!

 

「…(ボソ)天然オイル」

「む」

「…最高級の研磨剤」

「むむ!」

「(よし、もう一声)…最新のドロイド用クレイドル、新品」

「……ゴク、20%でどうです?」

「40%」

「28、コレ以上は」

「35、コレ以上は下げねぇッス」

「なら30%でお願いします!」

「OKだ。例の品物はアンタあてのコンテナに包んで置くぜ」

「感謝します。ソレではあちらのコンテナを全て買い取りますので、ソレでは失礼」

 

 

 

―――ローカルエージェントは、良い笑顔で戻って行った。

 

 

 

 フィー、熱い舌戦だったぜ!ベクサで掘った希少鉱石の売却値段を空間通商管理局のアンドロイドに売りつけるのって大変だわさ。

 でもローカルエージェントはインターフェイスが充実してるから、こういった時便利だわ。何せ賄賂が効くロボットとか普通は有り得ねぇもんな。自分の利益に忠実なロボットって最高よ。

 

「…このフネの生活班を受け持つ様になって随分経ったけど、まさかローカルエージェント相手にと交渉する人間を見るなんて思わなかった」

「おろ?アコーさん、どうしたッスか?なんか疲れた顔してるッスよ?」

 

 お金!お金!と目に銭マークを浮かべて浮かれていたら、背後からどこか傍観したようなつぶやきが聞こえてきた。振り返れば我がフネの生活系統を一手に引き受ける生活班の長が立っていた。何故か額に手を当てて、疲れた顔をしてこちらを見ている。頭痛かしらん?

 

「いや、自分とこの艦長がすさまじく常識から逸脱してたのを確認しただけさね」

「へぇあ?」

「でもま、艦長のお陰で商談が捗ったから良いとするか」

 

 なにか良くわからんが、これは褒められたのか?まぁいい。

 

「そう言えば皆は何処に行ったッス?」

 

 俺が一人で商談しているのは、何時の間にか皆見当たらなくなったからなんだけど。

 

「とっくに酒場の方に行ってるよ。副長曰く海賊退治の前の酒宴だとさ」

「トスカさん、あの人はま~た勝手に…」

「経費で落させるとか言ってたよ?」

「まぁ良いッス。今回は無茶してもらってたから、これくらいはね」

「ふふ、上に立つのも大変だね」

「まったくッス。やめないけどね!」

 

 幸いな事にたったいま希少金属が高く売れるようになったからな。今の所懐には若干の余裕がある。全クルーが5回くらい宴会しても余るくらいだ。あれ?それだけだと数日で消える気がするのは気のせい?もっと稼がねば。

 

「それじゃ、自分は皆のとこにでも行くッスかね。アコーさんもある程度までやったら切り上げてくるッスよ?」

「了解、心配しなくてもタダ酒を逃す手はないさ」

「なら安心。それでは」

 

 

……………………………………

 

………………………………

 

…………………………

 

 軌道ステーション基部にある酒場に来ると、既に中では酒宴が始まっており、いたるところでクルー達の楽しげな声が響き渡っていた。どんちゃん騒ぎなのだから、何かが壊れる音とか響きそうだが、ウチのクルー達はやることなす事無茶が多いが、何故か酒癖はそれほど悪いヤツは少ないようだ。

 

「あら、いらっしゃい。こんな辺境にようこそ。私はミィヤ・サキ、これからひいきにしてね?」

 

 俺が中に入ると、恐らく看板娘さんだろう。あずき色の髪の少女が話しかけてきた。それなりにかわいらしい容姿をしており、どこか健気な印象を受ける。しかし、問題はそこではない。一番印象的なのは、その頭部から伸びる―――

 

「ドリル」

「え?どうかしたの?」

「うんにゃ、何でもないッス。ところで俺はアソコで騒いでる連中の連れッスから案内は別に良いッスよ」

「ん、わかったわ」

 

 店の奥に帰って行く少女を見送る。しかし見事な巻き髪具合だ。

  あれこそまさにドリルの名がふさわしいだろう。

 

「さてと、トスカさんたちは?」

「さぁさぁ、この量の酒をトーロが一気できるか勝負だ!」

「トーロお願い!もうやめて!」

「ティータ、すまねぇ、姐さんには逆らえねぇんだ」

「お願いトスカ副長!トーロのHPはもう0よ!」

「さぁさぁ賭けた賭けた!」

 

 俺の視線の先には、湯沸しポットサイズの樽を手に持ったトーロが、一気飲みコールされている真っ最中であった。これは酷い。しばらく離れている方が賢明だな。巻き込まれたくは無かったのでトーロを見なかった事にし、カウンターの方に移動した。

 

「…ンぐンぐんぐ―――ぶはー!」

「「「くそぉ!呑み切りやがった!」」」

「おおえぇぇぇ!!」

「「「吐いた!?こうなるとどうなる!?」」」

「ドローだから親の総取りさね」

「「「ちきしょうー!」」」

 

―――こいつは酷ェ、ゲロの臭いがプンプンするぜ。他人のフリしてよ。

 

 まったくトスカ姐さんも困った人だ。ウチのクルー達に酒癖が悪い人間はそうはいないが、唯一の例外が彼女なのである。かなりの美女で経験に裏打ちされた技術を持つ0Gドッグの中では破格なほど優秀であり、おっぱいが大きい。

 

 それでいて人情が分かるからか人望が厚く、俺よりもずっとある意味で指揮官向きな人なんだけど、酒が入るとソレを某幻想殺しの如くに破壊してくれるのだ。あと、おっぱいがおおきい。大事なことだ。

 

 そして今まさにトーロをダシにして、トトカルチョの真っ最中、頬が薄く紅い所を見れば少しばかり酔っているのがよく解る。これさえなければ本当に完璧姉御何だけどなぁ…実におしい。

 

 トスカ姐さんの無茶に付き合わされて、ぶっ倒れたトーロをティータが介抱しているのを横目に、新たなエモノを探しているようなので、俺はそっと顔をそむけた。今あの方と眼が合うと俺が標的にされてしまう。

  

「ねぇ、あなた達、海賊退治に行くの?」

 

 一人被害に遭わない様に地味にカウンターで酒を飲んでいると、先ほど話したミィヤちゃんが俺に声をかけてきた。

 

「ん?まぁそうだが?」

「凄いじゃない!この辺の男は、みんなアルゴンを怖がって近づかないのに…」

 

 おや、このゴッゾはスカーバレル海賊団を率いるアルゴンの支配区域だったか。

 ミィヤの話によると、ここいらの男共は最初こそ海賊相手に抵抗の意思を見せたが、すぐに反抗しなくなったらしい。ソレ以来町には活気が無く、どこか沈んだムードが蔓延しているんだとか。

 

 だがソレはある意味正しい行為だろう。危険に手を出さないのは賢いやり方だ。俺達みたく、戦いながら宇宙を駆け巡る馬鹿野郎達はともかく、この星の人間はいうなれば一般人なのだ。

 

 宇宙に出られる人間も、宇宙のならず者相手に戦えるような力をもった人間などでは無く、空間技師や空間鉱員、もしくはコロニー建設関係者などが殆どだと思う。確かに反逆や抵抗を見せることは時として必要である。だが時と頃合を考えた場合、ソレは必ずしもプラスに働く訳ではない。

 

 下手したら海賊たちに事故に見せかけられて殺されるとか家族を人質に取られる可能性だってある。ゆえにこの星の人間達のとった行動は正しいのだ。自分に力の無いモノが抵抗しようとするだけ無駄な事である。

 

 力の無い正義に意味は無いとは良く行ったもんだろう。まぁ既に政府軍の方には被害通達がいっていた事だし、戦う気が無いわけではないのが救いだ。

 

「スゴかねぇッス。俺達はあくまで自分たちの利益の為に動くッス。セイギノミカタじゃないッスからね」

「それでも、勇気があるとおもうわ」

「それほどでもない」

 

 うぐ、思わず謙遜で返してしまったが、返ってそんな戦隊ヒーローを見るこどもの様な純粋な目で見られると、何だが自分のしてきた悪事の呵責が…。

 

―――ね、猫ババくらいはいいじゃないかぁ!人間だもの!byユーリ

 

「すごいなぁ、憧れちゃうなぁ…」

「ふふ、9杯でいい――じゃなくて、そう言われると嬉しいッス」

「それじゃあ、この後で…どう?」

「フフーフ、そうしたいけれど、向こうの席からすさまじい殺気を感じるから止めておくッスよ。看板娘を奪ったらもうこの星に降りれないだろうしね」

「あら、お上手」

 

 いや、現に冷や汗が流れるくらいの殺気を感じるんスよ?主に私しめの妹様の方から。嫉妬か?嫉妬なのか?かわいいんだけど愛が重い…。

 

「ソレは良いけど、あなた達のフネは大丈夫?この先メテオストームが発生してるけど」

「ふむ、ソレは宇宙海流とでも呼べばいいモノのことだな」

「うわっビックリした!いきなり湧くなイネス!」

「湧くとは失礼な。仕方ないだろう?僕もトスカさんから逃げてきたんだから」

「なら仕方ないッスね」

 

 突然降って湧いたように現れたイネスの声に、俺は飲んでいた飲み物を噴出しかけた。だが遠い目をするイネスに俺は同情の視線を送る。堅物で無愛想な男だが、よくも悪くもウチの空気に触れて変わってしまったらしい。イネスはそんな欝な空気を振り払うかの様に、すこし声色高めで早口でしゃべり始めた。

 

「さて、話を戻すがこの先にある小惑星帯は二つの惑星に挟まれた事による強力な引力によって潮の満ち引きの如く流動している。その中を通るって事は何も対処していないと甚大な被害をこうむるってわけさ」

 

 ココまで一息に説明するイネス、コイツの肺活量は一体どうなってやがるんだ?

 

「尚、何で潮の満ち引きの如く流動が起きるのかはよくわかっていないらしく、一説では――――」

 

 このあとイネスは自分の世界に入り、クドクドねちねちと解説をしてくれた。正直すでに予備知識と言う事で知っているけど、空気を呼んで俺は何も言わない。気持ちよく説明したがっているんだからさせておけばいいじゃないか。酒の席だしな。

 

「――――まぁそう言う訳で、メテオストリームを通過する際はデフレクターユニットが必要と言う訳なのさ。デフレクターなら、質量物の衝突から船体を守ることが出来る」

「うす、解説ご苦労さんッス。勉強になったッス」

「ホント、アナタ博識ねぇ」

 

 あ、イネスの奴ミィヤに言われたら少し照れてやがる。顔は必死にポーカーフェイスを装って隠してるけど、耳の紅さまではごまかせませんぜ?

 

「おお!美少年諸君!こんな所に居たぁぁぁ!」

「げぇ!酔ったトスカさんだ!逃げろ!」

「ちょっとまってくれ!うわっ!」

「ぬふふ、おひとりさま確~保!さぁて、なにしてやろうかなぁ?」

 

 古来より酔った人間ほど始末が悪い物は無い。俺は鍛えているお陰で逃げられたが、イネスがトスカ姐さんに捕まってしまった。しかし助けることは出来ない。もし助けようとすれば、ミイラ取りがミイラになってしまう。

 

「か、艦長助け―――」

「イネス、捕まってしまった自分を恨みたまえ」

「う、うらぎったなぁぁ!艦長ぉぉぉぉっ!!」

「どうとでも取りたまえ、俺は我が身の貞操の方が大事ッス」

 

 そう言うと、イネスの顔は絶望の表情に包まれた。

 

「さぁて、イネスは素材が良いから、アレしかないねぇ。ちょいと奥を借りるよ?」

 

 店主がまだなにも行っていないのに、有無を言わさず店の奥にイネスを引きづり込むトスカ姐さん、そして奥の方から何か叫び声が聞こえ始めた。

 

 

「ちょ!何服を脱がそうと!止めイヤ!」

「ほれほれ、抵抗しないでおいちゃんにまかせておきな。ゲへへ」

「止めろぉぉぉぉぉ!!!止めてくれぇぇぇぇ!!」

「えーがな、えーがな」

「よくないぃぃぃぃ!!!」

「ウイ~、おお副長~!おもしろそうなことしてんなぁ~!」

「おいケセイヤ!こいつの服をひん剥くの手伝え!」

「やめてくれぇぇぇ!!整備班長ォォォォっ!」

「ふはは、なるほどそういうことか!ならばこのケセイヤの開発したリジェネレーション医療ポッドを改良した性転換メカに放り込んでみてくれ!」

「あいよっ!」

「な、なにをするっ!うわああぁぁぁぁぁ……―――」

 

 こうしてイネスと言う生贄君のお陰で、クルー達は安堵して酒を飲んでいた。すまんなイネス、お前さんの身体能力の低さが悪いのだよ?酔ってフラフラなトスカ姐さんに捕まるなんてお前くらいのもんだしな。

 

 

 

 

 さて、こうしてトスカ姐さんが奥に引っ込んだ為、しばらく平和な一時だったのだが―――

 

 

 

 

「ねぇチェルシー、アソコにいる“モノ”はなんだろうね?」

「そうねユーリ、私には“メイド”さんに見えるわ」

「時たま凄いよね。トスカさん」

「ええ、本当に、「女の子にしか見えない」

 

―――しばらくして、イネス♂はイネス♀となって戻ってきた。しかもメイド姿で・・。

 

「流石俺の発明品っ!男が女に女が男に!うひひひひ!」

「「「メ、メイドさんきたぁぁぁぁぁ!!これでこれで勝つる!」」」

「ケセイヤ班長!これカメラッス!」

「ぬおお!よくやった班員A!俺様が激写してくれるわぁぁぁ!」

「「「後で焼き増しお願いします!」」」

 

 そして毎度おなじみ、酔った整備班の男共の暴走。さらには――――

 

「「「かわいいー!!」」」

「イネス君わー、身体が細くて肌の色が白いからー、とっても可愛いわぁー」

「エコー、鼻から愛が漏れてる。いい加減拭け」

「だってー凄く可愛いんですものー」

「エコーの言う事もわかります。アレはもはや兵器です」

「ミドリ、お前もか」

 

―――――とまぁ、女性陣も黄色い叫びを上げ―――――

 

「「「アレは男アレは男アレは男アレは男―――――」」」」

「「「ちがうちがうちがうちがう―――」」」

「俺は真実の愛に目覚め…≪ガンッ!≫はうっ!」

「あぶねぇ、危なく約一名がバラに目覚めるとこだった」

「あ、でも性転換マシンとかメカとかなんとか言ってなかったか?」

「「「「――?!(ガタッ)」」」」

「いや座れよ、おまいら」

 

――――――更に男性陣の一部には危険な兆候が見られるほどだった。

 

「イネス、おまえ」

「は、はは。いいから笑えよ艦長。なんかもうどうでも良い」

「いや、お前さんは良くやったさ」

「イネ子~!そんなとこに居ないでお酌しなぁ!」

「わわ!ちょっと~!こ、こんな事して…こんなの僕の役目じゃ…」

 

 トスカ姐さんに無理やり引っ張られてイスに座らされたイネスが、涙目でそう言った。ちなみにトスカ姐さんの方が背が高い訳で、必然的に上目使いとなる訳だが―――

 

「「「ぶはっ!」」」

 

 まぁ当然こうなる訳で、今のイネスを見た連中(男女半々)が鼻血を吹きだした。かくいう俺も危なかったが、鋼鉄の精神と後ろに居らっしゃる妹夜叉様の気配のお陰でたえることが出来た。というか妹様がこえぇぇぇ。

 

 こうして、とても騒がしい宴会は明け方まで続き、色々と騒ぎを起してマスターに謝ったりした後、俺は突撃してきたトスカ姐さんに酒びんを口に放り込まれ一気飲み、その所為で途中で眠ってしまったのであった。

 

 

***

 

 

「―――きて―――おきて」

「う~ん、あたまいたいー」

「きて―――さい!起きてください!皆さん!」

「――――やかましい!」

「ぐあ!な、何を?」

「いいか店主さん、俺は今モーレツに二日酔いだ。頭いてぇんだわかるだろ?」

 

 二日酔いで痛む頭をさすりながら、のそのそと起き上がる俺達。どうやら全員で明け方ちかくまで騒いでそのまま轟沈してしまったようだ。

 

「どうしたってんだい、そんなにあわてて?」

 

 他の連中も多かれ少なかれ昨日の酒の影響を受けているのに、トスカ姐さんは平然としていた。このヒトはバケモンかよ。きっと機械の星で機械の肝臓をもらったに違いない。きっとそうだ。

 

「そ、それが先ほど海賊らしき男たちがやって来てミィヤさんとイネスさんをさらって行ってしまったんです」

「「「「「「な、なんだって(ですってー!)!」」」」」」

「うわ、声が頭に響くッス…」

 

 店主の話を聞いていた周りのクルーの大半が跳ね起きて叫んでいた。

 

「こうしちゃいられんぞ艦長!俺達の女神さまがさらわれた!」

「すぐに助けに向かうぞ!さぁ起きろ速くしろ艦長!」

「お前ら先行ってエンジンかけてろ」

「「「イェッサー!」」」

 

 すさまじく迅速な行動で、酒場から出て行くクルー連中。

 

「いや女神って、アレは元々男―――」

「男でも可愛ければ正義!」

「「「その通り!」」」

「解った。さっさと救出に向かうッス」

 

 これはすぐにでも救出して、ケセイヤのメカに放り込んであげないといけないな。危なすぎる。いろんな意味で。とりあえずサド先生に、アルコール分解剤をもらい二日酔いをなんとかして俺たちは酒場を後にした。ちなみにキチンと宴会の後を片づけてから出て行ったことを述べて置く。俺達はそこら辺はきっちりしているのだ。

 

  必要以上に熱気が入っている部下を引き連れて、俺はさらわれたイネス達を追いかける為にユピテルとアバリスを今まで発進準備時間の短縮記録を大きく塗り替えて発進、ゴッゾのステーションを後にした。

 

 肝心の行き先だがノープロブレム。皆があわただしく出航準備しているなか、手順確認以外暇な俺がステーションから海賊に襲撃された宙域のデータをダウンロードしていおいたのだ。

  海賊はスカーバレルだと判明しているから、どの航路にも続いていない上に海賊の出没情報が多い上に進んでも行き止まりとなっている宙域に絞り込めばいい。絞り込んだ結果、星の大流メテオストームを横断しているような航路だったが、俺たちのフネは足が速いからメテオストームに突入する前に追い付ける筈!

 

 待ってろよイネスにミィヤの嬢ちゃん!

 

 

 




寒くて手がいう事を効かない。
鼻水も止まらん。春よ、早く来い。
そう願って止まない作者です。マジ寒い。

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