とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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距離操作シリーズも1周年!

ハーメルン様、御清覧して頂いている方、ありがとうございます!


 


とある少年と出会った一人の少女のお話-ⅰ

 

 

 

 

不味い状態だ、と肩を撃ち抜かれた絹旗最愛は唇を噛んだ。

 

 

 

「何だ?くたばる前に遺言でも残すのか」

 

「馬鹿言わないで下さい、前ですよ、前」

 

「…滝壺」

 

 

 

絹旗が顎で前を指し、七惟も視線が移る。

 

そこには頭に銃を突きつけられている滝壺の姿があった。

 

 

 

「あいつら…」

 

「超間抜けな七惟が私に気を取られている内に、向こうの距離操作能力者に持って行かれたみたいですね」

 

「はッ…」

 

 

 

実際は頭に血が上っていて相手の手の内を調べようともせず、闇雲に手りゅう弾に突撃した自分が悪いのだが。

 

此処まで完全に張っていて、見計らったように攻撃を仕掛けてきた連中が自分達について情報を持ち合わせていない筈がない。

 

そして七惟との会話で苛立っていた自分はそこまで頭が回らずまんまと罠にハマったと、この役立たずのせいで負った傷だと思うと余計腹立たしい。

 

 

 

「原子崩しはいないみたいだし、お前らの戦力はそこに転がってるオフェンスアーマーだけだろ?じっくり甚振ってやる」

 

 

 

流石に滝壺を人質に取られては七惟も身動きが取れないか、距離操作能力者の頂点に立つ男が聴いて呆れる。

 

間違いなく表の世界で培ってきたものが原因だ、1年前の七惟だったら滝壺なんて関係無しに攻撃を仕掛けていただろう。

 

 

 

「あんまり舐めた真似すんじゃねぇ」

 

「はあぁ……この状態でそんな大口叩きますか?普通…」

 

 

 

敵の数は全部で10、ターゲットも居る。

 

奴らが握っている手りゅう弾は自分の窒素装甲を貫いた先ほどの者と同タイプか。

 

おそらくあの爆弾は大気の酸素、窒素、二酸化炭素等のバランスを一時的に崩すものなのだろう、火薬類は一切なかったし最初の閃光のような光もなかった。

 

敵は自分に関しては完全に調べつくしているようだが、どうやら七惟に関しては無知らしい。

 

そこをつけ込んで攻撃すればまだひっくり返すことが出来るだろうが、問題となるのはやはり人質となった滝壺だ。

 

滝壺を此処で失うことなど当然出来ない、此処で滝壺を失って麦野の元に帰ったら今度は自分が命を失う事態になり兼ねないからだ。

 

むしろ、今横にいる学園都市第8位の男に嬲り殺される可能性も否定できないが。

 

攻撃出来ない様を見ると、どうあってもこの男は滝壺のことが大切らしい…何だか、気に食わない。

 

昔の七惟だったらこんな馬鹿な連中一人残らずコンクリの中に転移させて暴虐の限りを尽くすだろうに……。

 

滝壺がいるせいでそれが出来ないというのなら、彼女を戦闘の矢面に立たせることは今後避けたほうがいい。

 

もしかしたら、相手も距離操作能力者のため力場に干渉出来ないから攻撃をしないだけもしれないが。

 

 

 

「下手に動くんじゃねぇ、動いたらこの女の頭吹っ飛ばす…くらい分かるよな?」

 

「…やれやれ、下っ端さんにはそういう小悪党な役は超適役です」

 

「てめぇ!口の効き方に気を付けな、また腕ぶち抜かれたいのか」

 

 

 

ついさっき七惟にデカい口を叩くなと言ったのに、今度は自分が悪態をついてしまった。

 

……内心のもやもや・苛立ちをがつい口に出してしまう、それもこれも全部隣で突っ立っているこの男が悪いのだ。

 

今回のこの襲撃だって、七惟がいなければこんなことには絶対にならなかった、こんなに苛立つことは無かった。

 

一人きりでこの任務を遂行出来る自信があると麦野に伝えたと言うのに、麦野はあろうことか七惟だけではなく滝壺までオマケとしてつけてきた。

 

一種のいやがらせか?と勘潜った絹旗だったが、自分の気持ちなど考える筈も無い彼女にそれを追求するのは野暮なことだと判断し、何も言わなかった。

 

その結果がこれだ、やりきれないのも当然だろう。

 

そのやり切れない気持ちが、どんどん増幅して目の前で醜悪な笑みを浮かべている男をズタズタに引き裂きたくなる。

 

どうして自分だけがこんな惨めな気持ちを味わなければならないのか。

 

仲間を人質に取られ、自分の苛立ちから自滅して、地面に這いつくばって、片腕を拳銃で撃ち抜かれて……。

 

 

 

「さあて…まずは用なしの男がぶち殺すか。その後はまぁ、女共でお楽しみといくかぁ?」

 

 

 

挙句こんな腐ったセリフまで聞かなければならないのか。

 

全ての元凶は七惟だ、全部七惟が悪いに決まっている!

 

七惟さえいなければ、七惟さえアイテムに入らなかったらこんなことにはならなかったのに!

 

この苛立ちも全部七惟が原因だ、心が錆びついた金属みたいに軋んで痛むのも……全てはあれから始まったんだ――――――――。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「あーあ、これはまた超酷くぶっ壊したモンですねぇ」

 

「あぁ…!?てめぇ、何処から湧いてきやがった?」

 

 

 

破壊し尽くされた空間、大地は捲れあがり建物は崩壊、夥しい数の戦闘の痕跡が戦場の激しさを物語っている。

 

周囲に撒き散らされた血は未だに生臭く、その中心に一人立つ男の存在が際立つ。

 

そこが、少女と少年が初めて出会った場所であった。

 

 

 

「別に、何処からでもいいじゃないですか」

 

「…おい餓鬼、てめぇもコイツらの仲間か」

 

「まさか、と答える前にまずはその『餓鬼』という呼び方を超訂正して貰いたいところですね」

 

「……」

 

 

 

少女と少年が向かい合う。

 

年端もいかない小さな少女、見た目小学生であるが、事実彼女は年齢区分では小学生に位置する。

 

名前は絹旗最愛、暗部組織アイテムに所属しレベル5の右腕として活動していた。

 

対して少女と向き合う少年、見た目は返り血を浴び血の化粧を施しているため若干やつれて見えるものの、その未完成な身体から未だに発展途上であることを物語っている。

 

少女が受け取った情報によればこの男の通り名は全距離操作、学園都市最強の距離操作能力者であるレベル5で序列は第7位。

 

今回学園都市に刃向う勢力の殲滅を命じられた少女は、アイテムとは別の組織から送られてきた兵隊と協力して敵を倒す予定であった。

 

だが結果は見ての通り、少女が辿りつく前に少年はあらん限りの殺戮を尽くし、任務を全うした。

 

 

 

「貴方一人で全員を?」

 

 

 

少女が確認を取ると、二つ返事で帰ってきた。

 

 

 

「ああ、そうだ」

 

「私は貴方の組織と今回協力関係にあった組織の一員です。事前に連絡が超入ってるはずですけど?」

 

「はン、そう言えばそうだな」

 

「その連絡に私と協力せよ、との条文も超含まれてましたよね?」

 

「はッ…」

 

「なんですか?」

 

 

 

少年の不躾な態度に目つきが険しくなる少女、だが彼はそんなことなどお構いなしに続ける。

 

 

 

「小学生と協力するよりも、一人で片付けたほうが手っ取り早く済むからな。俺は雑魚とは手を組まねぇ主義だ」

 

「…言ってくれますね全距離操作」

 

「言うも何も、それが結果だろが。見ての通りてめぇが居なくても任務は完了だ、じゃあな」

 

 

 

少年はそこらへんに転がっている死体に目もくれずに踵を返し、少女から遠ざかって行く。

 

その澄ました態度が気に食わず、腹の中に堪ったむかむかを少女は噛み殺しきれないまま口を開いた。

 

 

 

「その態度が超カッコイイとか思ってんですか?この重度の中二病」

 

「…馬鹿かお前、これが俺の素なんだよ。もう二度と話しかけんな小学生、餓鬼のお守するほど俺も暇じゃねぇからな」

 

「それが中二病って言ってるんですよ」

 

「うるせぇぞクソ餓鬼。その病気がどうだか知らねぇが、あんまりうるせぇとその首刎ねるぞ…」

 

「刎ねれるモンなら刎ねてみればいいじゃないですか?」

 

「口が減らねぇクソ餓鬼が」

 

 

 

次の瞬間、少女の身体に謎の力が加わり身体が水平に真横に超高速で移動した。

 

まるで空を飛んでいるかのような感覚に襲われた少女だったが、自分に何が起こったのかを確認する前にその小さな身体はコンクリートの壁に激突し、轟音が響く。

 

少年は少女の生死を確認することなくそのまま気だる気に歩を進めようとするが、背後から響いた音を不信に思い振り返った。

 

すると、そこには。

 

 

 

「てめぇ、死んでない?」

 

「ふふん、私をそこらへんにいる小学生と一緒にしてもらっちゃ超困ります、中二病患者さん?」

 

「何の能力者か知らねぇが、これ以上纏わりつくなら次は本気で殺すぞ?」

 

「おお、超怖い超怖い。残念ですけど今ので私も貴方が本当にレベル5のオールレンジということが確認出来ましたし、これ以上の深追いは超しませんよ」

 

「……」

 

「ただ、書類を提出する上で相手の素性の確認くらいはしていないと何かと不都合ですからね。それじゃあ超お疲れ様でした」

 

 

 

少女とて自分の命を投げ捨てる程馬鹿ではない、相手が本物のレベル5である以上何をしても叶わないのは彼女の仲間を見れば分かる。

 

今まで少女は自分の気に食わない相手には実力行使してきたが、今回は流石に分が悪い。

 

まだ口の中には悪口雑言の限りの言葉が煮えくりかえっているものの、腹の虫と一緒に収えていたほうが得策だろう。

 

それにもう、二度と会うこともないのだから。

 

最後に一泡吹かせてやっただけでも儲けものと言う感じだ。

 

絹旗はそれ以上の追及はせず、現場の死体数を数え上げ映像に記録しさっさと退散した。

 

 

 

これが、窒素装甲絹旗最愛と全距離操作七惟理無の出会いである。

 

出会いとしても第一印象としても最悪なため、絹旗だけでなく七惟も二度と会うことはないだろうと考えた筈だ。

 

しかしその考えとは裏腹に、此処から二人の奇妙な関係が始まって行くのだった。

 

そう、これは抜け出したくても抜け出せない、まるで渦のように引き込まれていった少女と少年のお話である。

 

 

 

 

 

 


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