とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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※この章ではオリジナルキャラクターが登場します※
苦手な方は、注意して下さい。


 


Ⅶ章 悪夢の迷宮
Unfair-1


 

 

 

イタリアから帰ってきた七惟と上条とインデックスは、普段通りの生活に戻りそれぞれの学生ライフを満喫していた。

 

あれだけの大騒ぎがあったというのに、隣に住んでいる二人はもう何の違和感もなく過ごしている。

 

暗部に関係している七惟が大概のことでは驚かないのは当然だが、一般人に限りなく近い上条がこうもイレギュラーな事態に耐性がついていたとは思わなかった。

 

まぁ、一方通行のゴミクズ野郎に打ち勝った時点でまともな一般人ではないと思っていたが、魔術とやらと関わってさらにそれに磨きがかかった気がする。

 

今日は9月30日、上条が『出会いが欲しい』とかいう戯言を目の前で言ってくれたために残りのバカルテットメンバーで制裁を行ってやった。

 

七惟はもちろん今までそういう色恋沙汰と無関係な生活を16年間送ってきたが、羨ましいことに違いは無い。

 

というか土御門だって義理の妹がいるではないか、と青髪が突っ込むのに同調してしまったあたり、そろそろ本格的に馬鹿に汚染され始めているかもしれない。

 

だいたい上条は行く先行く先でどれだけ旗を立ててくれば気が済むのか、先日仲間になった五和も完全に虜にされていたし、新たに『アニェーゼ』とかいうシスターも陥落されてしまっていた。

 

奴の携帯電話にどれだけ女子のメールアドレスが入っているんだろうか、と柄にもなくそういうことを考え始めた七惟は自身の携帯を取る。

 

画面をアドレス帳へと移し見てみると、そこには『五和』という文字が液晶に映し出された。

 

初めて自分を仲間と呼んでくれた少女の名前だ、初めて自分を『友達』と呼んでくれた上条の名前も同じページにある。

 

変わった、夏休みが終わってから自分は変わったとは思っていたが、大覇星祭や今回のイタリア騒動を通してまた自分を形成する骨組みが入れ換わった気がした。

 

今は学校も終わり帰宅するその途中で、七惟は食料品がすっからかんだったことを思い出し、土御門と上条とは別れて単独で買い物に行き今はその帰りである。

 

両手はスーパーの袋で塞がれ、こういう時似たような能力者のテレポーターが非常に羨ましい、路地裏を歩きながら近道をしていると背後から忍び寄る声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「こんなところに居たのね、七惟理無」

 

「……結標?」

 

 

 

 

 

彼に闇から声をかけたのはかつての依頼人、結標淡期であった。

 

思わぬ出会いに七惟は体を止める。

 

彼女が運んでいたモノが七惟とミサカ19090号にとって有害極まりないモノであったため、仕事は途中で破棄したのだが本人はそのことに気付いていたのだろうか?

 

確か結標は何処かの誰かに一方的にボコボコにされ、手持ちの残骸も女性の大切な顔もめちゃくちゃにされてしまったはずだ。

 

「仕事の依頼か?」

 

七惟は探りを入れる。

 

「まさか。それだったらこんな回りくどいやり方せずに、直接携帯に電話を入れるわよ。もしくは貴方を私のいる場所まで飛ばすとかね」

 

「だろうな、お前は人をぶっ飛ばすことに躊躇がねぇ奴だった。で、本題はなんだよ」

 

「単刀直入に言うとね」

 

「あン?」

 

「組織を抜け出すな、と釘をさしに来たのよ」

 

組織……つまり暗部組織のことか。

 

いや待て、七惟は確かに暗部組織に配属されているがそのことを結標に話した覚えはないし、その情報を知っているのは暗部組織に属している奴らだけだ。

 

となると導き出される答は唯一つ、結標も何かの組織に入ったということだ。

 

「別に抜け出すつもりはねぇよ。組織を裏切ると必ず制裁ってモンがあんだよ。それを考えりゃんなリスクの高いことはしねぇ」

 

「そうかしらね、上のほうは貴方が『アイテム』に靡いてるって話でもちきりよ?」

 

「アイテム……か、俺はアイツらを特別どうこうとは思ってねぇよ」

 

「まぁ、私は警告しにきただけだから。アンタが何処の組織の人間かは知らないけど、周りには気をつけておいたほうがいいわ。元クライアントとしてのよしみだしね」

 

「……そいつはどうも」

 

結標は話は済んだ、とばかりに踵を返して路地裏の闇へと消えて行った。

 

彼女が刻む軍用ライトの光のリズムが脳内にちらりと蘇る、彼女がどういった経緯で暗部に身を落としたのかは分からないが、この道に身を落としたのならばただでは済まないだろう。

 

それは七惟とて同じだった。

 

例え今は浅い部分にいたとしても、一度だけでも深みへ片足突っ込んだことがあるのならば、その呪縛から解き放たれることはない。

 

そのことは七惟が誰よりも実感していたし、理解していた。

 

人を傷つけることに戸惑いを感じない人間が、そう簡単に闇から逃れられるわけがないのだから。

 

 

 

 

 


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