とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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背中合わせの二人-2

 

 

 

 

 

土御門の追跡を何とか振り切った絹旗と滝壺の二人は、アイテムのアジトへ戻ってきていた。

 

滝壺は自身に関係のあるモノは全て学校から回収し、来週の頭にはもうあのクラスに滝壺理后という人間は存在しなくなっている。

 

「二人ともお帰り」

 

「結構早かった訳よ」

 

麦野は携帯電話で上層部と話し合っており、フレンダは小型爆弾の手入れをしていた。

 

「だから、今アイツの引き入れのために私は色々やってるって言ってんでしょ!……はぁ?スクールに取られてからでは遅い?んなことアンタに言われなくても分かってるわよこっちは!」

 

麦野は半ば強引に電話を切ると、「もう……」とため息をつきこちらに視線を移した。

 

「絹旗、首尾は?」

 

「超バッチリですよ、これで後を付けられることもありません」

 

「そっちは当然だとして……あっちよ」

 

「……あっちとは」

 

「しらばっくれてんじゃないわよー?」

 

『あっち』

 

それは滝壺を利用し七惟をアイテムに引き入れる工作のことを暗に言っているのだろう。

当人の滝壺にはそのことを全く話していないため、四人のうち滝壺だけが話についていけないようである。

 

まぁ普段からぼけーっとしてドコぞの信号を受信しているあたり会話に参加しようという意思があるかどうか不明だが。

 

「今七惟は隣人と一緒に海外旅行中です、準備しようにもターゲットがいなかったらどうしようもないですよ」

 

「何時頃帰ってくるかわかる?」

 

「ナンバーズの抽選で当たった旅行プランですから、最低でも一週間は帰ってこないですね」

 

「その間にハニートラップでもしかけておこうかしら。ね?滝壺」

 

「なーないが旅行中ならお土産を頼んでおけば良かった」

 

「……何時も何処かずれてるわねこの子は」

 

話の内容を理解していない滝壺に呆れながらも、その蛇のような眼光を絹旗は見逃さなかった。

 

滝壺がいったいどんなことをさせられるのか分からないが……おそらくこれで十中八九七惟理無はアイテムに入らざるを得ない状況になるはずだ。

 

七惟理無が加わったアイテムは確かに強いだろう、学園都市のレベル5を複数揃えているのはかの『スクール』ですら成し遂げていないのだ。

 

しかし、いくら『普通』のレベル5が二人三人揃ったところで『普通』ではないあの男にそれが通用するのだろうか?

 

麦野と七惟の実力は絹旗だってよく知っている、自分がどれだけあがこうと彼らには勝てないということも。

 

それでも――――常識の通用しないあの第二位に勝てるとは到底思えなかった。

 

麦野と上は七惟がそろい次第不穏な動きを見せるスクールを潰しに動こうとするはずだ。

 

返り討ちになるということは考えていないのだろうか、元から第二位と麦野は中が悪いため手を取り合えとは言わないが、妥協はして欲しい。

 

それによって身を危険に晒すのは絹旗を始めとしたアイテムの他のメンバーなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条、インデックス、オルソラの三人が機能の中枢を担っている帆船に潜り込み、残された七惟と天草式メンバーは甲板にてアニェーゼ部隊と戦闘を繰り広げていた。

 

七惟は見た目普通の女の子であるシスター達相手に刃を向けるのを若干抵抗があり、それを見破った相手は率先して攻撃をしかけてくる。

 

弱い奴から潰す……もっともな戦法だ。

 

「貴方は私達と戦う意思はなさそうですが、私達には戦う理由があるのです」

 

「……それはそれはごたいそうな理由なんだろうな」

 

「悪いとは思いますが、此処で死んでもらいます」

 

「ッ!」

 

数名のシスター達が武器を手に持ち容赦なく七惟をおそう。

 

その敵意丸出しの刃を交わしながら七惟は自分の中でのためらいを殺し気を取り直す。

 

七惟は人間を殺すことは出来ない、しかし――――相手を傷つけることには躊躇しない。

それが自分の命を狙い、自分の道を阻むのならばなおさらだ。

 

五和の槍を振るい、襲いかかるシスターを能力を使い往なし、中距離からの攻撃をしかける。

 

シスターの柔らかい腕の肉を七惟の放った槍が容赦なく貫き、動きが止まったところで可視距離移動砲の弾丸として放ち、吹き飛ばす。

 

「いったいどんな魔術を!?」

 

シスター達の間に動揺が走る、しめたとばかりに動きがにぶったところでさらに複数のシスターを海へと突き落とした。

 

「流石に容赦ないのよな!第8位!」

 

建宮が感心の声を上げる。

 

「はン、余所見してる暇あんのか」

 

「それはそうなのよな!」

 

 

 

 

 

魔術、それは今まで七惟が生活していた生活の正反対に位置するもの。

 

初めて見る多彩な攻撃に戸惑いつつもそれに適応していく七惟の姿を見て五和は思う。

 

この人は、戦闘のプロであると。

 

自分が初めて七惟とぶつかった時、彼はごく一部しか知らない天草式の、さらにその限られた者しか分からない脈の攻略法を編み出した。

 

どれだけ驚いたか、能力もさながら『脈』というものが分からないはずなのにそれを見切り、こちらを圧倒した彼の戦闘センス。

 

どれをとっても申し分ない、今も先ほど渡したばかりの槍を簡単に使いこなしアニェーゼ部隊を切り崩す。

 

魔術戦ではど素人のはずなのに、彼はもう教皇代理程の戦闘力を手にしている。

 

いや、能力を加算してしまえばもうとっくに超えているのかもしれない。

 

「おぃ!」

 

「えっ!?」

 

その彼がこちらを見て叫ぶ。

 

何故こちらを見て叫んだのか一瞬理解出来なかったが、すぐさま判断出来た。

 

敵の一人がこちらに西洋特有のサーベルを振りかざし切りつけようとしている。

 

「うッ」

 

五和はぎりぎりのところでその切っ先を交わし逃げるが、下がった方向にもさらなる敵が現れる。

 

いくらアニェーゼ部隊がこのような戦場での戦闘に慣れていないとはいえ、その数はこちらの10倍近い250名なのだ。

 

狭い戦場では何処へ逃げても、彼女達がいるに違いない――――。

 

「五和!」

 

「五和さん!」

 

仲間達も彼女の危機を知り駆けつけようとするが、行かせるものかと他のシスター達が彼らの前に立ちふさがる。

 

一瞬だか仲間の助けを期待した彼女の精神は微妙に崩れ、僅かなスキが生まれる。

 

そこへ風の魔術を使ったカマイタチのようなカッタ―が、避けられようの無いタイミングで放たれた。

 

狙いは的確、このまま行けば自分の腕を綺麗さっぱり持って行ってしまうだろう。

 

刃が襲いかかるまでには1秒もかからないのに、自分にあたると自覚してから実際あたるまでが数十秒に感じられた。

 

「この糞馬鹿!」

 

聞きなれていない誰かの声がした、するとどうしたことか目を瞑り激痛に備えたと言うのにいつまで経っても痛みは襲ってこない。

 

いったい何が・・?

 

 

「おぃ」

 

「……え?」

 

「いつまでひきつった顔してんだ、みっともねぇな」

 

「……あ、貴方がどうして」

 

「お前を転移させたんだよ。次はこうも上手くはいかねぇ、気をつけろよ」

 

どうやら彼が刃の当たる直前で五和を転移させたらしい、あのタイミングで助けられるとは思っていなかっただけに頭の中が混乱する。

 

「え、えと……その。ありがとうざいます」

 

「……は、『仲間』なんだろ?そう簡単に死なれちゃ困んだよ」

 

「七惟さん……?」

 

五和の呼びかけに七惟は振り返らず再びシスター達相手に鬼神のような戦いっぷりを見せつけていた。

 

 

彼とは命のやり取りを2回した。

 

 

だからかもしれない、相手の実力が分かっているから、ぎりぎりまで戦って相手のことを知り弱点を見いだそうとしたから。

 

 

味方になると、こんなにも頼もしい。

 

 

 

 

 


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