とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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闇を統べる組織

 

 

 

 

 

「前金50万だけか……まあ十分だろ」

 

結局あの後美琴・上条と共に結標を追いかけたが、何故か彼女は既にやられていて大事に抱えていた運搬物も木っ端みじんに弾け飛んでいた。

 

依頼主の悲惨な現状を見て、裏切ったことに罪悪感を覚えるがまぁ直接的に何もやっていないから良いかと結論づける。

 

その後は美琴と上条は相変わらず自覚のないいちゃつきを展開、見ているこっちが恥ずかしい光景を作り出しており、それに耐えきれない七惟は闇に消えたのだ。

 

今は黒に染まった街をただひたすら歩く、とにかくバイクが無ければ帰宅することもままならない。

 

駐輪場へと辿りつき、己のバイクを探すとソイツの所有者ではない人間がソイツの隣に立っていた。

 

「へぇ、私達の代わりに誰が終わらせたのかと思えば」

 

そこで待っていたのは麦野沈利、学園都市レベル5で序列4位の女、そして同時に裏組織アイテムのリーダーを務めるメルトダウナー。

 

「……てめぇはなーんでこんな場所にいんだ」

 

「それは当然、仕事があったからと言いたいところね」

 

バイクの背後から数人の影が飛び出す、七惟も良く知っている連中で間違いない。

 

「超面倒な厄介事押し付けられたと思ったらまさかのオールレンジのご登場でしたからね、超予想外ですよ」

 

「そうね、結局私達は出てこなくて良かった訳よ」

 

「……北北西から信号がきてる」

 

アイテムメンバー勢揃いと言ったところか。

 

相変わらず超超やかましい絹旗、訳訳耳にタコが出来そうなフレンダ、何処からか電波を受信している滝壺。

 

厄介な連中に絡まれたものだと七惟はため息交じりに声を発する。

 

「で?俺に別に用はねえんだろ、だったらさっさとソコ退きやがれ」

 

「せっかく会ったのだから立話でもしようじゃない、一カ月ぶりなのよ」

 

「ケッ、てめぇなんかとは100年会わなくてもお釣がくる」

 

挑発的な姿勢を崩さない七惟を見て、麦野もそれなりの行動に出る。

 

「余程貴方はこのバイクを破壊されたいみたいね」

 

麦野は七惟のバイクに視線を投げる、原子崩しでも使おうというのか。

 

「俺はお前らと遊んでられる程暇じゃねえんだよ、それにもう今日は散々振りまわされて面倒事に巻き込まれるのはご免だしな」

 

七惟は瞬時にバイクを数百メートル先の駐輪場へと移動させた、麦野はそんな七惟の行動を口端を釣り上げながら見つめている。

 

「それにしても七惟理無はあんなにお人よしだったかしら?滝壺」

 

「なーないは自己中心的だと思う」

 

「絹旗は?」

 

「私も超同意ですよ、麦野の言う通り七惟はお人よしとは超かけ離れた人物ですから」

 

「フレンダもそう思う?」

 

「七惟が人助けだなんて明日は槍でも降る?って思われる訳。あ、でもこないだ会った時は結局振らなかったけど」

 

フレンダの奴……何か余計な入れ知恵を麦野したようだ、どうも麦野の態度がいつもと違って大きい。

 

しかしまぁ、散々な言われようだが自分の知ったことではない、自分は自分、それ以上それ以下なんてない。

 

今までやってきたこと全てが今の七惟理無を築き上げているのだ、今日の出来事を否定しようも何もそんなことをしたら自分で自分を否定してしまう。

 

「言ってろ、俺は俺なんだよ。もうてめぇらの相手すんのはかったるいからな。あばよ」

 

七惟が背を向けてバイクを移した場所へと歩き出すが、相手が相手だ。

 

そう簡単にターゲットを好きにさせるわけがない。

 

「……絹旗」

 

「超了解なんですよ」

 

絹旗は窒素装甲を展開し、足元にあった車輪止めのレンガを七惟目掛けて投げつける。

 

しかし、やはり七惟にそのレンガが当たることは無く、彼に当たる前に不自然に逸れるとそのまま重力に引かれて地面に落ちた。

 

「今からドンパチやろうってのかてめぇら」

 

籠った低い声で七惟は威嚇するが、やはり麦野は不敵な笑みをその顔に張り付けたままでその裏にある意図は読めそうにも無い。

 

いつも通りさっさとお得意のヒステリックでも起こせば楽にこの場を切り抜けることが出来るのだが。

 

「別にそういうわけじゃないわ、ただあんまりにもアンタらしくない行動だったから様子を見に来ただけね」

 

たったそれだけのためにこうも喧嘩を売られる身としては腹立たしいことこの上ない。

 

これ以上彼女達と絡む理由も見当たらないし、七惟はそのまま歩きだす。

 

「ねえ、『オールレンジ』」

 

「……なんだ」

 

「アイテムに入らない?」

 

 

―――――――!

 

 

垣根の言葉が脳裏をよぎった。

 

「寝言は寝て言え」

 

七惟は麦野の提案を即却下した。

 

やはり垣根の情報網は馬鹿に出来ない、違ったのはそれが単なる噂ではなくて真実だったということ。

 

七惟本人としてはアイテムに入る気など更々ない、だいたい七惟は既に他の暗部組織の一員なのだ。

 

他の組織に籍を置いておきながらアイテムとのかけ持ちなんて許される訳がないし、黙って活動を続けていればいずれ片方から粛清が行われるのは間違いない。

 

「俺は他の組織に身を置いてんだよ」

 

「そうね、でもアンタの今の組織じゃその借金は返せないんじゃない?」

 

借金――――今七惟は一億円の借金を両肩に背負っている、言い方はかっこいいが情けないことこの上ない。

 

「七惟は借金超あるじゃないですか、その年で一億だなんてお先超真っ暗ですよ」

 

「絹旗、アンタは黙ってなさい」

 

「むぅ」

 

絹旗がむくれるが、そんなことはどうでもよくなってきた。

 

お先が真っ暗というのは外れてはいないが、七惟とてこのまま借金に食いつぶされていくつもりはない。

 

そのために今回結標の用意した報酬100万のアルバイトに参加したのだ、まあ途中でその運搬物が七惟にとって有害極まりないことが分かってしまったので仕事は放棄させて貰ったが。

 

「私達には優先的にリターンの高い仕事が入ってくるわ、当然リスクもアンタが今までこなしてきた仕事と比べると随分と高いけどね。でも元レベル5のアンタからすれば余程のことがない限り死にはしないし、私たちの実力も知ってるでしょう?効率性から考えてこれ以上の提案は無いわ」

 

「……」

 

確かにこれは魅力的な話だ。

 

七惟が所属している組織は基本的に上条の監視以外は何も仕事を与えてこないため、報酬を求める場合は外部から仕事を受注することになる。

 

ネットに流れているお仕事などやはり本格的な暗部の仕事に比べるとかなり報酬金も低く、最高でも50万がやっとである。

 

そこでアイテムに入れば優先的に高額な仕事を受注出来るし、情報網も今までと比べると格段に上がる。

 

アイテムの構成員もレベル5の麦野をはじめとして窒素装甲を操るレベル4の絹旗に、フレンダの道具を使った戦略、滝壺の能力は七惟の知る範囲ではないが、少なくとも垣根のスクールの次点に評価されている組織であることは確かだ。

 

しかし……。

 

「魅力的な話だがな、俺は降りる」

 

それでも七惟が首を縦に振ることはなかった。

 

「超わけわかんないですよ七惟、こんな超美味しい話滅多にないのに」

 

「結局私達とはウマが合わないって訳?」

 

絹旗、フレンダは七惟の行動が理解できないといった表情だ。

 

だが七惟からすれば、七惟理無という人間が麦野沈利という人間の組織に入らない理由は一番彼女達が知っているはずだろう。

 

いやもしかしたら未だに気付いていないのかもしれない、いつも身近にいる存在だからその人間の危険性に気付かない……麦野沈利という人間の危険性に。

 

「俺は麦野と一緒に何かをやるってことは出来ねえな」

 

麦野沈利、絹旗達の前でいったいどんな風に振舞っているかは分からないが奴は自尊心の塊のような奴だ。

 

自身のプライドを守るためならば何だってする、それはおそらく絹旗達が思いもしないようなことだって奴が本気になれば簡単にやってのける。

 

その思いもしないことが起こる時になってはもう遅い、ならばそうなる前に自ら彼女から距離を置くのが一番良い。

 

「そう……なら仕方ないわね、今回は諦めるわ」

 

「……珍しいな、てめぇがそうそうに折れるなんて」

 

「私もアンタにそこまで構っている時間はないからね」

 

「そうかい」

 

麦野がこうも簡単に手を引くわけがない、今回はと言っている辺りおそらく次もまたこのような勧誘紛いのことが行われると予想出来るが、これ以上自分が考えたところで麦野の思考を読みとれるわけでもない。

 

今日は手を引くのであれば七惟がこれ以上この場に長居する必要は無いし、彼は人差し指でキーケースをぐるぐると回しながら夜道に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「麦野、どうしてそんなに七惟を超欲しがるんですかね?」

 

 

 

「結局私達じゃ頼りないって訳?」

 

 

 

「そうじゃないわよ、ただ……」

 

 

 

「ただ……?」

 

 

 

「アイツとの小競り合いが近い気がするから、戦力の補強が必要に思っただけよ」

 

 

 

 

 


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