とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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避けられぬ戦い-2

 

 

 

 

『運搬?』

 

 

『えぇ、第23学区からとても大事なモノを運びだすのよ。貴方はそれの護衛』

 

 

『中身は何だ?生物兵器とかじゃねぇだろうな』

 

 

『まさか。この私がそんな危険なモノを運ぶとでも?』

 

 

『はン、お前なら生物兵器より危険なモノを運んでても不思議じゃねぇけどな』

 

 

『あながち間違っていないかもしれないわね』

 

 

『はッ・・』

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

日も暮れて時刻は21時を過ぎたあたり、とある建設途中のビルに結標をはじめとした七惟の雇い主達が集まっていた。

 

当然本人も此処に集められており、今は外部組織と連絡を取っている結標の言葉を待つばかりだ。

 

七惟が改めて周辺の同僚達を見てみると、外部の組織と思われる黒服の連中に年端もいかない少年少女が多数。

 

いったいどういう過程でこんなわけのわからない組織が出来あがったかは知らないが、見るからに怪しいと言ったところだ。

 

運搬物であるキャリーケースは相変わらず結標が腰掛けており、その中身は知らされていないが余程重要なものだということは結標が肌身離さず持っていることから推測は出来た。

 

七惟は無駄話をする周囲とは少し距離を開けており、彼らの様子を遠巻きに見つめていた。

 

当初は麦野のアイテムや垣根帝督率いるスクールが紛れ込んでいるのではと疑っていたがその心配も杞憂に終わり、彼らは身内で談笑を続けている。

 

しかしその談笑も長い間続くことは無かった。

 

下の階から何やら光が生まれたかと思うと、次の瞬間には轟音を鳴り響かせ一筋の雷光が天に向かって昇って行った。

 

その破壊力は破壊音の数秒後に生まれ、コンクリートの床は粉々に砕けて足場がぐらつき、建設途中の鉄骨は容赦なく折れたり高熱で溶かされたりと言葉では形容しがたい光景があっという間に出来上がる。

 

「敵襲だ!」

 

黒服の号令と共に全員が身構え、結標も携帯の通話を一旦切り七惟を呼びつける。

 

「来たわね。……このために貴方を雇っているってことよ」

 

「このため?」

 

「ほおら、敵さんのお出ましだわ」

 

砕かれた地面が撒きあげた土埃から出てきたのは、肩くらいまでの茶色の髪に白い花の髪飾り、先ほどのジャッジメントの少女と同じ常盤台中学の制服を纏った少女。

 

ミサカのオリジナルとなった人間で、七惟も良く知っている人物、御坂美琴だった。

 

何でアイツが……?

 

七惟の頭に疑問符が浮かび上がる。

 

この運搬業務は明らかに暗部に関係するものだ、ジャッジメントやアンチスキルならともかく一般人で暗部に何の関係も持たない美琴が此処にやってくる理由が分からない。

 

美琴のほうはと言うと当然フルフェイスを被った七惟に気付くわけも無く、淡々と語り始める。

 

「ようやく見つけたわよ」

 

「思ったより早いご登場ね、超電磁砲さん。そんなに顔に皺を寄せると将来大変よ」

 

「口だけはよく回る女……!」

 

美琴が発光するのが合図となり、黒服の男が銃を撃ち少年少女達は己の能力を使って美琴に攻撃するが、それらが全て意味をなさないと七惟は分かっていた。

 

彼女は一歩も動かずに、七惟と勝負したあの日のように全身から電気を漏電させると周囲に向かって放電した。

 

その破壊力は間違いなく七惟が彼女とぶつかった時よりも格段に上がっており、容赦なく黒服を貫き少年少女達を襲う。

 

七惟は結標の隣でその破壊力をまざまざと見せつけられ、困惑していた脳が瞬時に戦闘用へとチェンジされる。

 

結標の仲間たちは吹き飛ばされてもまだ食い下がっており、目の前の少女の力の強大さを分かっていながらも尚立ちあがる。

 

そんな彼らに止めだと言わんばかりに美琴はレールガンを放った。

 

その威力は絶大で、音速の3倍のスピードで放たれた弾丸は周囲のモノを撒き散らしながら標的へと進み仲間達を容赦なく蹴散らしていく。

 

このままでは終われない、とばかりにレールガンから運よく逃れた者達は攻撃を仕掛けようとするも、美琴の電撃の早さに太刀打ち出来ず次々と倒れて行く。

 

一方的な戦闘に、最高レベルとそれ未満のモノたちの圧倒的実力差を目の前で七惟は実感する。

 

この電流だ、結標もただでは済むまいと見てみたが彼女は倒れた仲間達を自分の前へと転移させており何とか首の皮を繋いでいた。

 

「どう?相手にとって不足は?」

 

「……つうよりもお前があんな化け物相手にしてるほうが驚きだ、俺はな」

 

「あら、同じ化け物クラスに分類されていた貴方が何を言っているのかしら」

 

結標は目の前に転移させた者達を余所へと移し、美琴を真っ直ぐと見据える。

 

再度見てみると今日の美琴は七惟と勝負をしたあの日よりも遥かに機嫌が悪いように見える、これは退けるのがしんどそうだ。

 

いくら美琴が七惟にとってミサカや上条のように特別な人間だったとしても仕事とそれは別の話だ、全力を持って結標を逃がさなければ自分が借金に食い殺されてしまう。

 

どういう理由で彼女が結標を追っているか検討もつかないが手を抜くわけにはいかない。

 

「出てきなさい、卑怯者!仲間をクッションに利用するなんて感心しないわね」

 

「仲間の死は無駄にしない。という美談はどうかしら?」

 

「悪党は言うことも小さいわね、まさか40秒逃げ切っただけでこの超電磁砲を攻略出来たと思ってんの?」

 

「いいぇ、貴方が本気を出せばここいら一体吹き飛んでいたでしょう。まあだからと言って何といった感じだけどね」

 

結標の隣にいる自分のコトは総スルーで結標にガンを飛ばし続ける美琴。

 

大して結標のほうも挑発を止めることはない、先ほどから良く分からない単語が飛び交っているが美琴の闘争心を煽っているのは確かだ。

 

七惟は結標が美琴の気を引いている内に逃走ルートを企てる。

 

結標はテレポーターだが実験の後遺症からか自身を転移させることを極端に嫌がる。

 

それは過去の実験でトラウマを植え付けられてしまったからであり、自身を転移させてしまえば猛烈な吐き気とめまいに襲われるのだ。

 

よって彼女のテレポートは良くて1、2回が限度でそれ以上は足での逃走となる。

 

七惟自身が彼女を飛ばすことも考えたが、可視距離移動は出来ても同じ原理で行う座標移動はAIM拡散力場の影響で不可能なのだ。

 

とにかく自分が美琴を引きつけているうちに結標には全力疾走で逃げて貰う他はない、これだけの仕事量をこなすならば上乗せで100万は欲しいものだ。

 

大仕事と結標は言っていたが、まさか1師団並みの兵力を持つ相手を退けろとは……やれやれだ。

 

「アンタのちっぽけな能力で……私の攻撃を退けられると思ってんの?」

 

七惟が逃亡の算段をつけ終わっても未だに会話は続いている、結標の口車に乗せられてしまっては掴めるチャンスを逃してしまうだろうに。

 

いや、むしろそれだけ相手の策にハマっても捕まえられるという自信の裏返しか。

 

しかしまあ、レベル4の結標をちっぽけな能力か……おそらく美琴は結標の欠点に気がついているだろう。

 

「あら、確かに光の速度の雷撃は目で見てから回避は間に合わないでしょうけど、それだけよ。前触れを読み軌道さえ分かれば」

 

「無理よ」

 

「アンタとぶつかるのはこれが初めてじゃない、自分でも気付いているでしょ?アンタの能力には癖がある、何でもかんでも転移させる割には自分の身体はほとんど転移させない。そりゃそうよね、ビルの真ん中や車道の真ん中みたいな危険な場所に間違って自分を転移させてしまえば終わりだもの。他人を犠牲にしてまで救われたいアンタは万に一つでも自分が自滅する可能性を控除したいってところかしら?」

 

「……!」

 

ビンゴ、やはり見抜いている。

 

自分の時もそうだったが、美琴の強さはあの洞察力でもある。

 

瞬時に戦場の状況分析を行い敵の能力の解析、そして弱点を見つけるに至るまでその能力は凄まじいの一言に尽きる。

 

学園都市第3位の頭脳は伊達ではないといったところだ。

 

「何を黙っているの?もしかして私が今まで気付いていないと思ってたわけ?アンタね、仲間やら看板やらを移動させて散々目くらましに使っておきながら自分だけ走って逃げてりゃ違和感ぐらい覚えて当然でしょうが」

 

確かに美琴の言う通りだ、レベル4は自身の弱点を弱点のまま放置しているからレベル4だと七惟は昔研究所で嫌という程聞かされていたから良く分かる。

 

こうも的確に弱点を言われては結標も言い返すことは出来ないか、まあこの程度で終わる女だとは七惟も到底思ってはいないが。

 

「大体、これだけ不利な状況ならすぐにでも逃げに入るでしょ。それともアンタはまだ出し惜しみをしてるとでも?そんな余裕がないことくらい誰にだって分かるわよ」

 

「……そうかしら?最後の最後にジョーカーは仕込んでいるものよ」

 

「まさかアンタの隣にいる黒スケが切り札だって言うの?虚勢も大概にしたらいいわね、何回もアンタとぶつかって分かったことは、アンタ以上の能力者はいないってことよ」

 

「それは貴方の仮説ね、真実は自分の目で確かめてみるといいわ」

 

「ふん、言われなくてもそうするわよ。どれだけ能力者を集めても、今の私をとめることは出来ないから!」

 

美琴が黒スケ……ではなく七惟と結標に向かって高圧電流の槍を放つ、攻撃には一切の手加減など感じられずこの一撃で終わらせようとする気満々だ。

 

七惟はとにかく結標を無事に外の組織と合流させなければならないため、否応にも防御に回らざるを得ない。

 

美琴の放った電撃の槍は不自然に七惟と結標から逸れ、左右の鉄骨に激突に高熱で鉄を溶かしていく。

 

まさか避けられると思っていなかった美琴は目を丸くしこちらをじっと見つめる、予想してなかった事態に流石に戸惑ったか。

 

「言ったでしょう?ジョーカーは最後に取っておくものって。それじゃあ、私は逃げさせて頂くわ!」

 

七惟の力で何とか雷撃を防いだ結標は転移し視界から消える、彼女は自身の転移が苦手なため長距離は移動出来ないからよくて100M離れたくらいか。

 

 

 

残されたのは七惟とこちらを蛇のような眼光で睨みつける美琴だけだ、これは正面衝突を避けられそうにも無い。

 

 

 

 

 

全距離操作と超電磁砲、学園都市が誇る超能力者同士の闘いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 


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