とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版 作:スズメバチ(2代目)
暗部の住人-1
学園都市にはとある一人の少年がいる。
その少年は学園都市に8人しか存在しない超能力者の一人であり、距離操作系能力の頂点に君臨するも、暗部組織では下位組織に所属し名もなき捨て駒として扱われている。
何故レベル5である彼がそんな位置に甘んじているのか?それは非常に単純なことだ。
一方通行の実験に関与した少年は研究員達の望むような結果を生み出すことが出来なかった、それだけだ。
その後の降格スピードは凄まじく、学園都市でも上層部の組織にいた彼も今では此処まで落ちぶれてしまったということである。
そして落ちぶれてしまった彼は組織からの命令でとある人物の監視を命令されていたが、監視対象を通じてこの夏休み様々な人々と出会った。
一年前に命をかけた戦いを繰り広げた一方通行、電気使いの頂点に立つも自分の気持ちに素直になれない中学生、暗部組織で敵対する勢力を殲滅する麦野沈利を始めとしたアイテムの構成員たち、監視対象の家に居候している謎のシスター。
学園都市第3位の細胞を使ったクローン達、そしてその中の一人が彼を構成する何かを変えた。
そんな激動の一カ月を送った彼の名前は『七惟理無』。
学園都市の第8位にて距離操作能力の頂点、オールレンジと呼ばれている。
*
8月29日、七惟理無にとって初めての友人であるミサカ19090号が倒れた。
彼は内から湧き上がる衝動に何の疑問を抱くことも無く彼女を助けるため、駆けまわる。
救急車を呼ぶことすら忘れていたのは余程気が動転していたせいか、それとも人助けなどほとんとしたことが無かった彼が思いつかなかっただけなのか……。
人を助けることなど考えたことが無かった七惟は友達も出来た試しがなく、生まれて16年間友人0記録の金字塔を打ち立てていた。
しかし天涯孤独の彼にも生まれて初めての友人が出来た、要らないと切り捨てていたモノの大切さ……それが少しばかり分かったような気がする。
様々な出来事が起こり彼を大きく変えた夏休み、そしてあの事件から既に3日も時間が過ぎミサカが倒れる以前の生活に七惟は戻っていた。
生活は同じだが、七惟理無という人間自体が昔に戻ったわけではない。
そして彼が置かれている境遇も。
「……防災センター施設の復旧費用。1億」
夏休みも終わり、学校の始業式が始まるその朝に送られてきたのは一方通行、御坂美琴、ミサカ19090号と戦ったあの施設の復旧費用請求書類だった。
一方通行との対戦は研究者達がヘマをやらかす筈がないので、残された可能性は後ろ二人。
そして御坂美琴に何かがあった場合は隣のサボテン頭が騒ぎ始めるため考えられない、とすると自然と選択肢は一つに絞られる。
「ミサカの時の……誰かに見られたか……」
そこにはしっかりとコンクリートの鉄壁を可視距離移動砲で破壊する七惟の姿が映し出されていた。
しかもご丁寧にムービーで取っているあたり、嫌がらせにも程がある。
差出人は第19学区公共施設管理課、これも架空の施設かと思って検索をかけてみたが本当に実在していた。
おそらく一年前破壊された公共施設の費用請求が出来ずに、誰かに請求できないモノかと探っていたに違いない。
まあ立ち入り禁止区域となっていたのでそこに入ってドンパチやった七惟とミサカに非があるのは確かだが納得がいかなかった。
「つか2億ってなんだよくそったれが……」
1億。
そのお金はサラリーマンが一生に稼ぐお金の半分。
そんな借金をただの学生である七惟が返せるわけがない、いくら暗部の仕事を引き受けているからと言ってもあまりに額が大きすぎる。
一回の仕事でだいたい10万前後なのだが、これをあと一体何回続けなければならないのだろうか……。
証拠を押さえられているので頼みの綱の裁判所もこれでは負けを押し付けてくる、返済するしかないのだろうか。
七惟はひとまずこの管理課に電話をかけてみるが、返ってきた言葉は非常なモノだった。
「そちら七惟理無さんでよろしいですか?」
「あぁ、そうですが」
「今朝書類が届いたと思われるんですが、中身はご確認されましたか?」
「1億請求ってやつですか」
「そうですねー、見ているのならば話は早いです。こちらも皆さんの血税を使って立てた施設なのでお支払いよろしくお願いします」
「馬鹿かアンタは。1億なんざ16歳に支払えるわけないんですけど」
「君と同じ年で数億円の借金を背負ってる人なんてザラですよ?」
「何処のアホだそいつは……」
「まあ、差し押さえとかは返済が滞った場合に行くんでよろしくお願いします。それでは」
要するに金を返済するしかないというわけか……。
七惟は仕方なしにパソコンを立ち上げる。
幸いまだ暗部から仕事の依頼は入ってきていない、それまではせっせと返済金を稼ぐしかない。
七惟の今の財産はだいたい1000万円、気がつけばこれほどまでに膨れ上がっていた資産もこの1億の前では霞んで見える。
せめて救済措置として半額とかならないものかと思ったが、お堅いお役人にそんな情が通じるわけがない。
「ん……運搬の護衛?」
七惟の目に止まったのは報酬金が100万のアルバイトだった。