とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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Friends-2

 

 

 

 

 

「ねえ当麻。さっきクールビューティーが理無の家に入ってくの見たんだけど」

 

「クールビューティ……?ああ、ミサカ妹のコトか」

 

場所は変わって此処は七惟理無のお隣さんである上条当麻の家。

 

確か今ミサカ達シスターズはクローニングの影響で身体の至る所で異常が発生しないよう、様々な施設で治療を受けているはずだ。

 

となると治療がひと段落着いたのだろうか。

 

「七惟の奴何時の間に退院したんだ。俺に一言くらいあってもいいだろー」

 

自分はインデックスの騒動の時何も言わずに帰ってきた癖に、と突っ込む人物は此処には居なかった。

 

「どうせ当麻は理無に宿題を押し付けに行くから何も言わなかったんだよ」

 

「うッ……それを言われると何も言えないあたり悲しいぞ」

 

夏休みも終盤に差し掛かっており、2学期開始まであと48時間と数時間。

 

七惟が入院していた間当麻はエンゼルフォールやイギリス清教の魔術師撃退など色々な事件に巻き込まれていたため全くもって夏休みの宿題とやらを終わらせていなかった。

 

記憶を失う前の上条当麻がどういった生活を送っていたのかは知らないが、とにかく厄介なモノを残してくれたものである。

 

「終わらないモンは仕方ないだろ!」

 

「だからと言って理無の力を借りるのとは話が別だよ、理無は退院したばっかりなんでしょ?」

 

「ぐっ……ちくしょう」

 

上条は携帯電話を手に取る。

 

時刻は14時、そして今日は8月29日・・もうあまり時間は残されていない。

 

あと二日どういったイベントが用意されているかは知らないが、今日やるだけのことをやっておかなければ今までの経験上碌なことにならないのは確かだ。

 

とにかく目の前に立ちはだかっている数ⅠAの問題、こやつを処理するためには参考書が必要だ。

 

「インデックス、俺はちょっと出かけるから留守番頼んだぞ?」

 

「当麻、何処行くの?」

 

「参考書買いに行くんだよ参考書。上条さんの頭脳では力不足だから参考書様の力を借りるんです」

 

「ふーん……私も行くよ、此処に一人で居ても暇だもん」

 

「お前は此処に居ろって……付いて来ると財布が悲鳴を上げそうなんだ」

 

「むっ、その言いようはまるで私が買い食いをしょっちゅうしているかのような感じだね」

 

「事実なんだ……理解してくれ」

 

「大丈夫、神に誓って今日は買い食いなんてしないからさ!」

 

「……その神への誓いは何回目なんだインデックス」

 

上条は食い下がらないインデックスの食欲に結局折れてしまい、二人で本屋まで出かけることになった。

 

家を出る際に充電していた携帯のコードに引っかかり、充電器が破壊されてしまったので本のついでに買うことにした。

 

全くもって不幸である。

 

「行くぞインデックス」

 

「当麻、忘れ物はない?」

 

「ない、よし」

 

ドアを開け、さて鍵を閉めようかと思い立つと隣の家のドアが開いた。

 

「ただバイク取りに行くだけだってのに」

 

「ミサカはそれだけでも構いません、せっかくオールレンジが退院出来たのだから外を一緒に出歩きたいのですとミサカは心中を吐露します」

 

「そうかい、んじゃあ好きにしろ」

 

お隣さんから出てきたのは家主の七惟理無とミサカだった。

 

番号個体は分からないが上条が助けたミサカとは違う、腰にポーチをつけている。

 

「上条?何やってんだお前」

 

「それはこっちの台詞だ、退院したなら俺に一言くらいあってもいいんじゃないか?」

 

「その台詞そっくりそのまま失踪して何も言わずに戻ってきたお前に返してやるよ」

 

「う……」

 

「相変わらずその中身は言いたくねえのか」

 

「まあ・・そうなる」

 

七惟はこんな奴だが、ミサカ達を助けるため一方通行に立ち向かったりと根はいい奴なのだ。

 

それに記憶を失う前からおそらく続いているであろう友人、そんな奴を危険なこちら側に引き込むわけにはいかなかった。

 

「ん?当麻、何してるの?」

 

「……シスターも一緒か。デートか?」

 

ドアと玄関の間からインデックスが顔を出す。

 

「参考書買いに行くんだよ。そういう七惟さんはミサカとデートですかぁ?」

 

七惟は確かミサカ達に何かを与えてくれたと美琴が言っていたのを思い出す、コイツもこんな威圧的で態度が悪いのに女子から黄色い声が上がるなんて……不公平である。

 

「アホか。俺はバイク取りに行くんだよ、ベクトル野郎の時から置きっぱなしなんだ」

 

 

 

「そうだね、これからデートだなんて君には似合わないよ」

 

 

上条とインデックスの背後から突如として声が響き渡る。

 

上条は咄嗟に玄関から出てくるインデックスを有無を言わさず押し戻し相手を見やると、そこには腐れ縁であろう魔術師二人の姿があった。

 

「なんだ、お前らか」

 

魔術師二人はステイル・マグヌスと神裂火織。

 

上条にとっては両名共に顔馴染みだが……。

 

「ッ……てめぇ、何しにきやがった」

 

七惟理無にとっては当然ながらステイルは上条と七惟を殺そうとした男で、神裂は完全に初対面である。

 

七惟は神裂の持っている巨大な刀を見やるや否や、ミサカを部屋の中に押し込む。

 

「そう言えばそこのキミとはあの時以来か。相変わらず不躾な奴だ」

 

「はン、負け犬の雑魚が今更どの面下げて俺の前にきやがったかと思えば出てきた言葉はつまんねえもんだなおい」

 

「そこまで言ってくれるといい気はしないな。灰になりたいみだいだな」

 

「またあの焔の巨人でも出すか?まあ出したところであんな人形……ってトコだ」

 

「言ってくれる……」

 

一触即発、もう今すぐにでも七惟の可視距離移動砲やステイルの炎が飛んできても不思議ではない。

 

「お、おい七惟落ち付けって!コイツは基本無害な奴だからさ」

 

「落ち着けだぁ……?ふざけんなよ上条、殺されかけたコト忘れたのかお前は」

 

殺されかけた?いったい……

 

上条はハッとする、記憶を失う前に自分が何をやっていたのかは知らないが確かインデックスを助けるために魔術師と戦っていたということだけは分かっていた。

 

記憶を失ってからの自分が七惟と初めてこのアパートで会った時、インデックスは『貴方が当麻と一緒に助けてくれた』と言っていた。

 

つまり七惟はインデックスを守るため記憶を失う前の自分と共闘していたというわけだ、詳しくは分からないがこの推測は間違っていないだろう。

 

そしてその時の相手がステイルだったということか……?

 

「もう大丈夫だって!あれから和解してさ、今じゃまあ・・腐れ縁ってとこだ」

 

「……信用出来ねえ、あの日からのお前はそうやってはぐらかしやがるしな」

 

「ま、まあとにかく!ステイルも!」

 

どうも七惟は自分の言葉を信じてくれそうにもない、、確かに記憶のコトに関して何も言っていないので信用されないのは当然だろう。

 

ステイルのほうはどうかと言うと、先ほどの七惟の暴言が余程気に食わなかったらしくまだくすぶっている。

 

「ステイル、私達は七惟理無と争いに来たわけではありません。余計なエネルギーの消耗ですよ?」

 

ようやく神裂の助け船が。

 

「それに彼と貴方の能力では相性が悪すぎるということを忘れたのですか」

 

「……仕方ない」

 

神裂の言葉でようやく態勢を崩すステイル、それを見て七惟も身体の力を抜くかと思われたがやはり彼は一筋縄ではいかなかった。

 

「まあ今日はキミに用があるんじゃない、ソコの上条当麻に用があるんだ」

 

「はン、てめぇら何処の人間か知らねえが……雑魚があんまりふざけた真似すんじゃねえぞ」

 

「肝に命じておこうか……!」

 

未だに挑戦的な口調を崩さない七惟に業を煮やし、ステイルの両手から炎が噴き出したかと思うと火炎放射のようにそれは七惟に襲いかかる。

 

炎は上条の前を通り過ぎ端部屋のドア前に居た七惟に真っ直ぐ飛んでいき直撃かと思われたが、七惟に当たる寸前にその炎は上条の幻想殺しに防がれたかのように掻き消されてしまった。

 

「ッは!そうやってすぐ手が出るあたり何処ぞの糞餓鬼だな!」

 

「調子に……!」

 

ステイルが第二派を打とうとしたところで神裂が止めに入った。

 

「ステイル!何をやっているのですか!」

 

「……!」

 

神裂が鋭い視線でステイルを睨みつけ制止させると、七惟にも同様にきつい口調で語りかけた。

 

「貴方も此処で死体の山を積み上げたくはないでしょう。家の中に押し込んだ少女、大切な方なのでは?」

 

「はン……口だけはよく回る連中だ」

 

七惟はもはや神裂の事も完全に敵として見なしており警戒を解きそうにも無い。

 

この場合上条が取るべき選択肢はただ一つ、早く七惟とこの二人を引き離すことだ。

 

「まあまあ!とにかくステイルと神裂は俺の家入れって!インデックスもほら!」

 

「何のつもりだ!僕はまだコイツと何も……!」

 

「いいから入れって!」

 

半ば強引にステイルを押し込むと、神裂が申し訳なさそうな表情で家の中に入っていく。

 

中でステイルが発火しないか心配でならないが神裂にそこは何とかしてもらおう。

 

ようやくこの場が上条と七惟だけになったのを確認し、緊張の糸が切れた上条は幸福が逃げて行きそうな大きなため息をつく。

 

「お前があの連中とどういう関係か知らねえが、今のお前と同じくらい信用出来ねえ奴らなのは確かだな」

 

「……」

 

あの事件以前の七惟理無と上条当麻の関係を今の上条は知らない。

 

しかしこの相手を疑いまくっているような七惟の視線からして、互いの関係がどんどん悪い方向へと向かっているのは明らかだ。

 

「じゃあな上条。ミサカ」

 

「もう終わったのですか?とミサカは安全性の問題からオールレンジと上条当麻に尋ねてみます」

 

「ああ、さっさと行くぞ」

 

「お、おい七惟!」

 

七惟はその後上条と取りあうことは無かった。

 

無言で七惟が横を通り過ぎ、ミサカが上条に一礼してから追いかけて行く。

 

「……それでも、アイツが巻き込まれるよりはまだマシなんだ」

 

一人その場に取り残された上条は顔を歪めて二人がエレベーターに入るのを見送った。

 

何とも言えない喪失感が身に降り注ぐのを感じる、こうやって友情とは失われて疎遠になっていくのだろうか。

 

 

 

 

 


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