とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版 作:スズメバチ(2代目)
因みに私が初めて異性と手を繋いだのは小学校高学年のフォークダンスです。
う~ん、20年くらい前のことで眩暈がする!
話の落としどころ…をと思ったが、一つだけ解消しなければならない点がある。
そもそも何故件の話をスクールの残党はともかく絹旗に言ったのか、ということだ。
絹旗は垣根生存に希望を持つはずがない、どちらかと言えば垣根に嬲られて大けがをした側だ、垣根に対して恐怖はあっても好意的な気持ちなどある訳がないのだ。
「じゃあ絹旗に言ったというのは?あいつが垣根生存について大喜びするとでも思ったか?」
「いいぇ。少し意地悪しただけよ。最近少し元気で見ていて羨ましくなったから、ちょっとからかったの」
「はぁ……?」
「それだけよ?」
「……」
心理定規ならば本当にそのくらいの気持ちで言い兼ねないから、判断し辛い。
絹旗がどういう態度で彼女と接しているのかは、分からない。
話を聴いている限りは悪態を突きつつも上手くやっている、悪いコンビではないというイメージ、二人とも殺しに関してはかなり抵抗感が強いのも共通している。
ともかく、この件は後程絹旗にも確認しなければ白黒つけられないし、状況からしてこちらに脅迫めいたことを言うのも心理定規にとってメリットが皆無だ、ここはそれで納得は出来なくても理解しておくしかない。
「私は妹達……貴方の美咲香ちゃんや、超電磁砲を襲えだなんて指令は一切出していないわ。これで満足したかしら?」
「……嘘じゃねぇだろうな」
「あら、嘘だと思うのなら私に貴方の能力を使ってみれば?」
「同じ精神系に携わる能力者同士、干渉は不可能。知ってて言ってるだろお前は」
「そうだったわねー」
「はン……」
どちらにしろ此奴の腹の底を知る事等七惟には不可能だ、というよりも学園都市に居る誰でもコイツからその真意を聞き出すことは出来ないだろう。
「じゃあそもそも何でそんなことをスクールの残党に言ったんだか。希望だぁ?アイツらは垣根の影に隠れて好き勝手やってきた小物だろ。お前ら二人にとって敵対することは無くても、有難がる連中じゃ絶対ねぇ。そんな奴らを励ますなんてお前らしくない」
「自分らしくない、それを現在進行形でやっている貴方からそんなことを言われるなんて驚きね」
「茶化してんじゃねえよ」
「先ほど言った通り。まぁ……彼らがあまりに私に付き纏ってくるから、追い払うため一つ目的を与えたっていうのもあるわ」
「アイツらがお前を垣根復活の親玉として神輿を担いだらどうする」
「私はいつも通り。そんな危ないお神輿に乗ったら大けがしちゃうでしょう?だからそんなことには成り得ないわ」
「……」
「そもそも垣根帝督は一方通行との戦いで行方不明。行方不明って言えばまだマシに聞こえるかもしれないけれど、実際は生きている可能性より死んでいる可能性のほうがずっと高いってことは私どころか皆も知っている事実よ?」
ダメだ、これ以上問い詰めても埒があかない。
嘘か本当かを切り詰めていっても答えが出ない、現状奴が言ったことを鑑みると心理定規のスタンスは分かった。
要するに垣根復活を仄めかしたのは此奴の完全なる気まぐれということらしい。
今はそれ以上の答えを出すことは七惟には出来なかったが……。
「分かった。それならそう捉えておく。お前の本心を聞き出すなんて心理掌握ですら不可能だろうよ」
「あら、常盤台のレベル5越えだなんて貴方も中々お世辞が上手なのね」
「それ以上に胡散臭いってわけだ」
「そう、自覚はしていたけど」
「そりゃよかった」
七惟は一気に残ったコーヒーを飲み干す。
心理定規は頬杖をつきこちらを見つめる心理定規。
もう頃合いだ、絹旗達も待っているだろうし長居は無用。
会計を済ませようと席を立ちあがる七惟に心理定規は声をかける。
「もうおしまい?せっかく久々にゆっくり会話が出来るのに」
「お前は俺なんかと話して楽しいのか?因みに俺はお前と話していても全然楽しくないからな」
「そう、つれないのね」
「……」
薄く微笑みながら彼女は視線を七惟から外さないが、何時もの含んだ笑みとは若干の違いを感じた七惟。
目を口ほどにものを言うというが、七惟は彼女のそんな表情を見つめているとふとある一つの疑問が浮かび口にした。
「心理定規」
「何かしら」
「垣根が生きていたら……ってお前は思ったりするのか?」
その七惟の疑問を聴いた彼女は、やはり頬杖をついたままこちらに含んだ笑みを浮かべてこう答えた。
「そうね。もしかしたらそう願っているからあんなことを彼らに言ったのかもしれないわ。自分の願望をね」
「……半分本当で半分嘘だな」
「そう?私は何も言っていないけれど」
「勘だよ、精神系統の能力を扱う奴のな」
「へえ、そう……それなら、私も最後に一言貴方に伝えておくわ」
「あぁ?」
「貴方、暗部抗争直後入院している際に自分の病室の表札を一度は見たかしら」
「表札?」
病室の表札……。
蛙顔の医者の病院に入院していたのは事実だ、暗部抗争直後は流石の七惟も重傷でまともに動くことは適わず最初の数日はほとんど病室から出られなかったが……。
ふと、あの時のことを思い出す。
それは絹旗が見舞いに来てくれた時のことだ。
病室の表札が七惟の名前じゃない、間違っているのかと彼女が確か看護師に問いかけていたことがあった。
確かその時の名前は……。
「表札にはこう書いてあったのよ。『七見理駆』って」
「……それがどうしたってんだよ」
「それ、私があの病院に伝えたのよ。彼の名前は『七見理駆』って」
「……」
「勘のいい貴方ならもう気付いていたかもしれないけれど、あの時貴方を病院まで運んだのは絹旗さんじゃなくて、私の部下。そして入院するときの手続きは私がした」
それは、そうだろう。
垣根に痛めつけられて満身創痍だった絹旗や、麦野と死闘を繰り広げていた浜面が七惟を背負って病院まで運ぶことが出来るとは到底思えない。
スクールの手の者が七惟を病院に搬送した、このことは七惟自身も絹旗に確認を取っている。
「結局何が言いたい?」
「貴方、不思議に思ったことは無いの?どうして表札には全く聞き覚えのない名字が記入されていているのか、そして……自分の境遇について」
「なんで俺の名前がそこで出てくる」
「貴方は自他共に認める、学園都市の超能力者。おかしいと思わなかった?そんな子が捨て子にされるなんて」
これから心理定規から発せられる内容は七惟にとってプラスになるような雰囲気ではない。
また口から嘘か真かわからないことを言ってこっちを翻弄してくるのだろう。
今度はその内容が絹旗ではなく、自分に関することということだ。
「馬鹿らしい、自分の境遇なんて自分が一番理解してる。お前の言葉遊びに付き合ってる暇はねぇよ」
取り合うだけ無駄だと思い、席を立ち上がろうとする七惟に心理定規が追撃の一言を放った。
「貴方の両親。本当に貴方をここに置き去りにしたと思う?『七惟理無』……そんな男の子は本当に存在しているのかしら?」
「あぁ……?」
両親のこと。
七惟が敏感になるポイントをついてきた。
絹旗の時もこのように話の流れの中で言ってきたのだろう。
聴くだけ損だ。
「そして私が病院に伝えた『七見理駆』……どういうことだと思う?」
「……」
更に畳みかけてくる心理定規。
あまりにも七惟の過去について思わせぶりな態度だ、何を言いたいのか見当がつかない。
どうせ根も葉もない噂話程度だろう、耳を貸すだけ無意味だ。
「もしかしたら……七惟理無なんて居なくて、『七見理駆』だったとしたら?」
「さっきからお前は何が言いたいんだ」
しかし、頭では聞き流そうとしていても口が開いてしまったが最後、心理定規は乗ってきたと言わんばかりに推し量れない笑みを深めて、続ける。
「幼少のころから貴方は超能力者の片鱗を見せていたはず。そんな有能な子供を親が捨てるとは思えない」
「……知るかよ。その片鱗に恐怖を感じて、自分たちじゃあ手に負えないから手放したんだろ、大方」
「あら、大外れね超能力者さん。答えは簡単よ」
「……」
「貴方、幼少期にこの学園都市に捨てられたなんて話は博士が作った真っ赤なウソ。本当は攫われた」
「はぁ……!?」
「自我が芽生える前だから、仕方がないかもしれないけれど。そして貴方、もうここまで来たら話の流れで分かっていると思うけれど名前も変わっている」
「どういう……」
「貴方の本当の名前は『七見理駆』。『七惟理無』っていう名前は博士が学園都市にわが子を探しにきた両親の目を誤魔化すため。それ以降『七見理駆』は『七惟理無』として生きている……どう?」
「どう……?」
「垣根帝督が生きているくらい、狼狽する話でしょう?」
「………………」
直ぐに飲み込んで消化出来る訳がない、自分自身を形成する根本が揺らぐ話だ。
思わずカフェの柱に寄りかかり目を閉じもう一度心理定規が発した言葉の意味を頭の中で吟味し、目を閉じる。
自分の名前は、本当の名前ではない。
目がくらむ、眩暈のするような話だ。
モンスターだと思われて捨てられたと勝手に思い込んでいた、この名前もそんな奴らがつけた名前だから愛着なんて微塵もない。
それが、違った。
あの博士が手を回していたことだったなんて、何故考えが無かったのか。
「驚きすぎて声も出ない?」
だが、立ちすくみ目の前が真っ暗になるような話ではない。
ふわふわとして覚束ない感覚はあるものの、自分の過去が揺らぐことはないのだ。
「…………はぁ、別にそこまでじゃねえよ。急にそんなことを言われても実感が湧かねぇし、そもそもお前の話を1から100まで全部信じられるかよ。そんなことしてたら世界がひっくり返るわ」
「あら……?」
驚きはもちろん、自分の名前が変わっていたというのもそうだし、攫われてこんなところにいるという話もそうだ。
だが、根本的なことは何一つ変わってはいない。
それは、彼女の話が嘘か真かに関係なく、自分はこの学園都市でこれまで一人で生きてきたし、そしてこれからもこの都市で生きていくしかないという現実だ。
昔から頻発するチャイルドエラー……俗に言う置き去りにされた子供たちの問題がある一方で、この都市で行方不明になる連れ去りの問題もよくあった。
だいたいは外部の都市から観光でやってきたカップルの小さな子供が狙われていた、そこは置き去りにされる子供と同じだ。
一方では意図的に捨てられて、一方では無差別に連れ去られる……捨てられた方は子供が、連れ去られたのは親と子が悲しみに暮れていたのだろう。
自分自身は前者だと思っていたが……後者とはもちろん初耳だし、狼狽したのは間違いない。
しかし、この話を聴いて七惟の身体は軽くなった。
「確かに、何だか表情がそこまで悪くないもの」
「そうかよ、お前の好奇心は満たされたか?それで」
「残念だけど半々よ。もっと凄い顔をすると思っていたから」
両親の追跡の目から逃れるため博士はおそらく自分の名前を弄った、ということは、両親は自分のことを探しに来てくれていたということだ。
まだ見ぬ両親の顔、死ぬまでに一度は絶対に拝んでやると決めた自分の生きていく目的が大きく変わった。
心理定規の話した内容を信用する訳ではない、唯今までとは違う選択肢が出てきたことで、自分の人生のレールに新たな方向性が加わったのだ。
「期待に添えなくて悪かったな。あばよ心理定規」
「そう。……また会える日を楽しみにしているわ『七見理駆』さん」
「その名前本当かどうかも分からねぇのに呼ぶんじゃねぇよ」
「博士につけられたその不格好なお名前のほうがお好み?」
「んな訳があるか。ただ」
「何かしら」
「由来は最悪だけどな、これでもこの名前で生きてきて、いろんな奴と会ってきてんだ。急に変えられてもそいつらに説明するほうが面倒くせぇし、呼ばれる俺自身が違和感しかない」
「そう、軽口叩けるくらいには応えていないのね」
「あいにくな」
次回はようやくデート回……!の予定!