とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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転校生の謎を追え-ⅴ

 

 

 

 

 

路地裏で七惟達を襲おうとしていた不穏分子を先に叩きのめしていたのは、数週間前に後方のアックアとの激闘を繰り広げた天草式の五和だった。

 

襲撃者を撃退した七惟達一行はその後無事駅にたどり着き、美琴の強い要望もありすぐにその場で解散、初春と佐天は電車で、美琴は何やら頑なに美咲香を家まで送っていくとのことだったので、彼女に任せた。

 

そして当の七惟はと言うと、件の五和と一緒に駅近くのカフェで向かいあっている。

 

 

 

「まさか七惟君と会うなんてびっくりしたな……、いったいどうしてあんなところに?」

 

「それは俺も同じだ、一体どんな理由があってお前が路地裏に居て変な連中を叩きのめしたシーンになるんだよ」

 

「質問を質問で返されるなんて、そういうところは七惟君変わってないなぁ」

 

「……あのな、別れてまだ数週間だろ。そう簡単に変わるか」

 

「そうだったね、何せ友達0の七惟君だから」

 

「なんか毒舌具合がどっかの小学生みたいだな……。俺達は駅までのショートカットで路地裏を使ったんだ。5人で喫茶店に入っててそれの帰りだ。美咲香がいただろ?今は学園都市内の中学校に通ってて、アイツの友達と超電磁砲が知り合いだった。それで5人で喫茶店行ってただけだ。天草式の連中があんまり怪しいことしてるとあの電気鼠に十万ボルト食らうぞ」

 

「七惟君は私達をいったいどういう目で見てるのかな……あはは」

 

「俺を見かけた途端に襲い掛かってくる暴漢として認識してるぞ」

 

「それはだいぶ昔の話じゃ……もう少し相手に寄り添ってください」

 

「最近もそうだったぞ?あと寄りそうも何も見つけた途端に手を出してくる連中に見える」

 

「あ、あんまり言い訳できない」

 

「それで、お前は?まさか一人であいつら追い払ったのか?というかあいつらは一体何してたんだ」

 

「私と牛深さんの二人で、屋根の上に潜んで七惟君たち……見つけた時は遠目だったから七惟君だとは分からなかったけれど、手に武器を構えて何やら攻撃しそうな雰囲気を出していたから。それを怪しんで声を掛けたら攻撃してきて、それに応戦して……というような感じかな。因みに牛深さんは人影が七惟さんだと分かるや否やすぐに去っていったから警戒しなくて大丈夫だよ」

 

「我ながら凄い嫌われようだな」

 

「それは私も含めて七惟君に殺されかけた人の一人で……一緒に居るとトラウマが蘇るみたい」

 

「そう考えるとこうやってお前と一緒にコーヒー飲んでるのも奇跡に近いな」

 

「それは私と七惟君の仲だから。結構おいしいね、ここのコーヒー」

 

 

 

このカフェは当初七惟達が美琴たちと出くわしたカフェとは違い、女子向けの煌びやかなお洒落な空間ではなくビジネスマンが利用しそうな落ち着いた雰囲気の店内だ。

利用している人間も学生なんてほとんど見受けられない、そんなところでセーラー服を着こんだ五和とこうやって話をするなんて誰が予想出来ただろうか。

 

五和が常に携帯しているであろう槍も今は折り畳まれており、槍頭も外されているため竹刀袋に収納されている。

 

 

 

「それで、俺の質問には答えてくれるのか」

 

「えーっと、私達があそこに居た理由、だったかな。簡単に言うと、アックアが学園都市に侵攻してまだ数週間しか経っていないから、私がこの都市の警戒に当たっているのは当然だよ。流石に事後をほったらかしに出来る程私達は非常識じゃないつもり」

 

「……まだ神の右席に関係する連中がうろついているかもしれない、ってことか?」

 

「それを懸念してるのもあるかな。まぁ今回撃退した人たちは無関係そうだったから、七惟君達に敵意がありそうだったので一応声をかけてみた、そしたらその結果が今の状況って感じかな」

 

 

 

七惟を襲おうとした連中は垣根復活を目論む連中に間違いない、しかし連中の戦力は身体強化を受けていない五和とおまけ一人で撃退出来る程の実力しかないようだ。

やはり動いている輩は全てレベル3以下と断定して問題なさそうだ、そう考えると脅威はかなり落ちる。

 

 

 

「今のところは、何かが起こってるってことでもないと思う。きっと大丈夫」

 

「五和が大丈夫って言うとなんか不安になるな」

 

「ぜ、前回のことは水に流して!」

 

「嘘だ、実際大丈夫だったしな。お前の御蔭で」

 

「私の御蔭だなんて……七惟君らしくないよ」

 

 

 

事実だ。

 

 

 

この天草式の構成員の一人でしかない五和という少女は、そのか細い腕からは想像出来ない程に巧みに槍を操り、後方のアックアというおそらく最大の敵を撃破してみせた。

 

もちろんそれは五和単独の力ではなく、その背後には現場で戦った天草式はもちろん、聖人の神裂や七惟、七惟を逃がした絹旗、現場に居合わせては居なかったがインデックス、そして彼女のメンタル面での推進力となった上条、これら全員の力を合わせた結果である。

 

ただこれら全員の力を一つに合わせてその結果を生み出したのは目の前で苦笑している彼女の功績、それは間違いない。

 

そうでなければそもそも七惟は天草式と共闘しなかったし、絹旗もちろん助太刀なんてしてくれなかった。

 

インデックスから二重聖人の弱点を聞き出して天草式と神裂が立ち上がる時間も作り出すことは不可能だっただろう。

 

これら全ての中心に五和が居た、それは彼女の功績なのだ。

 

 

 

「謙遜すんな。あの時も言った……お前はすげぇ奴だよ」

 

「や、やややめてもも、貰えるかな?そんな真正面から、七惟君に褒められると……そ、その。照れちゃう、から……」

 

 

 

顔を赤らめ視線を外して下を向き笑ってみせる五和。

 

……何だか今迄にない仕草だ、七惟とこうやって喋る時の五和は結構直球ストレートを遠慮なしにぶつけてくる。

 

美琴が暴力のストレートならば五和は言葉のストレート、というイメージだったが。

 

 

 

「照れることじゃないだろ、事実だぞ?」

 

「――ッ、……あ、ありがとう。七惟君に言われるとやっぱり嬉しい、かな……」

 

「まぁ死線を共に潜り抜けたしな」

 

「そ、そうだね……でも、それだけじゃ」

 

「何か言ったか?」

 

「あ、う、ううん。何でもないよ」

 

 

 

アイスコーヒーのグラスに刺さったストローに口を付け、俯きながら啜る五和の表情はこちらかは読み取れないが、きっと手放しに褒められて照れているのか。

 

実際にそれだけ賞賛されるに値することを彼女はやってのけた。

 

七惟がやったことなんてそれに比べれば唯の時間稼ぎに彼女の最後の一手の手助けをしたくらいだ。

 

ただ、あの時の全体の妙な一体感……七惟だけじゃない、神裂も、天草式も……そしてあの場におらず事情を知らなかった絹旗でさえも、たった一つの目標のために全員が全力を尽くした。

 

そして得られた結果だけに七惟も今までに感じたことが無かった達成感を得たのは確かだし、今でもあれは得難い貴重な経験、感情だった。

 

 

 

「そういやあの後ちゃんと上条のところは行ったのか?アイツも現場に駆けつけようとしてベットから飛び降りて看護師にとめられたりと大変だったらしいぞ。そして飛び降りた衝撃で痛めた場所をまた痛めたりと踏んだり蹴ったりだったはずだ」

 

「あ、えっと……。上条さんのところにもちゃんと行って話はしたよ。でも、インデックスさんがつきっきりだったでそこまでしっかりとお話は出来なかったかな」

 

「サボテンにしっかり報告したか?貴方は私が守りました!って」

 

 

 

からかうようにちゃかす七惟、七惟が上条のことをサボテンというのは決まって五和を始めとする上条フラグ勢を弄る時によく使う台詞だ。

 

もちろん五和もこれに面白いように反応する。

 

 

 

「そ、そんな傲慢なこととても言えないよ。あれは皆で勝ち取った勝利だから、お体をお大事にとだけ」

 

「……それだけか?」

 

「え?それだけだよ?何か変なこと言ったかな?」

 

 

 

おかしい、上条にフラグを立てられているはずの五和が奴のことをサボテンと揶揄されてこの冷静な反応と切り替えし。

 

今迄の彼女だったならば有りえない、いったいどういうことだ。

 

 

 

「あのな、上条にアピールする絶好のチャンスだろ。飯まで作りにいって、そしてアイツのために戦って……これまでにないチャンスだったんじゃないのか?」

 

「はぇ?…………あ、そ、そうだね!」

 

「さっき俺と一緒にいたあの電撃ビリビリ女もしっかり上条狙ってんだが……?」

 

「そ、そうなんだ……流石上条さん、皆のヒーローで……憧れで。中学生?かどうか分からないけど、ああいう年下の子からも好かれるんだなぁ」

 

 

 

窓の外を見てそうやって言う五和の横顔はとてもすっきりしていて、何のもやもやも蟠りすらも感じられない。

 

変だ。

 

摩訶不思議なことが今目の前で起こっている。

 

天草式の五和という少女は……間違いなく、間違いなく上条当麻にぞっこんだったはずだ、それはもう燃え盛る火を見るよりも明らかなレベルで。

 

初めて会った学園都市から外れた外部の教会の時には既に陥落していたし、キオッジアで七惟を奇襲攻撃したときなんて目の前に敵が居るのにそっちのけで上条が居る家に向かっていたくらいだ。

 

更に意味不明なお土産も買って、そしてアックア戦の前でも彼に振り向いて貰うために家事スキルを存分に発揮する!と意気込んでいたというのに。

 

きっと何時もの五和ならば此処でビリビリ中学生が恋敵として現れたならば、彼女の特徴を根掘り葉掘り七惟に聴いて如何にして彼女より上条にアピールするかを考えるような奴だったはずなのに。

 

 

 

「……何かその落ち着きよう、お前らしくねぇなぁ。……上条のこと、諦めたのか?」

 

 

 

思わず、本音がぽろりと零れる。

 

元々人の気持ちを察して発言するのが苦手だった七惟からしてみれば平常運転、普通の人間であったならば完全な失言。

 

まぁそんなことない!とか烈火の如く怒り始めるだろうと予想していた七惟だったが、彼女の返答は彼の想像にかすりもしなかった。

 

 

 

「何ていうか……その、きっと上条さんに対するのは強い憧れだったんだと思ってて。今になって思ってみると、私が抱いていたのは隣を歩ければどれだけ幸せなんだろうか、とか……そういう、憧れでしかなかったのかなって思っちゃって」

 

「……そう簡単に割り切れるものなのか?」

 

「割り切るも何も、私自身がそうだと感じちゃったから。ある人の言葉を聴いて、ある人を見ていたら」

 

「ある人……?」

 

「うん、それにきっと好きっていう感情は……一緒に歩いたら幸せだとか、ご飯を食べて貰って喜んでくれたら、とか……それだけじゃないんだって思ったから」

 

 

 

そう言って笑う五和は、何だか雰囲気も、仕草も、言葉のイントネーションも何時もと全然違っていて……耳に掛かった髪を払う仕草が、もう本当に今まで見てきた彼女とはちがって。

 

 

 

「……そう、か」

 

「うん、きっと……好きな人っていうのは、そんな受動的なものじゃなくて。その先も一緒に居たいって、こっちを見てくれて一緒にいるだけでいいって感じるんだと思う」

 

 

 

どきまき、した。

 

何時もと違う長袖のセーラー服が影響しているのだろうか、もうよく分からないが何だかこの空間を流れている空気は今まで七惟が経験したことが一切ないものだと感じる。

 

何だかあの病院でのやり取りから、五和と話をしていると調子がおかしくなってしまう。

 

 

 

「……そういや、どうして今日はセーラー服なんだ?そんなの滅多に着ないだろうし、着てたところを今までみたことがない」

 

 

 

この違和感、取り敢えず何とか会話のネタを上条関連から逸らさなければ何だか五和のペースに巻き込まれると感じた七惟は試行錯誤し別の方向へ話を持っていこうするが。

 

 

 

「この服装のこと?うーん……一言で言えば町に混ざりやすい違和感ない服装というのはこういうものだろう、って昼間はこの格好にしているのもあるけれど」

 

「けど……?」

 

「きっとある人は、こういう服が好きなのかなって思って」

 

 

 

…………何だろう。

 

何も、言えなくなってしまった。

 

 

 

「あ、そうだ」

 

「あぁ?」

 

「七惟君の退院祝いはどうかな?こないだは簡単なお礼しか言えなかったし、何かしたいなって」

 

「別にいらねーよ、この通り五体満足で健康なんだからそれが一番だろ」

 

「そう言わないで。美咲香ちゃんも一緒にどうかな?」

 

「美咲香も、か」

 

「うん、美咲香ちゃんも私達の為に駆けつけてくれたから」

 

「まぁ、そうだな……」

 

 

 

どう返答しようかと思いちらりと流し目で五和を見つめると……。

 

そこには今までに見たことがないくらい、朗らかな表情をした彼女がいた。

 

 

 

「……わかった」

 

 

 

その笑顔を前にして、とてもNOとは言えない七惟であった。

 

 

 

 

 

 


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