とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版 作:スズメバチ(2代目)
「あぁー、美味しかった。あんな美味しい店を知っているなんて流石御坂さん!」
「あは、あはは……それほどでも。喜んでくれたみたいで良かった」
「……ホントにな」
こんなに疲れ切っている超電磁砲を見るのは七惟は初めてである。
一行は好奇心に溢れまくる佐天の追撃を何とか回避してこの戦場となったカフェを後にした。
初春、美琴、七惟の3人はようやく解放されたと安堵する一方、帰り道でこの話題が再発しないかハラハラものだ。
美咲香にはぜひともあそこで佐天の追撃を許すような一言を放った理由を根掘り葉掘り聞きたいものである。
美琴のそわそわ具合を見るに一秒でも早く七惟・美咲香の二人から離れたいようだが、自分たちから離れたところで佐天が突っ込んでくるのは火を見るよりも明らか。
ここは一秒でも早くそれぞれが別の方向へと向かう駅へ向かい、そこからバス、徒歩、電車の交通手段でばらばらになるのが最適解だ。
「あ、こっち通ったほうが駅まで早いかな」
「そうなんですか?表の通りからはちょっと離れちゃいますけど」
「いいのいいの、この辺りは私もよく来てるから分かるんだって。ちょっと路地の通りになって道も狭いけど!」
「御坂さんの言う通りにしましょう、佐天さん!」
美琴はやはりすぐにでも駅に向かいたいようだ、その思いを汲み取った初春は佐天を制止しついていく。
勿論七惟と美咲香はそれに従うが……。
結標からこの学区で妹達を狙っている不穏分子の動きがある、と聞いているだけにおいそれと後ろを歩いていくのは何となく抵抗がある。
しかしそうは言っても佐天涙子という爆弾を背負ったまま美琴を置いていくわけにもいかない、不安を残しつつも彼女達の後を追いかけた。
路地裏を黙々と進む美琴、その後ろをわいわい喋りながらついていく初春に佐天、そしてその佐天に時折話題を振られ何時もの調子で返す美咲香。
最後方は七惟だ、まぁ不穏分子が幾ら妹達を狙っていてその獲物がすぐ近くに居たとしても前方と後方をレベル5に固められてはそう簡単に手は出せまい。
そして美咲香自身も忌まわしいことだが一方通行との研究のせいで戦闘訓練は受けており、彼女もれっきとしてレベル3だ。
下手な暗部組織の連中であれば美咲香一人にてこずるだろうし、更にこのレベル5の防御壁。
そんなところに手を出してくるであろう馬鹿はそうはいないはずだが……。
「……!ちょっと止まって、二人とも」
「はい?」
「どうかしました?」
「…………ねぇ!七惟!何か変な音しなかった?」
どうやらいたらしい、こんな防御網を突破しようとする学園都市最大級の馬鹿、もとい命知らずが。
「鈍器か何かは分からないが、殴るような音だったな。お前も聞こえたのか」
「そんなところ……学舎の園に不審人物が出るなんて聞いたことがないけど、念のためよ」
「え、何かあったんですか?」
「これはひょっとして不味い感じ?」
七惟と美琴の対話を聴いて異常を感じ取る佐天と初春。
「……まさかレベル5が二人いるってのに襲ってくる暴漢なんて居ないでしょ」
「レベル5の顔を知らない馬鹿なら脅威無し、分かってて襲ってくるならそこらへんのスキルアウトや不良とはえらく違うぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください御坂さん。今の言い方だとレベル5が二人って……一人は御坂さんで、もう一人は?」
「あれ?二人ともそいつから聞いてないの?コイツよ、レベル5」
「え……ええええぇ!?七惟さんの御兄さん、レベル5なの!?どうなってるの七惟さん!」
「はい、私の兄は一応レベル5で序列は第8位のはずですと事実をお伝えします」
「ど、道理で御坂さんが普通に会話してる訳ね。レベル5同士の二人は友達ってことか~。合点がいったかな、年上相手にあんな喋り方するなんて普通無理だもん!」
「今さらっと佐天さんはお姉さまにえげつない一撃をお見舞いしましたと説明します」
「あわわ……御坂さんに、第3位の電撃マスターに加えて今度はオールレンジの異名を誇る学園都市第8位だなんて……」
今七惟達は先ほどのような列を作っての移動ではなく纏まって動いておりそのせいで美琴と七惟の会話は佐天達にダダ漏れだ。
別に彼女たちに対して自分がレベル5であることを黙っていた訳ではない、ことさら話す機会も無かったことだ。
しかし二人に自身の素性を伝えることで美咲香の交友関係に対し何らかの影響が出ることは必至だから、自分の素性は聞かれるまで進んで話すこともないと判断したまで。
「お兄さん!後で色々聞かせてください!学園都市のオールレンジと言えば皆が知ってる都市伝説がいっぱいなんです!」
「さ、佐天さん!今この状況でそんなこと言わないでください!すみません!」
「いいって。それに二人とも警戒してるみたいだけど、変な音がしただけだから。ささっと抜けるぞ」
既に七惟達は結構深いところまで路地裏を進んできている、此処まで来たならば引き返すよりも抜け去ったほうが余程早いだろう。
美琴と万が一の時の対応を話し合った七惟は佐天、初春、美咲香を守るような形で路地裏を進んでいく。
歩きながら七惟は敵であろうスクールの生き残りのことを考える。
スクールの生き残り……と言ってもスクールは心理定規以外は誰も残っていない。
ヘッドギアの男は麦野が殺したし、リーダーである垣根に関しては一方通行との戦闘の後に消息不明となっている。
ならば生き残りとは誰のことか、となってくるが答えは簡単だ、生き残りとはスクールについていた下位組織の人間達に他ならない。
心理定規がこんなことをしないのは七惟自身もよく理解している、そもそも彼女は単体ではほとんど戦闘能力が無くて垣根のサポート役以外主な戦闘での役割はない。
複数人で喧嘩を売られてしまっては彼女お得意の心理攻撃も対応出来ずに逆にリンチになる。
それに彼女の性格から考えても垣根の仇討なんてやらない、余程垣根に対して特別な恩義があるならば別なのかもしれないがそんな話は聞いたこともないし想像もつかなかった。
攻撃を仕掛けてくるのはレベル3以下の暗部の人間、おそらく肉弾戦になるだろうが近接戦闘に対して無類の強さを誇る美琴が居るのだから9割方大丈夫だ。
大丈夫じゃないとしたら……イレギュラーな事態が起こった時。
しかし七惟の不安を煽るかのように再度鈍い音と悲鳴のような声が周囲に響き渡った。
「……近いか?」
「かもしれないわ……!」
それと同時に七惟の目の前にどさっと人が上空から落ちてきた。
そして更にもう一人、間髪入れずに同じように人が上空から落ちてきた。
襲撃か、と身構えた七惟と美琴だったが……。
「く、くっそお!取り敢えず逃げんぞ!」
「お、おう……いってえ」
二人が行動を起こす前に、襲撃者であろう二人は尻尾を巻いて逃げていく。
状況が呑み込めず唖然とする七惟達だったが、そこに襲撃者を七惟達の代わりに撃退した人物が現れた。
「あ、あれ……七惟君?どうしてこんなところで……あ、美咲香さんもこんにちは」
「……五和?」
何時ものキャミソールやデニム、ハーパンといった私服とは違い目新しい黒色の冬用セーラー服を着こんだ五和だった。
「それはこっちの台詞だぞ五和。まさか暴漢がお前らなんてオチはねぇよな?」
「え、えぇ……?話の流れがちゃんと掴めてないけど……七惟君たちに敵意を剥きだして睨み付けてる人がいたから、声をかけて。そしたら襲い掛かってきたから迎撃した感じかなぁ」
なるほど、要するに唯の女だと舐めてかかって返り討ちにされた訳か。
スクールの残党もレベル5に加え魔術師まで敵にまわっていたとは、ついていない連中である。
また……まだエターナルする訳にはいかないんだ!