とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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七惟がミサカに教えて貰った場所に着くと、既に実験は開始されていたようで至るところで硝煙が上がっている。

煙の上がっている場所を当たっていくと、3個目の煙でミサカと奴を発見した。

「おィどうしたァ?一万回も殺されてンのに相変わらず学習しねェんだなァ!」

「……!」

ミサカは一方通行に追い込まれていた。

いったいどんなパターンで戦闘をこなしていたか分からないが万事休すの状態に見える、さてどうするか……。

七惟の力では一方通行に勝つことはまず不可能である、それは1年前の経験から考えても間違いない。

だからと言ってここで尻尾を撒いて逃げるくらいならば、あれだけの啖呵を切っておいた癖にというわけだ。

「奴には『距離操作』も『時間距離』も通用しねえしなぁ……」

対象を可視移動させる方法も、転移させる方法も通用しない、時間距離を操ってアイツの動きを制限しようがこちらの操作を上回る力のベクトルを生み出す奴には意味を成さない。

最後に残されているのは最も扱いが難しいとされる『幾何学的距離操作』であるがこれはまだ七惟も完全に扱えるというわけではない。

しかしアレを倒すためには奴の反射装甲を貫くであろうこの幾何学距離操作がヒントとなるはずだ。

待てよ……確か幾何学的距離操作の基本にAIM拡散力場への干渉が……。

「……考えてる暇ねえな。このまま傍観する訳にもいかねぇ」

七惟は大きく深呼吸をし、意を決して一方通行に向かってコンテナを射出した。

一方通行はミサカを見たままにやついており、コンテナには気付いていない。

「あァン?」

コンテナがぶつかった瞬間、コンテナだったそれは木っ端みじんに豪快に弾け飛んだ。

「こンな時間にコンテナの投擲大会なんざ始める奴ァ何処のドイツですかァ?」

「はン、相変わらず実験なんざに汗水垂らして御苦労さんだな糞野郎」

「てめェ……こないだ逃がしてやったってンのに」

「ケッ、勝負はまだついてねえだろ?そんなモルモット相手にするよか俺とドンパチやったほうが楽しいぞ?」

七惟は挑発的な姿勢を崩さないが、内心は焦りがあった。

奴の反射装甲をぶち破る方法を七惟はまだ完全には見出していない、はっきりいって賭けなのだ。

失敗すれば間違いなく自分は殺される。

「なンなのかと思いきやァ、自殺希望か?コイツらの代わりにてめェが死ンでくれるみたいだなァ!」

「お前だろそいつぁ」

「減らず口は相変わらずだなァレンジ野郎が。てめェじゃ絶対俺には勝てねェってコトがまだわかンねェみたいだなァ!」

分かっている、そんなことは。

そもそも人との関係を避けていた自分が誰かのために命を張ってでも動こうとしていること自体が自分にもまだ分からない。

それでもと七惟は思う。

アイツ等に死んでほしくはない、そしてまたバイクに一緒に乗りたいと。



それだけで理由なんて足りるんじゃないか?それ以外に理由なんざ考える意味はない!



「知るか!後で吠え面掻くんじゃねぇぞ!」

「カカカ!今日がてめェの命日だァ!」




 


学園都市最強の男-1

 

 

 

 

 

「ガッ!?」

 

 

 

操車場にて一方通行と闘いを繰り広げていた七惟だったがやはり状況は劣勢を否めず、遂に七惟は一方通行の蹴りを直に受けて吹き飛びコンテナに叩きつけられる。

 

ただの蹴りと言うわけではない、ベクトル操作を行ってその破壊力を通常の何倍にまで高めたソレは七惟の下腹部を躊躇なく破壊した。

 

「おィどうしたァ!まだまだこっちは遊びたンねェなァ!」

 

「はン……相変わらずお前は無茶苦茶にしやがる」

 

やはり奴の能力は完全無欠だ、弱点らしい弱点がまるで見えてこない。

 

「口だけってンのはてめェみたいな奴のコトを言うンだろうなァ……雑魚が」

 

 

『雑魚』

 

 

その言葉が頭に響き渡る。

 

そう、七惟が学園都市の誇るレベル5で序列8位の超能力者だとしても奴の前では『雑魚』に過ぎない。

 

と言うよりも、第2位の未元物質以外は奴にとってはそこらへんに居る蟻を踏み殺すかのように容易いことなのだ。

 

人を殺すのは。

 

「言っておくがなァ、今日は逃がすつもりはねェ。大人しく引きこもってたほうが良かったンじゃないですかァ?」

 

余裕の表情を見せる一方通行に七惟の怒りも増していくが、その怒りに対して身体のほうはついていかない。

 

このままでは本当に殺されてしまう。

 

「知るか糞野郎が。そうやって足元みてねえと掬われんぞ!」

 

七惟は一方通行に向かって転がっていた石を転移させるが、やはりそれも反射の前に弾かれる。

 

「そればっかりだなてめェは。まだモルモットのほうが楽しめンぜェ?」

 

「何とでもいいやがれ……」

 

七惟は激痛を抑えながら立ち上がる、もう残された手段は一つしかない。

 

「無駄な抵抗ってンのは俺には理解出来ねェなァ!」

 

当初の予定通り距離操作を二つ同時にこなし攻撃を仕掛ける。

 

賭けだが……奴のAIM拡散力場に直に干渉して、奴とAIM拡散力場の関係を希薄にし反射装甲をぶち破る。

 

貫けるかどうかの保証はないが……これをやらなければそれこそ一方的に殺されるのは必至だ。

 

七惟は鉄の棒を拾い上げて構える。

 

「おィおィ……今更そンなンで何するつもりだァ」

 

「ッ!」

 

七惟は同時に距離操作を行う。

 

一つは当然鉄の棒を転移させる演算。

 

そしてもう一つは、幾何学的距離を操作するための演算。

 

次の瞬間七惟の手から鉄の棒が発射される。

 

それはスピードを殺さず猛然と一方通行が立っていた場所へと向かう。

 

本来なら木っ端みじんなるはずの鉄の棒に一方通行は下らなそうに顔を歪めたが……。

 

どうしたことか、その木端微塵になるはずの鉄の棒が一方通行に衝突すると衝撃で爆ぜるだけでなく、同時に一方通行を弾き飛ばしたのである。

 

「ガ……!?……ンだとォ!?」

 

今度は一方通行がコンテナまで吹き飛ばされ、容赦なくその体が叩きつけられる。

 

「上手くいきやがった……か」

 

AIM拡散力場と一方通行の関係を希薄にしたのはほんの一瞬だ。

 

奴は第1位とだけあってAIM拡散力場との関係が非常に濃く干渉するのが難しかったが不可能ではないようである。

 

今まで何物にも触れられたことのない一方通行は、当然吹き飛ばされたりされたことなどあるわけがない。

 

一方通行が粉塵の舞い上がる空間から立ち上がる。

 

経験したことのない現象と痛みに、その男は戸惑うばかりか笑みを浮かべていた。

 

「カカカ……なンなンだてめェ!何しやがったンですかァ!」

 

「はン、言ったろ。足元掬われるってなあ!」

 

七惟は次の攻撃へと移ろうと演算を開始するが、開始してすぐに激痛が走り処理が中断されてしまった。

 

やはり……。

 

「そンな隠し技があったなンてなァ!もう容赦しねェ!」

 

「チッ!」

 

七惟はその場を飛びのき、ロケットミサイルと化した一方通行の突進を回避する。

 

やはり、この演算は処理が複雑すぎてまだ自分には扱いきれない。

 

二つ同時の距離操作は予想以上に脳に負荷がかかる、無理をしてやっていけば意識が飛んでしまいそうだ。

 

それに最強クラスの強度を誇るAIM拡散力場を持つ一方通行のソレに干渉するなど第8位にとっては一度やるだけで大仕事、絶えず行うなど無謀過ぎる。

 

その後も攻撃の手を緩めない一方通行に対し極端に動きの鈍る七惟、戦闘はまた一方的になり始めた。

 

当初は七惟の動きを警戒していた一方通行だが動きの鈍った七惟を見て悟ったのかもしれない。

 

一方通行の吹き飛ばした鉄筋が七惟に向かって飛んでくる、それを回避した先にはまた別の鉄筋、やっとの思いで回避した先には一方通行のベクトル操作の蹴りが。

 

何とか急所を避けたものの本日二回目のコンテナ直撃。

 

背骨がやられたんじゃないかと思う程の激痛、どうやら立てそうにも無かった。

 

「カカカ……どうやらもうあの攻撃は出来ないみてェだなァ」

 

「どうだが……」

 

「してこないってェのはてめェが素直に答えるより立派な解答になンだぜェ」

 

やはり気付いていたか、こうなるとまた一方通行のワンサイドゲームだ。

 

七惟は距離操作を行いながら逃げるしかないが、あまりの全身の痛みに回避行動すら取れそうにない。

 

「さァて、綺麗に一瞬で終わらせてやンよォ」

 

一方通行に殺されかけた一年前の記憶が恐怖となって甦る。

 

あの時は喚き叫び破壊の限りを尽くしたが、今度はそれを止めにかかる研究員も居ない。

 

此処までか――――――!?

 

『死』が迫るのを感じる、身を埋め尽くす程の膨大な恐怖が身体の中から溢れだし表層を食い破って身を襲う。

 

頭の中がぐちゃぐちゃになり、何も考えられない……どうすればいいのかすら分からない、自分を押さえつけられない。

 

腹の底から湧きあがってくる理解出来ない衝動が全身を動かそうとする、一体何をしようとしているのだ自分は―――――。

 

無意識の内に七惟は地面に手を置いた、そして開始し始めたのは去年と同じ演算だった。

 

それは―――自分もろともこの区一体を人工的な地割れで奈落の底へと突き落とす演算。

 

「……!てめェ!」

 

一方通行が七惟の異変に気付きすぐに止めを刺そうと飛びかかるが。

 

 

 

 

 

「七惟!」

 

 

 

 

 

「あン?誰だァてめェは」

 

自分を呼ぶ声がした、混乱を極めていた頭が正常な回路に戻り始める。

 

しかしこんなところに自分の知り合いなんざ来るわけがない、ミサカが呼んだと思ったが彼女は自分のコトをこんなに野太い声では呼ばない。

 

「大丈夫か!?」

 

声の主はまさかの上条だった。

 

「ケッ……なんでお前がいんだよ上条」

 

訳が分からない、どうしてあの男がこんな所に居るのか。

 

まさか……止めに入ろうとしている?

 

「そんなのは後だ!コイツは俺に任せろ!」

 

やはりこの男は一方通行を止めに来たようだ、しかし相手が悪すぎる。

 

少なくとも同じレベル5ですら虫けらのように嬲り殺す相手なのだ、そんなのを相手に無能力者が勝負を挑むなどと……。

 

「ざけんな、俺が触れられないような相手なんだぞ!お前なんかが……」

 

七惟の忠告を無視して上条は一方通行に襲いかかる。

 

「おィおィ、いきなり現れて殴りにかかるとァなンなンですかァ!」

 

一方通行は相変わらず余裕の笑みを浮かべている。

 

それはそうだ、奴の反射装甲は完全無欠で七惟のようなイレギュラーな事態を除けば全てを無効化してしまう。

 

「俺の拳はちっとばっかし響くぞ!」

 

上条が突き出したその右拳、七惟はベクトル反射でへし折られるだろうと思っていたが。

 

「がァ!?」

 

「まだまだこんなもんじゃ終わんねえ!」

 

その拳は反射装甲をモノともせず一方通行の左頬を的確にとらえていた。

 

何故―――?自分ですらあの装甲を貫くのに1年以上かかったというのに。

 

まさか……

 

「幻想殺しが……?」

 

序列1位の一方通行の反射すら貫いてしまう、奴の絶対的な武器である右手。

 

七惟と上条が勝負する上では、七惟にとって何の脅威でもないのだが……。

 

「素手戦に慣れてない奴に対してならもしや……ってとこか」

 

一方通行はその絶対無敵の能力のおかげで殴られたことなど今まで一度も無い。

 

二人の戦闘の様子を見てみると七惟の時と違いわけのわからないコトが起こり、それが上手いこと働いて一方通行から冷静な判断を奪っているようだ。

 

もしかしたら、本当に奴を倒せるのかもしれない……。

 

「アンタ、もしかして……七惟理無?」

 

「はン……。オリジナルか」

 

七惟の背後から傷ついたミサカと共に現れたのはミサカのオリジナルである御坂美琴だった。

 

彼女は七惟が此処にいるのが心底意外だと言わんばかりに目を丸くする。

 

「オリジナル……アンタ、事情を知ってんの?それにその傷……」

 

「さァな。こんくれえ傷になんねえよ短パン」

 

「そぅ……でもどうして」

 

「考えたくもねぇ」

 

自分だって、分からないのに教えられるわけがねえ。

 

「ありがとう、って言えばいいのかしら」

 

「言わなくて結構。俺は俺のタメに動いてただけだ」

 

「アンタらしいわね」

 

「むしろ俺らしいって何だよ」

 

「そういう強気な態度がよ」

 

「そうかい」

 

七惟と美琴が合うのは勝負以来だが、あの時から比べると若干やつれており顔にも疲れの色が見えた。

 

コイツも自分なりにこの実験を止めようと奔走していたのだろう。

 

七惟からすれば美琴に訊きたいことは山ほどあるのだが、今はそう言った場合ではない。

 

理由やその過程はともかく、今は互いに利害が一致しているのだ、標的を倒すことに全力を尽くすのがベストだろう。

 

「んで?あのサボテン、右手が効いてる内はいいが糞野郎が冷静さを取り戻したら瞬殺されんぞ。お前は手をかさねえのか?」

 

「私は手出し出来ないわ、この実験が中止されるにはアイツだけの力で倒さないといけない」

 

アイツ……か、コイツと上条が知り合いだってのにも驚いたがまあ問題はそれではない。

上条一人だけの力か……しかし、ばれなければいいのだろう?

 

「はン……ばれなきゃいいんだろ?」

 

「え、ちょっとアンタ何すんの!?」

 

「さあな。ちっとばっかり弄くらせてもらうだけだ」

 

上条も今は奮戦しているが、旗色が悪いのは明らかだ。

 

手遅れになってしまう前にコトを終わらせるのが最善の策。

 

七惟は上条と一方通行の位置を確認し、そして――――。

 

「距離が―――!」

 

美琴がそう叫んでいた時には、上条の鉄拳が一方通行の顔面を的確に捉えていた。

 

「アンタ、もしかして距離を!?」

 

「どうだか、な」

 

「でもこれで……」

 

不味い、美琴の声がえらく遠くで聞こえる。

 

「……そうか」

 

「アンタにも、アイツにも迷惑……かけちゃったわ」

 

「……」

 

どうやら一件落着らしい、そう思った瞬間緊張の糸が切れて急速に意識が遠のき始める。

 

「ちょっと、聴いてる?」

 

応える余裕がない七惟はぐったりとしたまま頭を垂れる。

 

「あ、アンタ!?ちょっと大丈夫!?」

 

「殴られ……過ぎた」

 

意識が、完全に飛んで行った。

 

 

 

 

 


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