ChuSingra46+1の妄想小話   作:berdysh

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2時間ごとに投下


夢の中だけでも 大石内蔵助

 私達は山科で暮らしている。

 

 あの夜、我らは吉良邸に討ち入った。結果、見事仇討ちを成就することができた。

 

 直刃と別れ、後は亡き殿の元へと参るだけのはずだった。

 

 だが、我らには恩赦が出され、釈放された。

 

 朝廷からの口添えなど、期待していなかったにもかかわらず・・・・・・事の後、彼らは裏切るとわかっていた。

 

 しかし、我らの咎は許された。

 

 その結果、数こそ少ないが、新しい主の下でこれからを生きる事を選んだ者がいた。

 

 放浪の旅に、行く宛のない旅に出るものもいた。

 

 誰も彼も、新しい道を歩き出している最中、私はつい最近まで暮らしていた山科の家で暮らしている。

 

 私と主税と、

 

 直刃の3人で暮らしている。

 

 

 

 私と直刃は・・・・・・夫婦として。

 

 

 

 

 畑で力仕事をする直刃。

 

 家事全般と、私たちの身の回りの世話をする主税。

 

 花に水をやり、のんびりと余生を過ごす私。

 

 

 

 母上、少しは何かしてください。これでは誰と誰が夫婦かわからりませんよ?

 

 直刃は私のものじゃ、やらんぞ!

 

 そうではなくて、母上も働いてくださいと言っているのです!

 

 むぅ、しょうがない・・・・・・そこまで言うなら、少しだけならわけてやってもよいぞ

 

 違います!

 

 私たちの会話を聞いて苦笑いを浮かべる直刃と、頬を上気させた主税を見て、途方も無い幸せを感じていた。

 

 

 

 

 主税、恐らくそう遠くないうちに弟か妹ができるぞ?

 

 ・・・・・・それはそうでしょうね。もう少し母上は声を抑えてください

 

 なんじゃ聞いておったのか。混ぜてはやらんぞ?

 

 だ、誰がそんなことを!

 

 名前はどうしようかの? お主も一緒に考えぃ。まぁこれから沢山産む予定じゃからどれだけ考えても問題ないかもしれんが。

 

 どれだけ産むおつもりなんですか・・・・・・年を、

 

 あ”ぁ”?

 

 ひぃ!

 

 

 

 娘と交わされる他愛のない会話。

 

 それをいつも私の横で聞き、笑顔を浮かべる直刃。

 

 幸せな毎日じゃ・・・・・・

 

 こんな夢のような毎日が・・・・・・夢?

 

 

 ・・・・・・夢・・・・・・

 

 

 自分の左腕を見つめる。そこには・・・・・・

 

 

 

 そこには、白い大蛇に噛まれた痕は、なかった。

 

 

 

 ・・・・・・これは夢

 

 

 

 顔を上げ、すぐそこにいる直刃を見ると、悲しそうな顔でこちらを見ていた。

 

 そうか・・・・・・私は・・・・・・私は夢を見ているのか。

 

 夢だと・・・・・・これが私に都合のいい幻だと気づいてしまった。

 

 今まで輝いていた光景は、気づいてしまうと色あせて見えた。

 

 だが、それでも・・・・・・夢の中だけでも、直刃を抱きしめたい、直刃に抱きしめて欲しい・・・・・・

 

 しかし、足は一向に進まない。すぐそこに、目の前にいるはずの直刃を抱きしめることができない。

 

 夢の中でさえ、自由に生きられるとは・・・・・・

 

 一向に動かぬ体に、自分でも驚く程落胆した・・・・・・

 

 

 

 そんな私を暖かい何かが包む。

 

 顔を上げると、私の愛した男が、私を抱きしめていた・・・・・・

 

 すぐに、私もその感触を確かめるように、抱きしめ返した。

 

 

 

 せめて

 

 

 せめて夢の中でだけでも・・・・・・

 

 

 

 このぬくもりを感じていたい


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